クタパン(ケタパン)はジャワ島の東端にあり幅3mのバリ海峡を隔ててバリ島と向かい合っている港町である。ガイドブックにはフェリーや貨物船でバリ島のギリマヌッと結ばれている港町以上の情報は記載されていない。ネット上の旅行記もここを通過したという程度の記事しか見つけることはできなかった。
ここはジャワ島の最東端の鉄道駅があるところなので立ち寄ってみた。ジョグジャカルタから西側には本当に火山が多く,しかもその多くは成層火山特有のきれいな円錐形をしており,富士山が本州の半分くらいの面積に10個ほどもあるような火山の島となっている。
クタパンの西側には「Gunung Merapi」美しい姿を見せている。しかし,この火山の西側にはカルデラと思われる直径15kmほどの地形となっている。この山は独立峰のように見えるが,google map で見ると,その西側にあるカルデラと思われる直径15kmほどの地形の端に位置している複数の山の一つである。
ジャワ島を含む大スンダ列島の南側ではアジアプレートにオーストラリアプレートの一部がもぐりこんでおり,その影響で日本と同じような火山の島となっている。
ブロモ山→クタパン 移動
ブロモ山から帰りのジープに乗ってプロボリンゴのバスターミナルに戻る。そこでローカルバスを探していると「ToTo Travel」のスタッフにつかまってしまった。ここはブロモ山行きのシャトルバスを紹介してもらったので邪険にできなかった。
「Express Bus」はツーリスト・バスのようなもので,ほとんど停まらずにクタパンに向かった。料金は7万ルピアのところを6万ルピアにディスカウントしてくれた。
ソロからスラバヤまではローカルバスで6時間の行程で3万ルピアであった。Express Bus は7時間の行程で6万ルピアだったので,ローカルの1.5倍ほどの料金であろう。
このバスはバリ島まで運行されており,料金は12.5万ルピアだという。僕もバリ島を目指しているが,クタパンに宿泊してのんびり行くことにする。
Ketarang Asri
バスはクタパンの港に到着した。僕はここで下車する。宿情報はまったくないので地元の人に聞いて,150mほど戻ったところにある「Ketarang Asri」に宿泊した。部屋は6畳,ダブルベッド,トイレとマンデーは共同で清潔である。4万ルピアの部屋代に不満はない。
屋根なしのベチャも営業している
06時に起床,ジャカルタ時間の東の外れなのですでに明るくなっている。日没は17:30と早い。この宿は幹線道路に面しており,外廊下はオープン構造なので車やバイクの音がひどい。夜中にもときどき迷惑な音が通り過ぎる。それを除くと蚊も少なくて居心地の良い宿であった。07時少し前に朝食のため出かける。
ジャワ島の田舎ではベチャと呼ばれる三輪自転車が活躍している。この自転車の前輪部分に二輪の荷台を取り付けたベチャは人も荷物も運ぶことができる。しかし,都市では他の車両の通行の妨げになるため,乗り入れが禁止されている区域も設定されている。雨に備えてベチャには客用の屋根が付いているが,このおじさんものは屋根がない。雨の日は商売をしないといっているようなものだ。
幼稚園の前で商売をする
朝日の中でMerapi 山がくっきりと姿を現している。となりにも低い山が連なっており,どちらも火山のようだ。駅に向かう道路から写真を撮る。おや,左側には幼稚園がある。制服姿の子どもたちが幼稚園の柵の外で商品を広げているおじさんの周りにしゃがんでいる。
建物の前にも子どもたちが遊んでおり,先生に手伝ってもらって並んでもらう。教室の中ではオリヅルを作ってあげると,先生がインドネシア製の折り紙を取り出してきて,一緒に折ろうとする。
しかし,インドネシア製の折り紙は固いので苦労していた。子どもたちは家から持ってきた朝食(軽食)をいただく時間となった。僕も大通りに出て,朝食をいただく。
