たかしげ宙と皆川亮二
原作者の「たかしげ宙(ひろし)」に関してはネット上でもほとんど情報が掲載されていません。東京都出身,小池一夫主催の「劇画村塾」の東京第六期生以外にはこれといった情報はなく,誕生年も不明です。
1989年に始まった「スプリガン」が最初の仕事だったようですので,このとき30歳とすれば1960年頃の生まれということになります。以後,漫画の原作を続けており,現在は「死がふたりを分かつまで」に取り組んでいます。
作品名 | 作画 | 制作時期 |
---|---|---|
スプリガン | 皆川亮二 | 1989年-1996年 |
KYO | 皆川亮二 | 1995年 |
緑の王 VERDANT LORD | 曽我篤士 | 2004年-2009年 |
クランド | 松本レオ | 2007年-2009年 |
ALCBANE | 衣谷遊 | 2007年-2009年 |
死がふたりを分かつまで | DOUBLE-S | 2005年- |
作画者の「皆川亮二」は1988年に「HEAVEN」が第22回小学館新人コミック大賞少年部門に入選し,デビューしています。24歳という少し遅めのデビューでした。高校生の頃は映画大好き人間であり,将来は映画制作にたずさわることが夢でした。
その夢がどうなったかは不明ですが高校時代の同級生である神崎将臣(鋼-HAGANE-,KAZE,重機甲兵ゼノン)に誘われて漫画家の道を志すことになります。スプリガンを始めとして,漫画界の第一線でかれこれ25年間,アクションをテーマにした作品を描き続けています。また,ゲームのキャラクターデザインなども手がけています。
SPRIGGAN(スプリガン)
作品中ではSPRIGGAN(スプリガン)とは「遺跡を守る妖精」となっていますが,この聞きなれない言葉はいったい何なのでしょうか。通常の英語辞書では該当するものはありません。google で英文検索すると出ていました。
スプリガン (Spriggan) とはイングランド南西部のコーンウォール地方に伝わる妖精です。英文wikipedia の内容とそれを私の語学力で翻訳すると次のようになります。
Spriggans were depicted as grotesquely ugly, and were said to be found at old ruins and barrows guarding buried treasure and generally acting as fairy bodyguards. They were also said to be busy thieves. Though usually small, they had the ability to swell to enormous size (they were sometimes speculated to be the ghosts of the old giants).
スプリガンはグロテスクで醜いものとして描かれており,古い遺跡などで見つかり,埋蔵された財宝を守ったり,一般的に妖精のボディーガードとしてふるまうことが多い。彼らはまた忙しい盗人であると言われている。通常は小さいものの,ときには巨大な大きさに膨らむ能力をもっていた(彼らは時には古い巨人の幽霊であると推測されていた)。
分かったような分からないような内容ですが,遺跡に棲みついており,埋もれた財宝を守る存在のようです。作品中の「スプリガン」の任務は超古代文明の遺産を悪用するものから守るために封印することですから,ほぼ内容は一致します。参考までに上記のwikipedia に掲載されていた写真を引用してみます。確かにあまり気持ちの良いものではありません。
第1話|炎蛇
物語の始まり,つまり第1話「炎蛇の章」の扉絵のところに次のような一文が記されています。この一文はこの作品世界を定義するものであり,どうして非国家機関の「スプリガン」が活動しなければならないのかという理由が記されています。
かってこの地球には 優れた文明があった・・・・・・
現代では到底及びもつかない知識・科学力を持っていたという,
超古代文明の遺産が,今もなおこの地球上の各所に眠っているという・・・
だが・・・
20世紀末,不可思議な”力”を持つ,遺跡の発掘・研究に,
大国の軍部が介入し,その争奪を開始した。
ここに一枚のプレートがある。
高度に発達し過ぎたために滅びてしまった超古代文明の何者かが
現代の我々に警告を綴った伝言板である
