亜細亜の街角
浦内川の遊覧船と滝巡り
Home 亜細亜の街角 | 西表島・上原|Oct 2013

白浜行きバスの始発は09時35分

この日の行動を時系列的に整理すると下記のようになる。
起床(0600)→バス移動(0930)→浦内川下流船着き場(1000)→船で移動(1030)→上流船着き場(1100)→マリュウドの滝展望台(1130)→カンピレーの滝(1150)→昼食(1215)→上流船着き場(1255)→船で移動(1300)→下流船着き場(1330)→橋周辺のマングローブ(1420)→歩いてニライカナイリゾート(1530)→バスで上原に移動(1600)→上原散策(1620)→宿に戻る(1700)

今日の計画の前半は浦内川遊覧と二つの滝巡りであるが,後半は橋の海側に広がるマングローブ林である。前半は計画通り進んだが,後半のマングローブ林は潮がある程度満ちており,50mほど海を歩かなければアクセスできない状態であったので橋の上からの撮影でがまんすることになった。

西表島の生物

バスは路線区間のどこからでも乗ることができるのでバス停で待っている必要はない。宿の向いにあるスーパーでパンと沖縄産の黒糖を買う。これにチーズを2個加えて今日の食料は万全である。

のんびりと白浜方向に歩いて行くと,消防団の消防車車庫があり,その壁面には西表島の生き物が描かれていた。クワズイモ,アマサギ,イリオモテヤマネコ,サキシマキノボリトカゲ,アカショウビン,アダン,ジョロウグモ,ハブ?,ヤシガニなどが生き生きとした造形になっていたので,ありがたく一枚撮らせていただく。

シマニンニクを栽培する

宿の近くの民家の庭ではおばあさんが何かを植えていた。おばあさんの手元をのぞくと小さなシマニンクであった。この小さな菜園でも家族が食べる分には十分であろう。

浦内川河口周辺

浦内川は西表島で最大の川であり,河口に架かる橋のすぐ近くにある下流船着き場から遊覧船で上流の船着き場まで遡上することができる。左の地図を上流側にスクロールしていくと,急に川幅が狭くなるところがある。この辺りに上流の船着き場があり,そこからマリュウドの滝の展望台,カンピレーの滝まで歩いて行くことができる。

この遊歩道はちゃんと整備されており,足回りさえしっかりしていれば危険はない。西表島の亜熱帯の森に足を踏み入れることのできる得難い体験ができるので人気の高いコースである。上原港発着のツアーもあるが,西表島に宿泊している僕は個人的に遊覧船に乗ることにした。

朝一番のバスで浦内川の船着き場に移動する

朝一番のバス(といっても上原を09時30分頃に通過するものであるが)で浦内川に向かう。バス停は浦内橋の手前にあり,そのまま進むと橋の上から湾内のマングローブを眺めることができる。海に向かって右側の砂浜がよくテレビに出てくる風景のようだ。しかし,海を50mほど歩かない限り,そこには上陸できない。

バス停から川沿いに左に歩くとすぐに遊覧船の船着き場と待合室がある。上流の船着場までの往復が1800円となかなかの値段である。10月になると乗客はぐんと減り,10:30の便の乗客は20人ほどである。そのうち半分はツアー客である。

ギランイヌビワはイチジクの仲間

船着き場のところにギランイヌビワ(クワ科・イチジク属)の木があり,イチジク特有の実が幹に直接ついていた。イチジク属は熱帯地域を中心に世界で800種が知られており,日本では本州から南西諸島に16種が存在している。その中で沖縄でよく見られるものにはガジュマル,イヌビワ,ギランイヌビワ,アコウ,オオイタビなどがある。

インド圏にはガジュマルに類似したインドボダイジュとベンガルボダイジュがあり,地域の聖木とされていることが多い。沖縄でもガジュマルはそのように扱われるのか,御嶽にはしばしば見られる。

無花果と表記されるようにイチジク属の果実はとても変わっており,花が咲かずに突然果実ができるように見える。また,果実を枝先に付けるもの以外に幹に直接付けるもの(幹生果)もある。ギランイヌビワは珍しい幹生果を観察できる貴重な植物である。

