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丹沢恵

丹沢恵は1985年に漫画家としてデビューしており,1988年から4コマ漫画を専門に描くようになります。「トラブルカフェ!」の連載が終了した2005年時点は漫画家生活20年ということになります。

デビュー当時のペンネームは「とみいみく」でしたが,4コマ専門漫画家になった頃からペンネームを「丹沢恵」に変えています。wikipedia には『かつて活躍していた女性の4コマ漫画家』となっていますので,現在はほとんど描いていないのかもしれません。

「丹沢」の苗字は関西では珍しく,関東では普通に読んでもらえる「丹沢」は関西ではまともに読んでもらえないようです。「丹沢」は作者の父親の姓であり,その出身地は山梨となっています。

そのため,「珈琲倶楽部」のマスターは「石和」姓であり,山梨県の石和温泉にちなんでいると考えられます。作者も作品中で次のように記しています。

へー,恵ちゃんて丹沢ってゆーの
関東の人?
うちは大阪やけど父は山梨の人間なんです
やっぱりねー
やっぱりってなんですか?
甲府のあたりって丹沢一族がいるじゃない
はあ? 生まれてはじめて聞いたぞ そんな一族


この会話にあるように確かに山梨には丹沢姓が多いのは事実です。常識的には丹沢は神奈川県でありどうして山梨県に丹沢なのかという疑問が出てきます。それは現在の都道府県地図で確認していただくと分かるように山梨県の県境と丹沢山地は接しています。これは室町時代の甲斐の国の境界とほとんど一致しているはずです。

室町時代の甲斐の国の国主は甲斐源氏の統領である武田氏です。この体制は戦国時代末期まで続きます。しかし,15世紀の一時期,関東での戦に敗れた武田氏は甲府盆地を追われ,甲斐源氏統領の座と国主の実権を失い,甲斐の国は約100年間群雄割拠の状態になったことがあります。

その時期に武田正信が丹沢山に閉居することになり,その子の正昌が丹沢姓を称したのが始まりとされています。そのような理由から丹沢姓は山梨県南部で多いのではと推測します。


「トラブルカフェ!」の世界

「トラブルカフェ!」の舞台はとある地域の商店街にある「珈琲倶楽部」という少なくともコーヒーに関しては本格的な喫茶店です。「珈琲倶楽部」の経営者は作品中では「マスター」と呼ばれており,石和の姓が出てくることはめったにありません。名前についてはずっと出てこず,最終話になってようやく「雅人」であることが紹介されています。

「珈琲倶楽部」の従業員は4年目の「ケーコ」と1年目の「リエ」の二人です。ときどきマスターの妹の「ミユキ」が店を手伝うことがあります。「珈琲倶楽部」は商店街にあるのでよしの寿司のご主人,フェニックスのママ(元男,ニューハーフ),職業不詳の山形さんなどが常連として登場します。

このような人たちが繰り広げる日常的なやりとりが「トラブルカフェ!」の世界ということになります。4コマ漫画はほとんど月間なので季節感が各話の前面に出ています。特にバレンタインデー,ホワイトデー,5月の連休,夏休み,クリスマス,年末・年始などの行事がらみは話が作りやすいのでしっかり出てきます。

4コマ漫画の王道をいく作品であり,登場人物のキャラクター設定を全面に出し,そこから笑いのタネをひねり出しています。とはいうものの,喫茶店,マスターのアパートという限られた舞台で話を作るのは大変であり,よく8巻まで続いたなと感心します。

主人公の「リエ」はよく転ぶ,よく食器を割る,業務知識の欠如,味覚もちょっと怪しい,大食い,月末はいつもピンチ,掃除嫌いで洗面所はカビだらけという気の毒すぎる設定です。どうして「リエ」が主人公であるかは第1巻の表紙絵を見るとわかります。主要登場人物に混じって「リエ」は4回も登場しています。


登場人物|マスター

「珈琲倶楽部」のマスター,本名は石和雅人ですが作品中では単に「マスター」と呼ばれています。年齢は30歳ですが伸ばした髪を後ろで束ねていること,ひげを蓄えていることなどから周囲の人たちからは30代の半ばくらいに見られています。

