亜細亜の街角
スマトラとボルネオの森が消滅する!
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UNEP報告書(2007年)

2007年2月,UNEP(United Nations Environment Programme,国連環境計画)からインドネシアの熱帯雨林に関する衝撃的な報告が出されました。「グローバリゼーションと大型霊長類:不法な木材伐採が国立公園内におけるオランウータンの最後の拠点を破壊している」と題された報告書の内容は次の通りです。

地域住民の生計を支えたり,オランウーンタンの最後の生息地である東南アジアの熱帯雨林は,専門家が予測していたよりはるかに速い速度で消滅しつつある。スマトラ島とボルネオ島の原生林は急速に消滅しており,緊急措置が取られなければ2022年までにその98%が破壊されてしまう。2002年のUNEP報告書では「2032年までにオランウータンの望ましい生息地は失われる」とされていたが,この5年間に消失の速度は加速されている。

国際的な需要によって引き起こされる不法伐採は一年間に数千万立方メートルに達し,それはインドネシアの木材伐採の73%を占めていると推定される。およそ20%の木材はインドネシアから直接密輸され,残りは大規模な多国籍企業あるいは地域の木材産業に利用され,排他的な商業ネットワークにより国際市場に輸出される。

最新の衛星画像は不法伐採が新しい危機的段階に入っていることを明らかにしている。需要の増大により,木材産業や国際市場は安価な違法木材を使い果たし,商業的に伐採ができる量の木材が唯一残されている国立公園に入るようになった。

衛星画像は「不法伐採は41の国立公園のうち31ヶ所で行われており,それは増大している」というインドネシア政府のデータとも合致している。「現在のような国立公園への侵入が続くと,少なくとも3-5年以内,すなわち2012年までにいくつかの公園はひどいダメージを受けることになる」とオランウータン保護のNGOは述べている。全体として報告書は「オランウータンの生息場所は以前考えれていたより30%も高い割合で消失している」と結論付けている。


補足1:違法取引

インドネシアで違法に伐採された木材の一部はマレーシアやシンガポールで加工され,合法的な木材,加工製品として再輸出されている。マレーシアでは国内の森林と国内の木材生産量が減少した一方で,国内の木材加工産業は巨大な生産能力を維持し続けている。

熱帯木材の輸出額が年間25億ドル(約3000億円),木製家具の輸出が10億ドル(約1200億円)以上になっている。業界はインドネシアで違法に伐採された木材の輸入に依存しており,半島マレーシアやサラワク州,サバ州の港やカリマンタンとの国境から,毎年300-500万m3の違法なインドネシア材が流れ込んでいると推測されている。

違法に産出されたインドネシア産ラミンであるにも関わらず,原産国を偽った書類が添付され,年間70,000立方メートルものラミン材がマレーシアから輸出されていると報告されている。その主要輸入国はEU,米国,日本,そして中国となっている。


補足2:ラミン種のワシントン条約リスト化

インドネシアの商業伐採の主要樹種はラミンと呼ばれインドネシアとマレーシアの固有種である。ラミンは低地に広がる淡水湿地や泥炭湿地で育ち,巨木に成長する。その装飾的特質と加工が容易である点から家具等の良質の木材として利用されており,Gonystylus属の30種のうち6種が商業的価値を有するものとして知られている。

加工された木材は国際取引で1立方メートル当たりの価格が1,000USドルにもなる。ラミンは日陰を好み成長が遅く,自然の泥炭湿地のみに見られる樹種のため,植林による生産は困難である。また,伐採が行われた森林の観察では回復率が非常に遅いことがサラワク(マレーシア)から報告されている。

IUCN(国際自然保護連合)絶滅危惧種レッド・リストの2000年版によると,ラミンの多くの種が危惧種として類別されており,中期的には野生のものは絶滅する危険性が高いとされている。国内の森林破壊の原因となっている違法伐採を抑制するため,インドネシア政府は2001年にラミン材のすべての伐採と輸出を禁止し,ワシントン条約(CITES)の付属書IIIに登録した。これにより,政府の許可書なしにラミン材の国際的な取引きはできなくなった。


