HOME > 徒然なるままに > No.20 地球は90億人を養えるか

2008/03/15

作物の生物多様性


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ヨーロッパの一部で流行していた土壌病害のジャガイモ葉枯れ病が1840年代にイギリス,アイルランドへと広がりました。ジャガイモは大不作に陥り,ジャガイモを主食としていた100万人を超える人びとが餓死しました。この飢饉が契機になり1851年から1905年の間に約400万人の人々がアメリカなどの新天地に移住しました。

ヨーロッパのジャガイモ葉枯れ病は殺菌剤により抑えることができましたが,1980年代に入ると,殺菌剤に耐性のある菌株が大発生し,世界のジャガイモの収穫量は15%も減少しました。この被害を防ぐ切り札として期待されているのは新しい菌株に対して抵抗性のある品種です。それはジャガイモの原産地であるアンデス山中で現地の農民が昔から栽培している多くの品種の中から探し出されたものです。

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ジャガイモ葉枯れ病は2つのことを示唆しています。同一品種を広範囲で栽培することの危険性,そして作物の遺伝的多様性がいかに重要であるかということです。近代農法は少数の優良な栽培品種を広範囲に栽培することにより,高い生産性を実現してきました。世界の食糧の大半を供給しているのはわずか100種あまりの栽培植物なのです。それは,植物の世界の多様性を著しく損なうものになっており,新しい病気や害虫が発生した場合,その被害が極めて広範囲かつ深刻になることを意味しています。

生物は一つの種の中でも時間とともに遺伝子を少しずつ変化させてその多様性を拡げ,生存可能性を担保してきました。近代農法はそのような多様性をひどく損なうことになります。インドでは20世紀の初めに3万種以上の土地固有のコメが存在していた考えられています。しかし,近代農法の導入によりそのような固有種は「劣ったもの」とされ,省みられなくなりました。その中には,将来起こりうる環境の変化に対して有用な遺伝子が含まれているかもしれません。農業における遺伝子の多様性は不確実な未来に対する保険のようなものなのです。

数千年の間,農民たちは作物の変種の中から好ましい性質を有するものを育ててきました。しかし,近代農法ではそのような仕事は品種改良の専門家のものとなり,種子は企業が供給するものとなっています。巨大な農業関連企業,その多くは種子,化学肥料,農薬をセットにして商品化しており,農業のかなりの部分をその支配下に置いています。

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このような企業は特許,ハイブリッド種などにより農民から種子を保存する権利を著しく制限しています。自給自足農民が自ら植える種子を保存し改良する作業は,遺伝子の多様性を農地で維持するもっとも重要なメカニズムです。しかし,途上国の植物資源の経済的利益の大半は先進国企業が不相応に握っており,そこからもたらされる経済的利益を公平に分配する仕組みは確立されていません。

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