私的漫画世界
少年誌に初めて「恋愛」を持ち込んだ記念碑的作品
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柳沢きみお

柳沢きみおは(1948年生)は新潟県出身であり,高校卒業まで新潟県で過ごしています。小さいころからなぜか漫画家になると決めており,和光大学芸術学科に入学します。しかし,在学中から雑誌編集部に原稿を持ち込んでおり,学業の方は1年ほどしか続きませんでした。

学校に行かなくなった理由は絵以外にも一般教養や外国語の授業があったからと記しています。学業放棄は実家にも知られるようになり,父親が上京し話し合いになります。父親は「大学を中退して漫画家を目指すのも良いだろう」と理解を示してくれました。

こうして大学は中退し本格的に漫画家を目指しますが,なかなかイバラの道だったようです。少年ジャンプ編集部への持ち込み原稿は没が続き,ようやく「ズンバラビン」で2回連載のチャンスをもらいましたが,人気は最下位に近いものでした。

アルバイトをしながら原稿の持ち込みを続け,24歳の時に「いい湯だな」が月刊ジャンプに連載されます。この前後に「とりいかずよし」のアシスタントとなります。「とりいかずよし」は「赤塚不二夫」門下ですので,柳沢きみおは「赤塚不二夫」の孫弟子ということになります。

アシスタントは「女だらけ」が週刊ジャンプに連載されるまでの1年間続いています。しかし,それら2作の連載が終了し,次作が打ち切りになったところで自らジャンプの専属契約を解除します。

次がダメなら田舎に帰る覚悟でしたが「月とスッポン」(少年チャンピオン)が1976年から足かけ6年の連載となります。さらに,1977年からは「すくらんぶるエッグ」(少年キング),1978年からは「翔んだカップル」(少年マガジン)の連載が始まり大変な忙しさとなります。

この時期は柳沢きみおの黄金期であり,「翔んだカップル」はギャグ漫画路線からストーリー漫画への大きな転換点となっています。しかし,「翔んだカップル」後半の重くて暗い雰囲気が作風として持続することになり,少年マガジンの次作となる「朱に赤」につながります。その後は青年誌に活動の場を移すものの人気は低迷します。

「翔んだカップル」の特異性

「翔んだカップル」はその当時の少年漫画では特異な作品です。連載当初はラブ・コメディに近いものでしたが,回が進むにつれてシリアスな恋愛漫画となっていきます。この種の作品は少年誌では一種のタブーとなっており,「翔んだカップル」以前に取り上げた事例は記憶にありません。

「翔んだカップル」の連載が始まった頃の少年マガジンと少年サンデーの連載作品をリストすると下表のようになります。どちらも男の世界がメインテーマとなっており,恋愛作品は異色の存在です。その意味では少年誌における表現の幅を広げた記念碑的作品ということができ,1979年に第3回講談社漫画賞を受賞しています。

少年マガジン1978年7月

多羅尾伴内
無用ノ介
フットボール鷹
釣りキチ三平
未来人カオス
青春山脈
Queenエメラルダス
四角いジャングル
翔んだカップル
うわさの天海
手天童子

小池一夫,石森章太郎
さいとう・たかお
川崎のぼる
矢口高雄
手塚治虫
梶原一騎,かざま鋭二
松本零士
梶原一騎,中城健
柳沢きみお
とりいかずよし
永井豪


少年サンデー1979年1月

二人のショーグン
がんばれ元気
まことちゃん
ズウ
男組
赤いペガサス
おやこ刑事
スペオペ宙学
ヒットエンドラン
ダメおやじ
サバイバル

手塚治虫
小山ゆう
楳図かずお
小池一夫,やまさき拓味
雁屋哲,池上遼一
村上もとか
林律雄,大島やすいち
永井豪
あや秀夫
古谷三敏
さいとう・たかを


硬派路線を走っていた少年マガジンに連載された「翔んだカップル」は編集部の期待を大きく裏切る人気作品となります。連載が開始されのは1978年(昭和53年)の17号ですが,33号では雑誌の表紙に採用されています。

単行本は10話で1冊となっていますので第2巻の中ごろにはトップに近い人気が出てきたようです。この作品は何回も表紙絵に採用されており,少年マガジンだけではなく,他誌の編集方針も変えるほどのインパクトをもっていました。

「翔んだカップル」の特異性は物語が進行するにつれて深化していきます。当初は「すくらんぶるエッグ」と同様に一人暮らしの主人公のところにいろんな男女が同居するというラブ・コメディの形をもっていましたが,中山の死,杉村との同棲など話はどんどんシリアスな方向に展開していきます。

少年誌に恋愛を持ち込むだけでも事件だったのですから,このようなシリアスな物語は当時の読者にとっては衝撃的でした。私は作者と同年代ですから,この頃は社会人になってから10年近く経っており,漫画雑誌をリアルタイムで読むことはなくなりましたが,この作品は定期的に買っていました。

