亜細亜が好き! Home 亜細亜の街角 亜細亜の街角資料

土とは何か

土とは「岩石が物理的・化学的に粉砕されて細かくなったものが地表にたまったもの」と定義されている。岩石は小さく粉砕されていくにしたがって岩→礫→砂→粘土(土)と名まえを変えていく。中には火山灰のように地表に現れたときから土状のものもある。

土は非常に細かい粒子からなり,水を加えると粘り気をもつものが粘土である。一般的に「土」とは砂,土,粘土の集合体である。化学的に説明すると「土」の主成分は■である。■は植物体内に取り込まれることはなく,植物の栄養とは無関係の物質である。

植物は土無しでも生育できる

土の主成分である■が植物体内に取り込まれないということは,極端な表現をすれば,ある種の植物は体を支えることさえできれば栄養物質の含まれた水溶液に根の部分を浸すことにより育てることができる。

そのような水耕栽培が初めて私たちの耳目を集めたのは筑波科学博覧会の「ミニトマトの木」の展示であった。一本のトマトがまるで木のように巨大なものに生長し1万個もの実を付けたという。

現在では植物の成長に欠かせない太陽光も人工の照明で代替できる。実際にそのような葉物野菜工場は大都市圏にたくさんできている。土と太陽から切り離された人工照明の工場の中で,コンピューター管理のもとで野菜は一年中,かつ露地栽培よりずっと短期間で育成・出荷することができる。

温湿度制御された工場なの季節や天候に左右されず一年中,毎日一定量の野菜を出荷することができる。これは,スーパー・マーケットにとっては非常に都合の良い生産体制となる。

土から離れた無菌状態,完全栄養状態で育成されるので農薬も使う必要がない。まさしく農業の工業化であり,「安心・安全」な野菜を年中供給することができる。

ニ昔前,ハウス栽培の野菜や果物は暖房のため大量の重油を燃やすので,「石油から作られた作物」という不名誉な名まえをいただいたが,現在の野菜工場はハイテクの美名のもとに勢力を拡大している。

このような野菜工場を建設するには巨大な費用がかかるし,経費の大半は電気代になるという。現代の野菜工場は「電気と化学肥料から作られた作物」ということができる。

このような「野菜工場」を農業の新しい姿ととらえるか,いびつな形の農業ととらえるかは両論があるだろう。しかし,はっきり言えることは私たちの食料の大半はこのような方法では栽培できないし,太陽エネルギーから離れた作物の栽培はエネルギー使用量の増加を招き,ひいては地球温暖化防止に逆行するものである。

人類がこの地球という限られた資源をもつ惑星で持続的に文明を維持していくためには「太陽と土」の恩恵から離れることはできないし,離れてはならないのだ。それがこの惑星で生きていくための掟でもある。

生命が誕生してからおよそ40億年という人類文明の長さからは想像もつかない年月が経過している。その間,生命はその活動に必要なあらゆる物質をリサイクルして使用してきた。

現在,私たちが食べているトマトに含まれる一つ一つの炭素元素は数え切れないほどの回数で生物の体内に取り込まれてきた履歴をもっているにちがいない。植物にとって重要な栄養素となっている窒素,リン,カリも同様である。

もともと自然は循環型に出来ており,すべての生命は循環の輪の中に組み込まれていた。植物は地中の栄養素と二酸化炭素,日光から有機物を産生する。ある種の昆虫は植物の葉を食べるなど被害をもたらすが,一方では植物の受粉を助ける役割をもっている。草食動物は植物を食べ,肉食動物は草食動物を食べる。

植物の作った有機物はいろいろな生命体に取り込まれるが,排泄物も本体も再び土に戻り,土中の微生物により分解され,二酸化炭素と植物の栄養素に変わる。すべての生命はこのように関連をもっており,生命活動に必要な物質を光のエネルギーにより循環させている。この循環があったので生命は40億年という長い間を生き抜いてこられた。

土壌が植物の基本

植物を土無しでも生育することができるという事実は,植物にとって土とは何なのだろうという疑問を投げかける。日本語には「土」と「土壌」という言葉があり,その二つは異なる意味合いをもっている。包含関係は土>土壌となっており,土壌は作物を栽培するのに必要な土というように定義される。