手前が上流側である

客席は一列6人掛けが8列あるので最大48人乗りということになる。屋根は付いているが窓はない。雨が降ると天井のビニールすだれを下ろすようになっている。船が動き出すと浦内川の橋の全景が見えるようになる。このあたりでは浦内川の川幅は200mほどもある。浦内橋から上流のある地点までは川の両岸にマングローブが自生しているが,その地点を過ぎると上流にはマングローブは見られなくなる。

マングローブは海水と淡水が混ざり合う汽水域で自生しているが,真水でも問題なく生育することができる。しかし,真水の環境では他の植物との競合が厳しく,他の植物が生育できない汽水域という特殊な環境でのみ自生している。そのような環境で生きていくためマングローブは塩分を濾し取る特別な機能をもっている。また,泥地のように低酸素環境でも根が窒息しないように上に向かって気根を伸ばすものもある。

遊覧船が動き出す

浦内川遊覧で見ることのできる代表的なマングローブはオヒルギ,メヒルギ,ヤエヤマヒルギである。オヒルギは大きく成長する,メヒルギは大きくはならない,ヤエヤマヒルギは細い支持根をたくさんもつというように外観上の特徴を頭に入れておくと遊覧船からの風景がより親しみがわく。

潮間帯はマングローブが占拠している

川岸の植生は満潮で水に浸かる範囲はマングローブが独占している。マングローブは塩分を濾し出す仕組みを発達させ,このような他の植物の生育できない環境を自生地としている。真水の環境では他の植物との競合があるため,しかたがなく汽水域で生き延びることを選択したいわばニッチ植物である。

背の低いのがメヒルギでその背後はオヒルギ

浦内川の川幅は広い

オヒルギの高さはだいたい一定している

遊覧船はけっこう早いので写真は大変

船頭はガイドを兼ねており,見どころに近づくと速度を落とし,マイクを取って説明するという忙しい役回りとなっている。おかげでマングローブをいやというほど見ることができた。僕は望遠レンズに切り替えて川岸の風景を次々と撮影していくのに忙しくて,往きは風景を眺める余裕はなかった。

遊覧船が通常速度で運航しているときは,川岸の景色は次々と変化するため写真を撮るにはけっこう難しい。僕はファインダーで覗く一眼レフを使用しているので風景を確認し,フレームを作りシャッターを押すまでの時間はかなり早いはずであるが,それでも手振れが出てしまう。これが液晶画面を見ながら撮影するコンデジであればとても風景の動く速さには対応できないだろう。

泥の中から気根を出す

オヒルギの周囲に根の一部が水中から出ている。これは泥地のように低酸素環境で根が窒息しないため空中に気根を出している姿である。汽水域,低酸素の泥地・砂地で生き延びていくため,マングローブは他の植物にない能力を発達させてきた。

倒れそうで持ちこたえているサキシマスオウノキ

巨大な板根で知られているサキシマスオウノキ(先島蘇芳木)は汽水域でも自生できるようだ。僕はこの樹木は「サキシマスオウ」だと覚えていたが正式には「サキシマスオウノキ」というようだ。わざわざ木であることを和名の中に入れたのは何か理由があるのかもしれない。

熱帯地域には板根を発達させる樹木は多い。沖縄でもイヌビワ,オキナワウラジロガシが自生しているが,サキシマスオウノキのそれは群を抜いて立派である。板根の高さはときには2mにもなる。八重山ではこの板根をそのまま船(サバニ)の舵として使用していた。

樹皮も染料あるいは薬用に使用されたため西表島でもそれほど多くは残されていない。最大の群落は古見集落の近くにある。そこは古見の御嶽になっていたため,周辺の樹木は伐採を免れ,サキシマスオウノキも残されている。

周辺は深い森になっている

西表島の90%は原生林であり,浦内川上流の水源地帯は亜熱帯の深い森に覆われている。

ある所から先はマングローブが姿を消す

遊覧船が遡上していくとマングローブはある地点から先には見られなくなる。これは淡水域に近づいているためであろう。淡水域では他の植物も成育することができるので植物間の競合が発生し,マングローブは敗退することになる。

タカワラビ

タカワラビ(高蕨,タカワラビ科)が川岸の斜面に大きな群落を作っている。雰囲気をお伝えするためにはもう少し引いた写真の方がよいかもしれない。遊覧船からでもはっきり識別ほど大型のシダ類で,葉身の長さが2-3mになる。