男のこだわりが「珈琲倶楽部」の経営にも表れています。「珈琲倶楽部」のメニューは各種コーヒー,紅茶,フレッシュジュースなどの飲み物とケーキ,トースト,サンドイッチ,グラタン,スパゲティなどの食べ物です。マスターは「珈琲屋」であることにこだわり,ミユキが提案する新メニューの飲み物はほとんど却下しています。

その分,コーヒーについては「本格的」というこだわりが強く反映されています。厳選された豆を使用し,コーヒーを淹れるときはサイフォンとネルフィルターを使用します。ところがミネラルウオターは高いため,使用しているのは水道水となっています。

パンにはこだわりの高級品を使いますが,バターの代わりに業務用マーガリンを使用する,カップはウエッジ・ウッドにするといういうように自分本位あるいは趣味に近いこだわりということになります。本人は「男のこだわり」と言っていますが・・・。

味覚については自分でも自信をもっており,コーヒーの味から豆を当てることができます。妹のミユキによると密かにクラシフィカ・ドール(ブラジル国家検定で認定されるカップ・テイスター)をねらっているようです。

料理の腕は確かであり,若い頃は板前の修行をし,調理師免許ももっています。キューリの薄切り,大根のかつらむきなども包丁1本でこなします。

何事にも凝り性の性格であり,ミユキに「お兄ちゃんのいれた紅茶はおいしくないと」指摘されたときは紅茶教室に通って腕を磨きます。このような一つひとつの積み重ねが現在の「珈琲倶楽部」経営の基礎となっています。

紅茶教室通いの結果はミユキやケーコの「おいしい」あるいは「味も香もぜんぜんちゃうやん」という評価に結び付きます。しかし,リエの評価は「わからん」であり,喫茶店従業員としては特訓が必要なレベルです。

客商売ということもあり匂いには敏感であり,「珈琲倶楽部」では匂いのするお茶やコロンなどは禁止しています。また,ミユキがカモミールに凝ったときなどはカモミールのお茶に対して「フロの味がする」と酷評しています。

また,リエとケーコがまかないでお好み焼きを作ったときもソースの匂いがきついので禁止しています。ミユキが推薦したミントティーも「歯を磨いているようだ」ということで却下します。

優しい性格であり,女性に対しては自分からアプローチすることがないため,女性には縁のない暮らしが続いています。その一方で,ホワイトデーのクッキーに添えてリエには「おコメ券」,ケーコには「グリーン券」を手渡す気配りももっています。

ケーコやリエが病気で休む時はしばしば(一人暮らしの女性の部屋に)料理を届けています。社会的にみると危ないと心配される状況ですが,マスターに限って回りは誰も心配しません。ミユキも「あははは,大丈夫よ お兄ちゃんってただの世話やきたがりだもん」と安全宣言を出しています。

リエなどは自分の部屋でゴキブリが出たという理由でミユキが不在の石和家に平気で泊りに来るように男性としては意識されていないようです。

マスターの家でクリスマスパーティを開いたとき,シャンパンに酔って横になったリエが「う・・・うん・・・マスター」とつぶやきます。しかし,その後の言葉は「お腹すいたよ マスター」ですから,どこまでいっても色気のない話しになります。

その一方で,彼のやさしさは同性には魅力的なもののようで,フェニックスのママ(元男のニューハーフ)などは彼に首ったけです。フェニックスのママが風邪気味の時などが風に効く特性の「はちみつレモン」を出してあげたため,「マスター大好き」と抱きつかれます。

しばしばコーヒーを飲みに来るママに対してリエが「ここのコーヒーがお気に入りなの」とたずねると,「ううん,お気に入りはマスターなの」と返され,ノーマルのマスターは「ぞ〜〜〜〜〜」とし,リエは「あはは」と乾いた笑いとなります。

