ベンガル湾を望むチェンナイは南インドの中心都市,タミールナドゥ州の州都,人口は540万人,南インドへのゲート・ウェイとなっている。タミールナドゥ州はイスラムの影響をほとんど受けておらず,ドラヴィダ文化(古くからのインド固有文化)が残っている。ドラヴィダの誇りからか,州都の名前はヨーロッパ風マドラスからインド風のチェンナイに改名された。人々の顔もインド・アーリア系からアジア系に変わってくる。
ウータカマンド→マドラス移動
ウータカマンドからコインバトール行きのバスに乗る。この区間の山道の景観はすばらしい。かなり深い森から視界が開けると,下界の平野が眼前に広がる。しかし,バスはすぐに次のカーブにさしかかり再び視界は森にさえぎられる。このような繰り返しでバスは山を下っていく。
コインバトール空港でフライトを確認すると,数時間後にマドラス行きがあるという。航空券を購入し,レストランでゆっくり昼食をとる。搭乗時刻になりチェックインを済ませ,待合室にいると何やらアナウンスがある。似たような名前だが,まさか自分の名前が呼ばれているとは思わず本を読んでいると,空港の女性職員がやってきて,航空券発売の事務所に連れて行かれた。
彼女の言い分は「あなたの航空券は80$で販売されたが,実際は90$なので差額を払え」というものであった。そして僕にチケットを売った窓口担当者にもそのことを確認させた。しかたがないので追加の10$を支払う。
マドラス着は21:00になり,タクシー(190Rp)でエグモア駅前の「Hotel Imperial」に行ってもらった。ここは大きなゲストハウスで部屋代は200Rp。トイレ・シャワーにベッドがあるだけの簡素な部屋だが,清潔で居心地はよい。蚊の心配があったので,敷地内の売店から蚊よけクリームを15Rpで購入した。これはなかなか優れ物であったが,人体に対する影響は不明である。
観光スポットを半日ツアーで回る
チェンナイは大都市で見どころも市内に散らばっている。時間がない人は観光開発公団が主催している市内の半日ツアーに参加すれば主要な見所を網羅できる。僕はタミール・ナドゥ州観光公団のツアー(100Rp)に参加した。
カパレーシュワラ寺院,州立博物館,ヘビ園,マリーナ・ビーチを大型バスで回ってくれた。このツアーは便利であるが,やはり短時間で多くのところを回るので,どうしても見つける,感じるという能動的な行為が少なくなる。当然,記憶も不鮮明になり,写真を見ても「ああ,確かにここを訪れたんだな」という情報の確認になってしまう。
おもしろいものとおいしいもの
一般に大都会の中心部は無機質でつまらないことが多い。しかし,マドラスは下町をそのまま大きくしたような町であった。ここでは路上でささやかな商売が行われている。野菜を小分けして近所の人たちの夕食用に用意しているのだ。アジアのたくさんの町でこのような光景を撮らせてもらった。
映画はインド最大の娯楽である。しかし,映画館は意外に目に付かない。僕の見つけた映画館の看板は全くインドらしくなく,何か商品の宣伝媒体にも見える。映画の中の会話はヒンディー語か州固有のものなので理解できない。しかし,ストーリーが単純であるうえ,随所にストーリーと関係なく歌と踊りが入っているのでそれなりに楽しむことができる。
この街のおいしいものとしてさとうきびジュースとパイナップルがあげられる。さとうきびジュースは文字通りさとうきびを搾ったジュースで,意外とさっぱりしているのでよく利用している。ただし,慣れないと容器の衛生状態が気になる。その点,パイナップルは皮を切り落とし,四半分にして売っているので抵抗感は少ないだろう。ちなみに四半分で2Rpである。
街の風景
世界一のバナナ生産国はどこでしょう。答えはインドです。しかし,何といっても10億の人口を抱えているので,輸出に回す分はない。市場には青いバナナが山のように積まれている。そしてそのバナナを積んで市場に届けるトラックが走っている。日本と同じように店頭に出るとき,とようど黄色くなるように調整している。
ヒンドゥー寺院の近くにはたくさんの花屋が軒を連ねている。多くの場合,花の部分を糸で通してつなげている。この花を神々の像の首にかけたり,足下に捧げたりして人々は現世の幸せを祈る。
街角のカリー屋が目に入る。子どもが合図をくれるのでカメラを向けると,父親はちょっと待っててよというようなしぐさをする。しかし,すでにシャッターは降りてしまった。父親が手で合図をするという中途半端なものになったが,これも僕の記念品になる。
路上ですだれを作っている人々を見かけた。材料は竹を細かく裂いたもの,竹を裂くのは男性,すだれを編むのは女性の仕事のようだ。作り方は手仕事時代の日本と同じように,織物でいう縦糸に相当する糸を交互に前後に動かし,横糸に相当する竹を固定していく。手早く編む作業も熟練を要するが,僕の見たところでは竹を加工する方が難しい。
エルグモ駅ではのんびりと工事が進められていた
宿がエルグモ駅のすぐ近くだったので目的もなく2回も駅に行ってきた。何故かインドの駅はキップがなくても中に入り見学することができる。ちょうど一部で工事が行われていた。ここでも機械は使われないでもっぱら人手が頼りである。多くの女性が土やレンガ運びをしており,子どもたちも付近で遊んだり手伝ったり(もしかしたら児童労働)していた。
それにしても徹底した人力工事には頭が下がる。これを重機に置き換えると,スピードと効率は上がるであろうが,ここで働いているような多くの日雇い非熟練労働者が失業してしまう。日本のように効率至上社会では考えられない発想をするのがインドである。(実は単に機械より人力のほうが安いためだったりして…)
州立博物館では写真が撮れた
ツアーでその良さを確認した州立博物館に再度訪れた。ここにはアマラーバーティーの遺跡(ぜんぜん聞いたことがない)から出土した石のレリーフや各地から集められた石像,ブロンズ像が多数展示されていた。おおらかな博物館で写真は禁止されていないし,その気になれば手に触れることもできる。でも貴重な文化財は見るだけにしよう。
中でも目を引いたのはレリーフである。これはカンボジアのアンコールワットの第1回廊にあるものと酷似していいる。インドのレリーフ文化はしっかりカンボジアまで伝わって行ったのであろうか。また,多くの像は仏教由来のものか,ヒンドゥー教のものか判別ができない。
この他にも自然史博物館エリアもあり,見学にほぼ半日を要した。さらに,近くには国立美術館があり,のんびりと見学していたら1日が終わってしまった。