亜細亜の街角
■黄河沿いにできた最初の石窟寺院
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炳霊寺石窟(ピンリンスー) (地域地図を開く)

蘭州の南西100km,シルクロードの旧道近くにある石窟寺院。アジャンター,バーミヤン,キジル,敦煌と伝来した仏教と石窟造営は漢民族の地で根を下ろした。炳霊とはチベット語で「千あるいは万仏」の意味を持つ。

石窟の造営は約1500年前,北方の鮮卑族が開始し,北魏,唐の時代に最盛期を迎え,明の時代まで約1000年に渡って続いた。現在は200の石窟には700の石像が残されている。

初期の仏像はインドの様式を模しており,次第に中国様式に変わっていく。垂直の崖に彫られた高さ27mの摩崖仏は唐代に造られたものである。石窟はアクセスの難しい峡谷にあるため,イスラム教徒による破壊や外国人探検家による持ち出しをまぬがれたため,貴重な仏像が数多く残されている。

蘭州→炳霊寺石窟移動

蘭州駅前→汽車西站(1.5H)→劉家峡ダム(1H)→炳霊寺石窟と100kmをバスとボートで移動する。蘭州駅前から31路の市内バスで汽車西站に行く。甘粛省では外国人が長距離バスに乗る場合,45元の旅遊保険に入ることが義務付けられている。保険は汽車西站でも購入することができる。これがないと窓口ではキップを売ってくれない。

この日は中国語を話せる日本人と一緒だったので,客引きに誘われ無保険でバスに乗ることになった。これは大失敗であった。劉家峡ダムまでは10.5元なのに行きは25元,帰りは30元という法外な料金を請求されることになった。

無保険の外国人を乗せると罰則等のリスクを背負うことになるので,彼らの要求もある程度理解できる。やはり蘭州の近郊では保険は購入すべきだ。僕は劉家峡ダムから帰ってすぐに汽車站の窓口で保険を購入した。

ローカルバスは劉家峡ダムより先まで運行しているので,あらかじめ車掌に知らせておくと近くで降ろしてもらえる。バス停からダムまでは徒歩で10分ほどかかるので,地元の人に道を確認したほうがよい。

ダムから炳霊寺石窟までは快速ボートで行くことになる。ダムサイトにボートのキップ売り場がある。ここでボートの定員になるまで待ち,人数がまとまると出発する。

料金は往復で75元,これにダムサイト入場料10元が加算される。炳霊寺石窟まではおよそ1時間かかる。右側には奇岩の連なりが,左はなだらかな岡になっている。船着場に着いたら帰りの時間を確認すること。

劉家狭ダム

チベット高原に源を発し,松藩の大湿地帯を抜け,青海省から急流となって駆け下ってきた黄河はその最後のところで劉家狭でダムに出会う。劉家狭の標高は約2000m,発電と農業用水供給のための多目的ダムである。

5月の時点ではダムの貯水量が少ないためか,劉家狭ダムからの放水量は少ない。2本の水路のうち1本は完全に水が無かった。NHKのシルクロードでは盛大な放水の映像があったので,それも楽しみに来てみたらだいぶ様子はちがった。

ダムの上を歩くことができる

水の流れていない放水路のすぐ先にはアーチ型の橋が架かっているが,水がないのではさまにならない。もう1本の放水路は狭い岸壁がそのまま水路となっており,いちおう茶色の水が流れている。

この水路の水量はなぜか蘭州付近の黄河のものよりずっと少ない。また,ダムの手前の湖水は青々としているのに,放水路の水は茶色ににごっている。取水口は沈泥対策のためかなり低い位置にあるようだ。

ダムサイトから見える山は一部を除き緑に乏しい。劉家狭に来るときも段々畑状になった茶色の山に植林されている風景を目にした。永年の人の営みは半乾燥地帯の樹木を減らしてきた。

樹木の減少は地域の気候を変えてしまう。また,脆弱な表土はときどき降る強い雨により流されてしまう。山々の保水能力は低下するので,洪水の回数も増えたことだろう。中国政府も植林の重要性に気が付き,国をあげて緑化を進めている。

