私的漫画世界
23歳でこれだけ完成度の高い作品を創れたんですね
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高橋留美子

ネット上の情報で漫画関係者がデビュー時の高橋留美子を「10年に1人の才能」と絶賛した記事を読んだことがあります。この「10年に1人の才能」という褒め言葉は大変なものなのです。

日本で漫画文化が一定の地歩を占めるようになってからまだ60年ほどしか経過していませんので,「10年に1人の才能」の持ち主は6人しか出ていない計算になります。さすがにベスト6に入るかどうかは迷うところですが,大変な才能の持ち主であることだけは確かです。

「高橋留美子」は1978年に「勝手なやつら」で漫画家としてデビューしており,「うる星やつら」,「めぞん一刻」,「らんま1/2」,「犬夜叉」と連載作品はすべて大ヒット作品となっています。

主要な活動場所はメジャーの少年誌であり,そこは女性作家が敬遠されることが多く,しかも人気による浮沈の激しい世界です。そこで30年に渡り看板作家としての地位を維持してきたのですから確かに大変な才能のエンターテイメント作家ということができます。

人物の描画は「うる星やつら」におけるきつめのものから,「メゾン一刻」では物語の進行に合わせ,柔らかいものに変化していき,その画風は現在まで引き継がれています。個人的には画風が確立し,大人の鑑賞にも十分に耐える内容をもつ「メゾン一刻」が彼女の最高傑作であると考えており,ここではこの作品を取り上げたいと考えます。

めぞん一刻の世界

「めぞん一刻」は「ビッグコミック・スピリッツ」誌上において1980年から1987年にかけて連載されました。同時期に「少年サンデー」誌上では「うる星やつら」を連載しており,どちらも看板作品となっています。

作者が「うる星やつら」を執筆開始したのは21歳,「めぞん一刻」は23歳です。個人的には「うる星やつら」は20代でも十分に描けるとは思いますが,「めぞん一刻」のようなをウエットなラブコメディを20代で完成させることのできた作者の才能には驚くばかりであり,このままどこまで成長できるか注目していました。

しかし,少年サンデー編集部が看板作家である高橋留美子を手放すことは考えられず,その後は「らんま1/2」,「犬夜叉」とほぼ同系統の作品を手掛けています。少年サンデーを離れたらどのようなものを描いたか興味の尽きない作家です。

めぞん一刻の世界は「一刻館」という古い木造アパートが中心となって展開されます。1980年代の東京郊外にこのようなアパートがあるという特異な設定となっています。最寄駅は「時計坂駅」となっており,駅前商店街があります。

作者はこの作品の執筆開始時には東久留米市に居住していたことからこの架空の町は東久留米市であり,西武池袋線の東久留米駅北口から徒歩数分圏内の町並みをモデルに作画されていることが愛好家らの研究により発見されています(wikipedia)。

もっとも作者は連載中に練馬に引っ越しており,町の描写に微妙な変化が現れています。また,第5巻(配達された一枚の葉書)では郵便物の宛て名が「東京都練馬…音無響子様」となっています。ともあれ,東京近郊の町にある古い二階建ての木造アパート「一刻館」を舞台に物語は展開されます。

この建物には時計塔があり,そこから一刻館という名前がつけられたようです。もちろん,時計塔の機能は失われており,飾りだけのものになっています。当時としては珍しい木造アパートであり,屋根の雨漏りや床板が壊れるような事件が描かれていますので,おそらく戦前に建造され,戦時中の空襲を免れた建物という設定のようです。物語の開始時点では少なくとも築40年ということになります。アニメ版では築70年と紹介されているようです。

建物は木造でほぼ総二階の切妻屋根となっており,屋根の中央に一刻館の名前の由来となった小さな時計台があります。入り口は中央にあり,ひさしのついた立派な門があります。入り口から入るとたたきになっており,そこで履物を脱ぐようになっており,向かって左側に靴箱があります。

たたきの先は廊下となっており左側に管理人室,右側に二階にあがる階段があります。その手前には共用の洗面台とトイレがあります。階段を上がると廊下があり,向かって左から4号室,5号室,6号室となっています。廊下中央部には共用の洗面台があり,6号室側に共用のトイレがあります。1階には管理人室,1,2,3号室がありますが,配置はよく分かりません。

それぞれの部屋には部屋番号と同じ数字を名字にもつ住人が入居しています。物語が始まったときは1号室が一の瀬一家,4号室は四谷,5号室は五代裕作,6号室は六本木朱美が居住しており,途中で2号室に二階堂望が入居してきます。

