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2008/03/15

糖と炭水化物


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■糖と炭水化物

砂糖は糖類に含まれます。糖(栄養学的には糖質)とは単糖および単糖を構成成分とする有機化合物の総称で,糖=炭水化物(厳密には糖<炭水化物)と考えて差支えありません。炭水化物は炭素と水素,酸素から構成される物質です。ほとんどの炭水化物中の水素と酸素の割合は2:1と水(H2O)と同じなので,炭素と水が結合したようにも見えます。このため炭水化物と呼ばれています。炭水化物は脂肪と同様に動物のエネルギー源となりますが,実際に体内でエネルギー源として使用されているものはブドウ糖です。

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炭水化物のほとんどを占める糖は分子の大きさにより単糖,小糖,多糖に区分されます。
(1) 単糖:分子構造的にそれ以上分解されない最小単位の糖
(2) 小糖:単糖が2-20個程度結合したもの
(3) 多糖:単糖がそれ以上結合したもの

単糖の代表的なものにはブドウ糖(グルコース),果糖(フルクトース)があります。どちらも分子式はC6H12O6ですが原子の結合状態が異なります。ブドウ糖は人間をはじめ動物や植物の活動のエネルギーになる物質の一つです。特に脳にとっては唯一のエネルギー源となっています。

果糖は果物に多く含まれることからこのように命名されています。糖の中ではもっとも甘味が強いものですが,温度により甘みが変化する(温度が低くなると甘みが強くなる)性質をもっています。果物を冷やすことにより甘みが活性化されるのはこの性質によるものです。

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小糖はオリゴ(ギリシア語で小さいを意味する)糖ともいわれています。このグループにはショ糖(砂糖),麦芽糖,乳糖などが含まれます。私たちがふだん砂糖といっているのはショ糖のことで,ブドウ糖と果糖が1個づつ結合したものです。分子式でみると「ショ糖=ブドウ糖+果糖−水」ということになります。逆にショ糖に水を加えると「ショ糖+水=ブドウ糖+果糖」という反応が可能になります。これを加水分解といい,このような反応を生物の体内で行う機能をもっているのが「酵素」です。

麦芽糖はブドウ糖が2つ結合したもので水あめの主成分です。オオムギを発芽させ湯を加えることによって,大麦中の酵素が働いてデンプンが糖化されます。麦芽糖はこの麦芽(モルト,ビールの原料にもなります)に多く含まれることからこの名前がつきました。私たちがごはんを良くかんで食べると甘みを感じるようになります。これは,でんぷんが唾液に含まれる酵素により分解され麦芽糖ができるからです。

花の蜜の主成分はショ糖です。ミツバチは吸い取った蜜を体内の転化酵素の働きで果糖やブドウ糖を主成分とする蜂蜜に変え,巣房に保存します。ハチミツは一種の加工食品でハチが作ったものということができます。蜂蜜の成分は種類により大きく変化しますが,平均的には果糖38%,ブドウ糖30%,水分17%となっています。

多糖類はブドウ糖がたくさんつながったもので,でんぷん,セルロース,グリコーゲンなどがその代表的なものです。人間の体内の酵素はでんぷんの結合を切ってブドウ糖を産生し,エネルギーとして使用することができますが,例えばセルロースは分解することはできません。つまり人間はセルロースを消化できないということになります。

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■異性化糖

私たちが摂取しているもう一つの糖類に「異性化糖」があります。異性化糖はブドウ糖と果糖を主成分とする液状糖で,じゃがいもやとうもろこしなどのでんぷんを原料に製造されます。難しい名前が付いているので化学的に合成されたような印象を受けますが砂糖と同じ天然甘味料です。

まず,でん粉を酵素の力で分解してぶどう糖を作り,その一部を別の酵素の力で果糖に変換したものです。ブドウ糖と果糖は同じ分子式(C6/H12/O6)で表されますが,分子内の結合状態は異なります。このような分子を異性体といいます。最初に出来たブドウ糖の一部をその異性体である果糖に変換したものなので異性化糖とよばれます。

異性化糖の甘みはブドウ糖と果糖の含有割合により異なり,砂糖の70%から120%と幅があります。果糖の甘みは温度が低くくなると強くなる性質をもっています。また,ブドウ糖と果糖のいずれも砂糖より甘みが口中に残りにくい性質があるため清涼飲料,パン,缶詰,乳製品,冷菓などで砂糖と同様に大量に使用されています。異性化糖が使用されている食品の原料欄には「異性化糖」あるいは「ぶどう糖果糖液糖」,「果糖ぶどう糖液糖」と表示されています。

■光合成と消化・・・炭水化物(C6H10O5)nが分解されてぶどう糖になる

ブドウ糖はほとんどすべての生物のエネルギー源となっており,植物体内で合成されます。植物は葉緑素の働きにより光のエネルギーを利用して二酸化炭素と水からブドウ糖を作り出します。この反応は光のエネルギーを利用しているので光合成といいます。

