私的漫画世界
今日も走り回る町内のご意見番・・・いい時代だったね
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村野守美

村野守美(もりび)は2011年3月7日に69歳で逝去されました。まず冒頭に謹んでご冥福をお祈りいたします。人間を長くやっているといろいろな方の訃報に接します。私がリアルタイムで読んでいた漫画家の何人かも鬼籍に入っています。統計的な資料はありませんが,漫画家はハードな仕事ですので,感覚的には平均年齢は社会的な平均年齢よりかなり低いように感じます。

村野守美は1941年に満州の大連で生まれであり,6歳の頃に本土に引き上げてきました。そのときに,集合場所となっていた学校の窓から転落して脊椎を損傷したため,それ以降は車椅子の生活となったとwikipedia に記されています。

別の資料ではなんとか歩けるようになったものの,普通の仕事はできないので漫画家になるしかなかったと記されています。どちらにしても,漫画家を目指すことになり,1960年「弾丸ロンキー」でデビューしています。 その後,(おそらく1962年頃に)虫プロダクションに入社し,手塚治虫に師事することになります。「草笛の季節」の主人公がオサムとなっているのは手塚治虫に由来しているのでしょう。

1985年くらいまではアニメ関連の仕事と漫画家という二足の草鞋をはく仕事生活を送っており,アニメでは原画,脚本,演出,絵コンテなどいろいろな役割をこなしています。「カムイの剣」の最後にクレジットタイトルが流れ,その中にキャラクター村野守美の名前を見つけ,おっと思ったことが記憶に残っています。

二足の草鞋が影響しているのか,村野守美の作品は週刊誌に連載する形態のものはごく少数です。ほとんどが短篇であり,(原作ものを除き)抒情と人情をテーマにしたものが多いようです。

「草笛の季節」は全3巻あるいは全6巻にまとめられていますが,収録されているものは「オサムとタエ」のように作品世界を共有する短篇を中核に収録したものです。1990年代の後半からは「職人尽百景」,「おせん」のように江戸時代を題材にした作品が多くなっていきます。

このように短篇を中心にした作家生活のため村野守美を知っている,あるいは彼の作品を愛読しているという方は少ないようです。google で「村野守美」を検索するとヒット数は2.9万件であり,私の書棚に並んでいる他の漫画家に比して少ない部類に入ります。

彼の作品がすべてすばらしいとはいえませんが,「垣根の魔女」,「草笛の季節」,「職人尽百景」などはぜひ読んでいただきたいものであり,私の書棚から無くなることはない(個人的には)珠玉の作品です。

栄町一丁目の風景

木造・板壁の家屋が並び,表通りには個人経営の商店があります。裏通りは路地になっており,昭和30年代頃の雰囲気をもった東京の下町にも,歴史のある地方都市にも見えます。背の高い建物はなく,スーパーマーケットもなく,買い物は町内の八百屋,肉屋,電気屋などで対面販売ということになります。家の中も和風であり,食事はちゃぶ台でいただく家が多いようです。

「垣根の魔女」と呼ばれているのは栄町で一人暮らしをしているミドリさんのことです。町内の最長老(?)ですのでだれも頭が上がりません。もちろん,呼び捨てになどにできるはずもなく,いつも「ミドリさん」となります。とにかく手が早く,悪口には地獄耳であり,町内の人たちはしばしばゲンコツをもらっています。

ミドリさんの年齢は明らかにされてはいませんが,作品中には「昭和3年・ミドリ18歳の夏」および「あの人が大正時代に買ってくれた記念の指輪」という2つの記載があり,推定年齢は70歳ないしは70代の後半ということになります。

ミドリさんは自分が町内のまとめ役であり,自分がいなければ町内の人たちはとてもやっていけないと自認していますので,今日も町内を回り問題の解決(?)に奔走しています。

どこの家にも気楽に入り込むので「垣根の魔女」ということになりますが,さっぱりした性格と物わかりのよい一面をもっていますので,いってみれば恐もての町内の御意見番となっています。

この作品が描かれたのは1979年(昭和55年)頃です。核家族化が進み,町内の人間関係もどんどん希薄になっていきます。町内のまとめ役といったご隠居もミドリさんのような存在も絶滅危惧種となりつつあります。

現在の大きな町ではもう過去のものとなった町内の人たちのつながりですが,作品の中ではまだ健在であり,ミドリさんというを狂言回しに引っかき回されながらも,人情をベースに紡ぎだされた一つひとつの話はこころに沁みます。

