亜細亜の街角
井戸で水汲みをする女性たちと砂丘が見られる砂漠の村
Home 亜細亜の街角 | Khuhri / India / Mar 2010

クーリー村  (参照地図を開く)

クーリー村はジャサルメールから南に50kmのところにある小さな村である。砂漠の中で昔ながらの暮らしをしている人々が身近に見られるところとしてヨーロピアンに人気のあるところだ。

また,ジャサルメールに比べてキャメル・サファリが安いのでそれも人気の一つである。しかし,観光客は日帰りで近くの砂丘で夕日を眺めたり,キャメル・サファリに参加するため,村で宿泊する外国人はほとんど見かけなかった。

村は砂の上に造られており,伝統的な家屋は円柱型の土壁に円錐型の草で葺いた屋根である。観光客が訪れるようになったので何軒かのゲストハウスができ,電気もちゃんと使用できるようになった。共同井戸で水を汲んで運ぶ女性や砂丘の写真を撮ることができたので,ワンルピーを連発する子どもたち以外は満足のいくところであった。

ジャイサルメール(10:15)→クーリー村(11:45) 移動

クーリー行きのバススタンドは宿の北側の道から行くと近かったが,アマル・サガール門から北に回ったので少し遠回りになった。角を右に曲がると正面に旧城壁となり,右側の広場がバススタンドになっていた。つまり,城壁をはさんで宿の裏手がバススタンドということであった。

行き先を告げる前に「クーリーか」と聞かれ,バスを紹介された。政府系と同じ型式の大型バスである。乗客は数人しか乗っていない。荷物は網棚にはちょっと入りきらなかったので運転手の後ろに置く。進行方向右手の二番目の座席は窓から写真を撮りやすい。

座席に座っているとクーリーの客引きに「ARUJUN GH」を紹介された。3食付で100Rpというインドでも考えられない安さである。珍しく曇っており,バスが動き出すと涼しい風が入ってくる。今日は快適な移動になりそうだと思っていたら,思わぬ落とし穴があった。

前の席のおばさんが盛大にゲロを吐きだした。不幸なこと風向きがこちら方向になっており,飛まつが飛び込んでくる。あわてて窓を閉めたがひどいことになってしまった。窓はゲロで大いに汚れてしまい,再び開ける気にもならない。風向きによってはおばさんの周辺からはゲロの臭いが漂ってくる。次の停留所で何人かの人が降りたので席を変えることになった。

周辺は半砂漠の状態である。特定の植物だけが乾燥に耐え,そこにしがみついている。おそらくこれらの植物はヤギでも食べられないのだろう。ヤギやラクダが周辺をうろついている。そのような環境で生き残るのは動物に対する毒性物質を含む戦略や鋭いトゲにより身を守る方法で食害を逃れているのだろう。

風力発電

風が吹き,晴天の多い砂漠は自然エネルギーの宝庫である。石炭以外のエネルギー資源に恵まれないインドでは風力発電が盛んであり,この砂漠地帯にも風車があった。砂漠地帯なので土地は有り余っているし,大陸性の風は一定方向から吹くことが多く,風力には適している。

あわててカメラを取り出す

クーリー村には11:45に到着した。バススタンドなどはなく,道路に面した家屋の前がバスストップとなっていた。そこには「ARUJUN GH」のおじさんが待っていた。特にどこに泊まりたいということもなかったので後についていく。

車の走る道路から村の方に歩いているとき,前の方から頭上に金属容器を乗せた女性の集団がやってきた。あわてて,サブザックの中からカメラを取り出し撮影する。宿のおじさんが一緒であったせいか特に彼女たちの拒否反応はなかった。

塀や壁にはさまざまな絵が描かれている

周辺の家屋の半分ほどは土を固めた塀で囲われている。この地域は砂漠というよりは土漠といったほうが分かりやすい。そこにあるものは細かい粒子のシルト状の土だけである。その土を水でこねて塗るとしっかりした塀になる。

黄土のように細かい粒子の土ならば版築工法によりつき固めることにより十分な強度をもった壁ができるはずだが,そこまでの要求はないようだ。塗り固めるだけでも雨がほとんど降ることはないので十分機能することになる。

そのような塀から茅葺の円筒形の屋根が覗いている。塀の中には漆くいが塗られ,その上に植物や動物を題材にした絵が描かれているものもある。この絵はなかなかのもので主なものは写真にしておいた。

ARUJUN FAMILY GH

おじさんが案内してくれた宿はやはり塀で囲まれており,円柱形の壁に円錐形の草葺の屋根をもつコテージがいくつか並んでいる。これがグジャラート州では「ブンガ」と呼ばれている伝統家屋である。