作品中では周囲の人たちから30代半ばに見られ,リエからは「おじさんはパス」と言われ,反論することになります。あるときリエがフェニックスのママからマスターの年齢について質問され30歳と答えています。一緒にいた山形は「じゃあ,フェニックスのママと一緒だ」とばらしてしまい,マスターとリエは大いに驚くことになります。

作品中では寝ている間にミユキにヒゲを剃り落されてしまう話があり,リエの反応は「かわいい」であり,フェニックスのママには「違うわ,こんなのマスターじゃないわ!」と嘆かれます。

「珈琲倶楽部」命とするほど仕事好きであり,正月に店を開けることもあります。5月の連休は当然無しであり,それを聞いたリエは唖然とし,ケーコは「それだからバイトが長く続かへんのや」とつぶやきます。

お盆休みも営業します。近所の会社は休業ですのでお客は少なく閑散としています。リエが「なんでうちは休まないのさ」とたずねると,「どーせ家にいてもすることねーもん」という答えでした。こうなると仕事好きというより仕事中毒に近い状況です。

正月が休みのときは家でおせち料理を作り,ミユキ,ケーコ,リエにふるまうことが多いようです。ケーコはともかくミユキとリエは食べる方が専門です。リエなどは上げ膳,据え膳のいい身分の生活になれてしまい,仕事の復帰がままなりません。

ミユキ,リエ,ケーコと一緒の初めての沖縄旅行ですっかりハマってしまい,あの仕事好きのマスターがしばらく「ボ〜〜〜」としている状態です。東京から2時間半で行けるようになっても,そう簡単には店を休めませんのでマスターの悩みは深まります。この状況は作者の沖縄好きがそのまま出ているようです。


登場人物|リエ

「リエ」は物語が始まる頃には「珈琲倶楽部」に勤め出して1年未満であり非正規従業員という設定になっています。リエがお腹をすかせ「珈琲倶楽部」でピザトーストを食べたときそのおいしさに感激します。ちょうどそのときミユキが「バイト募集」のチラシのできをマスターに相談しに来ましたので,そのままバイト生活に入ります。

作品中では姓はしばらく出てきませんでしたが,寝坊したときマスターからかかってきた電話に「はい足立です」と答えています。

ケーコと同じフルタイムで働いており,手取りは15万円ほどですが,家賃と食費にとても費用がかかるので,しょっちゅうマスターに借金をする場面が出てきます。

「珈琲倶楽部」の改装を機に正規従業員になりますが,遅刻やさぼり休みが多いため固定給ではなく歩合制となっています。「トラブルカフェ!」の主役だけあって,登場人物の中ではもっともそそっかしいところが強調されており,しょっちゅうカップや食器を破損し店に大きな損害をもたらしています。

この損害がすべてリエの給料から差し引かれているかどうかは不明です。ある月の給料がふだんより多いのでリエは『もしかして賃金アップ』とマスターに感謝のまなざしを向けますが,マスターは「今月は一つも割らなかったしな〜」とあっさりしたものです。

商品に対する知識はかなり低レベルで,「オレンジ・ペコ」をオレンジ風味の紅茶と考えていたり,コーヒーの「フレンチ・ロースト」はフランス産の豆を使用しているのではなどと発言し,マスターやミユキにあきれられたりもします。

食べるのは大好きでも味覚についてもかなり怪しいところがあります。マスターの料理はおいしいと正しく評価できるのですが,誤ってマヨネーズをかけたバナナを「あんがいいけるよ」となどと発言しています。

また,「紅葉狩り」を紅葉の天ぷらを食べに行くことを誤解しているように,色気より食い気に支配されている性格です。山形が七輪を買ってきたときも,「これスイッチがないけれどどうやって火をつけるの?」と訊く天然ぶりです。

その一方でマスターの家でミレニアム・パーティを開いたとき,山形がもってきた「ドン・ペリ」を見て,「あ! これおいしーんだよね!」などと口走り,いったいどういう育ち方をしたのか周囲の注目を浴びます。

ミユキの誕生日にマスターが「焼肉でもいくか」と言うとミユキは「フグがいいな」と返します。マスターが「そんな金あるか」と拒否すると,リエは「フグかー あっさりしすぎててイマイチだよねーあれ」と発言し周囲から「リエちゃんって何者」といぶかしがられます。