第1巻・第1話|文箱

ミドリさんとの付き合いの長い町内の人たちは慣れていますが,新婚で越してきた共働きの夫婦にとっては塀から覗き込む迷惑な存在です。特に夫にとっては妻が文箱を隠そうとするのを「夫婦といえども秘密の一つや二つはあっていいのです」などとたきつける煙たい存在です。

夫が早めに帰宅し文箱を探しているとミドリさん現れ,隠すようにアドバイスしたと話します。翌日,夫は熱があると称して会社を休み家探しして文箱を見つけます。その中には二人が付き合っていたときの想いでの品物や自分が出した手紙が入っていました。夫はへんに勘ぐったことが恥じ,帰宅した妻にやさしく接します。

実は妻は段ボールいっぱいの他の男友達からの手紙などをしまい込んでおり,こちらはミドリさんと一緒に燃やしてしまいます。ミドリさんは「困ったことがあったら,このあたしになんでもお聞き」と新妻を励まします。

第1巻・第2話|熱いキック

娘の妙が最近帰りが遅くなっており甚五郎は心配しています。ミドリさんの嗅覚は鋭く,甚五郎の心配事を見抜き,頻繁にやってきます。しかも,「そろそろ妙ちゃんも年頃なんだよ。今頃どこぞの誰かとそっと腕など組んでさ・・・」と不安をあおるもの言いです。

甚五郎の心配通り,妙は公園でデートです。結婚の話は進んでいるようですが,弟のオサムが受験に失敗して一浪するようなことになると母親役の妙は家を出ることはできません。二人のもどかしい会話にミドリさん「ええい,じれったいね・・・もう・・・」と茂みから出てきます。

甚五郎は妙の意中の人と会わんと言い張りますので,ミドリさんは一計を案じ,庭いじりにかこつけて知り合いとということで彼を甚五郎の家に連れていきます。ミドリさんの説得にもかかわらず,優柔不断の甚五郎は首をたてに振りません。

会社をやめ,田舎でじっくり待つことにしますという彼からの電話が甚五郎の家に入ります。帰宅した妙にミドリさんは決断を迫ります。妙は彼の田舎に行く決心をし,甚五郎は妻の形見の指輪をそっと渡します。

第1巻・第3話|老雀

学生下宿の大家さんから電話が入ります。揉め事の仲裁を生きがいとしているミドリさんはさっそく町内でボンボロ長屋と呼ばれる下宿に向かいますが,途中で女子学生から「美鈴マンション」をたずねられます。町内のことはなんでも知っているミドリさんはそんなところはないと答えます。

下宿の部屋では4人の男子学生が昼間から禁止されている麻雀をしています。ミドリさんが「学生の分際で昼間からこんなことを・・・すぐ止めろ」と言いますが,絶対に止めないよという答えです。しかも「婆さん」と失礼なことを言われてしまい,バケツの水を4人にかけてしまいます。4人はそれでもやめません。

さきほどミドリさんに道をたずねた女子学生がやってきて,ここに「美鈴マンション」と書いてありますと告げます。ミドリさんはまぎらわしい名前を付けてと大家を張り倒します。

4人の学生のうち1人が田舎に帰ることになり,送別のため倒れるまで麻雀をやろうということだったのです。ミドリさんはこの種の話には弱いですから,夕食後は(音が響かないように)布団の上でやらせます。

12時過ぎにはみんな眠り込んでしまいます。みんないい人たちよとつぶや女子学生にミドリさんは「女はね・・・見栄をはらないで正直にならなきゃならんときがあるもんさ」と諭します。翌日,リヤカーで荷物を運ぶ4人にミドリさんは謝り,娘さんは一時の感情ではありませんと告白し,どうやら二人の仲はうまくまとまるようです。

第1巻・第6話|黄金の遺産

御主人の遺影から長い間探していた金の指輪が出てきました。御主人が大正時代に買ってくれた愛の記念ですが,もうミドリさんの指には入らなくなっています。そのため,入れ歯に金を被せてあの人の愛の想い出をかみしめていたいと歯医者のヤッちゃんに相談します。

入れ歯と指輪を預かったヤッちゃんは指輪がメッキだと分かり困り果てます。ミドリさんはだますような人ではありませんので,本人は純金の指輪だと信じ込んでいることが分かります。御主人との愛の想い出を壊したくないヤッちゃんは金を仕入れて金冠にします。