このような番号にちなんだ名前の付け方は一刻館の居住者以外のレギュラーメンバーである三鷹瞬,七尾こずえ,八神いぶき,九条明日菜にも適用されており,主人公の音無響子も旧姓は千草,亡夫の名は惣一郎となっています。

これらの登場人物はそれぞれユニークなキャラクター設定がなされており,それぞれの登場人物がそれぞれの役割を演じながら物語を展開させていきます。

中にはふだんは宴会好きのちゃらんぽらんな性格で誤解を招く短絡的な発言はしばしば物議をかもすことになる一の瀬花枝が短い言葉で人生の真理を語ることもあり,必ずしも一面的なキャラクター設定とはなっていなところもあります。物語は主人公の五代裕作が一浪している年末から始まります。

非常識な住人たち

主人公の五代裕作の実家は地方にあり,東京の私立大学を受験するため一刻館から予備校に通っています。五代の部屋は二階にあり,6畳一間に押入れが付いています。彼の使用している机は一時代前の座り机です。1980年代にこのレトロな机を使用している受験生はごくごく少数派だったことでしょうが,レトロなアパートとはよく合います。

五代は気の弱い,ごく常識的な人物ですが,残りの住人は非常識な絵に描いたような人たちであり,前の管理人は「疲れた」と言い残して辞めてしまいました。勉強に専念(?)しようとする五代の部屋や廊下で宴会はするし,六本木朱美は扇情的な下着姿で廊下に出たり,他の部屋にも入ったりします。

隣室の四谷は押入れから五代の部屋に人の通れるほどの穴を開けて,五代の部屋に侵入してきます。このような環境では受験勉強の進捗はとても望めません。五代自身も非常識な住民に受験勉強を妨げられ(?),「もう,こんなところには居たくない」と叫ぶことになります。

そんなところに新しい妙齢の美人管理人が登場します。新管理人の音無響子に一目ぼれした五代はアパートを変更することを言下に否定します。このときの響子さんは「うる星やつら」のラムちゃんの造形をそのままもってきており,ちょっと怖いという印象を受けます。五代も諸星あたるとほぼ同じ造形となっていました。

しかし,連載中に作者の画力は格段に進歩し,物語の内容にふさわしいものとなっていきます。単行本を本棚から出して,このような作者の成長を見るのもちょっと楽しいものです。

響子管理人と非常識な住人たちは存外にうまくやっていくことになります。これは,常識人にもかかわらず響子が適度ににぶく,適度に包容力がある性格によるものでしょう。響子の感情が表に出るときはやきもちを焼くときだけであり,この感情は一刻館の非常識住民には向けられませんのでうまくやっていけるようです。

酔った五代が響子を押し倒す

響子は旧姓が千草となっていることから分かるように既婚であり,夫の惣一郎に先立たれた未亡人です。この時の響子は21歳くらいですから,音無家から籍を抜いて実家に戻るという選択肢が普通なのですが,惣一郎を失ったことによる喪失感の大きさが自分の身の振り方を決断できない状況であったようです。

音無家に閉じこもってばかりいるのは惣一郎の思い出を反復強化する方向に働きますので,義父が音無家所有のアパートの管理人をしてはと持ちかけました。一刻館における五代との出会い,非常識な住人とのやりとりが少しずつ響子を新しい生活に向かわせることになります。

さて,出会った時から響子に一目ぼれした五代は酒の勢いを借りて夜中にご近所中に響く大声で「わたくし,五代裕作は響子さんが好きでありま〜す」と絶叫します。そして迎えに出た響子を抱きかかえ,自分の部屋の布団の上に押し倒します。響子さんは貞操の危機に両手で顔を覆って「惣一郎さんっ!!」とつぶやきます。

ところが五代はそのまま眠りこけてしまい,それを覗いていた四谷は「ちっ」と舌打ちし,響子は枕を投げつけます。翌日,五代はこの事件についてすっかり記憶が飛んでおり,四谷にとんでもない情報を吹き込まれてひと騒動が持ち上がります。

五代と響子が結ばれることは最初からのお約束なのですが,それが実現するためには五代が卒業し,就職浪人を経験し,ようやく保育士の資格を取得して保育園に就職するまで待たなければなりませんでした。

このように,二人の関係は一歩進んで二歩下がるの繰り返しであり,そのじらし方がこれまた一昔前のすれ違いドラマを見ているようです。読者を退屈させないようにしながら話を引き延ばしていくストーリー展開はただただ感心するばかりです。

