Home 亜細亜の街角 | Kanchipuram / India / Jun 2010

エーカンバラナータル寺院の南塔門

シヴァ神を祀ったエーカンバラナータル寺院はカンチープラム最大のものである。敷地はおよそ200m四方となっており,正しい東西軸に対して30度ほど南に傾いている。敷地周囲は道路に囲まれており,周辺の道路を含めて寺院と同じ角度になっている。寺院の敷地の境界にあるのは南東の隅に近い塔門であり,高さは60mもある。この塔門は薄い黄色に見えるが,漆喰の色そのものなのかもしれない。

周壁は(寺院本体の壁を含め)三重になっている。二番目のものは台形に近い形状であり,もっとも内側のものは100m四方となっている。入り口となっている南東の塔門に向かってまっすぐな道路が続いており,塔門の手前はコンクリートで舗装された広場になっている。この広場にも2つの石柱と小祠堂のような建造物がる。

内側の周壁にも塔門がある

南東の塔門の上部は漆喰で塗られており,立体感のないものになっている。飾られている神像もマドゥライやクンバコーナムの彩色され神像がところせましと置かれた塔門を見てきている僕にはまったく物足りないものだ。

南東の塔門の周辺には履物の預かり所はない。この寺院は本殿を囲むもっとも内側の壁までは履物が許可されている。塔門の配置は不規則で,二番目の台形型の周壁には南と西に塔門がある。寺院本体には東に塔門があり,その東側には前殿のような建造物が付属している。この建造物の北側に沐浴池がある。

前殿は多数の石柱の空間となっている

外側の塔門をくぐると正面左に二番目の周壁の南塔門が見えるがこれは使用されていない。土産物屋や供物を扱う店の間に現在の入り口があり,近くには駐車場まである。これでは裸足で歩くような環境ではない。

本堂は東を正面とし西に本殿が配されている(東西軸は30度ほど傾いている)。前殿に相当する部分は多数の石柱で屋根を支える空間となっており,奥行き50mほどもある。

石柱に彫り込まれている見事なレリーフ

前殿の石柱空間は壁がないので石柱に掘り込まれている見事なレリーフの写真を撮ることができる。16世紀から17世紀の比較的新しい建造物なので,ここのレリーフは保存状態がとてもよい。

参拝者が一つずつ小さな灯明を灯していく

前殿の中心部にはナーンディ像が本殿に向いて置かれている。その前には灯明台があり,多くの参拝者が一つずつ小さな灯明を灯していく。灯明の集合体の写真も(うまくすると)とても深みのある写真になるので今回も努力してみる。

前殿の北側の池

前殿の北側には立派な池があり周囲はガートとなっている。本来は参拝者の沐浴のためのものである。しかし,現在では池にはたくさんのゴミが浮かんでおり,使用されていないガートの周囲は金網で囲われている。

樹齢3500年というマンゴーの木

ナーンディ像から西に向かうと本殿の入り口がある。この手前が前室になると思うが前殿との境ははっきりしない。本殿は巨大な石柱の回廊により囲まれており,一回りすることができる。この寺院内には回廊や前殿を支える石柱が2000本もあるという。回廊にはたくさんの奉納されたリンガが置かれているが,この空間は写真には暗すぎる。

聖室の西側には屋根のない空間があり,そこには樹齢3500年というマンゴーの木がある。これはいくらなんでも誇張が過ぎており,せいぜい35年くらいの若木である。マンゴーの木の周囲を回っている参拝者に寺院関係者であろうか男性が何かを指示している。

聖室は本殿の回廊からも写真禁止である

聖室は回廊から少し奥まったところにあり,ここはヒンドゥー教徒以外は入ることが許されず,また回廊から写真を撮ることも禁止されている。その左側には電飾に照らされた神殿があり,こちらは写真もOKである。ここならばプージャを眺めることもできるが,ヒンドゥー教徒以外の人にとってはそれほど意味のあるものではない。

参拝時の正式の服装

帰りがけに本殿から戻ってくる参拝者を見かけた。二人の男性はサリーのように一枚布を体に巻いている。これがこの地域の参拝の正式な服装なのかなとぼんやり考えていた。これに類似する男性の服装はドーティである。しかし,ドーティは腰からくるぶしまでの長い腰布である。写真の男性は上半身も同じ布で覆っている。