ミドリさんは金冠を見せびらかし,八百屋の青年は「目がつぶれそうだ」,甚五郎は「身の毛もよだつようないい話だ」と評します。

医院の会計をしている娘の美智子は会計が合わないことを父親にたずねますが,ヤッちゃんは「男にはへんなところがあってな,女にはくだらないと思われることでも必死に黙っていたいことがあるんだ」と理由を言いません。

美智子はミドリさんのところに行き,「親爺さんにこの金を被せてもらったんだ。あたしの想い出の指輪をつぶしてやってもらったんだ」と説明され,美智子にも金の行方とその間の事情が分かりました。美智子は「男の人ってステキね・・・なんだか」と明るい表情で話します。

この話は本作品の中でも好きなものの一つです。自分の知った秘密は墓場までだまってもっていくという男の信念とそれを知った時の娘の反応がほのぼのとした雰囲気を醸し出しています。そのことを知らず,ミドリさんはそれ以降もヤッちゃんにゲンコツを出します。

第1巻・第10話|御身大事に

新人のホームヘルパーを迎えるにあたりミドリさんは部屋の中をわざと散らかしておきます。やってきた新人の兵頭はこころ優しい娘さんで,ミドリさんは身体の利かない年寄りを演じます。

掃除のため兵頭が抱き上げて表に出そうとすると,甚五郎はあまりのことに「その人はちゃんと歩けるんだぜ」と注意し,ミドリさんは「甚五郎,よけいなことをぬかすと,あとでぶっとばすぞ,てめえ」と地が出てしまいます。

兵頭は航空帽をかぶった壁の写真を見て,「これ・・・ミドリさんの息子さん・・・?」と話します。ミドリさんは今度の戦争で一人息子を亡くしています。兵頭は交通事故で父親を亡くしており,お年寄りに弱いんですと語ります。

しんみりとしたミドリさんは息子の最後の葉書をみせます。末尾には父上も母上も御身大事にと記されており,一部は黒い墨で消されています。兵頭はインク消しを買いに走り,それをつけるとうっすらと読めるようになります。

そこには,「妙子はどうしていますか,死ぬ前に一度会いたかった」と記されています。ミドリさんは息子の生の声を聞くことができたとうれし涙です。帰りがけに兵頭は「御身大事に」と挨拶します。

この話もしんみりとさせられます。この作品中では兵頭さんは再度の登場はありませんが,もう一話くらい,彼女を登場させる話が欲しかったですね。

北風の日

ミドリさんの家の郵便受けと牛乳受けのなかに3日分が溜まっています。ミドリさんは町内の人たちがどのような反応を示すか試してみたのです。一人暮らしのミドリさんの家に新聞が溜まっていたら,心配して声をかけてくれてもいいじゃないかと憤慨します。

オサムをどつき,八百屋に行くとなじみのメンバーが揃っています。ミドリさんは怒りますが,みんなは別の問題で頭がいっぱいのようです。そこにやってきた娘さんに「このところ見かけませんでしたね」と挨拶され感激します。

ミドリさんは「おまえさんはまだ同棲しているのかい。だめだぞ同棲なんてあやふやなもん」と忠告したものですから八百屋はあわててミドリさんを引き離します。彼女は男に捨てられたのです。

あんな気立てのいい子を捨てた男をぶっとばすために男の部屋に行くと,気の強そうな女が一方的に押しかけてきたようです。ミドリさんは捨てられた娘の気持ちを確かめに行きます。彼女はまだ彼のことが好きなようです。

一方,彼の方は押しかけ女房に困惑しており,そこにミドリさんが現れ,女になにごとかをささやきます。おしかけ女はその日のうちに消えてしまいます。町内の人たちが不思議に思っていると,ミドリさんは「あの女にバカ男の母親はこの私だと」言ったことを明らかにします。

甚五郎はう〜む,なるほどこんな姑だったら誰だってにげるよあ・・・と素直な感想を口にしたから気の毒なことになります。優しいだけの男は気立てのよい娘にプロポーズします。

第2巻・第3話|道中双六

父親の大反対のため駆け落ちのように家を出た娘からの頼りは6年間で盆と正月の挨拶状だけであり,父親は気をもんでいます。ミドリさんはその気もちを察して,一緒に娘に会いに行こうと誘います。もちろん旅費はそちらもちということです。

