■夏子の酒はお勧めです
日本酒を題材にしたマンガに「夏子の酒」という名作があります。文字情報と絵が一緒になっているので伝統的な日本酒の造り方がよく理解できます。また,日本における酒造り,コメ造りの問題点が鋭く描かれており,お勧めの一冊です。日本酒の原料となる米の主成分はでんぷんです。そのため,まず麹菌がでんぷんを糖化し,それを酵母菌がアルコールに変えます。日本酒造りの特徴はでんぷんの糖化とアルコール発酵がもろみの中で同時進行することです。
■日本酒には酒造好適米が使用されます
まず原料の玄米を精米します。玄米の胚芽や外側の部分にはミネラル,脂質,たんぱく質などが含まれているので,それらを除去してでんぷんの部分だけを残す作業です。玄米に対して残った米の割合を精米歩合といいます。私たちがふだん食べている白米の精米歩合は92%程度ですが,酒米の場合は75%を越えることはありません。吟醸造りの場合は60%を切るものも少なくありません。そのため,大粒で米の中心部に心白があり,蛋白質の含有量が少ないといった特徴のある特別な米(酒造好適米)が使用されています。
■一麹,二もと,三造り
精米の済んだ米は水で洗われ蒸されます。蒸し米に種麹をふりかけ麹菌を増殖させます。これが製麹(せいぎく)という工程です。およそ2日間で麹菌は蒸米の内部にまで繁殖していきます。出来上がった麹米はもと桶に入れられ水と混ぜ合わされます。さらに酵母と乳酸菌を加え,蒸米を追加します。これがもと(酒母)になります。この中で酵母はさかんに増殖します。酵母が十分に培養された酒母は枝桶に移され,蒸米,麹米,水が加えられます。枝桶の中でも酵母は増殖を続けます。枝桶から先は大きなタンクに移され,さらに2回に分けて蒸米,麹米,水が加えられます。これがもろみです。もろみの中は25日間ほど糖化とアルコール発酵が続けられ,それを搾ると日本酒になります。残った固形物が酒かすです。
■アルコールが添加されるので話がややこやしくなります
日本酒の最大の問題点はもろみの最終段階で醸造アルコールを添加できることです。醸造アルコールとはサトウキビの搾汁から砂糖を精製した後に残る廃糖蜜から醸造されたアルコールです。廃糖蜜を水でうすめ,酵母を加えて発酵させ,この発酵もろみを連続式蒸留機で95度以上に蒸留するしたものが醸造アルコールになります。蒸留の歩合を少し落とし95度以下にしたものがホワイト・ラムと呼ばれる蒸留酒になります。アルコールが添加されものがあるので日本酒は精米歩合,製造方法,アルコール添加の有無により区分されます。そのため吟醸酒,純米酒,本醸造酒といった特定名称酒の範囲でもその区分は下記のように非常に複雑なものになります。特別本醸造酒と特別純米酒は特別な製造法について説明する必要があるとされています。
■どのくらいアルコールが添加されるのか
さて,特定名称酒の醸造アルコール使用量はアルコール分95度に換算した重量で白米重量の10%(白米1トンにつき100kg=122.5リットル,純アルコールに換算すると116.4リットル)以下と定められています。本醸造酒クラスで白米1トンから生成される純アルコールは全国平均で365.2リットルです。本醸造酒クラスで規定の上限までアルコール添加した場合,純アルコール量(容積)に注目すると添加アルコールの比率は
116.4 / (365.2 + 116.4) * 100 = 24.2%
となります。
本醸造酒クラスにおけるアルコール添加量の全国平均は115.7 リットルとほぼ規定の上限値に近いものとなっています。私は酒がまったく飲めないのでアルコール添加により酒の味やキレがどうなるかは分かりませんが,酒造メーカーの言うように「アルコール添加は日本酒の味を引き締め,酒質を整える目的で使われている」といううたい文句には素直にうなづけません。もっとも,美味しい純米酒を造るのは大変難しいことのようです。できの悪い純米酒よりはアルコールの添加された本醸造酒の方が好ましいのかもしれません。
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