参考までにシダ植物に共通する性質には次のようなものがある。(wikipedia)
1.維管束植物である 2.種子を形成しない 3.配偶体(有性世代)と胞子体(無性世代)という2つの世代がある 4.胞子体が生活史の中心を占めて主な散布手段となっている 5.配偶体(前葉体)も胞子体から独立して生活している

ヒカゲヘゴの仲間

ヒカゲヘゴ(Cyathea lepifera,ヘゴ科・ヘゴ属)は多年生の大型木性シダ植物である。日本の南西諸島以南,中国南部,台湾,フィリピンなどに自生している。沖縄では沖縄本島や八重山諸島の森林部によく見られる。しかし,今回の旅行では満足に見ることのできたのは,浦内川の周辺だけであり,ちょっと不完全燃焼の植物であった。

樹高は平均的には5-6mであるが最大15mほどになり,先端部の葉柄は2m以上になる。幹の上部に成長点があり毎年新しい葉が芽を出し,古い葉が脱落する。その痕跡が幹に独特の模様として残ることになる。新芽はゼンマイのように巻いた形状で伸び,その後に葉を開く。

上流の船着き場に到着する

およそ30分で上流の船着き場に到着する。船着き場の岩は軍艦岩という固有名詞をもらっているがとりたたて説明するほどのものではない。

ここから先は急に地形が変わり船は入れない

上流の船着き場から先は遊覧船はおろかカヌーでも遡上できない。そのくらい劇的に川の状況は変化する。

きれいな円形のポットホール

船着き場の少し上には川に降りる道がある。そこには大きな岩盤があり,きれいな円形のポットホールがたくさんある。このようなポットホールは川の流れが小石を動かしてできるものだ。wikipedia には次のようにポットホールの生成過程が説明されている。

河底や河岸の表面が硬い場合,表面に割れ目などの弱い部分があるとそこが水流による浸蝕のためにくぼみとなる。このくぼみの中に礫が入ると渦流によってその礫が回転し丸みを帯びた円形の穴に拡大する。その後川底が侵食の影響で下がり,甌穴のできた場所は水面より高くなる。その結果,甌穴が地表に見られるようになる。

注)甌穴(おうけつ)とはポットホールのこと

滝巡りの遊歩道

タカワラビ

遊覧船の中から群落を眺めたタカワラビは遊歩道にもたくさん自生していた。こちらは群落というわけにはいかないようだ。照葉樹のような硬質の葉が目を引く。

遊歩道の谷側はジャングル状態である

大きなうろのある木

樹肌の感じと幹下部にこぶがあることから「アカギ」であろう。

木に巻きついているのはハブカズラ

ハブカズラ(波布蔓,サトイモ科・ハブカズラ属)とはいったいどんな漢字が当てられているのだろうかと思っていたら波布であった。このネーミングの由来はとネットで調べてみたが見当たらなかった。ハブカズラは多年草となっているが茎は木質化しており,付着根で大きな木や岩をよじ登る。

熱帯や亜熱帯では陽光をめぐる植物間の競争が激しく,いかに他の植物に先んじて陽光のある上部に伸びていけるかがそのカギとなる。幹を伸ばしていたのでは遅くなるので,ちゃっかり他の樹木をよじ登って陽光にあたろうとするのがツル性の植物である。

ハブカズラの特徴は切れ込みの入った大きな葉であるが,若葉は卵状楕円形であり,大きさは30-50cmになる。成長すると葉脈のところに切れ込みが入り,特異な形状となる。

クロツグはヤシの仲間である

クロツグ( Arenga engleri Becc,ヤシ科・クロツグ属)はヤシの仲間の常緑性低木である。茎はほとんど隠れて見えず,そこから複数の3mほどにもなる長い葉柄が束になって伸びる。

根がしっかり地面をつかんでいる

斜面でこれほどの角度で傾いているにもかかわらず,この大木は根でしっかり地面をつかんで持ちこたえている。

リュウキュウツワブキ

リュウキュウツワブキ(琉球石蕗,キク科・ツワブキ属)の葉は暗い遊歩道でもよく目立つ。ツワブキの名前は艶葉蕗(つやばぶき),つまり「艶のある葉のフキ」から転じたとされており,その特徴により暗い空間でも目立つ存在となっている。