青森行の急行を予約し二人はでかけます。東北新幹線の大宮・盛岡間が開通したのは1985年のことであり,1979年頃には特急か急行で向かうことになります。ミドリさんの予約時の口ぶりからするとおそらく急行を選択したと思われます。当時は急行「八甲田」や「十和田」が上野・青森を結んでおり,所要時間はほぼ12時間です。

ミドリさんは座席の上に正座しています。昔は確かにそのように座るおばあさんがいました。二人が娘の嫁ぎ先に到着すると子どもが4人もいます。娘は久しぶりに父親の顔を見て涙ぐみます。娘の夫は遠洋漁業の船に乗っており,3か月経たないと戻ってきません。

娘は子どもたちを遊んでおいてと外に出します。ミドリさんも気を利かせて外に出ます。そのとき,「北国へ 嫁ぎし娘の 方言まぶしく」と一首を口にします。

子どもたちに絵本を読んでいるうちに眠ってしまったしまった父親の横で,ミドリさんは「幸せそうでよかった。あの時あたしが手引きして駆け落ちさせたんだもの,幸福でなかったら責任感じちゃうものね」としんみりと話します。

第3巻第1話|華留め

妙が嫁いだので甚五郎の家は男世帯となり殺風景となっています。もっともミドリさんが来たからといって甚五郎家が華やぐわけではありませんが・・・。そんなとき,妙が子どもを連れて里帰りしました。

「永いこと御無沙汰しました」と挨拶する妙に甚五郎は「ン・・・」と素っ気ありません。お茶を飲んでいる妙に甚五郎が「どうだい亭主とは」とたずねるとミドリさんが「うおっほん」と意味ありげな咳払いをします。

妙が子どもを探して外に出たときに,ミドリさんは「バカタレ,甚五郎。無神経!鈍感!ひょっとして嫁ぎ先で気まずいことがあって・・・・・・それで郷里に帰ってきたのかもしれないじゃないか」と甚五郎やオサムを不安にさせるようなことを口にします。

外から戻ってきた妙は花を生けようとします。その間も三人は(妙が嫁ぎ先でなにかあったことを前提に)ぎこちない会話を交わします。夕食は甚五郎家としては久々にごちそうとなります。電話をとった妙は夫とのろけています。

ミドリさんの心配はまったく的外れだということが分かり,ミドリさんは小突かれ,みんな陽気に盛り上がります。春まだ浅い宵ですが,甚五郎家は一足早い春のにぎわいに溢れています。

第3巻・第3話|ラストチャンス

ミドリさんのところに電話が入ります。見合いを前にした娘が美容院に行かないというのです。加奈子は10人並みの器量なのになぜか縁談がまとまりません。というか,相手から断わられ続けられています。

両親は「父:この際,お前が気に入るかどうかはなんて問題じゃない。母:そうですよ・・・どんな男だっていいのです。おとうさんよりましであればばね,加奈子」とひどいことを口にします。

一緒に外に出た加奈子とミドリさんは美容院でお金を使うのは勿体ないとビアガーデンでジョッキを空けます。「お見合いなんかくそくらえ,カンパーイ」とやったところ,となりの席の男性がカンパーイと言いながら二人の席にやってきます。

ミドリさんは「酔った勢いで美しい二人の女性に近づこうとしてもダメだぞ」と釘をさしますが,男性はもう一人はどこにと驚きます。男は山好きであり,明日の見合いのためにひげを落とさなくてはならない」と嘆きます。彼は見合い写真を取り出し,そこには昔の加奈子がいました。

加奈子は明日の見合相手が彼だと分かり,「この人の昔の写真じゃないですか」と答えると,「酔ったついでに言わせてもらえれば,あなたのような女性と大恋愛をしたかった」と言い出します。栄町に起こった神の偶然のいたずらの結果は書くまでもありません。

この偶然の邂逅は斬新な小話であり,ビヤガーデンでのやりとりが絶妙です。このような発想はあまり男性にはできませんので,とても新鮮に感じました。

第3巻・第4話|日曜亭主

これもいいお話ですね。うだるような暑さの中で夫婦喧嘩をしている声がします。日曜だというのに旦那は家庭サービスもせず少年野球の監督をしに行こうとしています。奥さんは日曜日くらいあたしと過ごしてもいいじゃありませんかと旦那を責めます。奥さんを泣かせても旦那は子どもたちの約束を優先させます。