お正月にはしばしばマスターの家に泊まり込みます。このとき三食ともマスターの手料理をいただき「やっぱ マスターの作った料理っておいしいー」と感想を述べます。ミユキが「そんなに気に入ったんなら 石和リエになっちゃえば」と水を向けると,「えっ 養子」とそこでも天然ぶりを発揮します。

大食いのためしばしば体重計に乗ってなげくことがあります。食費がかさんで服にかけるお金はほとんど残りません。結婚式に着ていく服をミユキから借りたときは胸がきついことが分かり,ミユキはリエのプロポーションのよさにショックを受けます。

気が短く口より先に手が出る性格であり,第1回で早くもおさわりをした山形さんにパンチを見舞っています。その後も常連さんのおさわりが発生し,あわやというところでマスターとケーコがリエを押さえて事なきを得ています。

アパートにはほとんど家具はなく,話しが進んでから食料品を入れるための大きな冷蔵庫を買いたいということになります。大食いのリエですから,さぞかし料理のレパートリーが広いと思われがちですが,女ともだちが遊びに来た時に出したものはサンドイッチ,グラタンといった店のメニューでした。普段もコンビニ弁当という発言もあり,大きな冷蔵庫はなんのためとツッコミを入れられそうです。

「家に帰りたくない」などとつぶやきマスターをどきどきさせます。その真相は掃除はきらいで洗面所にカビを発生させ耐えられないというオチがついています。

太郎くん(店で使用するゴキブリの隠語)だけは大の苦手にしています。店でも掃除嫌いは同じですが,マスターの「太郎ちゃんも出にくい」の一言でやる気を出します。

5月にすっぴんでいるリエに対してフェニックスのママが「5月は紫外線が強いのよ。そんなことじゃ,いい女になれないわよ!」と言われます。これを聞いていたマスターはぼそりと「いい女よりいい店員になってくれ」とつぶやきます。

あるときリエのまわりで何かが匂います。マスターは「風呂に入っているのか」とたずねますが,答えは「毎日」でした。ケーコはリエの回りをかいで「エプロンいつ洗った」とたずねると,答えは「えーと 3か月前」という答えでした。 マスターをおじさん扱いすることもありますが,宴会が苦手で外で一人で飲むマスターに対して気を利かせて酒を届けるこまやかな一面ももっています。


登場人物|ケーコ

正規従業員の「ケーコ」はもう4年以上「珈琲倶楽部」で働いており,仕事はそつなくこなします。マスターが出前で不在の時なども客のオーダーに応えることができます。

ただし,その4年間でサイフォンを37個も壊している,値段の高いカップを割るなど失敗が話しのネタになっています。作品のタイトルが「トラブルカフェ!」ですから,これは仕方がありませんね。

地味な服装で化粧も髪型にもそれほどこだわっていないようですが,ある日ケーコが遅刻してきて,マスターが「朝食がまだだろうから何か作って食べろ」とやさしい言葉をかけます。ケーコが「朝食どころか化粧すらしてへんね」と返すと,マスターは「そうか? 変わんねーぞ」と言ったためげんこつをくらわすことになります。ケーコの女心は複雑のようです。

実家が京都のため京都弁を操る謎の多い女性であり,作品中では「男いらんわ,もうこりごり」という本人談があります。「もうこりごり」の理由は巻が進むと明らかにされます。

山形の依頼でリエがケーコの理想の男性についてたずねると,「優柔不断やなくて,人の気持ちを踏みにじらなくて裏切らない人」という答えが返ってきます。

そのような山形にもケーコはちゃんとバレンタインのチョコを送ります。感激した山形が「今度食事でもどう」と誘うと,「ううん,山形さんがお店に来てくれたらええのよ」と返します。マスターは「プロだ・・・」とつぶやきます。

商店街の通りで「カーノジョ お茶しない?」とナンパしている若い男性に対して「カーレシ お茶せーへん?」と誘い,「珈琲倶楽部」に連れてきて,お客にしてしまうという勧誘もしています。