ずいぶん大雑把な工事だ

宿の前の通りを東に向かいヴァイクンタ・ペルマール寺院に向かう。バススタンドから先は水溜りの多い道となり歩きづらい。地図ではT字路にぶつかって左に曲がるようになっている。確かにT字路はあり,そこを左に曲がると排水溝の工事が行われている。

ここの排水溝はU字形に溝をコンクリートで固め,そのうえにコンクリートのふたをするようになっている。一部は完成しており,その上面は道路よりもかなり高くなっている。そこにはマンホールの穴も用意されている。排水溝と交差するパイプはそのままコンクリートで固めて残されている。いやはやずいぶん大雑把な工事だ。

ヴァイクンタ・ペルマール寺院

この道沿いには寺院はなさそうだ。地元の人にたずねると通りの西側だという。おかしいな,地図では東側になっているのにと思いながら,彼の教えてくれたように行くと確かに目的のヴァイクンタ・ペリマール寺院に到着した。帰りに道を確認し,ガイドブックの地図がまちがえていることが分かった。バススタンド前の道にT字で交差する一つ西側の道が正解である。

寺院の敷地はささやかな周壁で囲われており,西側は鉄柵となっている。南側にはガートの構造をもった池があるが,現在では完全に干上がっている。この池がヴァイクンタ・ペリマール寺院に属するものなのか,池の東側にあるイスラム風の建物に属するものなのかは分からない。

この奥行きが前殿なのかな

寺院の門のところで履物を脱ぐ。すぐにおじさんが説明にやってくる。これは自称ガイドというもので,いちいち説明を聞いても覚えることのできるものはほんのわずかなので,いつもお断りしている。このおじさんはなかなか手強わく,簡単にあきらめてくれない。

僕がガイドは不要だと分かるとカメラ持ち込み料の20Rpを要求する。なかなか困ったものだ。カメラ持ち込み料はどこにも表示がなかので彼の創作であろう。仕方がないのでガイドブックに記載されているワラダラージャ寺院のカメラ持ち込み料5Rpを参照して彼に5Rpを渡す。

本殿は獅子像に囲まれている

寺院の入り口は西に面しており,本殿は東側にある。この寺院もあまり参拝者が訪れないのか閑散としている。入り口から前殿,前室の構造ははっきりしない。その向こうに本殿がある。本殿の平面図は正方形に少し小さい正方形を西側につなぎ合わせたものになっている。

この本殿の周りを石柱をもった回廊が囲んでおり,本殿と回廊の間は幅2mほどの空間となっている。回廊は本殿の形状に合わせて複雑なものになっている。回廊の石柱は本殿に顔をむけた獅子の立像となっており,本殿はこの獅子に囲まれている構造である。

回廊の壁面を飾る神像

回廊の壁面にはすき間なく神々の像や人々の生活の像で飾られている。質感からしてこれらは塑像であろうと判断した。まず回廊の壁面を見ながら一周し,次に本殿の壁面を見ながら一周した。回廊の彫像は西側のものを除き風化が進んでおり,その内容を理解するのは難しい。西面のものはなぜか保存状態がよく,何枚かを写真にする。

回廊の壁面を飾る神像

本殿の壁面の装飾も塑像のように見えるが石像なのかもしれない。石像だとすればその上に漆喰が施されているのだろう。あまり石の質感は感じられない。聖室は鉄格子の扉にカギがかかっており,さらに本尊の前にはカーテンで仕切られていた。なんとも見苦しい寺院という印象だ。

ヴァイクンタ・ペルマール寺院の本殿

困ったことにこの寺院は本殿の上部にある搭状の建造物が内部からはまったく見えない。カイラーサナータ寺院のように周辺にスペースがあれば横からでも撮影できそうだが,どうにもならなかった。

西側(正面)からの写真が欲しかったので,前殿の横の狭いスペースから撮ってみた。ヴァイクンタ・ペルマール寺院は8世紀に造営れたものであり,マハーバリプラムの海岸寺院と並ぶ最初期のドラヴィダ様式の寺院なのでこの部分はなんとしても写真にしておきたかった。

