私的漫画世界
ストーリーはありませんが達者な絵が楽しめます
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冨明仁

「冨明仁」に関してはまったく情報がありません。出版されている単行本でもっとも古いものが「玲瓏館健在なりや」であり,執筆時期は2009年6月(Fellows! Vol.5)から2011年8月(Fellows! Vol.18)です。

それ以前の作品はネット上にも痕跡が見つかりません。「玲瓏館健在なりや」以降に出版された作品は「柔らかい女」「艶やかな女」「ストラヴァガンツァ-異彩の姫(2011年6月から連載中)」となっています。出版はいずれも「Beam Comics」となっています。

「玲瓏館健在なりや」は装丁の良さで買ってしまいました。中を読んでみるとカバーに居ない人物が主人公となっており,ちょっと驚きです。白居君は玲瓏館の高尚な雰囲気にはそぐわないということなのでしょう。

玲瓏館は資産家の杜若家が所有する大きな洋館であり,敷地面積は6000坪(2ha)もあります。広い庭には森や池もあります。この豪邸がなぜか学生寮になっているという設定です。

寮監の杜若容子は玲瓏館を学生寮として続けたいと願っていますが,杜若家は借金がかさむようになり,1年後には取り壊して商業地にする計画です。2haの敷地面積は六本木ヒルズとほぼ同等であり,都心であれば巨大な再開発プロジェクトとなります。

閉鎖を1年後に控えた玲瓏館に新寮生の白居玄太が入ってきたときから物語りは始まります。とはいうものの,14話からなるエピソードは絵を描くためのものであり,ストーリーとのバランスは釣り合っていません。

人物や建物の背景にも手を抜かない描画をアシスタントなしで仕上げているという情報がネット上に記されています。確かにこれだけの絵を描くのは大変な苦労だということは理解しますが,このまでは色っぽい絵の漫画家という評価で終わってしまいます。達者な絵に負けない物語性を磨いていただきたいものです。

ということで,作品の感想に代えて登場人物の紹介でお茶をにごすことにします。


白居玄太

実家は白居工務店を経営している。祖父,父母,妹の5人家族。祖父は引退し,古参の松永を中心に母親が会社を経営している。入り婿の父親はサラリーマンをしており,現在は単身赴任中である。

玲瓏館に入寮した時,高校時代からの彼女である綾乃と付き合っているが,美琴から求愛され一方的に交際を解消する。美琴を家族に紹介し,同棲するため玲瓏館を一緒に出る。

根っからの味音痴であり,他の人は恍惚のあまり失神し,記憶を失う美琴の料理をおいしいと言いながら食べることができる。簡単にいうと味音痴というよりは味覚の感度が普通の人より相当低いので,美琴の料理で恍惚となることはない。20年後には白居工務店を受け継ぎ,玲瓏館を再建する。


橙山葉介

玲瓏館の住人,玄太と同室であり,寮監の杜若容子一途である。美琴が玄太に夜這いをかけたときなどは上段のベッドとで悶々としていた。玄太の料理が天才的にまずいことに最初に気が付く。

20年後には容子は双子の男女の母親になっており,長男の顔が葉介に似ているので,どうやら容子と結婚したようだ。


杜若容子

玲瓏館を所有している杜若(かきつばた)家の令嬢,学生寮としての玲瓏館と寮監としての仕事をこよなく愛している。実家が玲瓏館の土地を売却することになり,1年後に玲瓏館が取り壊されることを深く悲しむ。

寮監としての仕事に加え,傷んだ箇所の修繕も手掛けており,漏水で屋根にあがることもあれば,隣り合った居室の壁をレンガでふさぐ工事も自分でしている。

叔母の藤子がときどき容子と同じ服装,同じ髪型で現れ,後姿から呼びかけられると振り向き,寮生にショックを与える。

20年後には2児の母親となっており,学生寮として再建された玲瓏館の寮監として迎えられる。


紅野美琴

玲瓏館の住人,整理整頓が苦手でありいつも翠に迷惑をかけている。しかし,料理の腕前は天才的であり,彼女の料理をたべた普通の味覚の持ち主は恍惚のあまり失神し,その日の記憶を失う。

玲瓏館では味覚の感度が鈍い玄太だけは美琴の料理を「おいしく」いただくことができる。もう他の人に自分の料理を食べてもらえないのかと思っていたので,玄太のことを王子様と言って抱きつく。自分の料理を自分で食べたらどうなるかは触れられていない。

その後は寝静まった頃に隣室の玄太の部屋に部屋に夜這い(たんに同じベッドで眠るだけ)をかけるようになり,最終的には玄太と一緒に玲瓏館を出ることになる。20年後には玄太とともに登場するが家庭をもったかについては描かれていない。


夏川翠

玲瓏館の住人,東都大学のチアリーディング部に所属している。大学は違うが美琴とよく一緒に行動している。美琴の保護者のようにふるまっているが,美琴が玄太にぞっこんとなり,彼女を奪われたように気持ちなっている


時丸

玲瓏館の住人,厚いビン底メガネをかけている。日中は最上部(あるいは屋根裏)の書庫で過ごすことが多い。

20年後には映画監督となっており,玲瓏館の思い出をもとに清耀館を舞台にした「キッスの館」の映画を手がける。20年後に再建された玲瓏館を偶然見つけ,建築を手がけている玄太と再会する。


湊 爽也

玲瓏館の住人,芸術家の卵であり卒業後は交換留学生としてベルリンに向かう。ほとんどエピソードがなく,創作意欲が充実しているとき,食堂に降りてきて,葉介の紅茶を飲み干し,容子の手作りのおにぎりを堂々と食べてしまい葉介のひんしゅくを買う。それでも玲瓏館を出るときは「玲瓏館で暮らせてよかったです ありがとうございました」と丁寧にあいさつし,容子を感激させる。


桃香

玲瓏館の住人,資産家の令嬢であり,桶のような形をした古い檜の風呂を壊してしまい,実家から職人を呼んで居住者や寮監には内緒でジャグジーの新しい檜風呂を寄贈する。玲瓏館の風呂が壊れているときは銭湯に行き,その見事なプロポーションに番台のおじいさんが見とれる。

20年後には施工主として学生寮としての玲瓏館を再建し,容子を寮監として迎える。再建された玲瓏館では往時の寮生を集めて時丸監督の映画の試写会を行う。


星野鈴

玲瓏館の住人,男性と交際したことはない。暗いのを苦手にしている。中学生の家庭教師をしており,停電の時にはうろたえてしまい,彼からは守ってあげたい存在として見られている。


マコ

玲瓏館の住人,童顔の変わり者の女性。玄太が入寮した時,自己紹介をさせて「一芸を披露して」と迫る。芸を終えた玄太が名前を聞くと「残念,タイムアップ」と答えた。作品中では出番が少なく,玄太と出会うシーンと銭湯以外では目立っていない。


茶谷

容子が小さい頃に屋敷に出入りしていた(と思われる)建築家。西洋建築に造形があり,玲瓏館をそのまま歴史的な建物として保存することを提案し,使われない建物にはしたくないという容子と意見が対立する。


綾乃

玄太の高校時代からの彼女,玄太から一方的に別れることを宣言されて喫茶店を飛び出す。落ち度はないのにふられるためだけに登場する気の毒なキャラクターである。