メガネをかけて比較的地味な服装のケーコもかっては派手な化粧とパンクファッションでロックバンドの追っかけをしていたこともあります。その一方で,店に置かれている小さな神棚について「日本人の心やんか」などとも発言をする不思議な女性です。

常連の山形に言い寄られますが,いつも営業用スマイルでやり過ごします。おさわりをされたときにも「いややわ,山形さん」と軽く抗議をするだけですが,出されたサンドイッチを口にした山形は火を噴くことになります。

懲りずに触り続ける山形に業を煮やしたケーコは山形の伝票に「さわり賃5万円也」と書き足すことになります。残念ながらこれで山形のおさわりがが無くなったわけではありません。

特技は植物を育てることであり,アパートの部屋は株分けした植物でいっぱいです。そのうち「珈琲倶楽部」のグリーンも任されるようになり,鉢植えの植え替え,根の手入れ,土への有機肥料やりと小まめに手入れします。リエに「男にもそんなにマメなの?」とたずねられ,「昔はね」とつぶやきます。もっとも現在は「男は面倒」ということになっています。

環境保護派でありコーヒーフィルターは無漂白,環境ホルモンの出ないラップ材,生ごみはコンポストに入れて有機肥料にするなどと徹底しています。環境にはとてもやさしいケーコですがなぜか山形にはやさしくありません。

アルコールに強く,しかも高い酒ばかりを飲むのでマスターはうわばみと怖れています。給料についてはふだんはほとんど不満を口にしませんが,さりげなく転職情報誌を置いて帰りマスターにプレッシャーをかける知恵ものです。

意外な趣味として競馬があります。場外馬券場で馬券を買ったときなどは就業時間中にもかかわらず,こっそりラジオで「4-6いけ 4-6」と熱中します。


登場人物|ミユキ

マスターの妹の「ミユキ」は24歳の会社員ですが「珈琲倶楽部」の総務と経理を担当しています。本人いわく「あたしがいなかったら3ヶ月でこの店はつぶれる」とのことです。少なくとも「珈琲倶楽部」の面々にとっては気が利くし,美人であり,その辺の男より仕事はできるという評価です。

ただし,家事に関してはまったくやる気がないようです。石和家の生活はマスターが朝7時に起きて洗濯を始め,朝食の支度をし,二人で朝食を取り,掃除をして洗濯物を干し,10時に店に出ます。夕食もマスターが支度し,ミユキは後片づけだけはしているようです。

クリスマス時の店の飾りつけは器用にこなしますので不器用ということはありませんので,単なる家事嫌いのようです。ご近所から魚のおすそ分けを頂いたときなどはウロコもワタも取らずに焼こうとしてマスターをあわてさせます。

マスターに言わせると「ミユキが嫁ぐまでは安心して結婚できない」ということになりますが,本人に言わせると「お兄ちゃんが結婚してくれなきゃ一人暮らしもできない」ということになります。

家には月に3万円を入れ,習い事もしていませんので月に10万円くらいは貯金に回してます。そのため兄よりも貯金は多く,シングル女性向けのマンションの広告を見ながら「買っちゃおうかな」なとどあっさり言い出します。しかし,マスターは「料理ができるようになるまでは一人暮らしはさせん」と厳しい条件を出しています。

兄との関係はときどきお互いに反発しあうものの悪くはありません。みゆきが小学1年生の頃には「わたしはおにいちゃんがだいすきです」という内容の作文を書いています。みゆきの小学校時代の作文はマスターが「珈琲倶楽部」の事務所の段ボールに密かに保管しています。

経理担当だけあってコスト意識は高く,マスターの男のこだわりとはしばしば対立することになります。マスターが「水出しコーヒー」を始めようかと提案した時,抽出器具の高さに「お兄ちゃんの趣味の店じゃないのよ!」と却下します。

