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2008/03/15

砂糖と脂肪の危険性


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■甘いものが止められないのは

砂糖そのものは自然食品ですから過度に摂取しない限り体に悪いものではありません。しかし,人類は砂糖を含む甘い食品を食べ過ぎる傾向があります。人類が狩猟・採集で暮らしていた遠い昔の時代,季節の変化の中で安定した食糧を確保することは大変難しいことであったにちがいありません。その時代から人類はつねに飢餓と戦わなければなりませんでした。高カロリーの脂肪と糖分を多く含む食品を好むのはDNAに刻まれた人類の生得的欲求のようです。

■世界中で肥満が社会問題になっています

そのため,人間の体は脂肪と糖分に対して満腹感を感じにくいメカニズムをもっています。甘いものをついつい食べ過ぎたり,飲み過ぎたりするのはこのためです。豊かな食料に囲まれ,自分の好きなものを好きなだけ食べられる先進国では,慢性的な過食への移行は人類の生理学的な反応だったとも言えます。その反面,ビタミンやミネラルといった微量栄養素は不足する傾向にあり,肥満と合わせて新しいタイプの栄養不良人口が増大しています。そしてそのようなタイプの肥満は途上国でも急速に広まっています。肉食の多いブラジルでは成人人口の約30%,経済発展の著しい中国では約20%が太りすぎ,あるいは肥満となっています。

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■食生活の変化により心臓病,糖尿病,ガンの患者増大しています

国が豊かになり公衆衛生が改善される反面,人々がカロリーを過剰に摂取し,栄養に乏しい食品を食べ始めると集団の健康パターンに大きな変化が現れます。病院では感染症の患者が減少し,心臓病,糖尿病,ガンといった慢性病の患者が増えます。食習慣の変化が慢性病増加の原因となっていることは今日では広く知られるようになりました。

高カロリー,高脂肪の食事は肥満を促進し,肥満は心臓病,脳卒中,糖尿病,そして各種ガンのリスクを増大させます。また,高血圧と動脈硬化も促進します。さらに,太りすぎの人々は致命的ではないが身体を衰弱させる多様な疾患にかかる可能性が高くなります。関節炎,ホルモン分泌異常,喘息,睡眠時無呼吸症候群,腰痛などがその例としてあげられます。まさしく肥満は万病のもとなのです。

豊かな食生活を享受できる環境にあっては,どのように糖分や脂肪と付き合うかが健康を維持するカギとなります。まだそのような分別が身に付いていない子どもたちに対して適切な食育を指導するのは親世代の重要な義務でしょう。なぜならば,子どものうちに身に付いた味覚や食習慣を大人になって変えるのは非常に大変なことだからです。

■血糖値の制御はとても重要です

動物のエネルギー源として欠かせないブドウ糖は血液中に含まれており,各種のホルモンにより一定の範囲内に制御されています。これが血糖値で,血液1dl(100cc)中のブドウ糖の量をmg(1/1000g)で表します。ブドウ糖は体のエネルギー源なので,必要なときにすぐに使用できるようになっていなければなりません。血糖値を一定の範囲内に制御することは生体の維持に極めて重要です。健康な人の血糖値は空腹時で80-100つまり80-100mg/dlです。食事のあとは一時的に上昇し,食後2時間で150くらいまで上がり徐々に低下していきます。

健康な人でも食事を抜いたり,空腹時に運動などをすると血糖値が低下します。血糖値が60-50に低下すると動悸,手足の震え,冷や汗,イライラ,空腹感などの症状が表れます。これが50以下になると脳がエネルギー不足になり反応行動が鈍いまたはおかしくなったり,昏睡,痙攣,麻痺などが起こります。血糖値の低下は短時間で生命の危険に結びつきます。

それに対して人間の体では3種類のホルモン(グルカゴン,アドレナリン,コルチゾール)が段階的に働き,肝臓などに蓄えられているグリコーゲンが分解され,ブドウ糖が血液中に放出されます。ですから健康な人では血糖値が50以下になることはまずありません。