その中でも毎年桜の季節に訪れる亡夫の惣一郎の墓参りは響子さんのそのときどきの心境の変化をうかがうことができます。また,亡夫の惣一郎の顔を徹底して見せない演出も,惣一郎を読者に強く印象付けることにつながっています。

20代でこのようなシーンを描いたり,逆説的な演出を使いこなすのは作者の才能のなせる技だと感心します。「メゾン一刻」は「うる星やつら」と同様にラブコメディに分類されていますが,実際には「うる星やつら」に比べてはるかに人間関係や人の想いを深くていねいに描いており,その点に作者の才能の広がりを感じることができます。

ライバル三鷹の登場

五代はかろうじて私立大学に合格し晴れて大学生となります。響子は気分転換のためにテニス・スクールに通うようになります。そこには容姿端麗,社交的で明るい性格,しかも料理上手の三鷹がコーチをしており,一目で響子を気に入ります。

このときから五代と三鷹の間で長いライバル関係が始まります。非の打ちどころのない三鷹ですが,幼児体験により大人になっても大小を問わず犬恐怖症となっています。「惣一郎」を含め九条明日菜の飼い犬,三鷹自身が飼うことになった「マッケンロー」は物語りの展開においてしばしば決定的に重要な役割を果たします。

五代と三鷹を比べると常識的には勝負ありなのですが,うだつの上がらない音無惣一郎と結婚したことからも分かるように,響子の好みはちょっと常識から外れているようです。これならば五代にも五分の勝負が可能です。

ところが同じ時期に七尾こずえが現れます。こずえは五代と同じ酒屋でバイトをしており,再会を機に積極的に五代にアプローチします。響子一途の五代もかわいいこずえと付き合うのはそれほど抵抗はありません。

しかし…,響子は異常に嫉妬深いのです。この嫉妬深さと勘のにぶさはしばしば物語をあらぬ方向に展開させます。この響子の性格設定はすれちがいドラマを先の先まで引き延ばす原動力として作用します。

五代と響子の姪にあたる郁子との会話で五代のファーストキスの話に敏感に反応する響子が描かれており,嫉妬深さを予告しているあたりも憎い演出となっています。

たまたま三鷹とのデートのときに五代とこずえのカップルに出会った響子は「好きだって言ったくせに…あんなに若くてかわいいガールフレンドがいるんじゃないの…私をからかったんだわ…ひどい…女心をもてあそんで…許せない」ということになります。

小話を作るのが上手です

高橋留美子は大きな流れの物語の中で一つひとつの小さな話を作るのがとても上手です。秋の学園祭のため五代は人形劇クラブに勧誘され,うやむやのうちに部員にされます。

そのため,ひんぱんに管理人室に電話がかかり,響子が取り次ぐことになります。その電話がすべて女性からのもので響子はごきげん斜めです。そんなとき五代とこずえが喫茶店でお茶を飲んでいるときに,コンタクトレンズをつけているこずえの眼にゴミが入り,涙を流します。それを一の瀬のおばさんが目撃し,そのまま響子に「痴話げんか」として報告します。

賢太郎からその話を聞いて五代はあわてて誤解を解きに行きますが,響子は聞く耳をもたない状態です。そして,数日後に管理人室の前にピンク電話が置かれます。五代は響子から「今後はこちらの電話にかけるようにお友だちにお伝えください」と告げられます。

五代は響子が誤解していることを説明しようとしますが,響子は意固地になるばかりです。思い余った五代はピンク電話から(ドア向こうにある)管理人室に電話をしてクラブの連絡とこずえが涙を流した件について説明します。

響子は電話だと比較的すなおに人の話が聞けるようです。このドアを挟んだ二つの電話で話をするというアイディアは秀逸であり,思わずうまいと口にしてしまいます。

響子が五代の学校の学園祭にやってきます。年齢的にはストレートで入学すると4年生に相当する響子は五代の友人の坂本に「その辺の女子学生より若く見えますよ」と言われるように浮いた存在ではありません。

人形劇クラブでは代役として五代と共演することになります。五代は響子の身体が触れるためにせりふではなく響子にあやまることになり爆笑劇になってしまい,小さな子どもたちにはバカ受けとなります。一刻館の前で二人は指人形をもってきたことに気が付き,二人だけの劇を始めます。