兄に似て飲み物,食べ物の良さをちゃんと評価することができる味覚をもっています。ダージリンの紅茶を飲むときなどは「ダージリン その香は 紅茶のシャンパンといわれるほどうるわしい」というテキストが背景に記されています。同じ紅茶をリエもいただきますが,こちらは「焼き芋と紅茶ってあうね!」という反応です。

好みはカッコイイ男性でであることです。しかし,その願いはなかなか叶いません。あるとき「珈琲倶楽部」にサングラスをかけたちょっと苦み走った男性客が入ってきました。ミユキの評価は「ちょっと渋いじゃない」ですが,これが山形でした。ミユキは山形のことをちょっといい男だと思った自分に驚きます。

ミユキがが拾ってきた生まれて間もない仔猫は山形が引き取ることになります。猫好きの山形でも仕事が忙しいときなどは二匹の猫のいさかいなどで大変な状態になります。拾ってきた手前,ミユキは山形のところで子猫と遊ぶことにします。ところが,そのまま寝込んでしまい気が付いたらもう朝です。ミユキは「友だちのところでおしゃべりをしてそのまま・・・」という嘘をつくことになります。

このあたりからミユキは精神的に山形と近くなっていきます。ある日,会社の帰りに気分の悪くなったミユキは山形におぶさって自宅に連れていってもらいます。

その次のバレンタインデーに合わせてミユキは生チョコレートケーキを作ります。このケーキは誰にあげたのでしょうか。1月後のお返しはハート形の高級牛肉でした。このセンスの悪い送り主は誰なのでしょう。マスターは心配事が増えます。

フェニックスのママは目ざとく「あれは恋をしている目よ」と看破します。ミユキは「珈琲倶楽部」の花見にも友達と約束があるからパスとつれない返事です。花見ではミユキのことが話題となり,ケーコはあっさり「オトコできたんとちゃうか」と発言し,マスターの表情が険しくなります。


登場人物|山形

メガネっ子のケーコにさかんにモーションをかけますが,ケーコは「もう男はこりごり」ということであっさり振られ続けます。登場からしばらくは職業不詳であり,ひんぱんに「珈琲倶楽部」に出入りする謎の常連ということになります。

バレンタインのチョコで大感激させられたので,ホワイトデーに「何がいい」とたずねると,「いややなー うちと山形さんの仲やんか 物なんていいのよ」と返され,されに感激します。ケーコは「その代り店手伝って」と続け,気の毒にも1週間手伝うことになります。

ケーコの弱点はまったくつかんでいない山形ですが,マスターの弱みは熟知しており,大吟醸を持って従業員のお花見に参加します。「今日は従業員の花見だから帰った帰った」というマスターは大吟醸を見てころっと態度を変えます。

リエやケーコのちょっとした変化もちゃんと見抜くマメさと観察眼をもっています。マスターに「よくそんなこまかいことに気が付くな」と言われ,「女の変化をのがしていたらもてないぜ」と返します。しかし,ケーコが「でも,どっちも独身やね」とつぶやかれることになります。このような一言が「寸鉄人をさす」というのでしょう。

リエが別の喫茶店で山形が妙齢の女性と話しているところを目撃します。リエが山形に昨日のことをたずねると「あれは仕事先の女性だよ」という答えです。リエとケーコは「山形さんって仕事していたの」と驚くことになります。ただし,仕事の内容については「ヒ・ミ・ツ」ということに留まります。

ときには「珈琲倶楽部」で山形がケーコにモーションをかけていると,「山形センセー,またこんなところで油を売って」と妙齢の女性が入ってきて,山形をひきずっていきます。

年末にも同じようなことがあります。このとき山形は「はあ〜疲れた 年末進行だから」とマスターに話しており,そこにくだんの女性がやってきて「山形センセ またここでさぼっている」と迎えにきます。このあたりで山形の職業が想像できるようになります。

夏祭りにリエとケーコが浴衣姿で出かけることになり,リエはケーコのメガネをとり,髪型と化粧をを変えます。にわかに色っぽくなったケーコにリエとマスターは驚き,やってきた山形はケーコの手を引いてデートということになります。周囲が見えなくなるとケーコも抵抗できないようです。これが作品中で唯一の山形とケーコのデートいうことになります。

