亜細亜の街角
■「青の町」と呼ばれる沙漠の城塞都市
Home 亜細亜の街角 | Jodhpur / India / Mar 2000

ジョドプール  (地域地図を開く)

広大なタール砂漠の入口にジョドプールの町がある。1475年にラージプト族のマールワール王国の都として町は造られた。旧市街は周囲10kmの城壁で囲まれており,その中心の小高い岩山の上には,町を見下ろすようにメヘラーンガル砦がそびえている。

旧市街のランドマークは時計塔,この周囲はサルダル・マーケットになっており,野菜,日用雑貨を扱う商店,テント,露店が密集している。


メヘラーンガル砦

まず砦に適した岩山の上にメヘラーンガル砦が築城され,その後,砦の周囲に城塞都市ジョードプルが王国の都として発展した。藩王国制度が廃止された後も,彼らの資産はそのまま受け継がれ,インドの上流階級を形成している。

現在,ジョードプルの元マハラジャ(藩主)は市街地から北へ3kmほどのところにある新王宮に住んでいる。1929年に出来た新しい宮殿で,インドで一番新しいマハラジャの宮殿である。この建物の一部は高級ホテル,「ウンメード・バヴァン」として,一部は博物館として開放されている。

旧市街から見るとメヘラーンガル砦は高さ120mの岩山の上にどっしりと腰を下ろしている。岩山全体が城壁で囲まれている。とりつき道路を通り砦に近づくと,巨大な圧迫感を感じる。急な坂を上り,中に入るとたくさんの宮殿が立ち並んでいる。今日も疲れる1日になりそうだという予感が走る。

宮殿の一部は博物館として開放されている。砦自体が巨大であるが,内部の建物もそれに合わせて巨大である。その巨大な部屋の内装は繊細な装飾で飾られている。

これほどのものを造るのにどれほどの費用がかかったか見当がつかない。ラジャースタンのマハラジャの権力と富は想像を絶するものである。

しかし,この砦は広すぎる。博物館と他の建物の外を見るだけで疲れた。先生に引率されてきた子どもたちが石畳の上に座っている。よそ行きの服を着た女の子のグループの写真を撮る。

1枚目は自然な姿であるが,2枚目からはカメラを意識されてしまう。水売りのおばさんから水を受け取ろうとしている女生徒にカメラを向けると,その回りに男子生徒が群がってきて写真にならない。

砦の上からはジョードプルの市街を一望にできる。街の外はアカシヤの疎林で,半砂漠のこの地域にしては緑が多い。北の方には密集する家屋の外側に緑のベルトがあり,その向こうにマハラジャの新宮殿が見える。

城壁に囲まれた旧市街は超過密の空間である。土地は建物ですきまなく埋め尽くされ,緑はほとんど見えない。一部の地域の建物は青色で統一されている。不思議な光景だ。

よく見るとどの地域でも建物の壁面はうすい青色になっている。光の具合で青色がより鮮明に見える地域があるようだ。青い家並みの向こうには,なだらかなシルエットをもつ山並みがかすんでいる。

砦の上には多くの大砲が置かれていた。車輪が付いて移動可能なものだ。多くの砲門が砦の外に向けられている。いつの時代においても,この砦と城塞都市は外敵と戦ってきたのだろう。人々は身を守るため城壁の内側に住まざるを得なかった。密集する旧市街の家屋はその名残なのだ。

砦の上から下りてくるとちょっとした広場があり,赤い服と金色の装身具を身につけた女の子が私を見ると踊り出した。カスタネットを鳴らしながら少女はくるくると回る。ラジャスターンのものなのか華やかな踊りだ。

何人かインド人の観光客がちらりと目をやり,通り過ぎる。5分ほどで踊りは終わった。近くには僕しか残っていない。「バクシーシ」と少女の手がこちらに向けられる。ポケットを探し小銭を取り出し,「ありがとう」と言いながらそれを差し出す。


市場の風景

時計塔は旧市街のランドマークである。その近くにはサルダル・マーケットがある。常設の商店に混じってテントや露店が並んでおり,とてもにぎやかな一角を形成している。ここには衣類,雑貨,食料品...なんでもある。売り手はほとんど女性である。

荷車の上に野菜を並べている人,地面に布を敷いてその上に衣類を並べる人,人々のエネルギーを感じる。あっ,牛が荷車の上に置かれているメロンを食べようとしている。店番のおばさんが棒で牛を追い払う。

子連れのおばさんの店にカメラを向けると,となりの店のおばさんと一緒に笑顔でフレームに納まってくれた。大らかで楽しい市場なので2周してしまった。


新郎は白馬に乗って

夕食を終えて休んでいると外が騒がしい。飾りランプを先頭に新郎が白馬に乗ってどこかに向かう。新婦の家であろうか...。ラージプト族の末裔が花嫁をもらい受けに行く,そんな光景だ。

白馬の回りは男性が固め,その後ろには着飾った女性たちが続く。ラジャースタンの結婚式の演出はとても派手だ。華やかでにぎやかなほど大きな幸せがやってくると彼らは信じているようだ。


小さな店番

新市街をのんびり歩く。とくに目的も無く歩いていると,ときどき,いやしょっちゅうすてきな人々に出会う。僕の旅はそのような思い出に彩られている。いや,それが僕の旅そのものなのかもしれない。

旅の出会いはまさしく一期一会である。次の日の同じ時間に,同じ場所を歩いても,同じ出会いはない。そのような出会いを記憶に止めるため僕は写真にする。小さな市場では3人の子どもが店番をしていた。声をかけると笑顔が返ってくる。カメラをかまえ,一期一会の気持ちでシャッターを押す。

どこの国でも子どもたちは好奇心が旺盛だ。外国人の僕はよく子どもたちに取り囲まれた。彼らは僕の手を引いて自分の家に連れていき,家族の集合写真を撮れと迫る。家の屋女たちが薄いパンのように見えるものを乾燥させている。少女たちは突然の侵入者にも笑顔で応えてくれた。

子どもたちが学校から帰ってくる。インドでは一部の小学生は制服である。カメラを意識しない自然な表情がとてもいい。きれいな制服で通学する子どもたち,学校に行きたくても行けない子どもたち,子どもたちの貧富の差を語るつもりはさらさらない。しかし,この子たちの子どもの世代には,男の子も女の子も,みんなが同じように学べる社会であって欲しい。


アカシヤの疎林

ジョドプールから車で2時間ほどの小さな村があり,そこには不釣合いなほど大きな寺院があった。中央に大きなシカラ(塔)があり,それを寺院の建物が取り巻いている。石の階段を上り,いくつかの石のアーチをくぐって上に出る。内部の壁面は多くの塑像で飾られている。

この寺院の上からアカシヤの林を見ることができた。アカシヤは葉が少ないので,木の向こう側が透けて見えるようだ。ラジャスターンは半砂漠の地域だ。人々はそこでささやかな農業と牧畜で生計を立てている。植物の少ないこの土地では,アカシヤの葉が家畜の重要な飼料になるという。



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