響子:きょうはどうもありがとう
五代:どういたしまして
響子:でも,少しは反省してください
    劇をめちゃくちゃにしたのはあなたですよ
五代:でもあなたがすりよってくるから…こんなふうに
響子:またっ!! ポン
五代:あいたっ…かわいそうな王子様
響子:おやすみなさい

通常の作品ですと人形劇が子どもたちに受けたところで終わりにしますが,高橋留美子はさらに一ひねりを入れています。このように余韻の残る技法も感心します。

響子のお墓参り

桜の季節になると響子は惣一郎の祥月命日に墓参りを欠かしません。作品中には7回の春が巡って来ていますので,お墓参りも7回ということになります。桜の季節に毎年巡ってくる惣一郎の命日に響子は墓前で自分の今の気持ちを心の中であるいは口に出して語ります。

これは響子の気持ちを知る上ではとてもよい機会となります。作者は響子を未亡人と設定したときからこの墓参りのことは基本ストーリーの中に組み込んでいたのでしょう。最初のうちは惣一郎への想いでいっぱいのため,自分の気持ちを語れなかった響子はしだいに生きている人たちが自分の中に入ってきていることを正直に打ち明けるようになります。

一年忌の墓参りでは腰を痛めた音無老人に五代が付き添うことになります。このときの響子の服装は喪服ではありません。五代は音無家の墓に手を合わせ,響子に「あの,これは誰の」とたずね,響子は「主人ですの」と答えます。

ここで五代は響子が未亡人であり,結婚後の姓をそのまま名乗っていることを知ります。この演出は憎いですね。作者は非常に細かいところまで気を遣って物語を進めていることがよく分かります。

二年忌,三年忌のお墓参りでは響子の両親や音無老人が再婚話を持ち出しており,響子はまだその気にはなれないことを伝えます。四年忌(第8巻)には響子は再婚話が蒸し返されると警戒しながら墓参りをしますが,誰もそのことには触れません。

一刻館に戻ってきた響子は一の瀬のおばさんから「それなら,たっぷり惣一郎さんに話すことができたろう」と言われ愕然とします。響子は母親たちに気をとられて惣一郎のことはすっかり忘れていたのです。

「惣一郎さんのこと,忘れられるわけないわ。だけど……なんだか惣一郎さんのことを思い出すこと少なくなっている…時間がたったから?…それだけ?…」,「あたしきっとしあわせなんだわ…だけど…いいの?…こんなことでいいの?」と自問します。

こんなふうに惣一郎のことを忘れることに罪悪感を感じた響子は次の日曜日に惣一郎の好きだったかんぴょう巻をもってもう一度,墓参りに出かけます。心配して後を追った五代が墓の後ろに隠れている前で響子は「この前は本当にごめんなさいね…忘れてたわけじゃないんです…今日はね…惣一郎さん,少し気持ちを整理したくて…」,「惣一郎さん…いまあたしはね…迷っているかもしれない。ずっとあなたのことを思い続けていたかったのに…だけど…生きている人たちが,だんだん私の中にはいってきている…」とこころの中でつぶやきます。

この場面は読者には聞こえるものの,耳をそばだてている五代には聞こえない演出が見事です。響子のこころの中のつぶやきはさらに「きっといつか…私はあなたを深いところに沈めてしまう。だけど,無理にあなたの思い出にしがみついているのはもっとつらい…自然に忘れるときが来ても許して下さい…今の素直な気持ちです…」と続きます。

この場面は作品のハイライトの一つです。ラブコメディの基調にもかかわらず,このようなウエットなスパイスによりこの作品は大人のテイストを醸し出します。

さらに,お墓参りの場面では(このときの響子のつぶやきを知らないにもかかわらず)この作品の最高の場面の一つが生まれています。この物語では響子にとっても五代にとっても惣一郎の存在は大きなものであり,その折り合いをどのようにつけるかが二人の結婚にとっては死活的な重要事となります。

響子との結婚を控えた五代はお墓参りに出かけます。今回は響子が墓の後ろに隠れます。五代は惣一郎に向かって「正直いってあなたがねたましいです…遺品返したところで…響子さん…絶対にあなたのことを忘れないと思う。忘れるとか…そんなのじゃないな…あなたはもう響子さんのこころの一部なんだ…」,「だけどおれ,なんとかやっていきます。初めて会った日から響子さんの中にあなたがいて…そんな響子さんをおれは好きになった」,「だから…あなたをひっくるめて,響子さんをもらいます」と語りかけます。

これを聞いた響子は思わず涙ぐみ,墓の後ろから出てきます。五代は「遺品ね…無理に返さなくても…」と言いますが,響子は「いいの…これでいいの…あたし…あなたに会えて本当によかった」と告げます。