結局,最終巻まで収集することになりましたが,話がすれ違いドラマのように引き伸ばされていることに嫌気がさし,いったん手放してしまいました。その後,古本屋でたまたま見つけた全巻セットを購入するというちぐはぐな対応をすることになりました。

それににても,明るいギャグ路線でやってきた作者がどうしてこのような暗い方向に話をもっていたのかは気になるところです。

「翔んだカップル」の次の作品である「朱に赤」では主人公が人生のレールから転落してしまう破滅型のものとなっており,その救いは作品中には示されないという,ひたすら暗いものに終始しています。

作者は自分史の中で「この作品を書いていた時期はスランプであり精神にも変調をきたしていた思い出したくもない駄作である」と公表しています。(wikipedia)

個人的な推測としては物語性をそれほど要求されないギャグ漫画で育ってきた作者が恋愛を基軸としたストーリー漫画を手がけるようになり,悩みながらも明るく真っ直ぐ伸びていくヒーロー型の主人公ではなく,等身大の高校生を描こうととしたところにその要因がありそうです。

普通の高校生では恋愛や人間関係に未熟であり,思いやりのあるスポーツマンタイプの勇介に優柔不断,自堕落の一面をもっていてもなんら不思議はありません。言い寄ってくる女子生徒に受け身の形で付き合うことも優しさの裏返しに過ぎません。

そのような展開は現実にはあり得ないようなヒーロー型の人間像よりずっとリアルな姿です。良くても悪くても作者は人間のもっている多面性を是認しており,人間のどうしようもない一面も含めて物語にしようとしているように見えます。

それにしても,高校生を主人公にしてこれほど深刻な話を展開するからには作者にとっても漫画家人生の座標をずらさなければならないような出来事か心の変化があったように感じられます。

高校生活の始まり

地方から名門の北条高校に入学した「田代勇介」は海外赴任で家を開ける叔父の家で留守番を兼ねて一人暮らしを始めます。空いている部屋の有効活用ということで,不動産屋に独身男性という条件を付けて下宿者を探してもらいます。

ところが,やってきたのは同じクラスの女子「山葉圭」でした。不動産屋の手違いなのですがすでに契約ができていますので圭はそのまま居つくことになります。こうして,奇妙な同居生活が始まります。

この同居生活は勇介にとっては天国でもあり,地獄でもありました。さらに,同居生活を知ったボクシング部の織田キャプテンの命令で圭の窓の下で見張っていた子分が痴漢と間違えられ,圭は勇介の部屋で寝ることにしました。勇介にとっては眠れぬ夜が続きます。

圭は洗濯ついでに勇介のものも一緒に洗ってしまい,照れ屋の勇介は姉さん女房のような圭のペースに太刀打ちできません。遊びに来た級友の中山に対して勇介は圭と同居していることをひた隠しにしますので,一悶着が起こります。

このあたりまでの勇介は完全な三枚目であり,「すくらんぶるエッグ」のあゆむと同様のキャラクターになっており,話の基調も完全なコメディです。

圭に一目惚れして同居生活が心配な織田キャプテンが荷物をもって泊まりにきます。勇介は自分の部屋を追い出され2階に移動させられます。この奇妙な三人生活では勇介は自分の居場所がありません。勇介はボクシングジムに入り密かに打倒織田キャプテンを目指します。

学校では学年一の秀才の「杉村秋美」が勇介に接近してきます。勇介は練習に励み,ある夜,織田キャプテンと衝突します。怒った織田のストレートに合わせ,勇介はカウンターパンチをあごに入れます。これが見事に決まり,織田はあごを骨折し,勇介は指を骨折します。この事件で織田は入院し,再び二人暮らしが始まります。中山は再び二人の仲を心配するようになります。

勇介と秋美の仲が急接近します

勇介は本屋で杉村秋美に会い,彼女のマンションに案内されます。彼女は姉と一緒のマンション暮らしでしたが姉が卒業したため一人暮らしです。制服から私服に着替えてきた秋美は普通の女の子であり,いっしゅんメガネを外すと美人です。

勇介は圭のいる家に帰りたくなくので公園のベンチに座っていると,圭とテニス部のキャプテン磯崎が並んで通ります。戻ってもすぐに外に出て,足は秋美のマンションに向いてしまいます。塾帰りの秋美と出会い彼女の部屋でワインを一杯飲みます。

そんなとき秋美が「一緒に住まない」と大胆な提案をします。酔いも手伝って勇介はOKを出します。しかし,勇介はそれほど度胸も決断力もなく,その日から一緒の生活とはなりません。

学校から勇介が家に戻ると圭の部屋に磯崎が上がり込んでおり,勇介は再び公園のベンチに座っているとコンタクト,ミニスカートの秋美が現れます。共同生活の意味を秋美が説明しますが,勇介はやめておくよと断ります。

