私的漫画世界
Rockバンドを舞台にした青春物語
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気分はグルービー

「気分はグルービー」は少年チャンピオンで1981−1984年にかけて連載されたロックバンドに情熱を傾ける高校生たちの物語です。秋田書店はしばしば古い作品の再版や復刻版を出すことが多いのですが,この作品についてはそのようなことはありません。現在では古本屋でも見つけることは困難になっています。

この作品がチャンピオンに連載中は単行本の版が重版また重版の状態であったようですのでロックバンドを題材にした漫画としては成功したようです。ロックバンドを題材にした物語だけあって,楽器は実物をていねいに描いており,(私にはとても識別はつきませんが)見る人が見ると楽器が特定できるようです。

内容は母親恐怖症ケンジを中心にコンテストの全国優勝を目指す硬派なロックバンドにかける情熱,バンド仲間と過ごすおバカな高校生活,バンドメンバー紅一点の寿子(ヒサコ)との恋の予感,卒業後の進路など高校生活の王道を行く話が一話完結の形で詰まっています。途中でちょっと中だるみの感はあるものの,最終の数話は卒業後の進路,バンドの解散など盛り上がりをみせます。

主人公は母親恐怖症(第1巻)

主人公のケンジは高校1年生,ドラムが好きなのですが母親から止められおり,ドラムも売り払ってしまいます。しかし,未練が大きく,部屋に置いてあるスティックをときどき手にしています。

クラスの風紀委員のヒサコはケンジがドラムをやっていることを知っており,デートと称してロック喫茶に呼び出します。ヒサコからバンドに入ることを誘われても母親から禁止されているとは言えず,もう飽きたからと答えています。

しかし,ちょっとした会話から母親恐怖症であることがばれてしまし,男の意地で音楽を再開することになります。ケンジは自分が入るバンドが2年前に「S&Nコンテスト」で全国優勝した名門バンド「ピテカントロプス・エレクトス」であることを教えられ驚きの表情を浮かべます。

ドラムを担当させてもらえると張り切っているケンジですが,現実は甘くはなく床掃除を命じられます。大将や他のメンバーから「なんならやめてもいいんだ,お前の代わりなんぞくさるほどいる」と挑発されてもケンジはこらえるて「ドラムでおれを認めさせてやる」と宣言します。

実はこの冷たい態度はケンジのやる気を試したものであり,メンバーはケンジの姿勢を評価し,これで晴れて「ピテカン」のメンバーになります。一話完結の形で物語は進行し,だいたい最後のあたりにオチが付いています。

未成年でありながら飲酒と喫煙のシーンは随所に見られ,現在ならばひんしゅくを買うことは請け合いですが,1980年代はまだ自主規制はそれほど厳しくはなかったようです。そのようなちょっとまずい場面はあるものの,一話で完結する高校生活の流れの中にちょっといい話がたくさん入っており,程度のよい人間ドラマとなっています。

S&Nコンテスト(第2巻)

ケンジが入って初めての「S&Nコンテスト」が迫っています。ピテカンのメンバーは海辺の別荘を借りて強化合宿となります。ヒサコはカゼ気味ですが大将や奥田は練習に手を抜きません。苦しそうはヒサコの様子にケンジはヒサコの汗を拭いてあげますが,彼女から「うっとうしい」と拒絶されます。

夕食の時間になると奥田はケンジに夕食を作るよう告げます。ケンジが「ヒサコにやらせたら」と言うと,奥田も大将も「もう練習は終わったんだ,か弱い病人にそんなことをさせられない」と手のひらを返したようなような返事です。

さて料理人ケンジの腕前はというとヒサコ以外のメンバーの顔にはっきりと表れています。もっともバレンタインデーに合わせてヒサコがチョコレートを湯煎した時には部屋中をチョコレートだらけにした実績がありますので,仮にヒサコが料理人を務めるても似たような結果になったのでは推測します。この練習とそれ以外の時間のけじめはちょっといい話です。

「S&Nコンテスト」の直前にピテカンのメンバーはロック喫茶イヴのマスターから審査員を務める鹿島忠則を紹介されます。コンテストの優勝と引き換えにヒサコをモノにしようとする鹿島からヒサコを救ったケンジに対して,鹿島は「優勝したくはないのか」と問いかけますが,ケンジは「プライドと引きかえにできるかい」とやり返します。

やめて帰ろうというメンバーに対してケンジは「オレはみんなが好きだ,ロックが好きだ,好きだから演る,それじゃいけないかな?」と説得します。コンテストでは張り切り過ぎて制限時間を越えてしまい「失格」となります。この話も泣かせますね。母親恐怖症のケンジもずいぶん成長したものだと読んでいてある種の感慨に浸っていました。

ヒサコがショートカットに(第4巻)

ケンジが2年生の初夏にヒサコが突然髪をショートカットにします。麻美はおどろいて理由をたずねますがヒサコは「べ…別に…暑っ苦しいしさ…気分転換よ…ただ…」と答えますがそれを遮って麻美は「え?ケンジにふられた!?」と短絡ストーリーを作りクラスのメンバーに知らせます。

