鶴田謙二
鶴田謙二(1961年生)は静岡県浜松市の出身です。デビュー作品となる「広くてすてきな宇宙じゃないか」の舞台は地球温暖化による海面上昇で水没した浜松市となっています。鶴田は小さな頃から美術や漫画の才能が顕在化しており,小学生時代にはすでに長編漫画を描いていたという記事がeikipedia にあるります。
大学では写真を専攻していましたが,星野之宣の作品に感化され漫画家を目差すことになります。とはいうもののしばらくは同人誌で活動を続け,1986年に「週刊コミックモーニング」誌掲載の「広くてすてきな宇宙じゃないか」でデビューします。
この作品は1997年に復刊された「Spirit of Wonder」の第0話として収録されています。「Spirit of Wonder」は鶴田謙二の初期短編集というべきものであり,全12話から構成されています。なぜか,第1話ではなく第0話から始まっており,そこにも作者のある種のこだわりを見ることができます。
「Spirit of Wonder」の巻末には次のような初出一覧があり,デビューから10年間の執筆履歴が分かります。同時に最終話の最終ページには作者の意志なのか出版社の意志なのかは分かりませんが,「Spirit of Wonder 完」と記されています。
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広くてすてきな宇宙じゃないか |
1986年 |
「Spirit of Wonder」は鶴田の10年分の執筆作品が収録されていることが分かります。「Spirit of Wonder」の巻末の「用語と解説」に作者はこの時期の執筆状況について次のように記しています。
「Spirit of Wonder」は前回(The Spirit of Wonder)未収録作品をも収録した完全版である。同時に刊行された「水素-Hydrogen」を併せると漫画家になってから10年間のほぼすべての原稿が揃うことになる。あまりの少なさに目を疑う人は少々気が早い。
さらに,「SF名物-初期作品集」を加えると,そこにはなんと15年分のすべて,という驚愕の事実が待っている。向こう15年で描ける量を指しているような気もしないでもないが,それについては今回は気が付かなかった事にする。
鶴田作品の単行本として最初に出版された「The Spirit of Wonder(第1巻)」はほどなくして絶版となっています。この時期,本人は「用語と解説」の中で「売れない漫画家として最初で最後のものになるのでは」と危惧しています。
これほど寡作であることについては作者の遅筆(能力・やる気)に問題があるのか,出版社からの掲載依頼が少なかったのかは分かりませんが,第1巻がほどなくして絶版となっていることから考えると読者からの支持は高くはなかったことがうかがえます。
10年間(1986年-1996年)で単行本が2冊,15年間(1986年-2001年)で3冊ではとても漫画家としては生計は立てれたません。鶴田にとっては職業としての重みはイラストレーターとしての画集や小説の装画の方が高いようです。
鶴田はあまりにも寡作のため各作品の執筆履歴がほとんど分かりません。2015年現在でも漫画単行本として発刊されたものは(私の調べた範囲では)左の作品リストに記しただけです。
その中でも2000年代に発刊された「Forget-me-not」および「アベノ橋魔法☆商店街」は第1巻となっているにもかかわらず,10年を経過しても第2巻は出そうもありません。「The Spirit of Wonder」も第1巻→絶版→タイトルを変更し新作を含め再刊というコースをたどっています。
こうして見ると鶴田は手がけた作品を完結させたことがほとんどない,読者にとっては次巻を期待していると何年経っても出てこない難儀な漫画家ということができます。
それでも私のような団塊の世代にとって「Spirit of Wonder」は古き良き時代のSFを想い起させてくれるものであり,細い描線を多用した丁寧な書き込みの絵柄は私の好みでもあります。