彼らは語る。”我々の遺産を悪しき者から守れ”と
そのメッセージを誠実に受け止め,
超古代文明を封印することを目的に活動する組織があった。
そしてその組織の特殊工作員を・・・スプリガンと呼ぶ。
・・・彼らは世紀末の救世主(メシア)なのか・・・
プレートの文字はどこかで見たことがあると思っていたら,作品中では古代ヘブライ語と説明されています。このように作品世界を最初に規定してもらえると,話の内容は分かりやすくなりますし,SF漫画でよくある物語の展開に合わせて設定を変更するようなことにはなりません。
アニメージュ版の「風の谷のナウシカ」も作品世界を裏表紙に説明してあり,話の内容を理解するのに大きな助けになっています。
第1話は4回分の話となっており,登場する古代文明遺産「火の社」は富士山の樹海内にあり,遺跡の壁には新種の古代文字が刻まれています。この文字の解読のために米国から現代の天才言語学者「山菱理恵」がアーカムに招へいされます。理恵は16歳でカーネル大学の教授に抜擢されており,シャンポリオン以来の天才と云われています。
シャンポリオンはヒエログリフ(古代エジプト象形文字)の解読に成功した天才言語学者として広く知られています。彼に加え,マヤ文字の発音を読み解いたスチュアートも同じくらい偉大な業績を残しました。
ヒエログリフもマヤ文字も象形文字の形をとっており,表意文字と表音文字が混在しているため,その法則性を見つけ出すのは困難を極めました。この二人は言語学の世界で天才の名に恥じない業績を残しています。
理恵は御神苗と同じ施設で育てられ,その後,米国の親戚に引き取られました。もう何年も会っていない御神苗との再会を楽しみにしていた理恵ですが,御神苗は殺伐とした世界に生きており,名乗りをあげることはできません。
「火の社」の中には「鎮玉」があり,それを操作することにより富士山の噴火を制御することができるようです。遺跡の壁に刻まれていた文字は「鎮玉」の操作方法を記したものでした。私たちが火山の噴火と呼んでいるものは地球内部で生まれた超生命体「炎蛇」によるものなのです。
この古代遺跡は「炎蛇」を制御する方法が記されていることから軍事的な価値をもちます。なんといっても地球上のどこにでも火山噴火を起こすことのできる超兵器となるからです。
この社は諸刃家に伝わるものであり,現在の当主の諸刃功一は理恵を社の中に連れ込み,壁の文字を解読させます。御神苗が火の社に駈けつけようとすると噴火が始まります。諸刃は「鎮玉」の操作方法をマスターしたようです。死闘の末に諸刃を倒した御神苗は火の社に避難していた理恵を助け出します。その後,火の社は溶岩に埋まり,再び封印されます。
第1話では「オルハリコン」と「ヒヒイロカネ」という二つの金属が重要な意味をもって登場します。オルハリコンは古代ギリシャの文献に登場する金属もしくは合金であり,プラトンは「クリティアス」の中でアトランティスに存在したという幻の金属として記述しています。この幻の金属はいくつかのSFの題材となっています。
スプリガンの中では特殊な希土類金属であり,他の金属と合金化することにより様ような特性を引き出すことができるとされています。チタニウムと組み合わせれば飛躍的に硬度が上がり,御神苗の着用しているアーマード・マッスルスーツとナイフの素材となっています。
また,ニッケルと組み合わせると人間の精神波に反応する特殊な形状記憶合金となり,AMスーツの人工筋肉部に使用されています。「オルハリコン」を精製するためには触媒として遺跡などで見つかる「賢者の石」という特殊な物質が必要であり,現在の技術では造り出すことはできません。
「ヒヒイロカネ」は太古の日本で使用されていたという伝説の金属または合金ですが,ヒヒオロカネが記載されている古文書がそもそもねつ造されたものという疑義があり,かってそのような金属が実在していたかは不明です。物語の中ではオルハリコンと同様の性質をもった金属であるとされています。
私にとってはこの作品の面白さは超古代文明遺跡の解釈の部分であって,戦闘シーンにはほとんど興味がありません。「COSMOS」との戦いなどは蛇足だと考えています。
この作品中ではあまりにも多くの人々が虫けらのように殺傷されており,一昔前の少年誌では許容されない残酷なシーンが随所に見られます。これも時代の趨勢なのでしょう。
そのような多くの人間が殺傷される物語の中で主人公の周辺だけは人道主義で固まっています。この落差の大きさはとても理解不能と言ったところです。