ヒサコはクラスの人気者ですので(そうでしたっけ),男子は「ヒサコ元気をだすんだ…それにしてもふてえやつだな…ケンジも」ということになります。ヒサコが「単なる気分転換だって」と抗弁しますが,もう男子は聞く耳をもたない状態です。

一同は(受験のうっぷんを晴らそうとしてでしょうか)「極悪人…責任をとれ…女こまし…」とケンジに襲いかかります。一方でヒサコがフリーとなったといううわさは校内をかけめぐり,多くの男子から申し込みが殺到します。

軽音部室に逃げ込んだヒサコは「ああ,しんど…人気者はつらいわ」と語りますが,そこには傷だらけのケンジがおり,「オレはふった覚えなんてないぞ」と抗議します。

憲二:何の断りもなしに髪切るな!
寿子:どうして断わんなきゃおけないのよ!
    わたしの髪よ,どうしようと勝手でしょう!
    だいたい,いつわたしあなたとくっついたの
    何よ!恋人気取りはやめてよね…「ビタッ」

最後の効果音は傷だらけのケンジがヒサコに壁に叩きつけられたものです。さて,大騒動を引き起こしたヒサコのショートカット事件の真相は,(よくある話ですが)慣れない高級料理を作ろうとして火の横で教本を見てしまって,髪をこがしたというのが真相でした。

ケンジは笑い転げてから「しっかし,おまえはかわいいなぁ」,「どうせ…どうせ」,「いや…ホント」という会話でこの話は終わりますが,最後の会話をもう一ひねりするとよりいい話になったことでしょう。

傷だらけのロックフェスティバル(第4巻)

ケンジにとっては2回目の「S&Nコンテスト」の夏が近づいています。「ピテカン」は東関東の地区予選に出場しますが,その前夜に大将の知り合いのいやなヤツにばったり出会い,大将にからむいやなヤツをヒサコが張り飛ばしてケンカになります。

ケンジは右手を負傷し,病院で診察を受けると,手首にひびが入っていることが分かりました。ヒサコは「私のせいだわ…あのとき私が手を出さなかったら…」と自分を責めます。ケンジは「ハハ…バーカ…気にするな,おまえがやらなきゃ…オレがやっていたさ」と慰めます。さらに,「せっかくここまできたのにあきらめられるか」と強がります。

大将は棄権することを告げに行くと,ケンジが来ており「軽いねんざだから大丈夫」と大将を説得し出場することになります。手の痛みを隠しながら2曲を無事に演奏し,骨折の代償に優勝します。ケンジもずいぶん成長したものですね。それに対してヒサコ以外のメンバーは照れくさくて素直に感謝の言葉が出てきません。

大将:フン,なにが軽いねんざだ
稲村:つまらない隠しごとしおってからに…
奥田:一人でいいカッコするなってんだ

というようにいたわりの言葉が見当たりません。ヒサコが「口には出せなくても,心のなかでは手を合わせてたりしてね」と解説してくれます。ケンジが「素直じゃねーな」とやり返すと「よっくいうわ,いちばん素直じゃないヤツが」と逆襲されます。

作品のこの辺りまではけっこういい話がちりばめられていますが,6巻あたりからちょっと路線が変更されたような感じを受けます。いままで一定の節度の範囲に収まっていた話が怪しげな方向,過激な方向に行ってしまいます。

出来レースのロックコンテスト(第10巻)

ケンジにとっては3回目の「S&Nコンテスト」が巡ってきます。大将は一度は引退を宣言しますが,早稲田をすべったため浪人の身で「ピテカン」を率いることになります。

恒例の東関東地区予選にエントリーします。この頃はバンドがファッションとなっており,出場者は雨後のタケノコのように増えています。コンテストも音楽を競うものからショー化しており,テレビも入りただのお祭り騒ぎに堕落しています。

「ピテカン」から女性バンドながら骨のあると評価されていた「ボンバーズ」も商業主義に染まったアイドルタレント化してしまっています。硬派のロックバンドを自称する「ピテカン」のメンバーはこのようなコンテストにまじめに演奏することなどできません。

いいかげんな即興の歌を聞かせて会場からはブーイングが起こります。これは,アイドルタレントをデビューさせるようなコンテストに対して「ピテカン」の精一杯の抗議のしるしです。出来レースのコンテストは「ボンバーズ」の優勝で幕を閉じます。

ロック喫茶イヴのステージで奥田は「うちの場合は読んで字のごとく,音を楽しむ集団でありまして…ま…むずかしいこよはぬきで…楽しけりゃよいのではないかと…」と語りかけます。久々に「ピテカン」が見せた硬派路線でちょっぴり話が締まっています。

本間のオッサンとの出会い

受験を控え,「ピテカン」は休業状態になります。ひとり稲村は彼が日本一のブルースシンガーと評価している本間のおっさんと出会うことができ,行動をともにします。

受験も終わり,ヒサコと二人だけで関西方面に旅行したケンジは思いがけずも稲村と再会します。二人はキャバレーで働いており,ショータイムには演奏しています。ケンジも飛び入りでドラムをたたくことになります。