街路樹を切り倒す

この通りでは排水溝の工事が北のほうから順次行われており,ここでも街路樹は切り倒されている。直径30cmほどの木を山刀のようなナタで切り倒す。その前にメインの枝葉は切られている。

バナナの葉を売る

南インドではバナナの葉は食事のとき皿として使用される。バナナの葉を使用する食堂では客は食べ終わったという意思表示としてバナナの葉を二つに折る。これがもうけっこうというサインである。食堂によっては客が自分で二つ折りの葉をゴミ箱に入れるルールのところもある。ゴミ箱の中身をバナナの葉と食べ残しに限定すると,そのまま畑の肥料になる。また,再生可能資源なので環境負荷はかなり小さい。

バナナの大きな葉は開いてから時間が経つと葉脈に沿って切れ目が入り,皿には適さない。そのためバナナの若葉を切り,市場に出荷する仕組みができている。この緑の皿の商品寿命は2-3日である。トラックから巨大な葉巻のように巻いたバナナの葉が降ろされる。ここから町中の供給ルートにのって食堂まで届けられる。

バナナは一房400Rp

バナナは房単位で市場に運ばれてくる。この時点ではまだ青い。小売の店頭に並ぶ頃黄色くなるように調整される。バナナの房は巨大だ。僕は持ち上げたことはないが40-50kgにもなりそうだ。一房の値段を聞いてみると400Rpという答えであった。

この房にはざっと200本ほどのバナナが付いているので単価は2Rpということになる。実際,街角で一本売りされているものは2-3Rpなので,この卸値で一房400Rpのバナナは少し高級品なのかもしれない。

ジャックフルーツの山

ジャックフルーツは世界最大の果物で重さは30kgほどにもなる。とても普通の枝では支えられないので幹に直接ぶらさがる。露店の市場に数百個ものジャックフルーツが積まれていた。これほど多くのジャックフルーツが集まっているところは見たことがない。中には30kgに近いような最大級のものもある。

ジャックフルーツはザクロとおなじように集合果である。一つの巨大な果実の中に200ほどの果肉に包まれた種子がある。その構造はスズメバチの巣のように何段かに分かれ,各段には30-50個ほどの果肉がある。

ジャックフルーツを解体する

巨大なジャックフルーツは街角の荷車の上で解体され,果肉の単位で売られる。僕は1個,2個と買うことになり,そのときの値段は1Rpあるいは2Rpである。ちなみに露店市場で大きなものの値段を聞くと100Rpということであった。

ここのジャックフルーツの表皮を観察すると,突起の比較的はっきりしているものと,かなりなめらかなものがある。ジャックフルーツもいくつかの種類があり,中には2kgほどの小さなものもある。いつかジャックフルーツの種類を調べてみたいものだ。

サイクルリキシャーをこぐ

少年のこぐサイクルリキシャーを見かけた。通常のサイクルリキシャーは人を運ぶためのものであり,ちゃんと人力車のような座席が取り付けられている。少年がこいでいるものは荷物の運搬用で,後ろの荷台には二人の女性が座っている。年齢構成から母親と祖母の手伝いをしている状況に見える。インドの女性は結婚するとほとんどサリーを着用するようになり,その服装では自転車をこぐことはできない。

ちょっと現代的な山車

この町にも巨大な山車はあった。床面積はそれほとでもないが,高さがあり,これでは街中を練り歩くときに電線がジャマになることだろう。それにしても,今日の目的地のワラダラージャ寺院まではまではここから1kmもある。この山車はいったいどこの寺院に属するものなのだろう。また,ここは商店街でもあり,ここが定住地とも思えない。

ワラダラージャ寺院に到着する

通りの向こうに大きな塔門が見える。ようやくワラダラージャ寺院に到着したようだ。バススタンドから2.5kmほど離れており,歩くのにはちょっと大変だ。しかし,のんびり歩いていると町のいろんな情景を目にすることができる。ワラダラージャ寺院の主神はヴィシュヌ,造営時期は16世紀のヴィジャルナガル朝の時代である。

