亜細亜の街角
金沙江の大峡谷を歩く
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虎跳峡 (地域地図を開く)

麗江の北50kmのところにある虎跳峡は雲南観光のハイライトの一つである。虎跳峡とは金沙江の橋頭から大具にかけての約40kmの区間をさす。北の哈巴雪山(5396m)と南の玉龍雪山(5596m)の間を流れる金沙江はこの区間で,水面から尾根までは3000m以上という深い峡谷を刻んでいる。

この区間はすべて深い峡谷になっているのは事実であるが,映像等で紹介されているように狭い峡谷を激流が流れ下るシーンが見られるのはごく限られた部分である。そこは,幅30m-60mほどの峡谷になっており,その昔,虎が跳び越えたという伝説から「虎跳峡」という名がついた。

元気な旅行者は大具もしくは反対側の橋頭を起点として1泊2日でトレッキングする。僕の場合はこれはちょっとハードなので,橋頭に泊まり日帰りのトレッキングを楽しんだ。それでも深い峡谷のルートはとても印象深いものになった。

香格里拉(130km)→虎跳峡 移動

香格里拉(09:20)→深い峡谷(10:30)→橋頭(11:30)とバスで移動した。天気が問題なければ香格里拉にもう一泊するつもりであった。しかし,朝食時に雨が降り出し,しかもすぐにみぞれに変わった。橋頭まで下りることを即決しチェックアウトする。一路の市バスで汽車站に行く。

香格里拉の町並みと同様に汽車站も新しくとても近代的な建物である。駐車しているバスも新しい。窓口で橋頭行きのチケットを買うと22元とずいぶん安い。来たときは保険料を含めて麗江(180km)→香格里拉で76元を払った。橋頭から麗江までは50km足らずである。

新しいミニバスは定刻に出発した。この時間にもみぞれは降り続いている。近くの山々は昨日の雪なのか白い部分がぐんと増えている。10時頃に雨雲を抜けたようだ。路面は乾いており写真を撮ることもできる。

10:30に深い峡谷を下る。バスからは谷底が見えない。標高も3200mから2500mまで一気に下がり,小中甸川沿いの道になる。この川を下っていくと橋頭に着き,バスは道路沿いで僕を降ろしてくれた。

玉龍酒店

橋頭の街は小中甸川の西側にある旧道の両側に広がっている。現在は川の東側に新道ができて,その周辺に新しい食堂や賓館ができている。

川の東側の新道でバスを降ろされた僕は,周囲の状況をよく確かめないで,橋を渡り近くの大酒店に行ってしまった。受付の横に今日の部屋代が表示されており,少なくとも200元はするのでパスする。

大酒店の横の旧道を歩き,次に見つけた交通賓館は営業していなかった。次の旅社は受付が不在で,ようやく玉龍酒店で20元の部屋を見つけることができた。部屋は6畳,1ベッド,Tは共同でまあまあ清潔である。新道沿いで探したら,もう少し良い部屋に泊まれたかもしれない。

橋頭の町は小中甸川沿いにある

虎跳峡を目指して歩き出す

宿の1階は食堂になっているのでそこで昼食をとる。ごはん,トマトと卵の炒め物で10元は少し高い。小中甸川沿いの舗装道路を歩き出すとすぐに入域料50元の料金所がある。ここは避けて通れない。

小中甸川はそれほど水量は多くないにもかかわらず広い川原を形成している。対岸には麗江に通じる幹線道路が走っている。金沙江の合流点の近くは広い川原で盛大に砂利採取が行われている。川原の中央を幅10mくらいの小中甸川が流れ,ほぼ直角に金沙江に注いでいる。

のんびりとした農村の風景が広がる

ここからが虎跳峡の始まりであるが,風景はいたってのんびりとしたものである。合流点前そして合流後も金沙江はゆったりと流れている。周辺の斜面は傾斜がゆるやかで段々畑になっている。

金沙江の行く手には急峻な山々が立ちふさがる

しかし,下流側には頂上部が雲に隠れた玉龍雪山に連なる険しい山々がそびえ立ちそれらしい雰囲気を演出している。確かにこの場所から峰の最上部までは少なくとも2000mはありそうだ。

高低差がうまく表現できない

■調査中

いつ岩が落ちてもおかしくない

小中甸川との合流点を境として,上流側と下流側では確かに風景が劇的に変化している。ここから先は金沙江の西側の舗装道路を歩くことになる。

金沙江の対岸,下流側の鋭鋒ははっきり分かるが,道路側の山は急峻な崖ばかりで高さは全く分からない。かなり風化した岩石が露出しており,いつ転げ落ちてきても不思議は無い状況だ。

チベット風の普通の民家

ところどころに石とレンガで造った立派な家がある。レンガは赤ではなく灰色に近いので落ち着いた感じの家になっている。来し方を振り返ってみると,なだらかな山とゆったりとした流れが,そして対岸にも自動車道路が見える。

上流側(橋頭側)はゆったりとした流れになっている

垂直の岸壁をえぐって道路ができている

現在歩いている道路は急斜面の崖を削ったもので,横から見ると60度から80度くらいはある。進むに連れて川幅は狭くなってくるし,水面は下になっていく。水の色は灰色がかった緑色でまだのんびりした流れである。

対岸は垂直の岸壁に道路を穿っているので,半分トンネルのように見える。その岸壁のわずかに傾斜がゆるい斜面に,地元の人々が利用するものであろうか,稲妻のようにジグザグの道がはるか上まで続いている。

