■平均気温15℃
現在の地球の平均気温は15℃,液体の水が存在するおだやかな環境です。太陽系においては液体の水が存在すること自体が地球だけに許された奇跡なのです。地球と太陽の距離(1.5億km)を1とすると,液体の水が存在できるのは0.65から1.2の範囲といわれています。地球ももう少し太陽に近いか遠いかしていたら生命の惑星とはならなかったことでしょう。
■地球の表面温度を調節するモデル
地球が太陽から受け取る放射エネルギーは毎秒180兆kwになります。日本にある大きな原子力発電所の設備容量は約100万kwですから,太陽からのエネルギーは原発1.8億基分に相当します。もちろん,このエネルギーはそのまま使用できるものではありません。さて,このように膨大な放射を受けていながら,地球がどんどん暑くならないのはどうしてでしょうか。それは,光の反射あるいは波長の長い赤外線の放射という形で地球からエネルギーが放出され,入射量と放射量がバランスしているからです。地球の反射能(アルベド,太陽光線を反射する割合)を0.3として単純に計算すると地球表面の平均温度は-18℃(下図A点の温度)になります。A点は大気が無い場合の地球の放射量と太陽からの入射量が等しくなった温度です。
■二酸化炭素の重要な役割
しかし,実際には地球表面の平均温度は+15℃(上図B点)になっています。このおだやかな環境を維持しているのは大気中の二酸化炭素です。大気中の二酸化炭素の割合は約350ppm(0.035%)と極めて少ないのですが地球の気温に重要な役割を果たしているのです。水蒸気や二酸化炭素は地球が放射する赤外線の一部を蓄え,地表に戻す働きをもっています。まるで地球に対する温室のような働きなので「温室効果」と呼ばれています。二酸化炭素がまったく無いと平均気温は氷雪による反射能の増加もあり-30℃にまで下がり,地球全体が凍結するといわれています。逆に増加すると温暖化にシフトします。
■地球の安定化装置が働いている
現在の地球表面温度はいくつかの安定化装置のおかげで安定した平衡点Bにあります。表面温度が上昇すると(G点を超えない範囲では)入射量より放射量が大きくなり安定化装置は温度が下がる方向に働きます。逆に表面温度が下がると入射量より放射量が小さくなり安定化装置は温度が上がる方向に働きます。この安定化装置のおかげで地球の表面温度は一定の範囲内に収まっているのです。
しかし,地球には大量の液体の水と石灰岩として固定されている二酸化炭素があります。これらの物質が再び大気中に放出されるようなことになると(図ではG点を越える温度になると)地球は熱的な暴走を始め,D点でようやく平衡します。そのとき地球の大気圧は水蒸気270気圧,二酸化炭素30-50気圧,合計300−320気圧,温度も200℃を越え,現在の金星のようになると考えられています。太陽の入射エネルギーが約10%増加したり,人類が放出するエネルギーがG点を越えるほどになると熱暴走が始まります。しかし,現在問題となっている気候変動ではここまでの心配はありません。
■海が二酸化炭素を石灰岩に変えた
海が出来た頃の原始地球の大気は60気圧もの二酸化炭素で出来ていました。その量は現在の大気中にある二酸化炭素の20万倍にもなります。この大気がそのまま維持されていたら巨大な温室効果により地球は金星のような星になっていたことでしょう。現在の金星の大気は二酸化炭素を主成分として90気圧もあり,地表温度は480℃と鉛も溶ける温度です。地球と同じくらいあったと推測される水は水蒸気として長期間大気の上層にあったため,紫外線により分解されてしまいました。
幸い地球では海ができたため二酸化炭素は海に溶け込み,海水中の陽イオンと反応して石灰岩などの炭酸塩鉱物が作られます。石灰岩の一部は大陸の地殻に取り込まれ固定化され,さらに生命活動の影響もあり大気中の二酸化炭素は数100ppmにまで低下しました。
■二酸化炭素の精妙な調節
地球上では植物が光合成により二酸化炭素を有機物に変換する一方で,火山ガスなどから二酸化炭素が供給されます。二酸化炭素の巨大な貯蔵庫である海は大気との間で二酸化炭素のやりとりしています。現在,大気中の二酸化炭素が化石燃料の燃焼により急激に増加しており,それによる気候変動(地球温暖化)が大きな環境問題になっていますが,地球は極めて長期間にわたり多くの要素が関連しながらおだやかな気候を維持してきました。
