ラピスラズリ
古代から青色の石で最も珍重されたのはラピスラズリである。ラピスラズリのラピス(Lapis)はラテン語で「石」,ラズリ(Lazuli)は「青や空」を意味するペルシャ語のlazward が語源とされている。原石は深い青色をしており,この石をそのまま半貴石として装飾品や宗教儀式用の道具に使用されてきた。また,これを砕き精製して鮮やかな青色の顔料としても珍重されてきた。
旧世界においては産地がアフガニスタンのバダフシャンしかなく,非常に貴重な交易品として紀元前3000年頃には各地に運ばれていった。エジプトでは紀元前3000年頃の墳墓から,メソポタミアでは紀元前2500年頃の古代都市国家ウルの遺跡からラピスラズリの装飾品や工芸品が発見されている。
古代ローマの博物学者プリニウスはラピスラズリを「星のきらめく天空の破片」と表現した。 ヨーロッパでは海路で運ばれてきたため,それから抽出される顔料を海を越えてきた青という意味の「ウルトラマリーン」の名称で呼ばれていた。原石が貴重であったことと,さらに原石から顔料を抽出する技術が複雑であったために金と同等かそれ以上の価値があった。
鉱物学的にはラピスラズリとはラズライト(天藍石),ソーダライト(方ソーダ石),アウイン(藍方石),カルサイト(方解石),パイライト(黄鉄鉱)など複数の鉱物から成る。 星のように見える金色の斑点は黄鉄鉱,白いのが方解石である。
コバルトブルー(cobalt blue)
コバルトブルー(コバルト青)青色の無機顔料である。組成式はCoAl2O4(アルミン酸コバルト)あるいはCoO・Al2O3(酸化コバルトと酸化アルミニウムのスピネル)で表される。非常に鮮やかな青い色を呈しコバルトが多いほど青が強くなり,アルミニウムの割合が多いと淡い色となる。
サマルカンドブルー
中央アジアや中東のイスラム建築物には深い青,明るい青緑が多用されている。特に明るい青緑はドームの表面を飾る装飾タイル,レンガによく使用されており,真っ青な空に非常によく映える。焼き物の色は材料の土質,成分,焼成温度の違いなどによる変化する。古代の職人は土地の材料でいかにして目的の色を出すかについて大変な苦労を重ねてきた。そのような特殊技術は少しずつ改善され,特定の家族の間で受け継がれてきた。
中央アジアや西アジアでは焼き物の材料には恵まれた土地ではなかった。高温で焼くことのできる粘土,高温を発生させるための油分の多い木材にも恵まれていなかった。そのため,釉薬も低い温度で溶ける種類を利用することになり,青,黄,緑が多くなった。その中でも釉薬の原料として深い青に必要なコバルト酸化物,および明るい青緑色に使われる銅系および鉄系の釉薬がが豊富に入手できたので,この二色が多用されることになった。サマルカンドブルーは地域の材料を生かして最高の色を出したいという職人の努力の結果であるといえる。
そのような釉薬の調合,焼成温度などのノウハウと技術は時間とともに失われてしまった。ユネスコのプロジェクトでも遺跡の修復に必要な中世の技術の再現を目指したものがある。このプロジェクトでは伝統的な形式による特別な焼き釜の製作も行われ,ティムール朝時代のサマルカンドで使われた青い釉薬をかけたカシン(タイルの一種)の製造に必要な伝統的技術を再現することに成功した。
青色は自然界では少ない
青は晴れた空の色であり,海の色,水の色である。「青く輝く美しい地球」というように,青は地球のどこでも見られる色である。しかし,自然界の産物で青色のものは珍しい。生物界では青色のものは少なく,染料や顔料でも青色のものは少ない。 先端技術分野でも青色のLED(発光ダイオード)は最後に発明された。このLEDの特許に関して発明者が元勤務先の会社に特許訴訟を起こし,数億円の金額で和解したのも記憶に新しい。青色LEDの発明はLEDですべての色を表現できるようになったことを意味し,さらに青色のレーザー・ダイオードはDVDの記録密度を飛躍的に高めた。