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ブッダの嘆き・インドウラン公害

2007年2月,久しぶりに「ブッダの嘆き・インドウラン公害」のビデオを見た。2000年頃NHKで放送された番組である。インドのウラン鉱山の周辺に居住している先住民族の放射線障害を取り上げた番組である。番組の中でビハール州,ジャドゥゴダという地名が出てきたので大きな地図で探してみた。しかし,どこにも見つからない。

もしかしたらインターネットで分かるかもしれないと考え検索してみたらいくつかのサイトが見つかった。この番組の元はジャドゥゴダのウラン公害を告発した記録映画で,シュリプラカシュ監督が3年半をかけて制作したものである。2000年3月に日本で開催された第8回地球環境映像祭(主催:アースビジョン組織委員会)では大賞を受賞したということである。この受賞をきっかけにNHKが放映したようだ。

現在,問題となっているジャドゥゴダ地域はビハール州ではなくジャールカンド州に属している。インドの地図を開いてみると,コルカタ(カルカッタ)からバラナシィ,アグラを通りデリーに至る幹線道路がある。これがインドの国道2号線でアジアハイウェーの一部になっている。

インドでもっとも貧しいといわれているビハール州はこの道路により2分されている。北部と南部では人々の構成や考え方が異なっており,南部はビハール州から分離したいと運動を続けてきた。その結果,2000年にジャールカンド州として昇格することができた。ジャールカンド州の人口は2700万人,その3割近くを先住民族が占めている。

インドの先住民族

インドの先住民族とは主としてドラヴィダ系の人々を指す。インド・ヨーロッパ語族に属するアーリア人が南ロシアのあたりからインドに移動してきたのは3500年前のことなので,ドラヴィダ系の人々はその間ずっと先住民族という位置づけだったことになる。悠久の時間が流れる大地では一貫して先住民族は支配され虐げられる役割を担ってきた。

それを支えてきたのが「カースト制」である。支配階級は肌の色を支配,被支配を区分する基本とした。カースト制の前身は「ヴァルナ」と呼ばれ,そのものずばりの色を意味していた。異なるカースト間の婚姻は現在でも慣習的な禁忌となっており,3500年もの間,民族をはっきりと区分してきた。

カーストの最下層にはカーストにも入れてもらえない「アンタッチャブル(不可触賤民)」がいる。ガンジーは彼等のことを「ハリジャン(神の子)」と呼んだが,彼らは長きに渡り不条理な身分制度の中で苦難の歴史を歩んできた人々である。そのような先住民族はジャールカンド州の南部,東部に多く暮らしている。

放射能で汚染された土地

ジャールカンド州の東部は西ベンガル州に向かって突き出しており,その付け根のところにジャムシェドプールの町がある。ここから南東に25kmほどのところにジャドゥゴダ地域がある。ここにはインドで唯一のウラン鉱山があり,国営企業により運営されている。

この地域は多くの先住民族が伝統的な価値観に基づいて暮らしていた。彼らにとって不幸なことに,この地域でウラン資源が発見された。米国,オーストラリアでもなぜかウラン資源は先住民族の土地で発見されている。先住民族は土地を追われ,鉱山と精錬により彼らの土地は放射能で汚染された。インドも同様の悲劇が発生している。

鉱山会社は先住民族を居住地から強制的に追い出し,3つの鉱山を開発し,ぼう大な残土と放射能を含む鉱滓が先住民族の居住地のすぐ近くに放置された。ウランは精製の過程で大量の水を使用するので鉱滓は液状になり,鉱滓池に流される。池はダムのように囲われているものの,乾燥すると放射能を含むチリが近くの村まで簡単に飛来する。鉱滓池の5km以内には15 の村があり,3万人が居住している。鉱滓池の先端部は集落とほとんど接している。

体内被曝の恐ろしさ

当然,周辺の集落の土地は放射能に汚染され,人々は放射能を含むチリを呼吸し,放射能に汚染された土壌の作物やミルクを食べることになる。放射線障害はある一定量の放射線を浴びることにより生じるが,放射性物質が体内に取り込まれると体内被曝の状態が長く続くことになり,その影響は極めて深刻なものになる。

この地域の多くの子どもたちは先天性の障害をもっている。成人の白血病やガンの発生率はインドのほかの地域に比べるとずっと高い。放送では触れられなかった詳細な内容については下記のサイトを参照していただきたい。
(1) 苦難の先住民
(2) ブッダの嘆き

注)インドの民族は先住民族,インド・アーリア族,スキト・ドラヴィダ族,アーリョ・ドラヴィダ族,モンゴロ・ドラヴィダ族,ドラヴィダ族,モンゴロイド族等から構成されており,そのうちインド・アーリア族が72 %,ドラヴィダ系民族が25%を占めている。上記の文章ではカースト制の観点からインド・アーリア族以外を先住民族として表現している。