二重の周壁で囲まれており外側のものは東西400m,南北250mほどである。東西が基軸となっており,その線上に西塔門,本堂,東塔門がある。本堂は中心から少し西側に位置しており,そのためか入り口は西塔門となっている。この塔門もすばらしい威容をもっている。残念ながら工事中で全面的にヤシの葉を編んだムシロで覆われている。本堂の入り口も同じ状況なので建物の写真はほとんどどうしようもない。

石柱のホールの背後にある沐浴池

塔門と本堂は石畳の参道で結ばれており,その間には高い柱で支えられた二基の小祠堂があり,工事中でなければ内側から小祠堂を入れた塔門の写真がいい絵になりそうだが,この状況ではトライする気にもならない。参道の北側には百柱(実際には8X12=96本)のホールがあり,本堂に入れない僕にとっては最大の見所である。

ホールの北側には沐浴池がある。周囲はガートになっており,ここで沐浴をする人の姿も見られる。しかし,寺院内の池で沐浴するという習慣はそろそろ終わりを告げているようだ。池の東側には小神殿があり,ここにも多くの参拝者がやってきている。小さな神殿でも中央に聖室をもち,その周囲を回ることができる。人々は何かを口にしながら何回もこの周囲を回るが,僕は一回で十分だ。

96本の彫刻が施された石柱のホール

正確には南北方向に12列,東西方向に9列,合計96本の精緻な彫刻の施された石柱が整然と並んでいる。石柱は二種類あり,一つは底面がほぼ正方形のもので,その四辺の壁面には上から下まで多くのレリーフ装飾が施されている。もう一つは正方形のものに騎馬の立像を付加したものでほぼ半々の割合になっている。

石柱の四面に複雑・精緻な彫刻がある

これらの石柱のレリーフは保存状態がよくどれを写真に撮ろうかと迷うほどである。目に付いたものを20点ほど撮ったと思う。この石柱のホールの目的はよく分からない。中央に一段高くなったところがあるもののそこには何も信仰の対象となるものはない。10年前に来たときはオートリキシャーの運転手がこの柱を石でたたくと異なる音がすると実演してくれたが,さすがにそれは文化財を傷める行為になるので今回は写真だけで済ませる。

比較的シンプルな彫刻の柱

もう一種類のレリーフ装飾が施されている石柱も見ごたえがある。16世紀の造営ということで風化が進んでおらず,細かい部分も残されている。このようなレリーフが石柱の上から下まで4面に彫り込まれている。ビシュヌ神,笛を吹くクリシュナ,艶めかしく腰を揺らす踊り子たち,睦み合う男性神と女性神・・・,一つ一つをじっくり見ているととても時間が足りない。

本殿入り口の石段を飾る想像上の動物

本殿入り口の石段を飾る想像上の動物は正体が分からない。なんとなく,中国の想像上の動物である麒麟が連想される。麒麟は王が仁ある政治を行うときにのみ姿を現すとされる瑞獣であり,姿はクジカに似て,ウシの尾とウマの蹄を持つといわれる。

本殿前の祠堂ではバラモンが待機している

本殿前の祠堂ではバラモンが待機しており,頼まれるとプージャを執り行っている。彼の上に掲げられている日傘があまりにも立派だったので写真にしてみた。

祠堂の石柱に触れ神の加護を祈る

旅人の僕にとっては寺院は文化財であるが,地元の人々にとっては信仰の対象である。この女性は柱をじっと見てから,おもむろに手を伸ばして触れていた。まるで,触れた手を介して神の加護が彼女の中に入ってくるというような動作である。一神教であれ多神教であれ,祈る姿は美しい。

オオギヤシの実をさばく

バススタンド前の通りでヤシの実を売っていた。といってもココヤシではない。ココヤシより一回り小さく,ソフトボールより少し大きなものが房になっている。オオギヤシの実である。売り手はこの実を手で持って専用の刃物で表皮をスパッと切り落とし,中の果肉を取り出している。内部は3-4室に分かれており,それぞれ2個の果肉が入っている。

ヤシの実には果肉はないのでこれはおそらく胚乳であろう。実際,1個食べさせてもらうと渋皮の内側はライチのような触感であり,種子は入っていない。この果肉も1個1Rp程度で売られており,けっこう客は多い。しかし,現在道ばたに積み上げられている殻はどう処分されるんだろうね。


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