ミドリさんは別れておしまいあんなやつとはと過激です。ミドリさんは監督がどんなことをしているかと奥さんの手を引いて広場に向かいます。

旦那は少年野球の監督をしているときはとても生き生きしています。奥さんの評価は「結局あのひと・・・会社ではみんなに追い越されてしまって今以上は望めないから・・・」というものです。でもミドリさんの見立ては「案外,そんなにいじけてないのかもしれなんよ・・・」というものです。

少年野球は技術の差が大きいので監督は大変ですが,わがままで上手な子をしっかり指導しています。その姿に奥さんは旦那のことがとても頼もしくすてきに見えてきました。

練習試合が終わった時,わがままな子は「おれ,来週も来ます,いいでしょうか・・・」と言い,奥さんは「あたし来週も来ます,麦茶持って,いいでしょうか監督・・・」といいながら旦那に寄り添います。

第3巻・第5話|父さんの上着

栄町の交番勤務の文太の家は息子も警官になっており,今日は息子の昇進試験の発表の日です。家族はみんな落ち着きがありません。文太は交番勤務についていてもぼーとしており,ミドリさんに叱られます。

ミドリさんは文太に代わり家に電話して合格であることを確認します。「少なくとも親爺よりはできがよさそうだね」とミドリさんは言いますが,文太は交番勤務が好きであり,形だけ試験は受けても昇進することはまったく望んでいません。

その日は息子が先に帰宅し,母親が父の制服の上着をたたんでいるのを見て,袖を通してみます。息子は「これを着てずーつと交番勤めか・・・,長い風雪をくぐって出世を望まず,たんたんと職務を果たして・・・」と感慨深げに話します。母親は「あんたもおとうさんをそんな風に見るようになったんだね」と満足そうです。

文太は遅くなってしまい,魚屋が閉まっていたので鯛の代わりに目指しを買ってきました。文太におめでとうと言われ,息子はありがとうございますと答えますが,父親の上着が小さいため脱げなくなり両親の失笑を買います。

前出の少年野球の監督もそうですが,文太のように出世を望まず,日々をゆったりと怠ることなく生きていた人生は一つの価値があります。現在のようにお金を手に入れたものが人生の勝者という対極の価値観を持つ人たちには,別な価値を求める人生があることを教えてあげたいですね。


職人尽百景

第01話:植木職人
第02話:組木細工職人
第03話:猿楽師(能楽師)
第04話:指物大工
第05話:鳴り物細工師
第06話:藍染職人
第07話:茶人と陶工
第08話:竿師
第09話:宮彫師
第10話:橋掛け大工
第11話:紙漉き
第12話:兜師
第13話:花火師
第14話:飾り職人
第15話:相撲取り,竹細工師

この作品は江戸時代の市井の名もなき人情味あふれる職人の姿を描いたものです。村野守美がビッグコック誌上で発表した作品は(編集部の意向があるのか)人情を基軸にした物語となっており,読み返す価値のあるものとなっています。

草笛の季節

「草笛のころ(1973年)」,「オサムとタエ(1978年)」,「草笛の季節(1980年)」に複数の雑誌で不定期連載された作品を集めたものです。自然と人情の豊かな小さな漁村に暮らすオサムと妙が村の人々との交流の中で大人の階段を一歩一歩上って行く物語です。発表誌が異なることから,作品の雰囲気は微妙に異なります。

恋忘れ草

原作は北原亞以子が1993年に文藝春秋誌に発表した「恋忘れ草」であり,第109回直木賞を受賞しています。この作品のうち4点を漫画化したもので1994年に文藝春秋春秋臨時増刊号(コミック'94)に掲載されています。小説発表が1993年,漫画化が1994年ということになります。これは同一出版社だからできたのでしょう。

・恋忘れ草(コミック'94 春号)
・恋風(コミック'94 初夏号)
・恋知らず(コミック'94 真夏号)
・恋萌え(コミック'94 秋号)

上記の4点が収録されています。いずれも江戸時代に手に職をもち自立して生きる女性のたちの姿が描かれています。

おせん

原作は池波正太郎ですのでやはり江戸時代の人情ものということになります。上記の「恋忘れ草」に引き続き,コミック'95,コミック'96に発表された下記の4点を収録しています。

・遊女おせん(コミック'95 冬号)
・掏摸の又吉(コミック'95 春号)
・ねずみの糞(コミック'95 秋号)
・平松屋おみつ(コミック'96 冬号)