デリーから北に240km,巡礼者に溢れるハルドワールがある。ハルドワールは聖なるガンガー(ガンジス川)が氷河の先端からほとばしり出て,山間地から平野部に出てくるところに位置しており,古くからの聖地となっている。
ハルドワールという地名は,「シヴァ神(Har)の門(Dwar)」を意味する。ガンガー源流域,そこは神々の住まう聖域と考え,そこへの入口ということであろう。ガンガーとシヴァ神との関係は深い。
その昔,ガンガーは天界を流れる川であったという。ガンガーの恵みを地上にもたらしてもらいたいという願いがかなえられ,ガンガーは天界からヒマラヤの奥地に流れ出るようになった。
しかし,勢いがあまりに強かったため,シヴァ神が自分の髪で流れを受けるようにした。そのおかげで,ガンガーは恵みの川になったという。実際,ここからリシケシュを経て,聖地ガンゴトリーに続く道は,巡礼の,あるいはサドゥーの修行の道でもある。
ややこやしいことに,シヴァとヒンドゥー教徒の人気を2分しているビシュヌ神はハリ(Hari)とも呼ばれる。そのためビシュヌ派の人々はこの町のことを「ハリドワール(Haridwar)」と呼ぶそうである。シヴァ派とビシュヌ派の人々は額に描かれたしるしを見ると識別できる。シヴァ派は横の二本線もしくは三本線,ビシュヌ派はU字もしくは縦の三本線となっている。
ハルドワールに向かう
ハルドワールはリシュケシュから24kmほどしか離れていないので十分に日帰りで訪れることが可能だ。06時に起床してシャワーを浴びる。ここのシャワーは水量が多いのでとても具合がいい。
幹線道路に出て,乗り合いのオートリキシャーでガートまで行き,朝食をとる。宿の周辺には全く朝食を取れるようなところはない。リシケシュの乗合オートリキシャーはとても便利だ。かなりの頻度で幹線道路を行き来しており,料金も4-5Rpと格安である。
宿に戻り目の前のバススタンドに行く。ハルドワール行きのバスは探すまでもなかった。出口の先頭のバスのところで客引きが「ハルドワール,ハルドワール」と叫んでいる。ここのバスは広いバススタンドで客待ちをするのではなく,出口や道路で客を呼び込むスタイルである。ハルドワールまではおよそ30分の道のりである。
ガンガーは本流と支流に別れる
巨大なシヴァ神の立像が見えたらハルドワールである。道路の向こうに堰とガートが見える。この場所で北東から南西に流れるガンガーは複雑な水路になっている。堰によって分流された支流は直角(南東)方向に曲げられ,道路に架かる橋の下を流れていく。
一方,本流は,堰の手前でコンクリートの中洲によりガートに向かう水路と本流に分けられている。本流と水路をまたぐ橋があるので,この上から流れの具合と,沐浴の人々を眺めることができる。
本流は幅200m,灰色の激しい流れになっており,さすがにここでは沐浴できそうにない。そのため,ガート用の水路が設けられたようだ。ガート用水路の幅は20m,ここも中央部から中洲側の流れはきつく,まちがえば流されてしまう。中洲側にはところどころに鎖が付いており,人々は鎖につかまって沐浴する。
中には水流の真ん中を泳ぎ,下流の橋げたまでいく強者もいる。さすがにメインガート側は浅くなっており,その分水流もゆるくなり,大人ならば何の問題はない。巡礼者の8割はメインガートに,2割は中洲側にいる。
ガートは中州のさらに下流にも続いている。そこは本流がそのままガートに接しており,安全のためガートから2mほどのところに杭が打たれ,その間に鎖が渡してある。さらに下流にはコンクリート製の大きな橋が架かっている。その橋げたには象やワニの像があしらわれており,微笑ましい。
メインガートは土足厳禁
橋の上からメインガートを見ると,沐浴をする人々の多さに驚く。バラナシは別格として,ここは最も巡礼者が訪れるガンガーの聖地であろう。水質もバラナシに比べれば格段に良く,安心して子どもを水につけることができる。暑い季節なので,人々は冷たい水を心から楽しんでいるようだ。
橋を渡りきるとメインガートの領域になり,土足禁止である。橋の近くでクツを預けガートの石段に腰を下ろす。すぐに訳の分からない寄付金集めの男性がやってくる。この地域の環境保全とか,ガートの維持などの理由をつけて,半ば強制的にお金を集めている。
拒否すると2回,3回とちがう男性がやってくるので,10Rpを寄付した。すると領収書代わりの紙をくれたので,その後はその紙を見せてお引取り願った。まあ,ガートの入場料と考えればそれほど腹も立たない。
メインガートで沐浴する人々
小さな寺院の周囲にはたくさんの日傘が密集している。そこではバラモンが巡礼者に祝福を与える小さなプージャを執り行っている。木の葉に乗せられた供物が置かれ,マントラが唱えられる。両手を合わせている巡礼にバラモンが赤いティカをつける。
この儀式の料金は50-500Rpといわれている。この世界もご利益=お金の図式でできているようだ。もっとも定価のない世界なので,お金持ちの日本人などは高い値段を要求される可能性は高い。
小さな祠には神々の像が祀られている
橋から少し下流側には小さくてカラフルな寺院が並んでいる。中には赤い服を着せられた神々が祀られている。僕にはガンガー女神やビシュヌ神しか識別がつかない。きっと残りの大半はシヴァ神なのだろう。
こうした小さな寺院にもバラモンがおり,参拝者に赤いティカを付けている。僕も何回か付けられそうになったが,断わった。ティカの後には必ずバクシーシになるからだ。
バザールには土産物屋が並ぶ
コンクリートの橋の西側は土産物屋,食堂,商店,ホテルがひしめいている。目に付くものはガンガーの水を銅の容器に入れ,ふたを半田付けして密封したおみやげである。大小あり,小さなものは外国人の旅行者にも良いおみやげになる。
ただし,さすがは人の集まるハルドワール,物価はリシケシュの2-3割かた高い。ヒンドゥー教の儀式で使用される真ちゅう製のいろいろな小道具も,よいおみやげになる。
濡れたサリーを乾かす
下流のコンクリート橋の南東側,タイル張りの広いガートは物干し場になっている。巡礼の婦人はサリーのまま沐浴するので,着替えた後,10mはあるサリーを干す必要がある。そんなとき,このガートの広いスペースが役に立つ。女性たちは2人がかりでサリーを広げる。インドの強い日差しに当たり,1時間もたてば完全に乾いてしまう。
巨大なシヴァ神像
幹線道路に出て,上流側に歩いていくと公園があり,そこにはトリシュルを持ち,コブラを首に巻いた巨大なシヴァ神の立像がある。その大きさにはちょっと驚かされる。しかし,考えてみれば仏教圏では巨大な摩崖仏や金属製の大仏がはるか昔に造られている。巨大な神像に関しては,仏教圏がヒンドゥー圏をはるかに凌駕しているということだ。
踏切が閉まってから12分後に列車が通過した
リシケシュに戻るバスが踏み切りで止まった。遮断機が下りてから数分たっても列車はこない。人や自転車は遮断機をくぐって自由に通行している。外に出て列車の写真を撮ろうとする。
やがて,列車の走行音が聞こえ,カメラを構える。ちょっと樹木にジャマされたけれども一枚をものにすることができた。遮断機が下りてから12分後の出来事であった。