ツワブキは関東以南で見ることができ,イシブキあるいはツワとも呼ばれている。沖縄では「ちぃぱっぱ」と呼ぶらしい。リュウキュウツワブキは奄美大島,沖縄本島,西表島に分布する固有変種である。花の時期は11月から2月なので,あと1-2ヶ月で花茎を伸ばし黄色の花を付けるのであろう。

マリュウドの滝

マリュウドの滝に通じる道は立ち入り禁止になっていた。メインの遊歩道に比べて急傾斜であり,観光客が滑って事故を起こしたため閉鎖された。安全な遊歩道を目指すためにはしかたがない措置であるが,滝を近くから見ることができないのは残念なことだ。

その代り近くに展望台があり,そこから写真をとることができる。現在はこれでがまんするしかない。

遠景にするとカンピレーの滝も見える

カンピレーの滝

マリュウドの滝から15分ほどでカンピレーの滝に出る。落差は小さく岩盤の上を水が滑り落ちていくナメ滝である。

下から見上げると少し迫力がある

周辺の岩場には多くのポットホールがある

少し上流側にももう一段の滝がある

オサハシブトガラス

カンピレーの滝を急いで撮り,ようやく昼食となる。船の時間に間に合わせるためには食事時間は10分ほどである。遊覧船の繁忙期にはその次のあるいは次の次の船にすることも可能であるが,今回は船頭から次の船は間引かれるかもしれないなどと言われたので時間通りに戻ることにした。

パンとチーズの食事を終えるとカラスがすぐ近くまで寄ってきた。カメラを向けてもまったく動じる気配はない。餌をくれるので観光客にかなり慣れているようだ。

日本ではカラスといえばハシブトガラスとハシボソガラスであり,ゴミ集積所を荒らす困り者となっている。沖縄ではハシブトガラスを少し小さくした亜種のオサハシブトガラスであり,鳴き声がかなり異なるようだ。ハシブトガラスを見慣れた僕にとってはかなり上品に見えた。

オヒルギの群落

ミナミトビハゼ

トビハゼは日本,朝鮮半島,中国,台湾に分布し,日本では東京湾から沖縄本島まで各地の泥干潟で見られる。トビハゼとミナミトビハゼは外観から識別は難しいが,幸いなことにトビハゼは八重山諸島には生息していないようなので識別の必要はなく,泥干潟を飛び跳ねているものはミナミトビハゼ(ハゼ科・トビハゼ属)と判断することができる。

体長は10cmほどで,干潟でゴカイなどを捕食する。胸鰭を使用して這い回ったり,尾鰭を使って連続して飛び跳ねることもできる。この動作から八重山では「とんとんみー」と呼ばれている。とても警戒心の強い魚で,浦内川の船着き場の桟橋の上から望遠で撮影した。

橋の下に下りてマングローブを観察する

浦内川でもう一つ見たかったものは浦内橋の海側にあるマングローブ林である。ここではオヒルギの林を背景に砂浜で小さなマングローブが育つ様子が西表島の番組にはよく出てくる。僕はここを訪れるまでそこが浦内川の河口付近だとは知らなかったので,橋の上からの風景に積年の疑問の答えがみつかりちょっと興奮した。

ということで遊覧船の後は橋の向こうの干潟まで行くことにした。橋の付け根のところから下りることができ,マングローブのある小さな干潟までは行くことができた。しかし,そこから大きな干潟に行くためには,50mほど水の中を歩かなければならない。水深はおそらく膝丈くらいであるが,クツと長いズボンを履いているため断念せざるを得ない。代わりに小さな干潟のマングローブを観察することにした。日本のマングローブに触れるのは初めてなので,これも貴重な体験である。

シオマネキ

小さな干潟にはシオマネキとミナミトビハゼを見ることができる。どちらも警戒心が強いので,降りてきた石段に腰を下ろし,じっと待つことにする。しばらくするとシオマネキは巣穴から出てきた。近ずくことはできないので望遠で撮影する。シオマネキはスナガニ科・シオマネキ属に分類されるカニの総称であり,シオマネキ,ハクセンシオマネキ,ヒメシオマネキ,ヤエヤマシオマネキなどの種に区分される。ここのものはオスの大鋏の下半分が赤いことからヤエヤマシオマネキと判断できる。