しかし,音楽に耳を傾ける客はおらず,本間がブルースを演ろうとすると客が辛気臭いと文句を言ってきます。店が終了してから後片付けをしている本間にケンジが「オレ,おっちゃんガマンしすぎている」と話しかけます。

憲二:くやしかないの?そんなのやってて
本間:だから時々,予定外の歌をやっちまうんだ
憲二:好きな曲歌いたいんなら、ライブハウスかなんかでやりゃいい!
本間:ノリの約束された客の前で?
    ライブハウスだのどっかのホールでやったことあるよ…昔に
    でも,どうしても気にいらねえ
    客は最初からブルース聴きにきてる,オレが出るのを知ってくる
    ほとんど最初からのってやってくるんだ
    お膳立てはできてるわけで,
    オレは用意した客の前で用意された歌を歌うんだ
    その点、こんなところの客はバンドを置き物同然に見ている
    ハナから耳を傾けちゃいない
    もしも…もしもだよ…
    そんな連中のダレかがオレの歌に感激してくれたとする
    何の準備もなしの感激だ
    こいつあ実際,歌い手みょうりにつきるってやつだぜ
憲二:ひねくれてらあ!そんなの
本間:ああ…でもオイラそーゆーのが好きなんだ
    いいトシこいて青くさいことぬかすけど…
    ダレがどこでどんなふうに聴いても心にしみる歌…
    気どらず,おごらず,たかぶらず…自然で,素直で,まっすぐな…
    そーゆー歌を歌いてーんだ…オレは…

この本間の音楽観はケンジに大きな影響を与えたようです。本間に「どーだ,おれたちと組まないか」と誘われ,ヒサコは「だ,だめです,この人は大学へ行くんだから!」と阻止を図ります。

しかし,ケンジは入試に失敗します。ヒサコは合格,大将は早稲田に合格,奥田はすべて不合格となります。4月になると全員が町を出ていくことになり,3月15日に「ピテカン解散コンサート」が野外公園で開催されることになります。

その前に稲村が本間のレコードをケンジに手渡します。その夜に「シャウト」を聞いたケンジは打ちのめされます。稲村は再びケンジに「一緒にやらないか」と誘います。

大学とプロの間で苦悩するケンジは川を眺めているときに彼を呼ぶ声に振り向くと,本間,稲村と一緒に演奏する自分の姿が見えます。これでケンジはドラマーになることを決心します。両親に話すともちろん反対されます。

父親:実際,それで食っていけるのか
憲二:当然,生活は苦しくなると思う。でも,覚悟はできている
父親:苦しくてもやり抜くんだな?途中で放り出したりしないんだな
    もちろん,自分で決めた道だ…やり通してみせる
    オレの人生だ,オレは自身で道は選ぶ
    選んだ以上は最後までやり抜いてみせる!

この発言で両親は納得したようです。ところが,数日後に大学から補欠合格の通知が来ました。しかも,その直後に母親が倒れ緊急入院します。母親に心配のかけ通しであったことが病気に影響していることを知り,ケンジは病室の母親に大学に行くと告げます。

母親の答えはちがっていました。「あたしはうれしかったのよ…本当は…おまえが自分で道を選ぶと言ったとき,選んだ以上は貫き通すと言ったとき…本当はかあさん…涙が出るほどうれしかった」と語る母親の言葉をケンジは病室で,ヒサコは病室のドアの外で聞くことになります。

多くの思いが交錯する中で「ピテカン解散コンサート」は進んでいきます。「ピテカン」は解散しますが,一生の別れというようなものではなく,また機会があればいっしょにやることもあるのです。ケンジとヒサコも一緒に暮らせない状態になりますが,恋愛関係がリセットされるわけではありません。

誰の人生にも出会いと別れは避けられません。ピテカンの5人にとっては3年間の活動は人生の宝物となり,その後の長い人生で気持ちが萎えたときには必ず新しい力を与えてくれることでしょう。最後の数話の盛り上がりでこの作品は中だるみを脱け出し,こころに残るフィナーレを迎えることができました。


以蔵の気持ち

左高の光源氏と呼ばれ女生徒に絶大なる人気のある高柳以蔵は父親(容堂)と弟(慶喜)の3人暮らしです。この古めかしい3人の名前は(安易に)幕末の著名人から引用しています。高柳家では家庭内の実権を握り,厳しい規律を課していた母親が家を出てしまっています。以蔵と父親はなにかと対立しており,家庭内は殺伐とした勝手気ままな無秩序状態となっています。

そんなところに父親が再婚し,ある日突然新しい母親(静枝)と妹(美樹)ができてしまいます。静枝は以蔵と父親の対立にオロオロしつつも,けなげに家庭を守ろうとします。美樹は逆に母親の再婚をぶちこわそうと画策します。その中で,以蔵は小悪魔のような美樹になぜか気になってしかたがありません…。