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2008/03/15

地球のダイナミズム


移動お願い

■地球は休み無く変化している

地球は半径6400km,表面積5億km2の巨大な球体です。表面の3分の2は海洋で覆われており7つの大陸が島のように浮かんでいます。この風景は地球が神の手で形成されてからまったく変わっていないと長い間信じられてきました。実際には地球の表情は誕生から46億年の歴史を通してダイナミックに変化してきました。しかし,それは人間の尺度で考えると極めてゆっくりした動きなのです。

誕生当時に解放された重力エネルギー,微惑星の衝突によるぼう大な熱に加え,地殻やマントル中の放射性同位元素の発生する熱が地球の内部に蓄えられ,その熱が垂直方向の(地球深部と表層間の)巨大な対流を生み出しているのです。この大小の対流により地球の表面も大きく変化してきました。誕生当時のマグマ・オーシャンのような状態から,時間とともに地球の内部も冷えてくるので対流の様子も大きく変化してきました。地球の歴史は内部の熱を放出する歴史でもあったわけです。地球物理学者は残されたわずかな痕跡から地球のダイナミズムを解き明かしています。

■地球の垂直構造

現在の地球の垂直構造をおさらいしておきましょう。地球の周りには厚さ12kmの大気圏がとりまき,その上層は厚さ40kmの成層圏となります。高さ20kmほどのところにオゾン層があり,ここで生物にとって有害な波長の短い紫外線が吸収されます。地球表層にある大陸は平均的して厚さ30kmの大陸地殻からできています。海洋部は厚さ10kmの海洋地殻からできており,その上に平均深さ3kmの海があります。どちらも地球の半径6400kmに比べるとほんとうに薄皮のようなものです。

地殻の下には岩石からできたマントルと主として鉄でできた核という構造を持っています。マントルはその組成から上部マントルと下部マントルに分かれます。核はおよそ6000度の高温で液体の外核と固体の内核に分かれます。比較的低温の海洋プレートが高温のマントルに沈み込んでいくことにより,地球内部の熱い物質が表面近くに上がってきます。この対流が地球表面の景観にも大きな影響を与えます。そのような仕組みを説明するための理論がプレート・テクトニクスおよびプルーム・テクトニクスと呼ばれています。

■大陸は移動する(ウエゲナーの仮説)

1910年のある日,世界地図を眺めていたドイツの科学者ウエゲナーは、大西洋をはさんだ両大陸の海岸線がジグソーパズルのようにピタリと符合するのに気づきました。そのときに大陸が移動するのではないかという着想が生まれました。彼は生物の化石等の証拠を集め,「大陸と海洋の起源」という著書を出版し,その中で地質時代にすべての大陸は一つにまとまっており(超大陸パンゲア),それが分裂して現在の大陸と海洋の配置ができたという学説を発表しました。この考え方は当時の人たちの賛成を得られませんでした。大陸が移動するなどということは当時の人々にとっては荒唐無稽のことだったのです。彼が亡くなるとこの先駆的な考え方は忘れ去られてしまいました。

■プレート・テクトニクスの登場

しかし,その後の海洋底の調査および岩石に残されている古地磁気の研究などにより,海洋底の拡大と大陸移動が確認されました。このようなダイナミズムを説明する仮説としてプレート・テクトニクスが登場します。地球の表面では地震や火山の噴火をはじめとするいろいろな変動が起きています。このような変動がなぜ起きるのかを研究する学問分野をテクトニスといいます。プレートテクトニスはそのような変動を説明する学説の一つなのです。

マントルを構成する岩石は地震波に対しては固体として振舞いますが(地震波を伝播する),長い時間単位で見れば流動性を有しています。その流動性は深さによって大きく変化し,外部マントルの最上部(深さ約100kmまで)は固くてほとんど流動せず,100-400kmまでの間は比較的流動性があります。地殻と外部マントル上端の固い部分を合わせてリソスフェア(岩石圏)と呼び,その下の流動性のある部分をアセノスフェア(岩流圏)と呼んでいます。

固いリソスフェアはいくつかのブロックに分かれており,その一つ一つをプレートといいます。このプレートが軟らかいアセノスフェアの対流により,その上を水平方向に運動しており,プレートとプレートが接するプレート境界で地学的変動は起きるというのがプレート・テクトニクスの基本的な考え方です。

大陸はそれぞれいくつかのプレートに乗っているため,結果としてプレートの動きに合わせ移動することになります。プレートはそれぞれ異なった方向に動いているので,プレートの境界ではプレート同士が衝突したり,すれちがったり,離れていくこともあります。地震や火山活動はそのような境界で発生します。またヒマラヤ,アルプス,ロッキー,アンデスなどの巨大山脈もそのような境界で形成されます。