最初のものは細い木を組み合わせ,その上に草を被せる形式であったが,次のものは天井が付いており,トイレ・シャワーも部屋に備わっている。料金は3食を含めて前者が100Rp,後者は150Rpということで後者を選択した。

天井のファンはちゃんと回っていたので油断した。電球がないし,コンセントからは給電されないことが分かった。おじさんにはこの二点についてすぐに改善するよう告げたが,ほとんどなしの礫の状態だ。最終的にはとなりの小屋に移動することになった。

二日目の夕方の日記作業は昨日の羽虫にこりて,表戸を閉めたままで進めた。さすがに虫が入ってこないのでその点は快適である。部屋の中は十分すぎるほど暑く,ファンからは体温より少し低めの風が送られてくる。夕食も3人でかなと思っていたら,昼食の二人は二泊三日でキャメル・サファリに出かけたという。

中庭ではおばあさんがバター作りをしている。おばあさんはさきほど外で乳搾りをしていたのでおそらくその牛乳であろう。素焼きの壺に入れ,専用の道具を使用してかくはんしている。右手のひもを引くと横木の付いたかくはん棒が回転する仕組みである。これを何十回と繰り返すと乳脂肪は水と分離して浮いてくる。おばあさんはそれをすくい,軽くしぼって金属容器の中に入れていた。

村を歩いてみる

村を歩いてみたが面白いものはない。炎天下ということもあり,人々は外には出ていない。子どもに出会うと「ワンペン」の声がかかる。どうやら観光客に十分スポイルされた村のようだ。これでは長居をする必要はないね。

ラクダは働き者だ

村の中にはラクダが多い。彼らはキャメルサファリで貴重な現金収入をもたらすとともに,水の入ったタンクを乗せた荷車を引いてくれる働き者である。しかも,乾燥地域の動物のため粗食にも耐えられる。

子どもたちの態度はひどく悪い

小学校は二つある。一つはプライベートで宿のすぐ斜め向かいにある。僕が09時頃に訪問すると,子どもたがちょうど出てきたところだったので一緒に歩き出す。あいも変わらず写真は難しい。

公立小学校でも状況は似たようなものだ。ひどい集団はカメラを向けると砂をかけようとする。これはひどいと先生に言ってしかってもらったが効き目はないだろう。中にはワンルピーなどとは言わずに写真を撮らせてくれた素直な女の子もいる。

暑い日中は牛も木陰で休むしかない

三叉路の小さな店で(思いがけなく)水が手に入った。半分氷っており最後まで冷たい水として飲むことができた。値段は10Rp,僕が10Rp札を出すと娘さんはこのテープを貼ったお札はこの村では使えないと返された。

そのまま幹線道路に出て少し歩いてみる。ここも何もないところだ。特徴のある家屋は写真の題材になるものの,人がいないので家屋だけのさびしい写真になる。たまに乳絞りの女性がいるような場合は,「フォト,5Rp」とじかに要求される。やはりさっさと次の町に移動したほうがよさそうだ。

砂丘に続く道

三叉路を宿とは違う方向に歩いていくと,砂丘に続く道が見つかった。距離は1.5kmほどあり,そのまま行くべきか水を補給してからにするべきか迷うところであった。

新しいボトルの水はあと1/5くらいしかない。昨日の経験から節約すれば砂丘を歩いて戻るまでもちそうだ。ということで先に進むことにした。砂丘に続く道の手前に小高い丘があり,その上にはムスリムの墓が並んでいた。これが帰りのよい目印になった。

アラビアのロレンスの一場面

砂丘に向って半分舗装された道路が一直線に伸びている。はるか向こうからラクダに乗った男性がやって来る。遠さを強調して写真を撮ってみるとけっこううまくいった。これで陽炎が立っているとアラビアのロレンスにおける族長アリの登場場面のようになる。

砂に埋もれそうな植物

ここの砂丘は一列になった砂山が村に向かって移動しているように見える。近くの樹木は半分ほど砂に埋もれながら,懸命に生き伸びる努力をしている。しかし,砂山の移動速度に勝てない場合は砂の下に埋もれるしかない。

砂丘の上に到着する。その先は南側と同じような半砂漠の状態であった。これでは先に進む価値はない。道を見失わないように自分の足あとをたどって平地に出る。そこから先ははるか遠くの建物を目印に歩き出す。じきに,来た時の舗装道路に出た。