シオマネキの特徴はオスの片方の鋏脚(はさみ)が大きいことである。メスの鋏脚は左右対称であり,オスの大きな鋏脚はメスに対するアピールになっていると考えられている。メスが大きな鋏脚のオスを好むことから,大きな鋏脚のオスの子孫が残る確率が高くなり,それが世代を重ねることにより,現在のようにオスの鋏脚は極端に不均衡なものになっていった。

オヒルギの花

オヒルギの花は赤いのでよく目立つ。もっともこの赤い部分は花を包む顎(がく)であり,花はこの内側にひっそり咲くようである。この赤い花からオヒルギはアカハナヒルギの別名をもつ。花の時期は晩春から夏とされており,花の後には顎の内側に外から分からないくらいの小さな果実を付ける。

親木に付いたまま種子が成長する

オヒルギの種子が成熟すると根が長く伸び,20cmほどの棒状になる。つまり,種子は親木に付いたまま発芽して親木から離れるとすぐに成長できるようになっている。このような胎生種子の仕組みはマングローブの多くに見られる特徴である。

胎生種子の成長は9月がピークなので,残っていないかと探してみたらあっけなく見つかった。確かに近くの木に20cmほどのものが付いていた。この種子は時期が来ると顎の内側から抜け落ち,親木の近くであるいは海の流れにより漂い生息分布を広げる。

一列に並んだヤエヤマヒルギ

このヤエヤマヒルギの向こう側は海になっており,そこをマングローブ沿いに50mほど歩くと大きな干潟に出ることができる。しかし,クツと長ズボンの見合わせではとても無理なので,橋の上からの写真でがまんすることにする。

浦内川の橋の上から海側を見る・向かって右側

この干潟に回り込むことができれば水路越しに左側のマングローブを撮影できたのに…

浦内川の橋の上から海側を見る・向かって左側

左側は大きなマングローブの林となっている

上原方向に歩いていると水田があった

平地の少ない西表島では水田風景は珍しい。おそらく春と夏の二期作なのであろう。10月に入って花が終わった状態であった。西表島では水田の周辺でよくカンムリワシが見られるので,少し時間をかけて周辺を歩いてみたが,そう簡単に出会える相手ではない。

上原港はここからまっすぐ西に1.5kmくらいのところにあるが,山越えの道はなく海岸に沿ってひたすら歩かなければなければならない。もっとも,そのうちバスが通るので心配はいらない。

ニライカナイ

西表島の北端は半島のように海に突き出しており,その西側には1kmほどの半円形の砂浜が広がっている。ここは砂浜の形状から月ケ浜(トゥドゥマリ浜)と呼ばれている。本土には鳥取県と静岡県に「弓ヶ浜」あり,同じ発想の命名である。

このビーチの半分は砂浜の近くにある星野リゾート・ニラカナイ西表島の専用ビーチのようになっており,ほとんど人影はなかった。西に面しているので島では夕日のビューポイントとして知られており,聖域にもなっていた。

半円形のビーチを回っていくと西表島北端にあたる半島状のところに辿り着くが,じきにバスは来るようなのでビーチ散策は切り上げ,バス停に戻る。ホテルは2/3周回道路から海側に入ったところにあるが,バスは取り付け道路を通って,ホテルの前まで来てくれる。

「ニライカナイ」は沖縄あるいは奄美に伝わる理想郷,楽園であり,はるか東方の海の彼方にあるとされている。そこは地上または海の底,地の底ともされている。そこは神界でもあり,年初にはニライカナイから神々がやってきて豊穣や幸福をもたらし,年末には帰るとされている。穀物も元来はここからもたらされたとされている。

この神秘的な異界の名前を冠した星野リゾート・ニラカナイ西表島(客室140室)は2004年7月に開業している。それまで民宿規模の宿しかなかった西表島では突出した規模のものである。ホテル建設計画の話が持ち上がったとき,多くの人たちが自然環境と島内経済の立場から反対の声を上げた経緯がある。

市場経済社会においては経済活動の自由は保障されており,西表島に大きなリゾートホテルを建設するのことを制限する法律はない。しかし,それまでほとんど個人経営の小さな宿泊施設しかなかったところに,140室もの規模をもつリゾートホテルができると,島の経済やホテル周辺の環境に大きな影響を与える。

