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2008/03/15

世界に広まったワイン


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■まず地中海がワイン文化圏になりました

広義には果物から造られる醸造酒をワインといいますが,ブドウを原料とするものが圧倒的に多いので,一般的にはブドウの醸造酒をワインと呼びます。ブドウはぶどう糖や果糖を含んでいるので,搾り汁と酵母があればアルコールができます。その酵母も多くの場合,ブドウに自然に付いているものが使用されています。そのため,ブドウ栽培に適した地中海沿岸,西アジアでは文明と同時にワインの歴史が始まりました。

メソポタミアの先住民族シュメール人の遺跡で発見された土器から約8000年前にはワインを造り始めていたと推定されています。ワイン製造はエジプト,エーゲ海の島々に伝播され,ギリシャ,ローマ世界に広がっていきました。さらにキリスト教がヨーロッパの宗教になったため,ワインはミサに欠かせないものとなり,ヨーロッパ各地で葡萄が栽培されるようになりました。

■ヨーロッパ人とともに世界に広がったワイン

大航海時代以降はヨーロッパ人が世界各地に進出していきました。それによりワイン造りは東半球,南半球にも広がりました。世界のワイン地図は現在も拡大しており,各地で個性的でしかも質の高いワインが続々と誕生しています。ワイン用の良いブドウを栽培するためには生育時(夏)には雨が少なく充分な日照があること,水はけの良い土地であることなどの条件が求められます。

そのような地域はおおよそ北緯30度から50度の間,南緯30度から40度の間に含まれています。それぞれの土地に合わせて栽培されているブドウは約1000種類にもなります。日本では生食用果物のイメージが強いブドウですが,世界的に見るとその80%はワインの原料となります。

■一般的にワインとはスティルワインを意味します

ワインは製造法により@スティルワイン(非発泡性ワイン),Aスパークリングワイン(発泡性ワイン),Bフォーティファイド・ワイン(酒精強化ワイン),Cフレーヴァード・ワイン(香味付けワイン)の4種類に分けられています。一般的にワインといえばスティルワインのことを意味します。スティルワインは炭酸ガスを含まない状態で製品化されたワインでアルコール度数は9-14度,赤,白,ロゼに区分されます。スティルワインの基本的な工程は下図の通りで,この工程は昔からほとんど変わっていません。

■その昔,乙女の ブドウ踏みは風物詩でした

大きく変わったのは収穫したブドウを破砕する工程でしょう。ブドウを破砕する機械の無かった時代には,大きな桶に入れられたブドウを村人が歌いながら踏んでいました。特に乙女が踏むと良いワインが出来るということで,民族衣装で着飾った乙女たちが種をつぶさないように,皮を裂かないように丁寧に踏んだということです。ワイン造りの労働には違いありませんが,乙女のブドウ踏みは収穫の喜びに満ちた風物詩だったに違いありません。現在でもヨーロッパ各地ではブドウ収穫祭の行事に若い女性によるブドウ踏み行われています。

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■ポリフェノールで脚光を浴びた赤ワイン

赤ワインと白ワインの違いは@原材料となるブドウの種類,Aブドウの皮と種を一緒に発酵させるかの2点になります。赤ワインの色は黒ブドウの皮に含まれるアントシアニン系の色素やタンニンの色です。皮や種を一緒に発酵させるので,このとき皮からアントシアニンやタンニンが溶け出したものです。これらの物質は「ポリフェノール」と呼ばれ,抗酸化力が強く,動脈硬化の原因となる悪玉コレステロールの酸化を抑えて心臓病を防いでくれます。また,がんや老化の原因になる体内の酸化反応を抑制する働きがあります。

1994年にこのポリフェノールの働きが紹介され,赤ワインは体に良い飲み物として脚光を浴びました。もっとも,黒ブドウでも内部の果肉は白ブドウと同じ半透明ですから,皮と種を除去してから発酵させると白ワインを造ることができるはずです。

■二次発酵の炭酸ガスを閉じ込めると発泡性ワインに

炭酸ガスを内包する発泡性ワインは一般に3気圧以上のガス圧をもつものをスパークリング・ワイン,それ以下のものは弱発泡性ワインとして分類されます。スパークリング・ワインの製造方法はいくつかありますが,いずれも二次発酵をさせたときの炭酸ガスをワインと一緒に封じ込めることにより製造します。もっとも一般的な方法は,スティルワインを大きなタンクに密閉し,その中で二次発酵を起こさせるもので短期間に製品化が可能です。

■シャンパンといえるのはシャンパンだけです

スパークリング・ワインの代名詞となっているシャンパン(Champagne)は,フランスのシャンパーニュ地方で造られるAOCワイン固有の名称のことです。シャンパーニュ地方でも特定地域の特定品種のブドウを用いて造られるものです。栽培,醸造などの生産条件についてもワイン法により厳しく規定されています。フランス国内で造られていても規定からはずれるもの,フランス以外の国で生産されたものははシャンパンと呼ぶことはできません。

■良いワインのお墨付きがAOC

ワインはブドウの品種,ブドウの育つ土壌,栽培方法,気候,収穫時期,製造法,貯蔵法などにより個性が生まれます。それぞれのワインの個性を明確にして品質を保っていくためには,生産地域を狭く限定し,規制していくことが必要になります。そのために作られたのが「ワイン法」であり,そのなかで品質に基づく「格付け」が設定されています。ワイン法ができたのは1930年代のフランスです。

最も高い格付けはA.O.C(原産地統制名称ワイン)と呼ばれています。生産地域,ブドウ品種,醸造法,栽培法,生産量などが厳しく規定されており,国立原産地名称研究所の検査をクリアした約400の原産地が認められています。A.O.C名(一般的に地名もしくは村名)がワイン名となり,ラベルには原産地名が必ず記載されます。

■ワインを守るヨーロッパの法律

現在ではヨーロッパ連合(EU)に加盟しているワイン生産国においてはEUのワイン法に基づき,それぞれの実状にあったワイン法を制定し,格付けを定めています。それぞれの名称を頭に入れておけば初めてのワインでもそのクラスや品質を推し量ることができます。ワイン法は有名産地を語った偽物の製造を防ぐとともに,生産地ではそれぞれの伝統を守り,個性や品質を守るという効果があります。

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