ここが鉄道の終点となっている
ソト・アヤム(鶏肉のスープ)は6000ルピアと妥当な値段であった。味も,まあまあだったのでついでに砂糖入りコーヒーを注文する。こちらもまあまあ合格点であった。さきほどの幼稚園の通りに出て,Merapi 山の写真ポイントを探していると駅に出た。
最初は変なところにある商店だと思っていたら,駅舎だったのでおどろいた。ここはジャワ島でもっとも東にある駅であろう。線路を渡った向こう側が写真のポイントであり,ようやく障害物の無い写真を撮ることができた。駅の先には操車場と修理工場があり,そこが鉄道の終点となっている。
キャッサバの畑
近くにはキャッサバの畑もあった。キャッサバ(トウダイグサ科・イモノキ属)の原産地は南米,樹木なのにイモ状の根をもち,そこにでんぷんが含まれている。そのため世界の熱帯地域で広く栽培されている。 茎を地面に挿すだけで発根し生育するので栽培はとても容易である。
今回の旅行ではジャカルタでこのイモを油で揚げたものを食べた。味は甘味のちょっと少ないサツマイモに似ており,揚げてあるため喉につまる感じがなくサツマイモより食べやすい。
とはいうものの,キャッサバイモをそのまま食用にすることは少なく,大半のものはでんぷんに加工されて輸出される。
ヤシの林の向こうにMerapi 山がそびえる
Merapi 山の写真ポイントは線路の向こう側であった。ヤシの林の向こうにMerapi 山がそびえるという南国らしい構図となった。少し離れたところにもう一つの山があるが,こちらは上部が欠けている。ここから山までの距離は17km,山の稜線が立ち上がるところまでは12kmしか離れていない。
小学校を発見
近くに小学校があり,ガードマンが中に入れてくれた。いつものように男女別に写真を撮る。英語のできる先生がいたのでしばらく話をする。生徒数は600人とのことだ。
町の規模に比してずいぶん多い。熱帯の人口大国インドネシアの人口増加率は1.2%(国連世界人口推計報告書の2008年版)であり,一時期に比べて半減したとはいえまだまだ人口は増え続けており,子どもたちは多い。
子どもたちの制服は半袖シャツにえんじ色の半ズボン・スカートであり,女子もほとんどスカーフは着用していない。礼拝や宗教学習など,特別の場合を除き,ここではスカーフは必要ないようだ。写真に対してもほとんど物怖じすることはない。
トノサマバッタ
トノサマバッタは旧北区、アフリカ、日本に分布する大型のバッタである。英語ではバッタは「glasshopper」であるがトノサマバッタは「locusta」という固有名詞をもつ。
中国語では「蝗虫」であり,トノサマバッタには特別の固有名詞はないようだ。諸星大二郎著の「西遊妖猿伝」の影響により,長い間,トノサマバッタは飛蝗だと理解していたが,こちらは日本語のようだ。
路地で商売をする
線路沿いを歩いていると住宅街が現れる。今日は特別の日なのか住宅地の路地で露店が集まっている。幅3mほどの路地の片側に野菜などの食料品をシートの上に広げている。1人当たりの商品は大きめの買い物かごに入るくらいのもので,家庭菜園の収穫物を持ち寄っているような感じを受ける。
少し大きな通りに出ると,大八車で運ぶくらいの商品が並ぶ。ジャガイモ,サツマイモ,キャッサバ,ヤマイモとイモ類は種類が多い。タロイモ(サトイモの仲間)は季節の関係か見かけなかった。ここの青空市場のおじさんやおばさんも写真対しては陽気に応じてくれた。
キョウチクトウ
日本でもよく見ることができるキョウチクトウ(Nerium indicum,キョウチクトウ科・キョウチクトウ属)がピンクの花をつけていた。温帯の花かと思っていたら原産地は熱帯インドとなっている。和名の夾竹桃は葉が竹に似ていること,および花が桃に似ていることから名づけられたという身もふたもないような解説がwikipedia に載っていた。