東南アジアの森林を破壊する要因

インドネシアだけではなく東南アジア全体の熱帯雨林は危機に瀕しています。現状の破壊レベルに対して言えることは,原生林を伐るなという段階ではなく,伐採や開発から守ることのできる国立公園のようなリザーブエリアだけは残してもらいたいということだけです。違法伐採は森に大きなダメージを与えますが,完全に破壊するわけではありません。伐採の次にくる開発により豊かな熱帯雨林はとどめをさされるのです。破壊のキーワードには以下のものがあります。

(1) 合法および非合法の商業的な木材伐採
(2) 焼畑
(3) アブラヤシ・プランテーションへの転換
(4) アカシアなどパルプ用早成樹プランテーションへの転換

まず商業伐採により価値のある樹木が伐採されます。伐採した木材を運び出すためには道路が必要なので,まず森の近くまで道路が造られます。これにより森林は分断されそれだけで生態系にとっては大きなダメージとなります。

商業伐採に適した大きな樹木は1haに数本しかありません。しかし,その大木を切り倒し,運搬するときに周辺の小さな樹木はひどく痛めつけられます。そのため1haから数本の大木を伐採するだけで森の1/3はダメージを受けると推定されています。

このような商業伐採はマレーシア,ソロモン諸島,パプアニューギニアなどでも広く行われています。フィリピンの熱帯雨林は商業伐採のため1970年にはほとんど消滅しており,度重なる気象災害のため2004年には25年間の森林伐採を禁じる法案が成立しています。

商業伐採の次にはプランテーション化が始まります。キーワードは植物油と紙パルプです。私たちになじみの深い植物油はナタネ,ゴマ,綿実油などがありますが,熱帯産のアブラヤシ(オイルパーム)の実から搾油されるパームオイルはその1/4を占めており,生産量は急増しています。

パームオイルは食パン,マーガリン,アイスクリーム,カップ麺などの食料品,植物性の洗剤として私たちの生活に浸透しています。さらに原油価格の上昇によりジーゼル燃料への混入という新しいバイオ燃料としての用途も拡大しつつあり生産に拍車がかかる可能性があります。

もう一つのプランテーションは紙用のパルプを生産するためのものです。こちらはスマトラ島がメインとなり,大規模なパルプ工場が稼動しています。パルプとは樹木を細かく破断したものですが,スマトラではまず原生林がその原料となります。

一定の面積の原生林が伐られると,次にその地域をアカシアなどパルプ用早成樹のプランテーションに転換します。このような樹木は生長が早く数年でパルプ原料とすることができます。当然,土地は急速に劣化するので肥料や農薬も必要になります。まるで,畑で樹木を促成栽培するようなものです。このようにして作られたパルプは日本のOA用紙としても広く使用されています。

世界銀行によれば,このままの状況が続くと,スマトラ島の低地熱帯雨林,泥炭湿地林はまもなく消滅と予測されています。また,リアウ州全体の森林被覆率は,1990年には63%であったものが2002年には39%に減り,2015年には12%にまで減るとの予測がなされています。

オイルパームにしてもパルプ用早成樹にしてもプランテーションを造成するということは原生林を完全に破壊するということです。熱帯雨林は極めて豊かで複雑かつ脆弱な生態系を有しています。そこには私たちの想像を超えるような豊かな世界が広がっており,地球が育んできた宝石のようなところです。

もちろん,そのような地域に居住する人々にも土地を開発し,経済的に発展する権利はあります。問題は豊かな自然生態系と人間の経済活動の線引きをきちんとして,自然生態系の一部をそのままの形で後世に残すことなのです。現在のインドネシアはその線引きが全く無く,このままでは地球上でもっとも古い熱帯雨林とそこに暮らす多くの生物は映像の中にだけしか残らなくなるでしょう。