HOME > 徒然なるままに > No.25

2008/03/15

化石燃料の埋蔵量


移動お願い
石油資源に関しては新しいページに移動願います。



炭化水素エネルギーとして人類が利用可能なものには石炭,石油,天然ガスなどがあります。そのような資源は地中に存在しているので,調査するための技術的な限界があります。また,仮に資源があっても,それを採掘するためのコストが市場価格に見合わなければ採掘会社は採掘しません。そのため,石炭,石油,天然ガスの埋蔵量については確認可採埋蔵量という指標が用いられています。それは,人類がすでに発見し技術的・経済的に採掘できると確認されている量です。「技術的・経済的に採掘できる」ということは,採掘技術や経済的な状況が変化すると変わりうる数値であることを意味します。

世界の年間原油消費量はおよそ300億バレルですので,毎年可採埋蔵量300億バレルの新規油田が発見され続けないと可採年数は減少していきます。中東油田では2000年にカタールが162億バレル,2002年にイランが336億バレルの増加になっていますが,この増加分は既存油田の埋蔵量を見直したものであり,その根拠はかなり曖昧なものです。サウジアラビアにしても1988年に1700億バレルから2600億バレルに見直した前科(?)があります。可採埋蔵量もそれなりに誤差や変動要因を含んだ数値であることに留意する必要があります。

画像作成中

すでに生産段階に入っているカナダのオイルサンドについては従来の原油とは異質のものであり,またEPRが非常に小さいため通常の石油統計には含まれません。原油の確認埋蔵量がその時期の条件により変化するため,確認埋蔵量をその年の生産量で割った可採年数も変わっていきます。しかし,この20年間はほとんど増えていません。安価に調達できる原油の新発見はそろそろ限界に近いと考えられます。中東を除くと各地域の可採年数は20年未満になっており,そろそろ世界的な石油生産のピークにさしかかっていると指摘されています。

石油生産のピークとは何を意味しているのでしょうか。1956年に米国の地球物理学者K・ハバートは石油の埋蔵量と生産量から将来の生産量予測を行い(ハバート・カーブ),1970年代には米国の石油生産がピークを迎えると主張しました。当時は大変な反論にあいましたが実際1970年に米国の石油生産は頂点に達し,その後再び生産が上向くことはありませんでした。確認された石油資源を採掘していくと,生産のピークは埋蔵量を半分消費したときに訪れます。オイルピークを過ぎると、石油生産はなめらかなカーブを描いて減少してきます。この状態では石油は「枯渇」ではなく「減耗」と表現されています。

C・キャンベルは1998年にこの考え方を全世界に適用して石油生産のピークは2004年であると予測しました。もちろん,世界の確認可採埋蔵量は変動要素を含みますので,この予測値はある程度変化します。それでも人類はすでに累積で9000億バレルの石油を消費しており,他の専門家の楽観的なデータを当てはめても,ピークはわずか10年遅れるだけなのです。私たちは石油のピークが近い,あるいはもしかしたらすでに過ぎていることを認識しなければなりません。現実の世界では石油需要は今後とも増大するでしょうから早晩需給ギャップが生じてくるでしょう。いったん需給ギャップが生じると石油の市場価格は天井知らずに高騰することでしょう。2005年の高騰は冬場の灯油が不足するかもしれないという憶測だけで投機の対象になりました。

画像作成中

天然ガスの確認埋蔵量は約180兆m3で年々増加しており,まだ限界は見えていません。180兆m3の天然ガスのエネルギー量はほぼ原油の確認埋蔵量と同等です。現在の確認埋蔵量をみるとロシア,イラン,カタールの3カ国で世界の58%を占めています。米国地質調査によると未発見天然ガス資源は122兆m3と推定され,そのうち67兆m3が確認埋蔵量に追加されると期待されています。現時点でも天然ガスの可採年数は61年であり,21世紀にもっとも消費が伸びる化石燃料と考えられています。

画像作成中

全世界の石炭の埋蔵量は3.4兆トンと見積もられていますが,採掘可能な可採埋蔵量はBP統計(2003年)によれば9845億トン(うち良質の無煙炭・瀝青炭は5191億トン,質の落ちる亜瀝青炭・褐炭は4654億トン)とされています。無煙炭・瀝青炭について国別の確認可採埋蔵量は米国が1159億トン(シェア22%),次いでインド824億トン(16%),中国622億トン(12%)と続いています。石油と比べて石炭は世界各地に分布しているのが特徴です。

画像作成中

コールノート2002年版によれば,世界全体の石炭生産量は2000年に約36億トンであり,中国が11.7億トンを生産し世界生産の32%を占めています。次いで米国9億トン(25%),旧ソ連3.2億トン(8.8%),インド3.1億トン(8.5%)の順となっています。石炭の可採年数は化石燃料ではもっとも長い212年となっています。2000年の産出量が36億トンなので,対象となる可採埋蔵量は7632億トン,この数字の出所は分かりません。

現在は使用されていませんが海底には「メタンハイドレード」というメタンガスと水が結合したシャーベット状の物質が広く存在しています。メタンハイドレードは海底に降り積もった微生物の死骸等が分解されメタンガスとなり,水分子の結晶構造の中に取り込まれたもので低温・高圧の条件下でのみ安定して存在することができます。1m3のメタンハイドレードを分解すると水0.8m3とメタンガス約172m3(1気圧,0℃)が得られます。世界中の海底には石油と石炭の合計を2倍したくらいの量のメタンハイドレードが存在しています。日本の近海にも日本の天然ガス消費量の100年分くらいは存在していると推測されています。現時点では採掘のコスト,投入エネルギーが大きすぎるため資源には含まれていません。

メタンハイドレードは人類にとっては禁断の資源です。「風の谷のナウシカ」流に言うならば「腐海に手を出してはならぬ!」というところです。というのはメタンハイドレードはそれほど安定した物質ではありません。ちょっとした温度変化により連鎖的に分解しメタンガスが大気中に放出されることになります。およそ8千年前にノルウエー沖で発生した巨大崩壊では3500億トンものメタンガスが一気に放出されたと考えられています。メタンガスの単位量あたりの温室効果は二酸化炭素の約20倍もあるので,3500億トンが一気に放出されたら,巨大な温室効果により地球環境は一変することでしょう。現在進行中の地球温暖化により深海の温度が変化し,メタンハイドレードが部分的に崩壊する兆しを示しています。現在の緩やかな(地質学的には急激な)気候変動が人類文明の崩壊を招く危険性は少なくはありません。

徒然なるままに