亜細亜の街角
アラビアのロレンス
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トーマス・エドワード・ロレンス

トーマス・エドワード・ロレンス(Thomas Edward Lawrence)は1888年ウェールズのトレマドックに生まれる。ロレンスは母方の姓であり,敬虔なクリスチャンである母のもとで厳格に育てられた。オックスフォード大学を卒業後,1914年に第一次世界大戦が始まり,アラビアの地域に精通していることから軍隊に召集される。カイロの陸軍情報部,さらに外務省管轄下のアラブ局に所属し,メッカの太守ハーシム家の当主フサインの3男ファイサルと会見し,オスマン帝国に対するアラブの反乱をもちかける。

アラブの反乱においては情報将校としてそれを支援しヒジャーズ(巡礼)鉄道の破壊などを行う。1918年のダマスカス奪還後はすぐに本国に戻っている。1921年1月には植民省中東局・アラブ問題の顧問としてウィンストン・チャーチル(後の首相)から招聘される。しかし,すぐに辞任し,偽名を使用して空軍あるいは陸軍に入隊するなど奇妙な行動をとる。そして1935年5月13日、オートバイを運転中の交通事故で死去、享年46歳であった。結婚歴は無い。

1907年にはオックスフォード大学ジーザス・コレッジへ進学する。オックスフォード在学中から遺跡の発掘などに参加して中近東を訪れている。またレバノン,シリアを徒歩旅行して十字軍遺跡などを調査している。卒業後にも大英博物館の調査隊に参加してトルコの遺跡発掘にも参加している。アラビア人との接触も多く,学生時代にアラビア語は習得していたようだ。ロレンスは遺跡発掘や旅行で数回中東を訪れているが,地域の地図作成と情報収集が裏の任務であったと言われている。

ロレンスの名前を一躍有名にしたのは1962年の映画「アラビアのロレンス(Lawrence of Arabia)」である。映画はそれなりの脚色はあるもののロレンスの自伝「知恵の七柱」に基づいており,歴史映画としても興味深い。上映時間は227分と最近の映画を比較するとけっこう長く,個人的にはダマスカス入城のところで終了させてもよかったように思われる。

アカバ湾の要塞を襲撃する戦闘シーンはこの映画のハイライトの一つであるが,やはり沙漠と風景,大きな太陽などの情景描写のシーンが強くこころに残っている。この映画の相当部分はヨルダンのワディラムという砂漠地帯で撮影されたという。ロレンス自身もときおりラクダでこの地域を訪れ,砂漠の静寂さを楽しんだという。現在,ワディラムは「アラビアのロレンス」の撮影地として観光地となっている。

一般的にロレンスは映画で描かれているように「アラブの独立に尽力した英国人」という評価であるが,この時期の彼の行動はすべて「英国の利益」のためであった。英国は戦争を有利に導くためアラブ民族を利用したのは歴史的事実であり,英国がメッカの太守フサインに約束した東アラブ王国の樹立はあっさり反故にされ,第一次大戦が終わるとこの地域は戦勝国である英国とフランスが分割して統治することになった。


アラブ世界の分割

メッカの太守フサイン・イブン・アリー (マッカのシャリーフ)は4人の息子がいた。

長男:アリー・イブン・フサイン(1879−1935)
次男:アブドゥッラー・イブン・フサイン(1882−1951)
三男:ファイサル・イブン・フサイン(1885−1933)
四男:ザイド・イブン・フサイン(1971年病死)

第一次世界大戦が終わると英仏はオスマン帝国支配下のアラブ地域をシリア,パレスチナ,トランスヨルダン,イラク,ヒジャーズに分割した。シリアは現在のシリアとレバノンを含む地域でフランスの委任統治下におかれた。パレスチナ,トランスヨルダン,イラクは英国の委任統治下におかれ,独立を果たせたのはアラビア半島のヒジャーズ王国だけとなった。フサインの考えていた「大アラブ王国」はそれらの地域をすべて含むものであったが,その構想は簡単に反故にされた。

英国はフサインの次男のアブドゥッラーをトランスヨルダン,三男のファイサルをイラクの国王に任じた。ヨルダンのアブドゥッラー王家は現在のヨルダン国王につながっている。一方,イラクのファイサル王家はバース党によるクーデターにより失脚する。

アラビア半島を支配するヒジャーズ王国では,1942年にオスマン家のアブデュルメジト2世がカリフを廃位されたのを機にフサイン国王がイスラーム世界における権威を求めカリフに即位した。しかし,イスラーム世界から黙殺されただけでなく,カリフ位を理由として重税を課したため,ヒジャーズ王国においても孤立し,ワッハーブ派のイブン・サウード(のちのサウジアラビア王国初代国王)にマッカを奪われてキプロス島に亡命した。これでヒジャーズ王国は滅亡し,新たに イブン・サウードがサウジアラビア王国の国王となった。