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2008/03/15

循環型農業への転換


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環境保全のため「循環型○○」を志向するという話がよく出てくるようになりました。もともと自然は循環型に出来ており,すべての生命は循環の輪の中に組み込まれていました。植物は地中の栄養素と二酸化炭素,日光から有機物を産生します。ある種の昆虫は植物の葉を食べるなど被害をもたらしますが,一方では植物の受粉を助ける役割をもっています。草食動物は植物を食べ,肉食動物は草食動物を食べます。植物の作った有機物はいろいろな生命体に取り込まれますが,排泄物も本体も再び土に戻り,土中の微生物により分解され,二酸化炭素と植物の栄養素に変わります。すべての生命はこのように関連をもっており,生命活動に必要な物質を光のエネルギーにより循環させています。この循環があったので生命は40億年という長い間を生き抜いてこられたのです。

しかし,人類はいつの頃からかこの循環からはみ出してしまいました。石油という巨大な化石エネルギーを手に入れた人類は急速に都市に集中するようになりました。農地から収穫され,都市に送られた栄養素が再び農地に戻されることは極めて少なくなります。不足する農地の栄養素を補充するため人類は化学肥料を作り出し,食糧増産の切り札としたのです。

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これにより人類は自然のもっていた有機物の循環を断ち切ることになったのです。その結果,都市においては食料等から出る有機物ゴミや人間の排泄物の処分が困難になっています。農村においても集約的な家畜飼育が進んでいるため,家畜ふん尿が余るようになります。人類が農耕を始めたときから自然資源として利用されてきたものが急速に環境汚染源になってきています。

化学肥料が使用された農地ではどのようなことが起きるのでしょうか。植物の世界でもいろいろな病気が発生します。特に土の中のウイルス,バクテリア(細菌),糸状菌(カビ)などの微生物が作物に感染することにより発病する病害のことを「土壌病害」といいます。しかし,土中の微生物がすべて悪さをするわけではありません。ちょうど私たちの腸内細菌のように善玉菌(一般微生物)と悪玉菌(病原微生物)に分けることができます。腸内と同様に土の中でもそれらのバランスが重要です。

農家の人々は善玉菌を増やすべく経験的に堆肥や土壌改良材などを入れて土作りに心がけてきました。しかし,化学肥料が土壌の微生物のバランスを崩すことになり,作物は病気にかかり易くなります。そのため,多くの農薬が必要になります。農薬は一時的な効果をもたらしますが,病害微生物が農薬に対する抵抗性をどんどん身に付け,新しい病害微生物と農薬の開発のイタチごっこになってしまいます。しっかりした作物は生きているしっかりした土壌から生み出される,安全な作物は安全な土と水から生み出されるという簡単な原理を私たちは再認識しなければなりません。

画像作成中 日本にはかって循環型社会の手本ともいわれる時代がありました。250年におよぶ江戸時代は鎖国の時代であり,人々は国内の資源だけで暮らしていました。この時代の人々の暮らしは質素だったかもしれません。不順な天候に見舞われると多数の餓死者が出ることもありました。しかし,江戸時代の250年間,日本の人口は2600万人前後で安定していました。この当時としては巨大な人口を支えたいたのが有機物の人為的な循環です。

江戸の都市から出される大量の排泄物は近郊の農民たちにより回収され肥料として利用されていました。野菜や魚介類などのくず,加工食品の残渣(油粕,酒粕など)も全て肥料にされました。燃料として利用されていた薪炭から出る灰も回収され,農地に戻されていました。道具や生活用品についても徹底したリサイクルが行われていました。ありとあらゆるものを回収し循環させる勤勉さが安定した江戸時代の原動力になっていたのです。

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20世紀に顕在化してきた都市が抱える有機物ゴミの問題を解決する最善の手段は,有機物の循環を取り戻すことです。家庭の生ゴミや庭の手入れで出た植物性の廃棄物を堆肥化して再利用すれば農地の土壌を改善し栄養分を補充することができます。それは同時に都市ゴミの減量化に大きく寄与することでしょう。山形県長井市では「 レインボープラン 」が市民と農家と行政とが全て関わりあう仕組みとして発展してきました。市民は家庭の生ごみを分別し,行政は回収とコンポスト化を担当し,農家は有機堆肥を使って農業生産をしてまちの中での有機物の循環を実現しています。もちろんこのような仕組みを定着させるまでには大変な苦労があったでしょうし,分別を徹底する市民の前向きの意識が必要不可欠です。そして,そのような分別が「あたリ前」のことになって初めてリサイクル社会の扉が開くのです。

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