カリンポン (地域地図を開く)
ダージリンから東に50km,ブータン国境に近い大きな町である。標高1250m,斜面にできた町なので,まっすぐな道は少なく,すぐに道に迷ってしまう。街の中心部にロータリーがあり,それがランドマークになる。学校が多く,朝夕の登下校時間帯には制服姿のかわいい子どもたちに出会える。
ダージリンから東に50km,ブータン国境に近い大きな町である。標高1250m,斜面にできた町なので,まっすぐな道は少なく,すぐに道に迷ってしまう。街の中心部にロータリーがあり,それがランドマークになる。学校が多く,朝夕の登下校時間帯には制服姿のかわいい子どもたちに出会える。
ナムチ(08:10)→分岐点(09:30)(09:50)→カリンポン(10:30)と50kmをバスとミニバス(30+10Rp)を乗り継いで移動する。朝食をとってからバスのチケット売り場に行く。カリンポン行きのバスは無いので,シリグリ行きに乗り,途中で乗り換えということにする。
政府系の大型バスはジープ道を慎重に下っていく。道路の幅が狭いので対向車とすれちがうときは場所を選ばなければならない。周囲は一様に棚田の風景となっている。ティエスタ橋の手前のチェックポストで停車したしかし,シッキムから出るときはまったくチェックは無い。
橋の少し先にカリンポンとの分岐点があり,そこで乗り換えである。近くにはニホンザルに似た猿が遊んでいる。特に人間を恐れる様子はない。小さな子どもを抱いた母ザルにカメラを向けてもまったく動じない。
20分ほど待つとカリンポン行きのミニバスがやってきた。ここからは上りになり,ミニバスは苦しそうなエンジン音をたてながら登っていく。ジャガランダと思われる青い花が作り物のようにきれいに咲いている。
カリンポンは標高1300mの尾根と斜面に広がった町だ。モーター・スタンドから3回道を聞いてデキ・ロッジに到着した。130Rpの部屋は4畳,1ベッド,T付きで清潔である。
家族経営でのんびりできるし,「水が出ない」ことを除けば快適である。少し前は水が出ていたというので,この町の水道事情は最近悪化したようだ。
ということで,ここでは水は貴重品であった。もちろん頼めば部屋まで水の入ったバケツを運んでくれるのだが,僕はトイレを含めて1日バケツ2杯の水で暮らしていた。宿でダージリンティーを注文すると日によって味が違う。これも水のせいかもしれない。
デキ・ロッジは比較的高いところの斜面に立っているので屋上からの眺めもよい。斜面に沿って広がる街並みがよく見える。町がどんどん大きくなっているのでインフラの整備は追いついていないことだろう。
もちろん,視線を転じるとシッキムとの国境にあたる山並みが目に入る。緑が多く,山また山の風景は日本のそれと類似している。おそらく,樹木も針葉樹と広葉樹の混合林であろう。早朝は軽いガスのかかった風景が見られた。これもいい感じだ。
町のランドマークは中心部のロータリーである。ここに5本の道が集まっている。宿とロータリーの間の道はさすがに覚えた(一本道だけど)。しかし,その他の道になるとちょっとおぼつかない。特に市場に行く道は複雑で同じルートをたどれそうにない。
宿とロータリーを結ぶ道のところに仕立て屋さんがある。いつもチベット系のおばさんがミシンを動かしていた。僕がカメラを向けるとミシンの手を止めカメラ目線になってくれた。この町では写真を断られたことはほとんどない。
カリンポンの見どころにマクファーレン教会がある。ここはチベット仏教の要素が取り入れられた教会として有名である。宿からロータリーに向かい,途中で右に曲がると坂の上に教会がある。でも,前後の門が閉まっており入れない。教会に向かう道の横の斜面はお花畑になっている。
斜面一面にピンクの花が咲いている。クロッカスもしくはサフランに似た可憐な花が風に揺れている。風さんちょっと止まっていてね,お願いしながらシャッターを押す。この斜面を登ると,反対側の斜面にはさらに大きなピンクの群落があり,しばらく腰を下ろして眺めていた。
帰国後に調べてみると「サフランモドキ」のようだ。ヒガンバナ科タマスダレ属となっている。確かに色は異なるものの花の感じはタマスダレに似ていないでもない。原産地はメキシコ,グアテマラとなっている。
一方,サフランはアヤメ科クロッカス属に含まれており,サフランモドキとはだいぶ遠い植物である。サフランの雌しべの柱頭部分を集めて乾燥させたものは薬用,染料,香辛料として用いられており,こちらも「サフラン」というのでややこやしい。
原産地は地中海沿岸で,古代ギリシャ,エジプトでも薬用,染料として使用されていた。サフランは非常に高価なもので1gで1000円ほどもする。サフランの花一つからとれる雌しべの柱頭の乾燥重量は約5mg程度なので,1gのサフランを作るためには約200本の花が必要ということになる。
雌しべの摘み取りから乾燥まではすべて手作業のため,世界で最も高価なスパイスの1つとなっている。最大の生産国はイランで,世界の80-90%にあたる160トンほどが生産されている。