植物は自分の生命活動に必要なブドウ糖を作るわけですが,その反応の余剰物質として酸素が出てきます。植物も自分の呼吸のため酸素は必要としますが,大部分の酸素は廃棄物として放出されます。この酸素は二酸化炭素ではなく水に由来するものです。植物は水を分解して,水素だけを利用し酸素は廃棄しているわけです。太古から連綿と酸素を放出し続ける光合成植物のおかげで,大気中の酸素は約20%も存在するようになりました。

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もっともブドウ糖はそのままでは保存しづらいので植物はブドウ糖をたくさん結合させて「でんぷん」の形で根,茎,種子などに保存します。またブドウ糖を果糖やショ糖に転換して果実や蜜の中に保存する場合もあります。でんぷんは化学的な構造によりアミロース(直鎖型)とアミロペクチン(枝分かれ型)に分類されます。植物の種類により貯蔵されているでんぷんの種類や組成が異なるので,その性質も異なります。

私たちがごはんを食べてエネルギーを得ることができるのは,体内の酵素の力で,コメのでんぷんを分解してブドウ糖を作ることが出来るからです。このように食べ物から栄養となる物質を作り出すことを消化といいます。でんぷんの消化によってできたブドウ糖は小腸から吸収され,血流により体中のすべての細胞に運ばれ,そこで肺から取り入れられた酸素を使って燃焼させられます。このプロセスは植物がブドウ糖を光合成するもののちょうど逆になります。

ブドウ糖が生物体内で燃焼するといっても本当に熱を出して燃えるわけではありません。ブドウ糖を分解する過程でATPというエネルギー物質が生成されます。ATP(アデノシン3リン酸)は生物の体内でエネルギーを必要とする反応過程には必ず使用される物質で,生物のエネルギー通貨です。生物がエネルギーを得るということは食物あるいは自分が光合成した物質からATPを産生することを意味します。これが正常な糖代謝です。砂糖もでんぷんと全く同じプロセスをたどりますので,特に砂糖が体に悪いということはありません。

■地球上でもっとも大量に存在する炭水化物はセルロース

植物は根,茎,葉といった構造体を作らなければならないので,ブドウ糖を結合させて「セルロース」を作り出します。分子式は「でんぷん」と同じですが分子的な構造が異なります。セルロースは植物細胞の細胞壁および繊維の主成分であり,天然の植物質の1/3を占める地球上で最も多く存在する炭水化物です。繊維素とも呼ばれ,綿はそのほとんどがセルロースです。

高等植物ではセルロースはリグニンと結合し,いわゆる「木質部」を形成します。木材から紙パルプを作るためには,木材を粉砕し化学処理によりリグニンを除去してセルロースを取りださなければなりません。1トンの紙を作るためには2-3.5トンの木材が必要になります。製紙工場では大量の水,エネルギー,化学薬品を使い,大量の大気汚染物資や水質汚濁物質,固形廃棄物が排出されます。古紙のリサイクルはこのプロセスにおける環境負荷を非常に小さくすることができます。

地球上におけるセルロースの年間生産量は1000億トンと穀物(20億トン)の50倍にもなります。セルロースはブドウ糖が結合したものですが,動物の消化酵素ではその結合を分解できないため,ほとんどの動物は消化することができません。私たちは野菜を食べて栄養素を摂取することができるのは,咀嚼により細胞壁を機械的にすりつぶして内部の物質を消化するからです。よく噛むことにより野菜の栄養は吸収しやすくなります。

それでは草食動物はどうやって草や木の葉から栄養が摂れるのでしょうか。その秘密は腸内細菌を利用することです。自分のもつ酵素ではセルロースを分解することはできません。そこで,セルロースを分解する細菌を胃や腸内に大量に住まわせいます。これらの細菌はセルロースを分解しオリゴ糖に変えてくれます。細菌によりセルロースでできた細胞壁を分解してもらい,はじめて植物のセルロースや細胞内の物質を栄養源として利用することが可能になるのです。セルロースもでんぷんもブドウ糖の重合体ですので同じカロリーをもっています。インドではノラヤギやノラ牛が紙を食べている光景をよく目にします。彼らは紙ではなくセルロースを食べているのです。

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■バイオ燃料

現在,地球温暖化防止の一つの切り札としてバイオエタノールやバイオジーゼルが脚光を浴びています。バイオエタノールはサトウキビやトウモロコシを原料にエタノールを製造するものです。簡単に言うとサトウキビやトウモロコシを原料に酒を造り,それを蒸留して純度の高いエタノールにしたものです。本来ならラム酒やバーボン・ウイスキーになるべきものをガソリンに混ぜて車を走らせるわけです。

バイオジーゼルも同じです。ヨーロッパでは伝統的に燃費の良いジーゼル車が普及しており,ジーゼルエンジンは植物油を混ぜても動かすことができるのです。原油価格の高騰により,ヨーロッパではナタネ栽培がブームになっています。バイオジーゼルも植物起源なのでカーボン・ニュートラルの燃料です。