キョウチクトウ科の植物の多くはアルカロイドまたは強心配糖体を含み,経口毒性をもつものが多いので注意が必要とされている。また,ニチニチソウ,プルメリア,ツルニチニチソウなど花の美しいものが多い。
ここではバイクは自家用車である
インドネシアではバイクに一家の全員が乗る光景をしばしば目にする。日本では自家用車で家族全員が出かけるように,ここでは一家全員がバイクでお出かけする。
クタパン港の風景
クタパン港のフェリーターミナルに続く立派な連絡橋がある。この連絡橋は港につながる交通量の多い(たいしたことはないけれど)道路をまたいで,フェリー港につながっている。
クタパン港はジャワ島とバリ島を結ぶ重要な港湾施設である。インドネシア最大の観光の島であるバリにはジャワ島から働きに出ているいる人は多いし,バリ島の生活物資の相当部分はジャワ島から運ばれてくることになる。
また,バリ島発のブロモ山やジョグジャカルタ方面のツアーバスも出ている。そのため,バリ海峡を結ぶ船舶の行き来はとても多い。
フェリー港の南側には貨物港があり,ここにもたくさんの貨物船が接岸している。荷物輸送の便利さを考えるとフェリーの方が良さそうであり,貨物船ならばジャワ島の他の大きな港から直接バリ島に向かう方が効率的だと思うのだが。
ギリマヌッと結ぶフェリーの便数は多い
ジャワ島のクタパンとバリ島のギリマヌッを結ぶフェリーは数社が運航させており,本数が多いので時間を気にせず港に行ってもすぐに乗船できる。港にはフェリーと思われる船のインドネシア語の運行表が掲示されており,ほとんど20分おきに出ているいるようだ。
バリ海峡
バリ海峡のもっとも狭いところは3kmほどしかなく,水深は60m程度である。バリ島はまさに指呼の距離にある。水はきれいで熱帯の陽光に明るい青が際立っている。狭い海峡のため潮の流れはかなり速そうだ。
スマトラ,ジャワ,バリ,ロンボク,スンバワと連なる大スンダ列島は「熱帯の真珠の首飾り」と称されている。マレー半島とスマトラ島,および大スンダ列島を隔てている海峡は数十mの深さしかなく,海水面が現在より100m以上も低かった氷河期には陸続きてあった。
ところがバリ島とロンボク島の間のロンボク海峡だけは水深が300mほどもあり,特異的な地形となっている。インド洋方面から南シナ海や太平洋に抜ける大型船はこの水深の深いロンボク海峡を通過することになる。
バリ海峡に浮かぶ小舟
両側に安定装置を取りつけた漁師の小舟が海峡に浮かんでいる。人は乗っていので素潜り漁でもしているのかもしれない。ジャワ島側の海岸には漁師の家が何軒か見える。
タマリンドの木
たわわに実をつけたタマリンドの木があった。タマリンド(Tamarindus indica L.)はアフリカの熱帯が原産地,マメ科・タマリンド属の常緑高木で,タマリンド属で唯一の種である。
長さ10cmほどの細長い豆の莢ような褐色の果実の中には褐色,ペースト状の果肉に包まれるように数個の種子が入っている。この果肉が食用になる。季節になると大きな木は大量の実を付けるので,商品価値は低い。落下した実が採取されることもなく朽ち果てていくことも少なくない。
少しばかりの平地は水田となっている
ベモに乗って北にあるバススタンド方面に移動してみる。到着時にバスの車窓から見た水田の風景が見えるあたりで下ろしてもらう。google map で確認すると,このあたりはMerapi 山からの噴出物あるいは泥流が海岸近くまで押し寄せているような地形となっており,水田の面積は限られている。水田の背後はMerapi 山に続く斜面となっており,水田との境界に家屋が並んでいる。
おそらくエビの養殖場であろう