この場面は小説のように文字で追っていってもすばらしい内容であり,それに二人の切ない表情が加わるのですから漫画という媒体冥利につきる名場面です。20代でこれほど完成度の高い物語を完成させることができることのできた作者の才能にただただ脱帽です。

人を不幸にしない物語

五代と響子の周辺には三鷹,明日菜,こずえ,八神といった物語の重要人物がいます。多くの三角関係の恋愛物語では一つの恋の成就の陰には必ず泣く人が出ます。

しかし,「めぞん一刻」では不幸になる登場人物はいません。三鷹は明日菜と,こずえは同僚とそれぞれ結ばれます。当然,そこには響子と三鷹,五代とこずえという2組の別れがあるのですが,決して暗い別れれではなくお互いに納得しあったものとなっています。

三鷹は誤解がもとで明日菜と婚約し響子に対してお別れを告げます。
三鷹:いいかげんな男だとお思いでしょう
響子:そんな…
三鷹:本当は…会いに来られた義理じゃないんでしょうけど…
    きちんとお別れしないと…残ってしまいますから…
響子:あたし…うまく言えないけど…しあわせになって欲しい…
    本当に…そう思っています…
三鷹:あなたは…?しあわせになれそうなんですか
響子:そうですね…がんばらなくっちゃ
三鷹:なんか…もっといっぱい話したいことがあったんだけど…
    さよ…なら…
響子:おしあわせに…

結納の日に三鷹は妊娠騒ぎは犬のことだと知らされ愕然とします。しかし,三鷹は男でした。明日菜を一言も責めないで結婚を進めることにします。五代に対して三鷹はその決意を告げます。

三鷹:とにかく,ぼくは明日菜さんと結婚する
五代:はあ…おれ,なんと言っていいのか
三鷹:素直に喜んだらどうだ
    別にヤケクソで結婚するわけじゃない…ただ…
五代:響子さんのこと…でしょ?
三鷹:あのひとにとって…少なくともぼくは必要な男じゃなかったらしい…
五代:あの…おれが響子さんに必要かどうか,わかんないけど…
    おれ…本当にだらしなくてだめな男だけど…
三鷹:あー,だらしなくてだめな男だ
五代:努力はしてます
三鷹:当たり前だ…バカ者
    だいたいなー,きみがもう少ししっかりしていれば
    こんなふうに会いに来なくてすんだんだ
    本当はな…きみの顔なんか見たくなかったんだ
    だけどな…ぼくはもう音無さんを支えられないから
五代:三鷹さん
三鷹:分かるか,この気持ちが!!
    なんでぼくがきみを励まさなくちゃならんのだ
五代:すみません…
    三鷹さん…あの…ぼくが言う筋合いじゃないけど…
    明日菜さんを幸せにしてあげて下さい
三鷹:……,余計な心配しなくていいよ

五代とこずえの別れも同様にきれいなものになっています。人間関係でもっとも諍いが起こりやすい複数の人がからむ恋愛をテーマにしてこれほどきれいに話をまとめ上げていく力量に素直に拍手を送りたい気持ちです。

現実の世界ではどろどろとしたあるいは傷つけあう人間関係が本質なのかもしれません。それだからこそ,「めぞん一刻」のさわやかさは貴重なものに思えるのです。


らんま1/2

1987年から1996年にかけて「少年サンデー」誌上で連載され,高橋作品としては最大のヒット作となりました。主人公の早乙女乱馬は父親の玄馬とともに拳法修行のため中国大陸を放浪します。そのとき,伝説の呪泉郷で稽古を行い,乱馬は娘溺泉(若い娘が溺れた泉),玄馬は熊猫溺泉(パンダが溺れた泉)に落ちてしまいます。

呪泉郷のそれぞれの泉には悲劇的伝説と呪いが秘められており,そこに落ちた人はかってそこでおぼれた人や動物に変身し,お湯をかけると元に戻る体質になります。こうして水をかぶると女の子に変身する乱馬と,パンダに変身する玄馬が日本に帰国し,玄馬の兄弟弟子である天道早雲の経営する天道道場に居候するところから物語が始まります。

天道家には三人の娘がおり,三女のあかねが乱馬と同い年ということで許嫁となっています。早乙女玄馬は「無差別格闘流」を自称しており,多くの登場人物を巻き込み,ラブコメ要素がふんだんに盛り込まれた格闘漫画となっています。