低エネルギー社会の要素技術|電力
「低エネルギー社会」でも必要最小限の液体燃料と電力は産生しなければなりません。つまり,「バイオ燃料」と「自然エネルギー発電」という二つの要素技術が必要となります。これらの要素技術によりどれだけのエネルギーがまかなうことができるかは未知数ですが,化石燃料が枯渇した時には人類が利用できるのは太陽エネルギーだけなのですからそれから産生できるエネルギーの範囲でやっていくしかないのです。
電力に関しては小規模水力発電,風力発電,太陽光発電を組み合わせる分散型のシステムとなります。現在のように100万kw級(一般家庭250万世帯に相当)の大規模発電所ではなく,1000世帯分をまかなう程度の規模のものをネットワーク化することになります。
化石燃料のようにEPRの高いエネルギー資源を利用する場合は大規模化により(少なくとも発電に関しては)効率は上がります。しかし,広く分散している自然エネルギーの場合は大規模化による効率向上は望めず,逆に自然災害等によるプラントの停止のデメリットの方が大きくなります。小規模で分散していることはそのような災害時にもネットワークの一部が停止するだけで済みます。
定格1000kw(1Mw)以上の太陽光発電設備をメガソーラーと呼び,現在の発電効率では左記のような性能となっています。太陽光発電は燃料費は不要であり,運転コストは保守・管理費用だけに限定されます。したがって,太陽光発電のコストは設備寿命の間における総発生費用(初期費用+修繕・保守費用+金利)と期待総発電量から算出されます。それを簡単に表したものが左図の発電コスト換算係数です。
期待総発電量はシステム利用率12%から算出される固定値となりますので,発電コストは初期費用,修繕・保守費用,金利の3つの要素により決まります。そのような計算の結果が発電コスト換算係数であり,この換算係数を使用すると太陽光発電のコスト(円/kwh)は「初期費用(万円/kw)÷換算係数」で算出することができます。1000kwのメガソーラーの初期費用(建設費用)を50万円/kw,修繕・保守費用=1%/年,金利1%/年の場合は50/1.61=31円/kwhということになります。
今後は普及量の増大とともに初期設置費用のコストダウンが可能であり,太陽光→交流電力の変換効率向上,設備の長寿命化と合わせると20年以内に15円/kw(現時点の火力発電のコストは約10円/kw)が現実的な数字となります。
15円/kwhは現在の発電コストに比較して1.5倍程度になっていますが,石油の不足する時代のエネルギーとしては決して高いものではないでしょう。問題はメガソーラーの敷地面積です。太陽光発電施設の敷地面積はほぼ太陽光パネル面積に等しくなります。つまり,年間100万kwhの電力を産生するためには2haの敷地が必要です。
100万kwの原子力発電発電1基は稼働率80%とすると1年間に「70億kwh」の電力を産生しますので,これは定格出力1000kw(年間発電量100万kwh)のメガソーラー約7000基分に相当し,そのために必要な敷地面積は14,000ha(140km2)となります。メガソーラーの太陽光→電力変換効率は2倍程度の向上は期待できますがそれでも70km2です。
この面積の問題が太陽光発電を含む自然エネルギーの最大のネックになります。もちろん都市においても住宅の屋根に太陽光発電パネルを設置すれば面積は稼げるのですが,太陽光発電といえどもメガソーラーと家庭用小規模発電では効率とコストに差が生じます。自然エネルギーに頼る社会では使いたいだけ電力や他のエネルギーが使用できる社会ではないのです。
風力発電は現在のところもっとも潜在力とコスト競争力のある自然エネルギーです。日本最大の郡山布引高原風力発電所(ウインドファーム)は定格66,000kw,年間発電量12,500万kwhであり,これはおよそ3万世帯分の電力ということになります。
このウインドファームの敷地面積は230haであり,敷地面積当たりの年間発電量は54kwh/m2となり,メガソーラーと同等ということになります。太陽光発電でも風力発電でも自然エネルギーを利用している施設は単位面積当たりの年間発電量は50kwh/m2程度であり,効率が2倍になっても100kwh/m2です。場所を選ぶことにより風力発電と太陽光発電のハイブリッド発電施設が可能であり,その場合の年間発電量は150kwh/m2程度に向上するかもしれません。
日本の年間総消費電力は約1兆kwhであり,仮に100kwh/m2・年の自然エネルギーでまかなうとすれば1万km2(100万ha,100億m2)の土地が必要ということになります。これは国土面積(38万km2)の3%に相当します。風力,太陽光とも施設は分散型で建設できるとはいうものの,陸上では施設面積は限定されます。
ヨーロッパでは遠浅の海が広がっていますので着底式の洋上風力発電が可能ですが,日本の場合はそのような条件の良い場所は限定されます。とはいうものの,日本の領海とEEZ(排他的経済水域)を合わせた面積は約447万km2であり世界で第6位です。この海域の一部に着底式および浮遊式の発電施設を造ることができれば面積の問題はある程度解決する可能性がでてきます。
現在の技術では着底式と浮遊式はおよそ水深20-50mあたりが分岐点となります。この水深の沿岸は漁業との関係もあり,かなり制約されることになります。中長期的に見ると日本で最も可能性があるのは浮体式ということになります。日本風力発電協会の試算では洋上風力の導入可能量6800万kWのうち浮体式が3900万kWを占めています。
九州大学SCFではカーボン・ファイバー製の浮体を採用することにより,建造コスト,耐用年数,騒音などの環境問題をクリアしようと実証実験が行われています。浮体は中抜きの六角形の形状で,これを柔構造で連結することにより大きな施設を建造することができます。浮体の中抜き部分の大きさは500m程度になります。
風車も風を集中させ発電効率を高める実績を持つ「九州大風レンズ研究チーム」が開発・商品化に成功している特異な構造のものを採用しています。風レンズとは風車の羽の周囲をリング状のカバーで囲むことにより,風下側に乱流を発生させ気圧を下げることにより羽に当たる風速を大きくするものです。
風力発電の出力は風速の3乗に比例しますので,羽にあたる風速を25%ほど大きくすると出力は2倍となり,効率が上がります。リングを取りつけることにより騒音を減少させることができ,さらに鳥の視認性が上がるためバードストライクを皆無に近いレベルに抑えることができます。ただし,コスト,発電性能,耐久性などはまったく未知数です。現在では5kwのもので実証実験が行われており,その成果が期待されています。
このような自然エネルギー技術開発に原発に投入されている予算の半分ほどを振り当てることにより,10年後,20年後には現在では考えられないような成果が生まれる可能性は十分にあります。見込みのない核燃料サイクルに見切りをつけ,将来を見据えた新エネルギー開発に政策を転換する時期にきています。