カリンポンにはたくさんの学校がある。ここでは小学生から制服を着用している。当然,学校ごとに制服は異なり,いずれもとてもキュートである。写真で制服コレクションを作るとおもしろいものができそうだ。
マクファーレン教会のある坂の下には女学校がある。ピンク・サフランのお花畑から戻ると下校時間であった。大きな学校から子どもたちが出てくる。最初の一枚を撮ると子どもたちに囲まれる。何枚か撮った中でこの子たちの笑顔がいちばんである。
カリンポンの住人はベンガル人,チベット人,ネパール人である。やはり,西ベンガル州の町ではベンガル人の割合が高くなる。人口も多く,町は不規則に斜面に広がっている。
夕方,早い時間帯に日記を書き終わり,食堂でゆっくりダージリン・ティーを飲んでいた。同じテーブルのヨーロピアンの女性が四国に行ったことがあるとというので,しばらく話をする。「珍しいところに行ってきましたね」と言うと,「大都市は物価が高い,田舎の人々はヒッチハイクにも気軽に乗せてくれ,楽しい旅ができた」とのことである。
部屋に戻りインド地図を広げ,次はどこに行こうかと考えていたら停電になる。インド圏の旅行ではトーチは必需品だ。断水に停電,この町のライフラインは厳しい状況だ。
宿は町の中心部から離れているので夜は静かでよく眠れる。朝食前に日記帳をもって早朝の町の風景を眺めながら,日記の補足をする。斜面の向こうは折り重なるような山の連なりが,うすいかすみの中に浮かんでいる。
宿からロータリーと反対の方向に歩き出す。くすんだ緑色の制服を着た子どもたちが歩いているのでついていく。通りから石段を下りた所に学校がある。ちょうど朝礼の時間であった。
といっても,斜面の町なので広いグランドがあるわけではない。子どもたちは小さな校舎の前のわずかな敷地に整列して,両手を胸の前で合わせてお祈りをしている。
校舎の壁には「Bikash Sangh Primary School」と表示してある。住所に「Tirpai Road」とあった。これは石段を上がったところにある通りの名まえであろう。先生に断って校舎の中に入れてもらう。
一つのクラスをのぞくと,机の高さが異なっている。というか,後ろ半分の生徒は机とイスの組み合わせであるが,前のものはイスと低い台の組み合わせになっている。
上級生は皮をむいていないジャガイモをそのまま切っている。インド圏ではまな板に相当するものはほとんど見かけない。ここでも子どもたちは手の上で上手にジャガイモを切っている。きっと給食のカリーに使われるのであろう。
階段のところには子どもたちが家から運んできた水の入った水筒やポリタンクが並んでいる。断水の影響はこんなところにも見られる。
チベット仏教圏ではこのようなカラフルな供物(トルマ)を見かける。大麦かコメの粉を水とバターで練り合わせたものである。通常トルマは仏前に供える供物として用いられる。祭礼のときに悪霊を封じ込める形代あるいは神仏の象徴にもなる。
鮮やかな着色や飾りが施され,形状はその用途によって異なる。ルンテク僧院では読経の合間に僧侶がトルマを投げ捨てていた。お葬式では僧侶の横の祭壇に飾られていた・カリンポンでは屋根の上や道端にトルマが置かれている。
学校の先には名前の分からないチベット寺院があり,入口に「犬に注意」と書かれている。今朝は2回も犬に吠えられたので要注意だ。本堂の中は比較的新しく,年配の僧侶が説明してくれる。
アミダブッダ(阿弥陀如来),ターラ(弥勒菩薩),千手観音などは日本にも伝わってきている。壁画の半分はブッダを題材にしており,残りは憤怒尊や歓喜仏である。当然,写真は禁止である。その代わり古い建物に保存されている元のご本尊を見せていただいた。
ロータリーの近くに水道管の集合体がある。集合体とは,水道の本管にタコ足のように細い管が取り付けられ,個々の家庭に水を供給するようになっている。本管のジョイント部分が限られているため,1ヶ所でタコ足配管になのかもしれない。ジョイントから先の配管は誰が引くのであろうか。
翌日,今日は開いているかと再びマクファーレン教会を訪ねる。やはり門は閉まっており,地元の人に聞いてみるとどうやら教会は閉鎖されたようだ。付属のミッショナリー・チャリティーの施設も見られないようだ。
がっかりして戻ろうとすると,斜面に学校がある。坂の下にある女学校の低学年部のようだ。ちょうど昼休みで,生徒が外に出ているのでちょっとお邪魔する。写真の画像を見せてあげると大騒ぎになる。撮影希望者が多く,場所は狭い。ちょっと待って,順番に撮ってあげるからと整理に苦労する。
ロータリーから別の道を歩いてみる。しばらく歩くと風景の良いところに出る。ゆるやかに流れるジスタ川かその支流がダージリンとシッキムを分断している。近くに大きなゴミ捨て場があり臭いがひどいし,ハエも多い。ゴミの集積所というよりは処分場のようだ。この付近を通る女学生はハンカチで口元を押さえている。
一軒の家の前で小さな男の子がクリケットのバットで遊んでいる。僕がボールを投げてちょっと遊んであげる。家の前の道を学校帰りの子どもたちが通りかかる。動いている被写体の写真はいつも難しい。それでもちょっと恥ずかしげに歩いてくる自然体の姿はいい写真になる。