削岩機で岸壁を砕いている

こちら側では道路の上の斜面で削岩機を使用して岩を砕いている。急斜面での危険な作業であるが,安全具などの装備は何もない。道路の補修ではなく,工事のための石を作るのが目的のようだ。

川幅がずいぶん狭くなってきた

谷からの土砂で川幅は狭まっているがここは目的地ではない

下流側には峨々たる山並みが屏風のように連なっている

絶壁の上から眺めているので足がすくむ

このあたりは水面までほぼ直角の岩盤になっており,ガードレールのない道路の端から下を見るとひざが震える。足を滑らせたら一巻の終わりになってしまう。さきほどのジグザグ道路の近くにさしかかる。小さな谷が2つの山の間にあり,そこから流れ落ちた岩石が金沙江の対岸を埋めている。

対岸の道路はその谷に橋を架けて先に続いている。もちろんこちら側の道路からも大量の岩石が落とされたところは川を半分くらい埋めている。

こちら側の道路はどんどん高くなり,対岸の道路ははるか下になる。道路の端にはガードレールのようなものは何も無く,その下はほぼ垂直の崖が続いているので川を見ようとするのは命がけである。

合流点から(のんびりと)歩き出して1時間20分ほどが経過したが,歩いている人には誰も出会わない。ときおり車が僕を追い越して行くだけだ。自動車の普及が著しい中国では,このような風景のきれいなところでも誰も歩こうとはしなくなっているようだ。

ところどころに工事用の資材を置くためのトンネルが掘られている。必要な電気は橋頭から引いている。そのための電柱が途切れることなくある間隔で立てられている。驚いたのはこんなところにも携帯電話用のアンテナが建てられている。

中国の携帯電話保有台数は2007年には1.6億台に達し,さらに増加を続けている。日本の携帯電話保有台数はおよそ7500万台でほぼ飽和状態にある。人口12億の中国はまだまだ市場拡大の余地はあり,そのため,このような山間部にも競ってアンテナが建てられることになる。

虎跳峡までの馬の旅もあるようだ

同じ方向に向かう馬を連れた人に出会った。彼は馬に乗って行けと誘ってくれたが,それでは写真にならないので丁重にお断りした。

少しガスが薄くなってきた

道路工事の岩石が落とされ川幅が狭くなっている

工事で出てくる岩石は谷に落とすしかない

山頂との標高差は2000mはある

上虎跳峡

少し先で流れが白く泡立っている。あの先が目的の場所なのだろうか。対岸の岩山が切れたところからは玉龍雪山の鋭い峰が覗いている。白い線となって先を行く道路の横にコンクリート製の建物が見える。

その建物の横は駐車場になっており,けっこうたくさんの車が停まっている。どうもここまで歩いてくる物好きな人は少ないようだ。

建物の横から谷に下りる階段がある。上虎跳峡と書かれた看板があり,降り口のところで入域料のチェックを受ける。急な石段を下っていくと,岩を噛む激流が次第に近くなる。さすがに一級品の光景である。

ここでは川幅は30mほどしかない。川の中央に巨大な石があり,白く泡立つ流れを二つに切り分け,その激しさを強調している。しかし,この眺めを言葉で言い表すことは到底無理だ。

流れのすぐ横に木製の遊歩道があり,これは写真のじゃまだ。対岸の道路もここまで伸びており,大岩の少し上流に展望台がある。階段の途中にはいくつもの土産物店があり,アクセサリーなどの小物を扱っている。

きれいな民族衣装を身につけた子どもたちは有料モデルである。彼らと一緒に写真を撮ると何がしかのモデル料を要求される。下りはともかく階段の上りはけっこうハードである。これに目をつけたカゴ屋が待機している。有名な観光地ではいろいろな商売が成立するものだ。

階段の途中で上流側の風景を再確認してみる。金沙江峡谷の風景はそれだけで値打ちものである。突然,強い風が吹き出した。雨の予感にあわてて上の建物に避難する。

雨がひどくなる。これでは車で帰るしかないなと思っていたら,30分ほどで天気は持ち直してきた。結局,帰りも歩くことになり往復16kmのトレッキングはさすがに疲れた。

上流部は開けた谷になっていく

急峻な山を削って道路を通す

橋頭が近づくと周囲の山ずいぶん低くなる

背後の山はひたすら険しい

田園風景も見られる

穏やかな流れの橋頭に到着する

金沙江と小中甸川の合流点

小中甸川の運んできた大量の砂を採取する

氷菓はこの季節にはそぐわない

橋頭の町

橋頭の町は小さい。小中甸川の西側にある旧道の両側に政府の建物と商店などが並んでいる程度だ。地域の正式名称は「香格里拉県虎跳峡鎮」というらしい。

人民政府や共産党委員会の看板が出ている建物がある。その看板には中国語と見たことも無い不思議な文字(チベット文字に類似している)が併記してある。

小中甸川の東側には新道があり,町の北と南に橋がかかっている。北の橋の近くには食堂があり,ごはんとホーレン草の湯を注文したら10元を要求された。いくらなんでもひどい値段なので文句を言うと8元に下がった。それでも高いけれど仕方がなく払う。やはり,まず値段を聞いてから注文するのが鉄則である。

玉龍酒店のベッドは清潔で気持ちよく寝られた。翌日は麗江に戻るため新道沿いでバスを待つ。30分以上待っても香格里拉からのバスはやってこない。

通りの反対側を民族服のイ族の女性が歩いてきたので,あわててザックからカメラを取り出す。近くの食堂の人が少し下流側の旧道との交差点からバスが出ていると教えてくれた。確かにそこにはワゴン車が待機しており,麗江行きの乗客を募っている。料金は20元と妥当なところである。


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