日本生態学会,日本魚類学会,沖縄生物学会,WWFジャパンなどからはホテル開発による環境への影響を危惧し,環境影響評価を実施することや計画の再検討を求める要望書が提出されたが,工事は中断されることも,環境評価が行われることもなかった。

2003年7月には西表島の住民や島外の支援者ら563人がホテル開発の差し止めや建物の撤去を求めて那覇地裁に提訴したが,那覇地裁は破壊などの程度が社会生活上受任すべき限度を超えているとは言えないとして2006年3月にこれを棄却した。原告側は控訴したが,福岡高等裁判所那覇支部において一審に引き続いて住民側敗訴の判決が下された。

現在でも道路わきには反対運動の立て看板も出されており,ホテルニラカナイの宿泊者にはサービスを提供しないという店も多く,いびつな状態が続いている。その一方でホテルは雇用を生み出すので賛成という住民もおり,西表島のニラカナイは決して楽園をもたらすものではない。

僕はこのホテルについてコメントする立場にはないが,島を二分するほどの反対運動を引き起こさない方法はあったはずだ。西表島の主役は豊かな原初の自然であり,ここでは人間は謙虚な気持ちで自然に接するべきである。南国のリゾートを味わうのであれば沖縄本島や石垣島がお似合いである。

西表島の動植物・その2

この写真はバスで上原に戻ってからその辺を歩いていた時のものであるが,上原分団消防車庫の壁面の一部かもしれない。ここにはカンムリワシ,サガリバナ,リュウキュウアサギマダラ,ハイビスカス,パイナップル,ドラゴンフルーツ,三拝雲などが描かれている。中央右の動物は不明である。

でんさ節発祥の地の記念碑

上原港の北側に「でんさ節発祥の地の記念碑」がある。このためなのか,上原港の旅客待合室はデンサターミナルという表記も見られる。

沖縄県下の三大教訓歌として挙げられるが沖縄の「てぃんさぐぬ花」,宮古の「なりやまあやぐ」, そして八重山の「でんさ節」でである。でんさ節の一番の歌詞がネット上に紹介されていた。といっても地域の方言で表記されているので意味はまったく分からない。

上原のデンサー昔からのデンサー
我ん心いざばしきゆたぼり(デンサー)
ういばるぬでんさー んかしぃからぬでんさー
ばんくくる いざば しぃきやたぼり(でんさー)

トックリヤシモドキ

上原からみて船浦中学の少し手前に立派なトックリヤシモドキ(Hyophorbe verschaffeltii,ヤシ科・トックリヤシ属)があった。この仲間にはトックリヤシがあり,こちらは名前の通り成長すると幹の下部が大きく膨らみ,徳利のような形状になる。

それに対してトックリヤシモドキは幹の下部が少し膨らむだけに留まる。その他の外観的形状はトックリヤシとそっくりなのでトックリヤシモドキというあまりありがたくない名前となった。原産地はインド洋の島とされ,日本には明治末期に渡来している。沖縄ではしばしば街路樹になっており,思いがけないところで見かけることもある。

幹の上部に30-70cmほどの鞘に包まれた棍棒状の花芽を出し,外側の鞘がはがれ落ちると数十本の肉穂花序が出てきて下垂する。下垂した花序には橙色の小さな花を多数付けるので橙色の房のように見える。

写真のものはこの房状の部分の半分は緑色になっている。これは果実ができているためである。果実は楕円形をしており,若いときは緑色,熟すると暗緑色になる。このようにトックリヤシモドキは花と果実が同時に見ることができる。しかも,通年開花なのでいつ見ても,このような状態になっていることが多い。

船浦中学校の校門に置かれたシーサー

背後の緑に朱泥色の校門のシーサーが映えている。建物の中庭にはこの学校のモットーであろうか,自主,親愛,努力の文字が見える。「船浦中学校の公式HP」には次のように記されている。

本校の校区は船浦,上原,中野,住吉,浦内の5つの集落からなり,これらの集落をまとめて上原地区といいます。校区が広いため,船浦集落以外の生徒は保護者の送迎や上原小学校のスクールバスで通学しています。生徒数は平成24年4月1日時点で1年生11人,2年生5人,3年生4人となっています。


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