フラフラしているふだんの態度にもかかわらず,リエが外国人に道を聞かれて呆然としているときには「Can I help you?」と助け舟を出し,リエを驚かすとともに,ケーコからは「あなどれんおやじや」という評価をもらいます。

山形の年齢はずっと不詳でしたがフェニックスのママ(6歳)と一緒に写っている写真があり,ママより12歳年上ということが分かります。現在,フェニックスのママはマスターと同じ30歳という設定です。

幼なじみのフェニックスのママの発言から名前は「智己」であること,職業はまんが家それも乙女チックな少女漫画家であることが明らかにされます。そうなると,ときどき「珈琲倶楽部」に呼びに来ていた女性は担当編集者ということになります。

意外な側面として「猫好き」なところがあげられます。リエが拾ってきた子猫を育てることになり,すっかり猫バカになってしまいます。さらに,ミユキが拾ってきた生まれて間もない子猫も引き取ることになります。

山形の家は両親の家です。両親はオーストラリアで悠々自適の生活を送っていますので,この広い家に一人で暮らしています。そこには猫の部屋もあります。


大団円

第8巻の花見には妙齢で料理好きの常連客の瀬名さんも参加しており,料理の話で盛り上がる二人をリエが所在なさげに眺めています。このあたりでリエもマスターをエサをくれる親鳥から別の見方が生まれて来たようです。

そんなとき,ケーコがかって結婚していたことを知り,リエも結婚を現実のものとして考えるようになります。とある夏の日曜日に山形がマスターを訪ねてきます。そしてミユキと結婚したいと切り出します。

マスターが「それにしても急だな」と返すと,ミユキは「子どもができたの」と発言し,マスターは山形を殴りつけます。

翌日からの「珈琲倶楽部」の雰囲気はお世辞にも良いとは言えない状況です。営業が終わったあとリエはマスターを慰めようとし,マスターはリエを抱きしめます。

マスターも妹の結婚は許すしかありません。リエもストレートにマスターに愛を告白し,マスターも好きだよと返します。

それから4年が経過し山形夫妻にはミサキが,マスターとリエの間にも子どもができたようです。ケーコは自分の店を出すため「珈琲倶楽部」を離れました。「珈琲倶楽部」の窓には「アルバイト募集」の張り紙があり,新しい応募者が訪ねてくるところで物語は終わります。


コーヒーをおいしく淹れるには

「珈琲倶楽部」のコーヒーはサイフォンとネルドリップの組み合わせで抽出されます。コーヒーサイフォンとは上下に2つの耐熱ガラス容器をもち,その間にフィルターが取り付けられ,グラインドされたコーヒー豆はその上に入れられます。一見して実験器具のような形状をしており,上下の容器はガラスのパイプでつながっています。

下の容器に水を入れアルコールランプなどで加熱すると沸騰した水蒸気はガラス管を通って上の容器に移動します。このとき水蒸気はコーヒー豆の粉を蒸し,さらに熱湯に変化してコーヒーを抽出します。下の容器の加熱を中断すると下の容器の圧力は下がり,ネルフィルターを経由して抽出されたコーヒーが下に落ちます。

サイフォンを使用したコーヒーは時間がかかるのが難点であり,作品中でもコーヒーがテーブルに届くまでが遅いという客の声が載せられています。それでも,コーヒー通の間では「ネルドリップはおいしいコーヒーを淹れるための最高の抽出方法である」という評価が定着しているようです。

現在では使い捨てのペーパーフィルターが主流となっています。というのは,ネルフィルターは抽出後はお湯で煮沸するなどして,コーヒーかすを完全に取り去るように丁寧に洗ってから,新鮮な水を張った容器に浸して冷蔵庫で保存します。使用しなくても水は毎日取り替える手間が必要です。この手間がネルフィルターが敬遠される大きな理由となっています。