バイオエタノールもバイオジーゼルも大気中の二酸化炭素を取り込んだ植物を燃やして車が走ることになるので,二酸化炭素の増加には寄与しない(カーボン・ニュートラル)ことになります。しかし,それほど単純な話ではありません。それは燃料を生産するためにどれほどのエネルギーが投入されたかという観点が欠如しているからです。

ブラジルのサトウキビ・エタノールのEPRは8程度とされています。それに対してトウモロコシのバイオエタノールは米国政府の報告でもEPR=1.34 とされています。RPRは「Energy Prifit Ratio」という概念で,産生されたエネルギーを投入されたエネルギーで割ったものです。EPR=1.34 というのは1.34のエネルギーを産生するため1.0のエネルギーが必要であったことを意味します。機械化された農場でトウモロコシを生産し,それをエタノールに転換するするために使用されるエネルギーはとても大きいということです。

このようなエタノールを1.34使用するとそれは化石燃料を1.0使用したのと同じだけの二酸化炭素を排出していることになり,カーボン・ニュートラルからはほど遠い数値となっています。米国のトウモロコシ・エタノールのEPRは0.8程度だとする米国の研究者もいます。車の燃費改善や公共交通への投資などにより,燃料の消費を低減することの方がずっと効率の良い温暖化防止策だということです。

もう一つの問題はサトウキビ,トウモロコシ,ナタネ油はすべて食品となるものです。原油の高騰によりガソリンスタンドとスーパーが食料の奪い合いをするという事態になっています。トウモロコシの価格が高騰し,それを飼料としている酪農,養鶏農家の経営をひどく圧迫しています。すでに砂糖の国際価格は2倍に上がり,いずれ国内産の牛乳や鶏卵の価格に転化されるのは避けられないでしょう。

現在の地球上には63億人の人間が暮らしており,しかも毎年数千万人もの人口が増えています。食糧の増産は今後はそれほど見込むことができないので,穀物の価格はどんどん上がっていくことになりそうです。現在でも世界人口の2割が満足な食事を摂ることができない状態です。このままいくと,21世紀の早い時期に大規模な飢餓が現実のものになるかもしれません。米国のエタノールを100リットル使用するということは,トウモロコシを350kg使用するのと等価です。実際にはエタノール製造の残渣は家畜の飼料として使用されるので,350kgよりは小さな数値になりますが,それでも貧しい人の1年分の食糧に相当します。

それに対して,食料にならないセルロースあるいはリグニンを含んだ木質部を糖化することができるようになれば,それから得られる燃料のEPRは飛躍的に大きくなり,かつ食料と競合することはありません。この技術開発は簡単ではないようです。しかし,この技術に投資することは食糧の安全保障,地球温暖化防止のため大きな役割を果たすことになります。

■グリコーゲンは一時的なブドウ糖の貯蔵庫

体内で消化されたブドウ糖は血液により体中に運ばれ,細胞のエネルギー源として利用されます。しかし,運動をするときなどのように短い時間で大量のエネルギーが必要になる場合に備えて,血液中の余分のブドウ糖は肝臓と骨格筋に吸収され,グリコーゲンという多糖類に再合成され,一時的に貯蔵されます。グリコーゲンは手持ちの現金のようなものでエネルギーを必要とするときはすぐに取り出すことができます。

しかし,その量はとても少なく肝臓でも全重量の5-6%,骨格筋ではわずか0.4−0.6%です。体を動かしたり運動をするとエネルギー源となるブドウ糖が消費されます。すると,肝臓のグリコーゲン(約100g)はブドウ糖に分解されて血液中に放出され,運動中の血糖の維持に利用されます。全身の筋肉組織内に蓄えられたグリコーゲン(約300g)は筋肉運動のためのエネルギー源として使われます。

■脂肪はエネルギーの銀行預金

エネルギー摂取量が消費量を上回ると超過分は必ず脂肪として蓄えられます。動物が大量にエネルギーを蓄えることができるのは脂質だけです。脂質は細胞がエネルギーを必要とする時すみやかに分解されエネルギーを供給します。グリコーゲンがエネルギーの現金であるのに対して,脂肪は銀行預金のようなものなのです。

預金(脂肪)は収入が少なくなる(食べ物は少なくなる)ときに備えて必要なものです。長い生命の歴史の中で飽食よりはるかに飢餓に遭遇することが多かった動物はほとんど無制限に脂肪を蓄積する能力を獲得しました。現代の人類の場合はそれが裏目に出て,肥満とそれにより引き起こされる生活習慣病が大きな社会問題になっています。

貯蔵された脂肪を減少させるためにはブドウ糖が足りない状況を作りこむことがポイントです。身体がブドウ糖を節約しないといけなくなったとき貯蔵されていた脂肪がエネルギーとして動員されます。とはいうものの脂肪預金には思った以上にたくさんのエネルギーが蓄えられています。脂肪1kgのエネルギーは約7,000kcal,それに対して一日の所要カロリーは2200±200kcalであり,早足で20分歩いたときの消費エネルギーは約100kcalです。

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