勇介は優柔不断であり,何かに背中を押されないと行動に移せないようです。夜の8時に家に戻るとまだ磯崎がおり,勇介は再び秋美の部屋を訪ねます。秋美もちょっと勉強に飽きており歓迎されます。秋美は勇介に他の男子にはない生命力が感じられるといいます。そこに秋美は惹かれたようです。

秋美にキスをされ,勇介は秋美を抱きしめようとしますが,骨折した手の痛みで正気に戻り,部屋を出ます。このあたりが物語の転換点であり,話はだんだんシリアスな方向に向かいます。家に戻った勇介は翌日,遠足のお弁当の支度をする圭の姿に「おれはいま,彼女と杉村のどちらにほれてるんだろう・・・」と自問します。

遠足で勇介は秋美と一緒になり,「おれ,きみって人がよくわかんないよ・・・そのなんつ〜〜か・・・」と告げると秋美は「目に見えないワクみたいなものにガッチリしばられていると思わない」と返します。秋美は親や学校に反抗するのではなく,彼女の願望は見えないワクにしばられない生き方のようです。

実際,彼女は経済的に親から独立し,生活費を稼ぎながら東大に合格します。高校1年で自分の人生哲学をもち,それを実践するという,年齢に比してずっと精神的には成熟しています。その彼女が勇介との同棲を提案するのですから,人生は難しいですね。

圭の悩み

勇介と秋美の仲は自然と圭の知るところとなります。学校対抗戦で選手に選ばれた勇介は,ジムでの経験を思い出し,左フックの一発でKOを飾ります。部室から出てきた勇介を秋美が待っています。試合を見ていた秋美は勇介を見直したようです。

その夜,勇介は秋美の部屋で看病され,圭は勇介の帰りを待ちわびます。翌日,学校で圭は勇介の外泊についてたずねますが,勇介はさすがに素直に答えられません。圭は暗澹たる気持ちになり,磯崎が急にわずらわしくなります。勇介も圭も自分の気持ちを整理するのが苦手なようですし,自分の気持ちに素直になることも苦手なようです。

圭は戻ってこない勇介を心配して中山に電話します。中山は杉村の部屋を訪ね,二人が一緒にいることを確認し,圭に伝えようとしますが,圭は「聞きたくない」と耳をふさぎます。

中山は圭の気持ちを理解したようです。圭はようやく自分がこの家にいることが勇介の精神的な負担になっていることを理解し,家を出ることを決意します。そのことを勇介に話すと勇介は不機嫌になります。

秋美は中山から圭と勇介の同居生活の話を聞きだします。秋美はどことなく勇介が上の空になる理由を理解しますが,自分のところから出ていけとは言いません。しかし,勇介は家に戻ります。圭も家を出る決心をひるがえします。

ぎくしゃくした関係は続き,勇介はついに圭に「好きなんだ」と告白し,圭はデートをキャンセルします。しかし,二人の間には決定的にコミュニケーションが不足しています。

中山は「勇介と圭が同じ家に住んでいます」と書いたメモを担任に渡し密告します。下手をしたら二人とも退学ですから彼の精神状態は理解不能ですね。担任は密告について勇介に話し,対応を促しますが,勇介は圭との暮らしに終止符を打つ決心がつきません。

密告はついに教頭の知るところとなります。教頭は二人が同居しているのを確認し,現場に乗り込みますが圭は間一髪で秋美の部屋に避難していました。勇介は中山を殴り絶交宣言を出します。

中山の死

二学期が始まる頃に中山はノイローゼになり,別人のようにやせ細っていました。中山の家を訪ねた秋美は自分の力で立ち直るしかないと勇介に語ります。圭も二階から覗く中山の姿を見てショックを受けます。

物語の展開に作者自身が飲み込まれていくように話は暗い方向に向かっていきます。中山の家で圭と勇介が顔を合わせ,中山は少し気持ちの整理がついてきたようです。

中山は家出をし,担任と勇介,秋美は圭の部屋を訪ねます。その夜は三人三様に物思いにふけることになります。中山は鳥取の叔父のところにいることが分かり4人は胸をなでおろし,圭にも笑顔が戻ります。

学園祭の夜に秋美は次の日に交換留学生として渡米することを勇介に告げ,「今日は泊まっていって・・・そしてわたしをだいて」と話しますが,勇介はソファーに座って夜を明かします。けじめのつかないまま秋美は旅立ちます。

勇介は腑抜けたようになり,夜もよく眠れません。そんなとき,中山が戻ってきます。圭から秋美の留学の話を聞き,勇介のところに行って一晩語り明かします。中山は進学一辺倒の生活から新たな道を模索しようと退学届を出していました。

