現代文明を支えている巨大なエネルギーは石炭,石油,天然ガスなどの化石燃料,原子力,自然エネルギー,バイオマスなどでまかなわれており,それらを総称して一次エネルギーと呼んでいます。それに対して電気,プロパンガス,ガソリンなどは一次エネルギーが形を変えたものなので二次エネルギーと定義されています。世界全体で,一つの国で,あるいは一人の人が一年間にどのくらいエネルギーを使用しているかを表すとき「ジュール」というエネルギーの基本単位が使用されます。しかし,いかんせんジュールは私たちにはなじみがありません。1kwhの電力はおよその見当がつきますが,3600KJ のエネルギーを使用したと言われてもどの程度のものなのかさっぱり分かりません。
また石炭はトン,石油はキロリットルやバレル,天然ガスは1000m3というように異なった単位で表示され,相互のエネルギー量の関係が分かりません。一次エネルギーを分かりやすい同一の単位で表すために「原油換算キロリットル」あるいは「原油換算トン」を使用します。こうすると日本では1年間に一人あたり原油4.5トン相当の一次エネルギーを使用しているというように分かりやすい形で表すことができます。
換算には原油発熱量(発熱量1000万KJ を原油0.258キロリットルとする)を基準にします。つまり,1トンの石炭あるいは1000m3の天然ガスが燃焼した時のエネルギーを原油発熱量基準値を用いて原油の量(リットル)に換算するわけです。上表で分かるように,例えば石炭1トンは原油0.75klに換算されます。また原油の1klは原油0.925トンに相当します。こうすると,世界の年間一次エネルギー供給量を原油に換算して一つのグラフに表すことができます。
困るのは原子力です。原子力は100%発電に使用されますが,原子炉で発生したエネルギーを100とすると,発電されたエネルギーは35-40になります。そのため電力を一次エネルギーにそのまま組み入れると不都合が生じます。石炭火力の場合は発生電力は二次エネルギーとして扱われるので,エネルギー変換効率にかかわりなく矛盾は生じません。この不都合を回避するため,日本では原子力のエネルギー変換効率が40%として一次エネルギーに換算しています。つまり原子力電力の40は一次エネルギーの100に相当するとしているわけです。
こうして計算すると世界中でどれだけの一次エネルギーを消費しているかをグラフ化することができます。日本原子力財団のデータによると1970年から2000年にかけて世界のエネルギー消費量は1.8倍に増加しており,そのほとんどが石炭,石油,天然ガスでまかなわれています。2000年の消費量は石油に換算しておよそ91億トンに相当します。エネルギー消費量はだいたい経済規模と比例し,先進国(OECD諸国)は世界の59%を消費しています。
化石エネルギーの消費は大気中に二酸化炭素を放出するため気候変動の大きな要因となっています。そのため再生可能エネルギーへの転換が急務なのですが,2030年までの予測データを見る限りでは,現在のエネルギー資源の構成はそれほど変化しないと考えられています。
もちろん,気候変動の影響が大規模に現れたとき,石油の減耗がはっきりしてきたときは別のシナリオに移行するでしょうが,現状では再生可能エネルギーに対するインセンティブは大きくありません。温室効果ガスの排出量の削減を義務付けた京都議定書は先進国と旧東側諸国に対して排出量の削減(2008-2012年までに1990年レベルから5%削減)を求めていますが,最大の排出国である米国は議定書を承認していませんし,発展途上国には削減義務はありません。
IAEAのこの地球温暖化と資源枯渇を考慮しない能天気な予測は外れることを願わずにはいられません。しかし,実績データとして2009年の世界の一次エネルギー消費量は111億トン(原油換算)となり,かなりの精度で予測と一致しています。このまま推移すると2030年には2000年の1.67倍の二酸化炭素が大気中に放出されることになり,気候変動は「
IPCC第二次評価報告書」の予測通りに推移することになります。これは悪夢のシナリオです。
世界のエネルギー需要を考えた場合,中国の影響を無視するわけにはいきません。今後のアジア地域の需要増の大半は中国とインドが占めるようになるでしょう。急速な経済成長が続く中国ではあらゆる資源に対する需要が急拡大しており,エネルギーではすでに日本(2000年で5.6億トン)を抜き,2030年には現在の米国レベルになると予測されています。
中国の一次エネルギーの多くは石炭であり,2030年でも50%以上を占めます。脱硫装置などの環境保護政策が遅れている中国がこのまま石炭を燃やし続けると健康,酸性雨等の影響は甚大なものになるでしょう。すでに,冬期の呼吸器系の疾患は中国の風土病と呼ばれるほどになっています。大気汚染には国境がありません。すでに中国本土から偏西風や冬の季節風により中国産の汚染物質は日本にまで到達しています。
また,多くの化学工場,製紙工場などが主要水系のすぐ近くにあるため,河川,湖水などの水質汚染も日本では考えられないほどひどい状態になっています。日本と異なり大陸中国の河川は大きな水系を形成していますので,支流のある地域で汚染が発生するとそれは黄河,長江などの大河の汚染に結びつきます。
中国の2004年環境報告によると「2004年の環境汚染による経済損失額はGDPの3.05%にあたる650億ドルに達し,汚染物質の処理費用は365億ドルであった」と報告されています。国家環境保護総局の副局長である潘岳氏によると「すべての汚染物質除去に必要な総費用は1270億ドルになる。しかし中国政府は2004年に241億ドルしか投資しておらず,必要とされる額の20%に満たない」とのことです。
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