太陽は地質時代を通じて徐々に明るさを増していきました。それに合わせて地球に到達する熱量も増加していきましたが,平均気温は生物の生存に不適当なものにはなりませんでした。その調節機能の精妙さには驚かされます。もちろん,火山活動がさかんになれば二酸化炭素は現在の数倍に増加したこともあれば,逆に二酸化炭素が減少して大きな氷河期となる場合もありました。
■地球凍結(7億年前)
その中で7億年前に地球全体が凍結するという事件が発生しました(スノーボール・アース仮説)。シアノバクテリアの活動により海水中の二酸化炭素が減少し大気中の二酸化炭素がどんどん海に取り込まれました。この時代は火山活動がさかんでなかったことも二酸化炭素減少の要因だったと推測されます。温室効果が少なくなったため地球は寒冷化し,大陸は氷で覆われ,海も凍結していきます。
氷は太陽光線を反射するため地表に吸収される熱エネルギーは減少します。そのためさらに地表は寒冷化していきます。そしてついに地球全体が氷に覆われるようになりました。海氷の厚さは1000mにも達したため海中ではほとんど光合成が行われず生命の活動は極端に制限されるようになりました。さいわい,火山から放出される二酸化炭素は海に吸収されること無く,徐々に大気中に蓄積され,現在の500倍の20%くらいになったとき,温暖化が始まり地球はもとの姿を取り戻すことができました。
■氷河期
今から2万年前の最終氷河期には地球の陸地の3分の1が氷床に覆われていました。特にユーラシア大陸,北米大陸には厚さが3000-4000mもある氷床が広範囲に発達しました。大陸の氷床には大量の水が蓄えられたため,海水面は現在より100mも低くなりました。大陸棚の相当部分は陸地となり,ベーリング海峡はなくなり,アジアと北米が陸続きとなりました。東南アジアもにおいても「大スンダランド」といった大きな陸地が広がっており,メコン川は現在の海岸線よりはるか先まで流れていました。その頃の地形図は現在とはかなり異なったものになっていました。
氷河期が地球を襲ったのは一度だけではありません。最近の100万年間に地球は7-8回の氷河期を経験してきたとされています。なぜ,氷河期が到来するのかを地球の受ける太陽量の観点から解き明かしたのがユーゴスラビアのミランコビッチです。彼は地球の公転軌道や地軸の傾きの変化が,ある地域の受ける太陽放射量にどのように影響するかをまとめました。ここから得られた結論は,「氷河期の始まりを決定する要因は北半球の夏期半年間における太陽の輻射量の減少」でした。氷河期の到来のきっかけとなるのは「寒い冬」ではなく「寒い夏」ということです。
地球の公転軌道は10万年の周期で正円になったり楕円になったりします。楕円軌道の場合,夏に相当する位置は楕円の長手方向になります。その状態は太陽からの距離が大きくなるため夏の時期に受ける太陽輻射量は少なくなり,寒い夏となります。また,地球は公転面に対して現在は23.7度の傾きをもって自転しており,そのため地球では春夏秋冬の季節ができます。この地軸の傾きも4万年かかって21.5度から24.5度まで変化します。傾きが小さいほど夏の時期に受ける太陽輻射量は減少するので「寒い夏」ということになります。どちらの現象においても一年を通して地球全体が受け取る太陽輻射量は変わりませんが,夏の期間のみ太陽輻射量が減少することになります。
何万年かの周期でこの二つの現象が重なると,北半球では「寒い夏」となります。中高緯度地帯の高地では冬に降り積もった雪が「寒い夏」のため完全に融けない状態が起こります。次の冬には融け残った雪の上に新しい雪が降り積もり,それが長い期間にわたって繰り返されると,高地を中心に氷河が成長します。氷河が広い地域を覆うようになるとアルベド効果(白い氷雪が太陽光を反射する)のため,その地域の受ける太陽輻射量はさらに減少し,氷河はますます成長します。やがて,氷河同士がまとまり大陸の相当部分を覆う氷床になります。
このような状態になっても海はまだ暖かいので蒸発した水分は大陸の冷たい空気と接して雪を降らせます。このメカニズムはあたかも海水を汲み上げ雪にして大陸に降らせるポンプのように働きます。その結果,大陸には厚さ2000mを超える氷床が発達します。この状態が氷河期です。海氷も発達するため地表の相当部分のアルベド効果のため地球の平均気温は低下します。
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