これは小動物の巣穴かな

潅木の根元の部分にいくつかの穴があいている。おや,これは何か小動物の巣穴ではないかと気が付いた。穴の近くには固まった小さなウサギのフンのようなものがあり,どうやらこの巣穴の持ち主のようだ。

ネズミのものとしては大きいし,ジリスにしては小さいし…。だいたいジリスは砂漠に適応しているとは思えないし,これは謎だね。このような穴はずいぶんたくさんあったが,動き回っている動物にはお目にかからなかった。

うねりのある砂丘

ほとんど人のいない砂丘で夕日見物をすることになると思ったら大間違い。バスがやってきて近くに停まった,別の方角からはラクダの列が砂丘を目指していた。これでは昨日のサム砂丘と同じではないかと言いたくなる。

砂丘はほぼ南北方向に一列になっており,北側部分はほとんど砂の堤防のようになっている。南側部分にはうねりがあり,砂丘らしい光景が見られる。しかし,その最上部にはすでにラクダが到着しており,夕日見物の観光客に占拠されている。これはかなり興ざめである。しかたがないので観光客が入らないような外れの砂丘の写真を撮ることにした。

ラクダの足裏は大きく広がるようになっており柔らかい砂の上も歩くことができる。砂の上につけられた足跡を記念撮影して宿に戻る。この家の10歳の少女は働き者だ。家事の相当部分を担当しているようだ。それに対して男の子は(年少ということもあり)ひがな一日遊んでいる。インドでは女性の担当する家事の範囲はとても広く,女の子は小さいときからその一部を担っていかなければならない。

彼女のせきがとてもひどいのでインドのど飴をあげた。この飴はショウガ味で多少は甘味もあるので食べやすい。2個入りの一袋を渡すと残りは弟たちに取られてしまいそうなので1個ずつ渡すことにする。ついでにおじさんには咳止めシロップを渡し,彼女に飲ませるよう告げた。おじさんもこのシロップについてはよく知っていた。

共同井戸から戻ってくる

村の中心部から北東方向に共同井戸があった。女性たちは井戸にロープの付いた皮袋を落とし,少し時間を置いてから引き上げる。皮袋の水は金属容器に注がれる。水汲みの様子はとても絵になるが例によってルピーと言われるので少し遠くから撮ることにする。これでは望遠レンズにすればよかった。水は少しにごっているが,おそらくそのまま飲料水や炊事用として使用されるにちがいない。

共同井戸

こちらは村から近い共同井戸,井戸にロープの付いた皮袋を落とし,少し時間を置いてから引き上げる。容器にいっぱいになったら頭に乗せていえまで運ぶ。水道の普及していない田舎では,水汲みは女性たちの重い負担となっている。

共同井戸から犬が一匹僕の後をついてきて苦労した。インドでは狂犬病に罹っている犬が多いのであまりありがたい存在ではない。そのようなときに備えていちおう予防接種は受けているが,なんといっても関わり合いにならないのが一番だ。追い払ってもいつの間にか近くによってくる。まるでストーカー犬である。ときどき予期しないところから現れるので驚かされる。

広場の共同井戸

村の近くの共同井戸の東側にはたくさんの井戸が集まっている広場があった。200m四方くらいの広い地域には大きな木がところどころにあるくらいで,ほとんど裸地になってる。ここにはたくさんの井戸があり,古くなって使用されていないものも数多くある。南東には昨日の砂丘が見える。ここでは女性たちに混じって男性も水を汲んでいる。 女性たちは自宅で使用する生活用水を金属容器に入れて運んでおり,男性たちはラクダが引く荷車に乗せたタンクに水を入れている。写真に対してはルピーの声がかからなかったので,少し遠くから撮らせてもらう。

水を運ぶ

ラクダの引く荷車にタンクを乗せて水を運ぶのは男性の仕事だ。これだけの量の水をくみ出すのは容易ではない。井戸の深さは10mくらい,直径が50-60cmくらいしかない。

そこに,一斗カンを下ろし上手に水を汲んでいる。このタンクを一杯にするには,この作業を数十回繰り返さなければならない。一つの井戸からは短時間にそんなに水をくみ出すことはできないので,ときどき他の井戸も利用していた。

ラクダの両側に水用の大きな袋を取り付けた水汲みもある。ラクダは足を折りたたんで座っている。こちらも皮袋で何度も何度も水を汲み,大きな袋を満たしていた。砂漠の暮らしに必要な水はこうして得られるのだ。

井戸は地面を掘り下げ,土砂が崩れないように石組みで補強している。コンクリートの円管が手に入ると井戸掘りの作業はずいぶん楽になるだろう。水汲みが終わると一家はラクダに乗って移動していった。