逆に血糖値が高くなりすぎるとインスリンが働き,骨格筋と脂肪組織でブドウ糖を吸収するようになります。インスリンの分泌が少ない場合,あるいはインスリンの働きが阻害されるような場合,ブドウ糖が体細胞に吸収されずらくなるため血糖値は下がらず,いろいろな障害の原因となります。これが糖尿病です。高血糖は低血糖と異なり短時間では障害があらわれないので慢性病になります。また,インスリンの働きがうまくいかないとブドウ糖が細胞に取り込まれづらくなり,細胞はブドウ糖をエネルギー源として使用できなくなります(糖代謝の異常)。このため細胞は脂肪を分解してエネルギーを得ようとして糖尿病ケトアシドーシスのような急性合併症を引き起こしすことがあります。

日本には糖尿病もしくはその予備軍となっている人が約1600万人ほどいると推定されていますが実際に治療を受けているのはその半分に過ぎません。残りの半分の人は治療を中断したり放置しています。高血糖の状態が続くと体内の血管がどんどん劣化していき,糖尿病性網膜症,糖尿病性腎症,糖尿病性神経障害,動脈硬化などの重篤な合併症が発生します。

体内でインスリンを作ることができるにもかかわらず,何らかの要因で分泌量が減少したり,その働きが阻害されることにより発症する糖尿病を2型糖尿病といいます。日本人の糖尿病の大部分を占める病型で遺伝的要因,加齢,肥満,食べ過ぎ,運動不足などの生活習慣の関与が大きいとされていますがその原因はよく分かっていません。とはいうものの,肥満がこの病気の大きな要因になっていることは明らかです。

■適切な予防措置がとられなければ砂糖=虫歯

人が糖類を食べると口の中の細菌がそれを代謝して酸が産生されます。この酸が歯垢(プラーク)のPHを下げます。その結果,歯の表層下からカルシウムやリン酸などのミネラルが溶出します。これを脱灰(だっかい)といいます。しかし,この部分がそのまま虫歯になるわけではありません。唾液の中で飽和状態にあるミネラル分が脱灰部分に再び沈着して傷んだ部分を修復するように働き,歯の健康を維持しています。これを再石灰化(さいせっかいか)といいます。すなわち,むし歯とは脱灰と再石灰化の日常的な繰り返しなのです。もちろんそれらのプロセスには次に上げるいくつかの要因が関係してきます。
(1) 唾液の性質,歯の性質・形態など個人的な身体特性
(2) 口腔内細菌や歯垢の状態
(3) 糖質(砂糖など)の摂取量,摂取回数
(4) 糖質が歯に停滞する時間

つまり砂糖の摂取=虫歯という簡単な図式にはならず,適切に予防することにより砂糖を摂取しても虫歯を防ぐことはできます。しかし,砂糖がもたらされてからイギリスで虫歯が激増したという長期的な統計データ,砂糖から隔離され虫歯のほとんどなかった集団が砂糖と出合うとすぐに子どもたちに虫歯が蔓延したことなどからも明らかなように,適切な予防措置がとられなければ砂糖は虫歯を発生させるトリガーになることは避けられません。

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虫歯を防ぐには脱灰を抑え,再石灰化を促進する予防措置が大切になります。歯の周辺に微量のフッ素が存在すれば,脱灰は抑えられますし,フッ素なしに比べて,3-5倍も再石灰化のスピードを増すことが明らかにされています。このため欧米では歯磨き剤にフッ素を配合したり,水道水フッ素化によるむし歯予防方法を実行しています。それにより当該地域では小児のむし歯が激減しています。もちろんフッ素の使用は一定のリスクがあります。しかし,それを差し引いても子どもの虫歯が減るということは公衆衛生にとって価値のあることでしょう。

平成11年歯科疾患実態調査/厚生労働省のデータでは日本人一人当たりの永久歯の平均虫歯数(DMFT)は15.67本,虫歯が原因で抜かれた永久歯は5.91本と報告されています。永久歯28本のうち,半分以上が虫歯になり,2割が虫歯のために失われてしまったことになります。昔から言われているように歯は命であり,次の世代を担う子どもたちの虫歯をどうやって予防するかは大きな社会問題なのです。

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