亜細亜の街角資料
コメの国際価格
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2008年は穀物,食用油,砂糖などの食品の値上がりが国内でも主要なニュースとして報道されている。その中でコメの国際価格の急騰はアジア,中米,アフリカの各地で貧困層を直撃している。世界のコメ生産量は約4.2億トンあるが,そのうち国際取引されているのは3000万トンほどに過ぎない。生産量の93%は自国で消費され,7%ほどが国際的に取引きされていることになる。簡単に言うとコメは小麦やトウモロコシのように国際商品ではなく,自国の食糧のために生産されているものなのだ。当然,輸出余力のある国は限定されており,2007年のデータでは下記のようになっている。

タイ
ベトナム
第一中間期
中王国
第二中間期
新王国
第三中間期
末期王朝
プトレマイオス朝
1000万トン
100万トン
100万トン
100万トン
100万トン

取引量が少ないことによりコメの国際価格はかなり不安定なものになっている。豊作の続いた2000年代の初頭にはトン当たり200ドルまで下落した。この価格は日本のコメ価格3000ドル/トンの1/15程度である。いくら生産コストの安いタイやベトナムでも,これでは農家の生産コストを割り込むようにまでになった。当然,農家の生産意欲は低下し,他の作物などへの転換が進むことになる。

ところが,その頃から世界的な米食の拡大により,コメの国際価格は上昇に転じていく。さらに,コメ輸出国においても国内消費量の増大と国内価格の安定化のため,ベトナム,インド,中国,カンボジアは輸出量の削減を表明している。国際流通量が減少したことにより需給は逼迫し,コメの国際価格は天井知らずで上昇していくことになる。2006年には350ドル程度であったものが2007年後半からは急騰し,900ドルに迫る勢いである。

国際取引価格の高騰は国内価格にも反映され,アジアの主要コメ生産国でもコメの小売価格の値上がりが続いている。また,輸入が多いフィリピンやインドネシアでも危機感が強まっている。日本人の一人当たりのごはん消費量はおよそ50kgであるが,カロリーの大部分をコメから摂取する場合,成人一人当たりおよそ200kgが必要となる。

一月当たり15kgとして計算すると,日当たり500gとなる。従来の小売価格は50セント/kg程度であったので一日当たりのコメ代は25セント程度であった。それでも,1日あたり1人・1ドルで生活する貧困世帯にとっては大きな出費であった。それが,コメの値段が1ドル/kgに跳ね上がると,生活費の半分はコメ代に消えることになリ,貧困層の人々の生活は立ち行かなくなる。コメに限らず穀物価格は高騰しており,世界の多くの地域では貧困層の悲鳴が聞こえるようになった。食糧はあるけれど,経済的な理由で買うことができない状況になっている。

原油価格の高騰により,肥料や農業機械の燃料も高騰し,穀物価格が2006年の水準まで下がる可能性は低い。改めて世界経済はいかに安価な石油に依存していたことが浮き彫りにされるようになった。原油の高騰は先進国を「バイオ燃料」の使用に向かわせている。バイオ燃料は植物由来のものなので地球温暖化対策にもなる。しかし,現在のバイオ燃料は誤解を恐れずに言うならば,「食料を燃料として使用」しているに過ぎない。当然,食料に回る分は減少するので,食料価格は上がっていくことになる。

米国のトウモロコシから生産される「エタノール」を例に説明すると,2006年に5500万トンのトウモロコシからは1600万kl のエタノールが生産された。5500万トンのトウモロコシは米国の穀物生産量の1/6に相当するが,そこから産生されるエタノール1600万kl は米国の自動車用燃料消費量の3%に過ぎない。穀物から燃料を生産する政策は米国のエネルギー安全保障にほとんど寄与しないばかりか,食料品の価格上昇という副作用が重くのしかかってきている。自動車の燃費向上,公共交通機関の充実などにより燃料の消費量を削減する方がはるかに効果があることは自明なのだが。

世界銀行などによると,ハイチやエジプト,エチオピア,セネガルなどで高騰を背景にした暴動や政情不安が表面化している。「過去3年間に食糧価格が2倍になり,低所得国では新たに1億人が貧困に陥る危険性がある」(ゼーリック世銀総裁)という。 世銀によると,世界食糧計画(WFP)が5月初めを期限に総額5億ドルの支援を各国に募っているが,拠出表明は半分近くの国にとどまっているという。

7月に開催される「洞爺湖サミット」では,原油・食糧の高騰,地球温暖化対策,世界の景気減速が主要テーマになるという。G8の首脳およびサミットに集まる他の22カ国の首脳は有効な対策を打ち出せるのであろうか。