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■海洋底の拡大と沈み込み

大西洋,太平洋,インド洋には海底山脈の連なりがあります。プレート・テクトニクスによるとこの部分は中央海嶺と呼ばれ,上部マントルからの熱い物質の噴出し口であると説明されています。中央海嶺は地球上でもっとも活動的な火山の連なりであり,そこでは大量のマグマの噴出により次々と新しい海底が生まれるため古い部分は水平方向に押され,中央海嶺の両側に移動していきます。これが海洋底拡大の原理です。そのため,大ざっぱにいって海底地殻は中央海嶺から遠ざかるほど古いものになります。

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中央海嶺で生まれた海洋プレートはどこかで再びマントルに沈み込みます。日本の東側には日本海溝,マリアナ海溝があり,ここで太平洋プレートが北米プレートやフィリピン海プレートの下に沈みこんでいます。一方,大西洋の両側には海溝が存在しません。これは,大西洋が広がりつつあることを意味しています。沈み込んだ低温の海洋プレートはマントル内部に入り込み,上部マントルと下部マントルの境界付近に溜まります。この境界の上と下では安定して存在できる鉱物の種類が異なるため,海洋プレートの残渣(スラブ)はこの境界層を簡単には突き抜けられないからです。

■プルーム・テクトニクス

しかし,スラブは次々と積もって巨大な塊を作ります。そして約1億年ほどかかって形成された巨大なスラブ(メガリス)が一気に下部マントルに落ち込み,その深部に集積します。すると代わりに下部マントルの高温の物体が地球表層に湧き上がってきます。これが地球が約1億年周期で引き起こす不連続で大規模な変動の要因になります。

この下部マントルを舞台にした巨大な物質循環はプルームと呼ばれており,この現象を扱うのがプルーム・テクトニクスです。プルーム・テクトニクスでは下降流はコールド・プルーム,上昇流はホット・プルームと呼ばれています。現在ではアジア大陸の下にスーパー・コールドプルームがあり,南太平洋とアフリカの下にスーパー・ホットプルームがあります。このように上部マントルにおけるプレート・テクトニクスと下部マントルにおけるプルーム・テクトニクスが関連しあいながら地球のダイナミズムを担っています。

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■超大陸の形成と分裂

地球誕生時のようにマントルが高温のときにはマントル内の対流は乱流的でしたが,マントルが冷えてくるとプルームの数は減少し大型化していきます。そして19億年前には地球規模の単一下降流スーパー・コールドプルームが誕生します。スーパー・コールドプルームができると巨大な下降流に引きずられるように表層のプレートが集まってきます。時間の経過と共に大陸は衝突・融合し,最後にすべての大陸がまとまった「超大陸」が誕生します。この時期以降,大陸は分裂と集合を繰り返し,10億年前にはロディニア,5.5億年前にはゴンドナワ,そして3億年前にはパンゲアが形成されました。

スーパー・コールド・プルームが下部マントルに落ち込むとそれと同期して超大陸の下部にスーパー・ホットプルームが生まれ,超大陸はじきに分裂し,いくつかの大陸プレートとなって分散します。古い時代の大陸と海洋の配置地図は「PALEOMAP Project」のホームページに下記(2.5億年前の地球図)のようなすばらしい画像で掲載されています。現在,アジア大陸の下にはスーパー・コールドプルームがあり,南極を除くプレートはアジア大陸に引き寄せられています。あと,2.5億年もすれば次の超大陸が形成されることでしょう。

    

■大陸衝突の現場・ヒマラヤ山脈

地球でもっとも高い山が連なるヒマラヤ山脈はインド亜大陸とアジア大陸の衝突によって誕生しました。最後の超大陸パンゲアが分裂したときインドは南半球でアフリカの近くにありましたが,インドを含むオーストラリア・プレートが北上したため6500万年前にユーラシア・プレートと衝突しその下にもぐり込み始めました。2つのプレートの間にあった浅い海底はプレートの衝突により折り曲げられ8000mの高さに持ち上げられました。これがヒマラヤ山脈です。

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ヒマラヤの語源となった「ヒマーラヤ」はサンスクリット語で「雪の住みか」を意味しています。ヨーロッパの「アルプス」の語源も「ケルト語の山=alp」,あるいは「ラテン語の白=alb」 だと言われており,おもしろい一致がみられます。浅い海底がヒマラヤを形成したことからヒマラヤの山中からは,多くの海洋生物の化石が見つかります。また,エベレスト山の頂上近くにはイエローバンドと呼ばれる海底で堆積した地層が見られます。

地形図を見るとこのような地形はインド亜大陸の東西の端にも見られます。西側のインド・パキスタン国境付近では2005年に大きな地震が発生し7万人を超える人々が亡くなりました。プレートの境界ではいろいろな形で地殻の歪や断層が発生しますのでたびたび大きな地震が発生します。また,ヒマラヤ山脈の北側には広大なチベット高原が広がっています。これは,インドプレートがもぐり込んだためにユーラシア・プレートの一部が持ち上げられたことによるものです。現在でもインド亜大陸は毎年数10cmの速度でアジア大陸にもぐり込んでおり,ヒマラヤ山脈は今でも少しずつ高くなっています。