海岸の近くには何かの養殖場があった。おそらくエビの養殖場であろう。水車が盛大に水を撹拌し酸素を取り込んでいる。対岸のバリは外国人観光客が多いので相当のエビの需要も見込まれる。朝どりの新鮮なものをバリの市場に送ろうとする戦略のようだ。
ココヤシはこんなふうに実をつける
養殖場の横にはまだ若いココヤシが実を付けていた。幹の最上部に成長点がありそこから毎年新しい葉を伸ばす。ヤシの木には枝はなく,葉は幹から伸びた葉柄についている。葉柄は時間がたつと幹から剥離し,それを繰り返しながらヤシの木は高くなっていく。
葉柄に抱かれるように花柄が立ち上がり,そこに実をつける。この木には小さな実と十分大きくなった実の両方がついていたので写真にした。ブドウのように重い実を鈴なりにした花柄を周辺の葉柄が支えている。
ヤシガラも貴重な燃料になる
素焼きの陶器を製造するための窯焼きが行われていた。窯の中にあるものは大きなカメのようだ。燃料はこの土地のバイオマスである。その中でもメインとなっているのはココヤシの殻だ。ココヤシの実は中にジュースが入っており,その外側を白い胚乳が囲んでいる。胚乳を剥ぎ取った残りがヤシがらである。
繊維質が主体となっているので良く燃える。ただし,木材に比して火持ちは短いので大量に必要となる。日本の登り窯では釉薬を溶かす必要があるので1300℃ほどの高温にするが,ここのものは素焼きのため750-800℃程度でこと足りるので,このような半オープン構造でも問題ないのであろう。
自転車で遊ぶ子どもたち
近くの集落を訪問する。この集落は幹線道路沿いではなく農地と斜面の境界あたりにある。集落のメインストリートを子どもたちが自転車を乗り回して遊んでいる。
顔が白いのはコメの粉かな
集落の子どもたちの写真を撮り,小さな子どもたちを優先してヨーヨーを作ってあげることにする。顔を白く塗った小さな子どものいる家の軒先をお借りして,水をもらいヨーヨーを作る。
このような場合に備えてザックの中にはヨーヨーセット,水ポンプ,プラスチックのコップが入っている。子どもたちはヨーヨーの製造工程をじっと見ている。
1個出来上がると手でついてみて出来上がりを確認するとともに遊び方を教えてあげる。しかし,ゴムの力で戻ってくるヨーヨーをちゃんと手のひらで押し戻す動作は不慣れのため難しいようだ。
この近所の子どもたちはお互いに行き来しているので,他所の家に入ってくることにはまったく抵抗がないようだ。そのため,どの子がこの家の子なのかはすぐに分からなくなる。
集合写真
少し歩くと今度は用水路で遊んでいる子どもたちがいる。この子たちの写真を撮ると近所の子どもたちが集まってきて集合写真になる。ヨーヨーの在庫は少なくなったけれど,材料のある限り作ってあげる。子どもたちはもちろん大喜びである。
きっと,しばらくの間この集落では異国のおもちゃで遊ぶ子どもたちが見られることだろう。帰りのベモでは料金でちょっともめた。来るときは2700ルピアであったのに帰りは5000ルピアを要求された。クタパンで降りることを確認してもらい,3000ルピアで決着した。
立派な山羊
宿で一休みをしていると夕方の時間帯になったので駅方面に向かう。近くのゴミ捨て場のようになっているところに立派な山羊が寝そべっていた。
山羊は種類によりずいぶん大きさが異なり,この雄山羊は立派な体躯と長い毛を生やしていた。このくらいの山羊に睨まれるとちょっと恐怖を感じるが,ちゃんとつながれている。
夕暮れのMerapi 山
のんびりと山羊の写真を撮っていたら夕日の時間帯になってしまった。ジャワ時間のため,この地域の夕暮れは早い。線路の向こうのビューポイントに移動すると,Merapi 山がきれいな夕日のシルエットになっている。薄い雲があるので,空は茜色になりこれはラッキーであった。