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2008/03/15

飲んだアルコールを分解する


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■モンゴロイドだけに酒に弱い人がいます

世界の人々を大別するとネグロイド,コーカソイド,モンゴロイドとなります。ほとんどの人々はアルコールを摂取してもきちんと分解することができます。しかし,モンゴロイドの一部にはアルコールをほとんど,あるいはそれほどちゃんと分解できない人々が存在します。そのような人は中国,韓国,日本に多いとされています。

おそらく中国で2万年ほど前にアセトアルデヒド(アルコールが代謝された物質)の分解酵素(ALDH2)に突然変異をもつ人が現れ,その遺伝子が子孫に受け継がれたものと考えられています。日本人では弥生時代の渡来人の一部にそのような遺伝子をもった人々が混ざっていました。それ以前に日本に住んでいた縄文人はその遺伝子とは無関係だったので正常なアセトアルデヒド分解遺伝子を持っていたはずです。現在でも縄文人の血を濃く受け継いでいると考えられるアイヌの人たちでは酒に弱い人の割合が少なくなっています。また,渡来人の比率が高いと考えられている近畿地方では酒が弱い人の比率が高くなっています。

■全く飲めない・弱い・強い集団に分かれます

もっとも本当に酒が飲めないのは両親からアルコールに弱い遺伝子を引き継いだ人たちで,片親だけから正常な遺伝子を受け継いだ人は弱い程度になります。そして両親から正常な遺伝子を受け継いだ人は酒に強い(普通に飲める)人になります。文献によりかなりの開きがありますが,日本人では約5%が飲めない集団,40%が弱い集団,55%が強い集団に属しています。最初に突然変異を起こした人は一人ですから,その人の遺伝子を受け継いだ人の多さに驚かされます。

自分がどの集団に属しているかはアルコールパッチテストにより簡単に判定することができます。弱い集団に属する人は要注意です。本来は酒に強くないにもかかわらず,慣れで強くなったと錯覚して飲んでいると肝臓をこわしやすいからです。

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■アセトアルデヒドが悪酔いの原因物質です

摂取されたアルコールは胃・十二指腸・小腸で吸収され血液中に入り,おもに肝臓で分解されます。まずアルコール分解酵素によってアセトアルデヒドに変えられます。アセトアルデヒドは少量でも顔面紅潮,吐き気,頭痛をもたらすやっかいな物質です。この物質が体内で速やかに分解されないといわゆる悪酔いした状態になります。アセトアルデヒド分解酵素には2種類あり,ALDH2は体内のアセトアルデヒドが低濃度のときにから働き,ALDH1は高濃度になってから働きます。ALDH2の遺伝子が異常の場合,ALDH2が弱活性あるいは不活性になるため少量のアセトアルデヒドでも分解できず,すぐ酔いが回ってしまいます。

■アルコールが体内から消えるまでの時間は?

また,強い人でもアルコールを分解するためにはそれなりの時間がかかります。およその目安として体重1kgにつき1時間にアルコール0.1gを分解します。体重が50kgの人が1時間に分解できるアルコールの量は5gです。日本酒の1合,ウイスキーのダブル1杯,ビール中ビン1本,ワインのグラス2杯はおよそ20gのアルコールを含むので,体重が50kgの人ならアルコールが分解されるまでに4時間かかる計算になります。ちょっと休めば酔いは収まると考えて車を運転するのはとても危険です。

■脳がアルコールを欲しがるのです

人の脳が他の動物と最も異なるところは精神活動を担う大脳新皮質という部位が非常に発達していることです。大脳新皮質は快感を求め本能や情動のおもむくままに行動することを強く抑制しています。これに対してアルコ−ルは大脳新皮質を麻痺させるため,本能や情動が開放され快感をもたらします。この状態が酩酊状態です。

酩酊状態は一過性のものですが,過剰な飲酒を続けると脳はアルコ−ルに対して耐性をもつようになります。その結果,酔うためのアルコ−ル量が増え,いつも脳の神経細胞がアルコ−ルである程度麻痺されている状態が続くようになります。そして,脳のアルコ−ルの濃度が下がると神経細胞が異常な興奮を示すようになります。これが禁断症状とか離脱症状と呼ばれる状態です。この症状は麻薬などの薬物依存症と類似しており,アルコール依存症と呼ばれています。

■アルコール依存症は誰にでも起こりうる病気です

現在ではアルコール依存症は病気と考えられています。アルコール依存症者については,意志の弱い人,だらしのない性格の人,道徳感の低い人などというイメージがつきまといますがそうではありません。飲酒をコントロールできないのは病気の症状なのです。現在,普通の社会生活を送っている人でも,何らかのきっかけでアルコール依存症になる可能性は十分にあります。

■進行性の病気です

アルコール依存症は進行性の病気で,初期,中期,後期の3段階に分けられます。
(1) 初期 : アルコールに精神的に依存するようになり習慣性飲酒が始まる。
(2) 中期 : 軽い離脱症状が出て飲酒のことで嘘をついたり家庭内で問題が起き始める。
(3) 後期 : 仕事に明らかな支障が出て家庭崩壊に至ったりする。

■早期治療が大切です

習慣性飲酒からアルコ−ル依存症への進行の時間は男性で約10年,女性では約6年といわれています。他の病気とも同じでアルコ−ル依存症も早期発見,早期治療が大切です。治療には専門家の指導が欠かせませんので,自分や家族の飲酒に問題を感じた人は速やかに専門家に相談し,指導を受ける必要があります。アルコール依存症とその治療については「特定非営利活動法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)」のHPに詳しく掲載されています。

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