■大陸分裂の現場・アフリカ大地溝帯

現在,アフリカ大陸の東側は大陸本体から分離されようとしており,そこはアフリカ大地溝帯(グレート・リフト・バレー)という特異な地形となっています。大地に巨大な谷が形成され,その両側は階段状の地形となっています。谷の幅は35-100kmもあり,この谷がある時間をかけて段階的に陥没していったことを示しています。

このような地形の一つは東リフト・バレーと呼ばれ,エチオピア高原地帯からタンザニアへとつながっており,谷の底には多くの小さな湖が点在しています。また,ウガンダ,ルワンダ,ブルンジからを通りタンガニーカ湖へ至る西リフト・バレーがあります。西リフト・バレーからマラウイ湖,モザンビークへと抜ける溝帯を区別してニアサ・リフト・バレーと呼ぶこともあります。

東リフト・バレーはエチオピアから北に続き,紅海からヨルダン渓谷を通り,世界でもっとも標高の低い死海へと連なっています。地図を見ると紅海の両側にあるアラビア半島とアフリカの海岸の地形が似ていることに気が付きます。ここはもともと陸続きでしたが地溝帯が広がりそこに海水が浸入してきて紅海が形成されました。地溝帯では開くときには大量のマグマが噴出することがあり,地溝帯の周辺は周囲に比べてとても高い地形になっていることも分かります。

現在,アフリカ大陸の下にはスーパー・ホットプルームがあり,超大陸パンゲアの分裂の名残がここで大陸を東西に引き裂いていると考えられています。地溝帯が広がる速度は年に数cmなので数百万年後には東アフリカは切り離されると考えられています。

■地震と火山・日本列島の東側

中学校で環太平洋火山帯という言葉を習いました。確かに太平洋を取り巻くように火山が点在しています。同時にそこは地震の多発地帯でもあります。プレート・テクトニクスは太平洋プレートが周辺のプレートと接するところで収束帯をもっているのでと説明しています。日本列島を例に説明してみますと,東側に日本海溝,南側にマリアナ海溝があります。

太平洋プレートはここで北米プレートもしくはフィリピン海プレートにもぐり込んでいます。またフィリピン海プレートは西日本から九州の近くでユーラシアプレートにもぐり込んでいます。大陸プレートは海洋プレートに比べて軽い物質でできているため,2つのプレートが衝突すると海洋プレートがもぐり込むことになります。このとき大陸地殻の端を少し引きずり込みます。引きずり込まれた地殻には歪がたまり,あるときその一部が壊れて跳ね上がるように元に戻ります。これがプレート境界型の巨大地震のメカニズムです。

2004年のスマトラ沖大地震もオーストラリア・プレートとユーラシア・プレートの境界で発生したプレート境界型の地震です。このとき放出されたエネルギーはマグニチュード9.3とされており,1900年以降では2番目の大きさです。マグニチュードが1増えると地震のエネルギーはおよそ32倍になります。阪神淡路大震災はM7.2,東海地震や南海地震といったプレート型地震はM8前後ですのでスマトラ沖大地震はいかに巨大なものであったかが分かります。

日本の地震で分かるように地震は日本列島東側のプレート境界付近だけではなく列島の各地で発生します。これはプレートの運動によりプレートの内側にも大きな力が加わり,その結果多くの断層が生じているからです。阪神淡路地震はこの地域にある断層が動いたものです。断層は比較的浅いところにあるため,マグニチュードは小さくても周辺地域に大きな被害をもたらします。このような活断層は日本列島には多数存在しており,まだ見つかっていないものも相当あるようです。活断層は一度動くと歪のエネルギーを放出し,数十年あるいは数百年かけて歪のエネルギーを蓄積して再び動く(地震が発生する)ことになります。

一方,海溝で沈み込んでいる海洋プレート表面の岩石には多量の水が含まれています。水分を含んだ岩石は融解温度が低下するため,沈み込みによりマントル上部に達すると周辺から温められ,周囲の岩石よりも低い温度で融けはじめマグマが発生します。したがって,海洋プレート起源のマグマは,海溝から沈み込んだプレートがある一定の深さに到達した場所,水平方向に海溝から少し離れた場所で発生し,ほぼ真上に上昇し火山を形成しまます。そこがちょうど日本列島ということになります。太平洋プレートがフィリピン海プレートに沈みこむところでは伊豆諸島,小笠原諸島,アリアナと続く火山列島を形成しています。

地下数十kmの深部で生成されたマグマは周囲の岩石より比重が軽いため垂直方向に上昇します。しかし,地下5-10km程度の場所まで来ると周囲の岩石と同程度の比重となり,マグマはそこで滞留します。これがマグマ溜まりです。マグマ溜まりの大きさは数km程度と考えられており,新しいマグマの供給,マグマの組成の変化などが引き金となり噴火が引き起こされます。

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