畑を例にとると,表面から一定の深さ(約30cm)までの部分が土壌と定義される。この薄い表土に植物の生育に必要な有機物や無機物が含まれている。一般的に動物は有機物を栄養として摂取し,植物は無機物を吸収して有機物を産生する。その原理からすると,無機物である化学肥料を投入すれば植物の生育は保証されるはずである。その原理を突き詰めたものが水耕栽培である。

しかし,堆肥などを投入された有機物の多い畑は生産性が高い。「肥沃な土,痩せた土」という表現はそこから出てきている。なぜ,植物が直接吸収しない有機物の多い畑の生産性は高いのであろうか。土壌のもっている秘密がそこに隠されている。

土壌の中には細菌,カビ類,線虫類などの微生物や,微小動物,小動物が棲んでおり,その数は肥沃な土1グラム中に1億といわれている。この「土壌生物」は土に含まれる有機物を基礎栄養にして,食物連鎖による複雑な生態系を形成しており,結果的に有機物を植物の吸収できる無機物に分解している。

肥沃な土とは土壌中の生態系が豊であるということを作物を栽培する人間の側から評価したものである。肥沃な土にはぼう大な土壌生物が生息しており,土壌学では「1反に1トン」とされている。

植物の世界でもいろいろな病気が発生します。土壌生物に含まれるウイルス,バクテリア(細菌),糸状菌(カビ)などの微生物が作物に感染することにより発病する病害のことを「土壌病害」という。

しかし,土中の微生物がすべて悪さをするわけではない。ちょうど私たちの腸内細菌のように善玉菌(一般微生物)と悪玉菌(病原微生物)に分けることができる。腸内と同様に土の中でもそれらのバランスが重要となる。

このような土壌環境にとって「化学肥料」はどのような意味をもっているのであろうか。ある種の化学肥料は,例えば「硫安,硫酸アンモニウム(NH3)2SO4」のように酸性基をもつ塩類の形をとっている。アンモニア中の窒素は植物の必須栄養素なので植物に取り込まれる。すると,残った硫酸基は水と結びついて硫酸になる。その結果,土は酸性化していく。

また,化学肥料は植物の栄養とはなるが,土壌生物群の基礎栄養とはなりえない。土壌中の有機物が減少すると,それを直接の栄養源としていたある種の土壌生物は減少する。それは土壌中の食物連鎖を崩壊させ,生態系を大きく変えることになる。

土中を移動しながら有機物を摂取するミミズは土壌の強い味方だ。畑を耕しながら同時にフンは肥料になるのだ。このミミズも土壌中の有機物が減少するとその数を減らしていく。 その結果,化学肥料だけを長期間に渡って使用してきた畑には土壌生物の数が減少するとともにその構成も大きく変化してしまう。水田の場合は毎年,水で洗い流しているようなものなので土の酸性化の影響は畑よりずっと少ない。

それでも有機物を分解する土壌生物が少なくなり,そのような田んぼに稲ワラを投入しても簡単には分解されない。土壌生物のバランスが狂った農地を元に戻すには完熟堆肥のように土壌生物と有機物の混合体を何年も投入する必要がある。

地力は土のもつ力

「肥沃な土」と「痩せた土」の差となっているものが「地力」である。大相撲で使用される「じりき(本来もっている力)」と同じ漢字が使用されるのでややこしいが土の場合は「ちりょく」と読む。文字通り土のもっている力である。

地力の有無は土壌中の有機物の量と土壌生物の量により決まってくる。地力の違いにより作物はどのような影響を受けるのかというとこれが難しい。例えば地力の落ちた水田でも天候が順調ならば化学肥料でも豊作は可能である。

しかし,天候が不順の時は地力の差が収穫に響いてくる。それは収穫量の差の場合もあれば,コメの品質の差になることもある。多少天候が不順でも地力がしっかりしていれば品質の高いコメをちゃんと収穫できるということだ。

地力を失った農耕地で作物を栽培するとどうしても病害虫に弱く,雑草などにも負けやすい,いわゆるひ弱なものになる。地力の差は作物の健康状態に影響するのである。

ひ弱な作物を栽培するための補助手段として使用されるのが農薬である。現在の日本の農業は農薬抜きには成立しない。コメについてみると病害虫防除のための土壌消毒,種子消毒,田植前の病害虫駆除,田植え後の除草剤,病害虫駆除…,単位面積あたりの農薬使用量は世界でも群を抜いている。世界でもトップクラスのコメの反収(5トン弱/ha)は化学肥料と農薬に支えられている。