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豊かな漁業資源をもつアラル海

カザフスタンとウズベキスタンにまたがるアラル海は今から50年前には世界第4位の面積(66,000km2,琵琶湖の約100倍)をもつ巨大な湖であった。塩分濃度は1%(海水は3.5%)程度であり,魚の宝庫として地域の産業と水運を支えていた。

半砂漠地帯に位置するアラル海を涵養していたのは天山山脈を水源とするシルダリヤとパミール高原を水源とするアムダリヤの2つの河川であった。2つの河川の年間流量は約1300億トン(130km3)あり,1950年にはそのうち半分以上がアラル海に到達していた。

これにより湖からの蒸発量と流入量がバランスしており,アラル海はその美しい姿を保っていた。ウズベキスタンの港町ムイナクには漁業者だけで1万人が働いており,魚を加工する工場も数多くあった。

綿花栽培により水環境のバランスが崩れる

ところが1960代になるとウズベキスタン(当時はソ連の一部)では大量の灌漑用水を取水して綿花を栽培するようになった。乾燥地帯に位置し,表面積の広いアラル海からは毎年30-35km3の水分が蒸発している。科学的根拠に基づき生態系的に許容されるアラル海流域の限界取水量は毎年80km3とされているが,現実の取水量はこれを大きく上回る102km3となっている。

そのため,アラル海に流入する水量は蒸発量をはるかに下回るようになり,1980年代にはアラル海は南北に分かれてしまった。北側は小アラル,南側は大アラルと呼ばれている。現在,アラル海の水量は以前の約10%(1150km3),面積は27%(17,600km2)に激減し,干上がった広大な湖底は有害化学物質と塩が堆積する砂漠(アラルカン砂漠)となってしまった。

巨大な湖は地図の上から姿を消すことになる

残った湖の塩分濃度は海水をはるかに上回るようになり,豊かな漁業資源は壊滅した。かっての港町ムイナクの周辺には砂漠にたくさんの船が放置され朽ち果てている。新しい砂漠からは季節風に乗って年間7500万トンもの塩混じりの砂が飛散し,1000kmも離れた地域まで塩害を拡散している。現在,アムダリヤは湖の手前でせき止められて別の小さな湖を形成しており,一滴の水も南側の大アラルには注いでいない。あと10年もすれば,かっての巨大な湖は地図の上から姿を消すことになる。