快速ボートで炳霊寺石窟に向かう

劉家狭ダムから炳霊寺石窟までは屋根付きの快速ボートが出ている。少人数で乗ると高くつくので,定員分の人数が集まるまで待つことにする。中国人の観光客が多いので待ち時間はさほど長くない。料金は往復で75元,片道45分程度である。

最初のうち湖水の色は青々としており,ここが黄河の人造湖とは信じられないほどだ。周辺の山はまったく緑に乏しく,岩肌をむき出しにしている。水面から数mほど上のところまで白く変色しているので,最高水位はそのあたりであろう。

途中,中国寺院風の屋根をもった,いかにも中国風の遊覧船とすれちがう。湖を進むと左側は小高いなだらかな岡,右側は切り立った崖に変わる。崖の岩は形状が多様のため見ていて飽きない。左側の丘はやはりステップが切られ植林が行われている。

ボートが進むにつれて水の色は次第に茶色になる。これが青海省から下ってきた黄河の本来の色である。泥の含有量はまだそれほど多くない。黄河は蘭州の先で北上し,いわゆる黄土地帯を通り抜け,その名前の由来となったねっとりとした泥の川になる。

奇岩の連なり

ボートの右側に雨に削られた奇岩の連なりが見えてくる。自然の作り出した巨大なモニュメントである。ボートは炳霊寺石窟近くの湖岸に到着した。ここまで来ると水面の巾は200m弱で湖より川に近くなる。ボートの先端が泥の中に乗り上げる。ボートから降りると靴がぬかるみに沈む。湖岸にはいくつかの土産物屋があり子どもたちが売り込みに来る。観光客はほとんど子どもたちにも土産物屋にも見向きもせずに右方向に歩いていく。

周辺には自然ののみで削られた奇岩が林立している。昔は土産物屋の先の林のところに川が流れていたようだ。この涸れ川沿いの岸壁に炳霊寺石窟がある。

炳霊寺石窟

チケット売り場があり,オプション無しのチケットを30元で購入する。有名な石窟に入るためには別途とても高い参観料が必要である。個人的には仏教美術に特別な興味をもたない人ならば30元のチケットで一回りすれば十分である。

もっとも2006年にはこのチケットも50元に値上げされている。石窟の保全のための費用の一部は観光客が負担するのは当然であるが,中国の観光地全体が値上げされており,この傾向がどこまで続くのか心配だ。

涸れ川の左側に遊歩道が続いている。炳霊寺石窟の大半は小さく,日本の仏壇サイズである。おまけに風雨から守るため扉が付けられているので,本当に仏壇に見える。

中には岩をそのまま削りだした仏像などが置かれている。モチーフはほとんどがブッダとその弟子たちだ。一部の石窟には造営当時の鮮やかな色彩がかすかに残っている。

巨大な摩崖仏

炳霊寺石窟の最大のみどころは,岸壁をそのまま削って作られた巨大な摩崖仏である。仏像の足下10mくらいのところに河床があるが,今は水が流れていない。ダム湖の水位が上がったらボートから見られるかもしれない。

遠くインドで生まれた仏教はガンダーラの地で仏像を作り出し,シルクロードを通って黄河文明の地にまでやって来た。摩崖仏の高さは27m,唐代にできたもので,その姿は中国風になっている。遊歩道からでは見上げるほどの大きさで写真にならない。近くに橋があり,対岸から眺めるとちょうど良い大きさになる。

炳霊寺石窟は川沿いの崖に造営されたものだ。当時はここを青色もしくは茶色の水が流れていたのであろう。その後,水源が干上がったのか,川筋が変わったのか,現在は干上がった河床が続いている。

25年前のNHKシルクロードではダム湖の水位が高かったので摩崖仏の下に水面があり,そこから撮影をしていたような気がする。わずか25年でシルクロードの風景はずいぶん変わってしまった。

帰りにもいくつかの石窟の写真を撮る

快速ボートでダムサイトに戻る


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