森下裕美
森下裕美は奈良県出身,高校卒業後に漫画家の道を志します。1982年に「英語教師」で第6回ヤングジャンプ青年漫画大賞準入選を果たします。デビュー作は同じころ「ガロ」に掲載された「少年」です。
「ガロ」に掲載されたものがどのような作品なのか調べてみましたがネット上には有力な情報はありません。それどころか少年ジャンプのデビュー作となる「JUN(1983年)」についてもほとんど情報がありません。それでも,当時の彼女の作品をお持ちの方が次のようなコメントを出しています。
「週刊少年ジャンプ」で唐突にこの連載が始まり,その異色ぶりにびっくりするとともに強いシンパシーを憶えたのだった。売れないエロ漫画家と早くして父を亡くした15歳の少年ジュンをスナックのママをして育てる29歳の母親ナナとの恋を軸に描いた本作は,その当時『Dr.スランプ』や『キャプテン翼』,『キャッツアイ』,『キックオフ』,『コブラ』など錚々たるメンバーが誌面を賑わせていた時期にあってひと際目立つショボさ(「ガロ」っぽさと言っても良い)だったのである──案の定,というほかないのだが,この『JUN』は連載10回で打ち切りになり新書版のコミックスでは刊行されないまま翌年の1983年にひっそりと集英社漫画文庫から発売されたのだった。( 「Blog:Oh-akubi」より引用)
「JUN」の内容は分かりませんのでコメントしようはありませんが,少なくとも子ども受けするような作品ではなかったようです。少年ジャンプではこのように人気が出ないと10回あたりで打ち切ることはよくあります。
少年ジャンプの読者層では森下裕美の作品は理解できないと分かったのか,次の作品となる「荒野のペンギン(1984年)」はヤングジャンプで連載されました。こちらは単行本で3冊となっています。とはいうもののストーリー漫画ではあまり成功していません。
森下裕美がブレークしたのはヤングジャンプに連載されたストーリー型4コマ漫画の「少年アシベ」です。この一作で彼女はメジャー入りを果たし,「ここだけのふたり!!」,「ウチの場合は」と4コマ漫画の世界を歩んでいきます。
荒野のペンギンの世界
作者が22歳の時に始まった「荒野のペンギン」は1話完結のファンタジーとなっています。主人公の小林薫は中年のさえない男性であり各話に登場しますが,職業や状況の設定はすべて異なります。
第01話:中途退職して漫画家のアシスタントとなる
第02話:万年ヒラのサラリーマン
第03話:古いアンドロイドと暮らすサラリーマン
第04話:会社になじめない独身のサラリーマン
第05話:オフィスで夢見る独身のサラリーマン
第06話:二男と暮らす失業中の男やもめ
第07話:小さな金融機関に勤める独身サラリーマン
第08話:独身のサラリーマン
第09話:独身のサラリーマン
第10話:駅前商店街の時計店主
第11話:ビルの管理人
第12話:取り柄のないサラリーマンで2児の父親
第13話:健康食品の営業マン
第14話:下宿屋の主人
第15話:高校教師
第16話:独身のサラリーマン
第17話:独身のサラリーマン
第18話:独身のサラリーマン
第19話:図書館の司書,1児の父,男やもめ
第20話:図書館の司書,1児の父,男やもめ
第21話:独身のサラリーマン
第22話:独身のサラリーマン
第23話:サラリーマン
第24話:サラリーマンで2児の父親,男やもめ
こうしてみると独身あるいは男やもめのサラリーマンという設定が多いことが分かります。少なくとも物語の中で小林さんの奥さんが出てくることはありません。
最初の頃は小林さんを中心にストーリーが展開されることが多かったのですが,それでは話の幅が狭くなるためなのか小林さんが脇役となるものもいくつか出てきます。
多くの場合,小林さんの性格を表す言葉としては温厚,無口,茫洋,悲哀,夢想といったところでしょうか。それでは小林さんの世界のうちで私のお気に入りの世界を探検に行きましょう。とはいうものの,22歳の女性の作品ですので物語の奥行きはそれほど期待できません。