ネルとは「フランネル」と呼ばれる織物の別称であり,コーヒーフィルターと使用されているものは布の片面が起毛しています。通常,起毛面は上向きにセットされます。こうすると,繊維(毛足)がコーヒーの微粒子を先端で捉えて布目に詰まるのをさえぎり,より理想的なろ過が行えます。

デメリットは起毛に付着した微粒子が洗いにくいことおよび連続使用すると洗浄によって起毛が減ってフィルターの寿命が早まることになります。このように起毛面でコーヒーの微粒子を捉える働きにより,ネルフィルターによる抽出は「最高の抽出方法」という評価が得られています。


名古屋めし

第4巻の巻末には作者と編集担当者が名古屋に名古屋めしの取材に行った時のことが記されています。取材の対象となったものは次の通りです。
(1)コーヒーのモーニングサービス
(2)コーヒーのお菓子のセット
(3)味噌煮込みうどん
(4)あんトースト
(5)天むす

2015年7月17日に放送されたNHKの新日本風土記「名古屋めし」で紹介されたことが頭に残っており,この巻末の名古屋めし取材をおもしろく読み返しました。

名古屋の食べ物で欠かせないものは何といっても「豆味噌」でしょう。赤みそあるいは八丁味噌とも呼ばれます。

味噌は日本人にとっては欠かすことのできない食品ですが,東海地域の「豆味噌」に対して東日本は「米味噌」,九州は「麦味噌」というように地域によって製造方法が異なります。もちろん製造方法により味噌の味も異なっており,それらを混ぜ合わせることにより新しい味覚を生むこともできます。

味噌の主要な材料は大豆であり,これに麹や塩を混ぜ合わせ,発酵させることによって大豆のタンパク質が消化しやすく分解されるとともに,旨み成分であるアミノ酸が大量に生み出されます。

先に上げた三種類の味噌の違いは麹の材料によります。「豆味噌」は蒸した大豆を砕き親指大のみそ玉にして麹菌と混ぜ合わせた豆麹を使用ます。大豆を蒸すのは大豆のもっている糖分やたんぱく質をそのまま完全に利用するためです。

「米味噌」や「麦味噌」に比べると糖分の含有量が少ないので甘みは少なく,渋みとうまみの強い味となります。熟成期間は「米味噌」や「麦味噌」が約1年間であるのに対して「豆味噌」は3年間を必要とします。

こうしてできた「豆味噌」は米麹を使用した赤味噌よりさらに赤みが強いものとなります。こくが強いため煮込んでも風味が失われないため,どてと呼ばれる大なべで串に刺したブタの内臓の煮込み料理にはうってつけです。また,串カツをその中につけてソースのようにつけるみそカツもあります。

煮込んでも風味が失われない特徴は煮込みうどんにも使用されています。煮込みうどんは生めんを具材とともにそのまま土鍋に入れて煮込みますので芯が残ります。初めて名古屋の煮込みうどんを食べた客からは「生煮えだ」という声が多く寄せられるそうです。

私などは名古屋といえば「きしめん」という先入観がありますが,現在では「煮込みうどん」が多数派になっています。豆味噌は発酵により大豆の栄養素が消化しやすい形となっていますので,戦国時代には戦時携行食として徳川家康が広めたと言われています。

名古屋というと派手な結婚式が地域の特徴となっていますが,ふだんは節約志向が強いのか,コーヒーのモーニングセット発祥の地としても知られています。モーニングセットは関東での呼称であり,名古屋では朝のコーヒーにはトーストやゆで卵が付いてくるのは当たり前という感覚です。

中には常連のためにコーヒーの回数券件(もちろんモーニングセットです)を出している店もあります。そこではボトルキープならぬ回数券キープがあり,お金を持たずにやってきて回数券で清算する仕組みもあります。

巻末付録に登場する「天むす」とはエビフライとおにぎり融合したユニークな食べ物です。これは札幌のデパ地下にまで進出しています。エビフライが特異なところで活躍する例として,名古屋にはエビフライサンドイッチがあるそうです。

私は名古屋めしを食べたことはありませんが,これだけユニークな食べ物を楽しめるのであれば,名古屋めし旅行もいいかななどと考えています。