立派な木の下で

日本の電機会社コマーシャルに出てくるような横に大きく広がった半球状の木があり,そこの日陰は牛たちの憩いの場となっている。枝は3mくらいの高さのところでまるで切りそろえたようになっている。木陰は欲しいが牛やラクダたちの行動を妨げないようにと低い部分は切り取ったようだと推測したら,まったく見当はずれであった。

なぜかこの木にはカラスがたくさん止まっている。彼らがどうしてこの木を根城にしているのか分からない。僕が木の下に行くとやかましく無き交わしている。カメラを上に向けると10羽くらいは一斉に飛び立つが,すぐに別の枝に止まる。数羽のカラスは牛の背中に乗っている。カラスが牛に寄生する虫を食べるという話は聞いたこともないし,この一帯は謎が多い。

望遠レンズをつけてお出かけ

15:30にお出かけ。外は十分すぎるほど暑い。日陰でも40℃くらいはありそうだ。出がけに水を買ったが,冷やしていないものを注文した。冷やした水は口当たりが良いためついつい飲んでしまう。今日の行程は2-2.5時間になりそうなので水の節約に努めなければならない。実際,18時に宿に戻ってきたとき水は1/3ほど残っていた。これが冷たい水だったらとてももたなかったと思う。

村から近い方の二つの共同井戸には予想通り,女性たちが集まっていた。望遠レンズのおかげで距離がとれるのでフォト,ルピーの声はそれほど多くはないし,わりと自由に写真を撮ることができた。人間の心理は不思議なもので,ある距離があると写真に撮られているという感覚が希薄になるのだろう。望遠レンズをつけてきたのは大正解である。

砂丘の感じが出てるね

砂丘の写真はかなり遠くから撮った。昨日のうねったような砂丘は少し遠くから撮ると感じが出る。砂丘を越えて何かが降りてくる。ラクダかなと思ってファインダーを覗くと数頭の牛であった。砂丘の向こうの乏しい植物を食べてきたのであろうか。牛飼いに聞いてみたかった。

昼食のメンバーはラクダに乗って

17時を過ぎるとそろそろサンセット・デザート・ツアーの時間となる。広場に戻る途中で二頭のラクダとすれちがった。ラクダには昼食をともにしたカップルが乗っていた。こうやってラクダに乗って砂丘に向かうのは楽しい経験であろうが,ラクダに乗っては一眼レフの写真は撮れない。

広場の共同井戸

広場の共同井戸も女性たちでにぎわっていた。午前中にたくさんいた水運びのラクダはまだ活躍の時間ではないようだ。それでも一台だけは水運びにきていた。ここも距離をとることによりルピー要求はずいぶん少なかった。フレームはちょっと難しいものの思うように写真が撮れるのはありがたい。この二ヶ所の井戸の写真をたくさん撮ることができたので,満足気分で砂丘の方向に歩いていく。

望遠レンズのおかげで水運びの様子も楽に撮れた

昨日のストーカー犬が再び現れた。この暑さの中を僕についてくるのだから気の毒なくらいハアハアしている。犬には汗腺がないので体温を下げるには呼吸と口からの蒸発に頼るしかない。あまりにもハアハアが激しいのでついつい気の毒になり,木陰で休むと犬も同じ木陰で休むという繰り返しであった。

インドでは狂犬病のため年間3万人くらいが亡くなっている。うかつに犬に触れてかまれたら命に関わることになる。もっとも狂犬病ウイルスはすべての哺乳類に感染するので,犬以外の動物でも同じような注意が必要である。僕は日本で狂犬病,破傷風,黄熱病の予防接種を受けている。しかし,それでも犬にかまれたら医者に行き,狂犬病のワクチンを接種する必要がある。

大きな木の底面がそろっている

午前中に牛の群れがいた木は高さ3mあたりで枝が切り取られたようになっている。僕は人の手でこのようになったと思っていたら,真相はラクダが食べてしまったせいであった。

ラクダは首を伸ばすと3mあたりまで届く。この木の葉はラクダのお気に入りらしく,ラクダは一生懸命首を伸ばして木の葉を食べていた。ラクダの食べることのできる範囲の枝は食べつくされてしまったため,このようにきれいに刈り取ったような姿になったのだ。

ラクダが首を伸ばして木の枝を食べている写真を撮っている最中に砂混じりのつむじ風に襲われ,帽子は飛ばされるわ,カメラは砂が被るわとさんざんなことになった。ファインダーを覗き込んでいたので風の襲来に気が付かなかったのだ。


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