亜細亜の街角補足 |
楽園の汚染 タイ・パタヤ |
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■人気リゾート二つの顔 タイ・パタヤ 2006年07月04日 陽光がパラソルにきらめく15キロのビーチに沿ってホテルや海鮮料理店、土産物屋が並ぶ。周囲に約20カ所のゴルフ場があり、高級コンドミニアムの建設が相次ぐ。バンコクの東南150キロ。パタヤの昼は、典型的な南国リゾートの風情だ。夜、中心部はネオンあふれる歓楽街に姿を変える。屋外バーのカウンターで女性がほほえみ、ゴーゴーバーでビキニの女性が踊る。風俗店は登録されているだけで586に上る。 若い男が舞台に立つゴーゴーバーや男だけの屋外バーが軒を連ねる一角がある。その名も「ボーイズタウン」。欧米の男性客に、女性客の姿も交じる。「タイでは最大規模の男娼(だんしょう)街よ」と、去年まで新宿・歌舞伎町で働き、不法滞在で強制送還された女装のケイ(40)。数千人の男の中には未成年も多い。 男と女の境界があいまいな街だ。男のマッサージ師がたむろする海岸があり、性転換手術で名をはせる病院がある。ニューハーフショーの劇場が二つあり、世界コンテストが催される。パタヤはアジアのリゾートの草分けだ。60年代のベトナム戦争時、米軍兵士の休暇のため、米タイ両政府が合意し、開発された。 75年のサイゴン陥落後は一時さびれたが、欧米からの客でにぎわいを取り戻し、去年は約500万人が訪れた。外国人では韓国がトップ。英国、ロシア、中国、ドイツが続く。登録人口は約10万人だが、実際は40万〜50万人と市は推計する。これだけ未登録人口の多い地域は他にない。国内外から人が集まり、多くは風俗産業にかかわる。7割のバーは事実上外国人の所有とみられる。ロシアやドイツなど各国別の「マフィア」が縄張りを競うとされる。 ■脱「悪の巣窟」をアピール 97年、当時のチャワリット首相は売春、麻薬取引、睡眠薬強盗などがはびこるパタヤを「悪の巣窟(そうくつ)」と呼び、風俗店の取り締まりに乗り出した。政争が背景にあるともされたが、これをきっかけに自治体による環境改善運動が始まった。 下水道が整備され、海は浄化された。遊歩道や街灯が設置された。市長が民選となるなど地方自治が強化され、予算規模が大きくなったことも後押しした。01年に就任したタクシン首相は「麻薬撲滅」を強力に進め、パタヤでも取引は目に見えて減った。地域を牛耳るボスとされた人物は、殺人罪などで訴追されて逃亡したままだ。 パタヤ市は昨年から「観光ナンバー1都市」キャンペーンを始めた。近く開港予定の新国際空港からは、今の空港に比べ約半分の時間で着く。今後5年間、年5%の集客増でプーケットやチェンマイを超える観光地をめざす。 日本、韓国、香港などに使節団を送り、ビーチバレー、サッカーやウオータースポーツの大会を誘致するなど健全さをアピールする。監視カメラや観光客向けコールセンターを設け、不良バーは免許取り消しにするなど、イメージアップに懸命だ。 ■「児童売春」追放が急務に だが、こうした努力に水を差す風評が消えない。「児童買春の中心地」。被害者の多くは男児だ。中心部にあるNGO「児童保護発育センター」(CPDC)で暮らす13歳の少年は2年前に東北地方の自宅を家出してやってきた。物ごいをしていた時に、近づいてきた英国人(63)の世話になる代わりに性的行為を強制された。昨年末、CPDCのスタッフが保護した。英国人は逮捕され、余罪が多数判明した。 国際NGO「ストップ子ども買春の会」(本部・バンコク)のルク・フェランさん(30)は「法改正で摘発と罰則が強化され、国全体には改善されているが、パタヤには外国人小児性愛者のネットワークがあり、全国最悪」と指摘する。被害者の予備軍はストリートチルドレンだ。CPDC代表のスパゴンさん(35)によると、全国約2万4000人と推計されるうち半数以上がパタヤにいるという。カンボジアやミャンマー(ビルマ)からの流入も多い。彼らをねらって世界から小児性愛者が集まる。 センターがこの半年間に保護したストリートチルドレンは約2800人。行き場のない子や児童買春の被害者らを3〜6カ月施設で預かり、里親や他の施設を探しつつ、造花や鏡作りなどを通じて心のケアをする。しかし、こうした団体は少なく、行政の取り組みも遅れている。ベラワット副市長(36)は「警察や入管と協力し、対策を練っているが、市に警察官は400人しかおらず、ボランティアも足りない」という。地元紙の記者は「観光と表裏一体の風俗産業をなくすことは無理でも、せめて児童買春を追放すればイメージは随分良くなる。でも市や警察がどこまで本気か疑わしい」と話す。(柴田直治) |
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