インダス川はガンジス河,ブラマプトラ川と並ぶインド亜大陸を流れる主要河川である。いずれの河川もその源流はチベット高原もしくはヒマラヤ山脈にある。この水源はインド亜大陸に住む17億人の食料生産を支えている。この地域の人口増加率は非常に高く,2050年人口は22億人に達するとされている。
インダス川はチベット高原に始まり,インドのラダックを通り,ギルギット川と合流後はパキスタンを南北に縦断してアラビア海に注いでいる。全長は3180km,その93%はパキスタン国にある。実はパキスタンの主要河川と呼べるものはインダス川だけであり,現在のパキスタンの食料生産はひとえにこの川の流量にかかっている。
インダス川の流量は氷河の融雪水とモンスーンによる降水によるもので,年間の流水量は約205km3と推定される。このうち32km3は季節変動の少ない氷河の融雪水であり,残りの172km3はモンスーンによりもたらされる。そのため,毎秒の水量は非モンスーン期の1000トンから8月には13,300トンと13倍にも変動する。このような水量の変化があるが,パキスタンの唯一といってよい水源であり,パキスタンの生命線とっても過言ではない。
ラワルピンディからギルギット,フンザを経由して国境のフンジュラブ峠に至るカラコルム・ハイウェイ(KKH)の峡谷の風景は素晴らしいものがあるが,ギルギットからスカルドゥに至るインダス川を遡るルートの雄大な風景は(天気に恵まれてせいもあり)僕の山岳地域移動の中でも確実に5本の指に入る素晴らしいものであった。帰りには手前の山が切れたところでナンガ・パルバットの雄大な姿を見ることもできた。
また,スカルドゥの風景やサトパラ湖の風景は(高山の風景を除くと)フンザにも負けないものがある。今回の訪問によりすっかりスカルドゥの景色に魅了されてしまった。スカルドゥ訪問から6年後にサイトの書式を変更する機会にこの地域の風景を細大漏らさず見ていただこうと写真の枚数を増やした。
ギルギット(180km)→スカルドゥ 移動
ギルギットに2日間滞在し,スカルドゥに移動する。荷物をまとめ顔見知りの人たちに挨拶をして出発する。単独行動の多い僕としては珍しいことだ。このうちの何人かとはカシュガルで再会することになる。
交差点まで歩いてバススタンド行きのスズキに乗る。スカルドゥ行きのコーチはすぐに見つかった。200Rpのチケットを買い,周辺の景色を撮る。今日は天気が良く山々が美しい。
コーチは日本の塗装会社で使用されていたもので,5列シートのワンボックスに20人が乗っている。荷物のスペースは全く無いのでザックは自分の膝の上に乗せるしかなく,とてもきゅうくつだ。
09:30にバスは出発する。ギルギット川沿いにしばらく南下するとインダス川との合流点にさしかかる。しかし,合流点は山の陰のためよく見えない。
10:30|インダス川の峡谷に入る
インダス川に入るとさすがに風景はすごい。急峻な谷の底を灰色の水が先を争うように流れている。水の流れは上昇してくるカラコルムを少しずつ削り,深い谷を刻んだ。谷の深さでは怒江や長江の方が上であるが,この峡谷の風景も素晴らしい。惜しむらくは車の振動が激しくて写真が難しい。
12:15|急峻なV字峡谷が続く
谷はだんだんと深くなる。もっともインダスの谷は上流に行くとそれだけ深くなるわけではない。あくまでも周辺の地形との関係で谷の深さは決まる。
12:50|休憩所
12:30に昼食休憩となる。ここは川の合流点になっており,風景明媚のところにある。川岸のわずかな平地にある食堂でチャーイとビスケットの簡単な食事をとり,出発までの時間は周辺の写真を撮っていた。
12:50|インダス川に流れ込む支流
インダス川に流れ込む支流は上流で雨が降ったのか,灰茶色の激流となって駆け下ってきており,近くの大岩を押し流さんばかりの勢いである。帰りに再び寄ったときはさらに水流は激しくなり,灰色の水が岩を噛んでいた。
13:15|再び峡谷の風景となる
川が曲がっているところでは自分の走っている道路を撮ることができる。急峻な崖を削ったものであり,落石や崩落がいつ起きてもおかしくない。
13:35|ところどころに緑の多い斜面がある
斜面の傾斜が緩やかで山からの水があるところでは緑豊かな斜面となっている。
15:29|スカルドゥはもう近い
そこから先は谷が開け,峡谷の風景は終わりを告げた。それでも道は蛇行し,振動も激しい。水に恵まれたところはポプラや杏に囲まれた段々畑になっており,緑が美しい。スカルドゥが近づくとインダスはさらに川幅が広がりゆったりとした流れになる。何だか上流に向かっているような気がしない。16時にスカルドゥに到着する。
09:15|氷河の融雪水は大量の鉱物を含み灰色となる
09:40|道路は水面から高くなったり低くなったりする
13:03|ナンガ・パルバットの白い姿が見える
13時を過ぎると谷が少し開けてくる。今度は谷の正面にナンガパルパットひときわ高くそびえている。ここから見える範囲は氷雪に覆われ,快晴の空に白く輝いている。コーチの中で僕一人が興奮し写真を撮っていた。他の乗客は見慣れた風景なのか「おお,高い山が見えるね」程度の反応である。2度目の邂逅も数分でお終いになる。
ギルギット川との合流点が近づくと手前の山が途切れ,その向こうにナンガパルパットがその全容を見せていた。カラコルムのすぐ近くにありながらインダスの東側にあるためこの山はヒマラヤ山系に属することになる。
周囲の標高が2000mほどしかないところに8000mの高峰がどんとあるので,この独立峰は「裸の山」とも呼ばれている。多くの登山隊が初登頂を目指してこの山に挑んだが,多数の犠牲者を出し撤退することになった。
そのためこの山は「人食い山」などという恐ろしい異名をもらうことになった。晴天の青を背景に白く輝くナンガパルパットはそのような恐ろしさは微塵も感じられず,むしろ神々しい印象を受けた。
行きはこの風景に巡り合えなかった。しかし,帰りには突然,インダス川から見て手前の山が切れ,ナンガ・パルバット(8126m)の巨大な山塊を見ることができた。これで,ギルギット//スカルドゥのルートで思い残すことはなくなった。
この平地はインダス川とギルギット川の合流点にできたものであり,合流点の北側になるが,このルートからは確認することはできない。
13:43|そろそろギルギット川との合流点だ
インダス川とギルギット川の合流点は道路からは山陰になるため見えない。車はいつの間にかギルギット川の橋を渡り,KKHを走っていた。この頃から運転手は頻繁にエンジンルームを開け,ペットボトルの水で冷却水を補充するようになった。このため停車時間が多くなり,ギルギット到着はどんどん遅れ,15:20となった。
13:50|ここからナンガ・パルバットまでは直線で60km
15:19|ナンガ・パルバットはギルギットからも見える