これが中山を見る最後の夜になります。彼は居眠り運転の車にはねられ死亡します。担任からその話を聞いて勇介はすっかり落ち込んでしまいます。圭も拾ってきた子猫が死んだと聞かされ悲しみにくれます。勇介の寂しさは絵里の寂しさと共鳴していきます。

中山と秋美がいない教室

絵里は勇介の家に泊り,翌日,勇介は絵里に家に帰るよう説得します。圭は中山家に行きますが,母親に追い返され,部屋で泣き崩れます。勇介も広い部屋の中でぽつんと膝を抱えています。季節同様に二人の心には冬が忍び寄っているようです。

その夜,絵里が勇介を訪ねてきます。両親が離婚しどちらも絵里を引き取りたがらないというひどい話です。

杉村は(騒動の当事者になることもありますが)勇介にも圭にも論理で語ることができますので,基本的には物語における安定化装置の役割を果たしています。しかし,彼女がいなくなると,圭も勇介も感情にただ押し流されていくだけのようです。その夜,勇介は絵里を抱きしめてしまいます。

教室では4人が欠席しており,担任は「いまここにいない4人がもっとも人間くさい連中だったのかもしれない」と独白します。中山の葬式で圭が門前払いされた光景を見て,勇介は渡瀬を問い詰め,殴り倒します。圭は田舎に戻る決心を固めます。勇介は絵里にいたいだけいていいよと話します。絵里は秋美からの手紙を差出します。そこには半年後に戻ることが記されています。

圭は退学ではなく休学届けを出して田舎に戻ります。父親は母親を制してなにも聞かずにごはんとお風呂を用意させます。父親の思いやりに圭は久しぶりにぐっすり眠ることができました。温かい家庭と中学時代の同級生との再会により圭は少しずつ元気を取り戻します。

そんなとき,中学の同級生の本郷が訪ねてきて圭に告白します。圭は彼の告白で自分の気持ちに整理がつき,東京に戻ります。

勇介は学校も休みがちになり,ある日,織田からきついパンチをもらいます。その意味は十分に理解できる勇介は家に戻り心配する絵里にきつく当たります。絵里は出て行き,勇介は学校に戻りますが,同じく登校してきた圭の明るさに比べて,自分の境遇がひどく汚れて見えます。

圭が交通事故に遭う

絵里が行方不明となったことは勇介の心に重くのしかかります。心配した圭は勇介の家を訪ねますが,今度は勇介が拒否反応を示し,絵里との一件まで話してしまいます。

絵里は父親のいなくなった実家に戻っており,しばらくしてから訪ねてきます。途中で圭を見かけた絵里は彼女がずいぶん明るくなったことに驚きます。絵里はまた一緒に居させてと勇介に迫りますが拒絶され,勇介と圭の関係が復活したのではと誤解し,怒りを感じます。

実際,圭は学校に来るようになった勇介と素直に接しようとしますが,お互いぎくしゃくしたものとなります。圭が勇介の家を訪ね,二人で散歩に出たところを絵里が目撃し,嫉妬します。友人と帰宅する圭を見ていると絵里は無意識のうちに信号待ちをしていた圭の背中を押してしまいます。

圭は交通事故に遭い,救急車で運ばれます。勇介が見舞いに行くと両親も来ており,圭は勇介を見て無言で涙を流します。圭と一緒にいた部活の先輩が誰かに押されたようだという話しが勇介を混乱させ,絵里のことを思い浮かべます。

絵里を見つけた勇介は圭が入院していると話します。ケガは軽いけれど精神的ショックが大きいと説明すると,絵里は「そんなことやろうとなんか思ってなかったのよ 気が付いたらいつのまにかやってたのよ」と絵里が告白します。真相を知った勇介は圭のアパートを訪ねます。

母親が気を利かせて外出しているときに「誰におされたのかわかっているのかい」と聞きます。圭はその一言ですべてを理解します。圭は絵里の想いの深さを知り,勇介に帰ってと伝えます。

その夜,勇介のところに絵里の友人から電話があり,絵里が家に帰っていないこと,死にたいとつぶやいていたことなどを知らされます。心当たりは探したのですが見つかりません。

勇介は圭のアパートに行き事情を説明します。圭は一緒に探すと出てきます。中山の死で大きなショックを受けた圭はもう近い人の死を見たくないと必死です。電話で絵里が実家に戻っているのを確認し,二人は絵里の実家に向かいます。

絵里に会った圭は自分はもう大丈夫だと話しますが,絵里は「安っぽい同情はよして」と拒絶されます。帰りに圭は勇介に「もうここには来ないで,絵里さんにはあなたが必要なの」と告げます。

作者は絵里の救いとして今川との交際をもってきますが,絵里の性格からしてそう簡単には勇介のことを諦めきれるわけではありません。

秋美に精神的に依存していく勇介

春休みになり帰省しようとしていた勇介のところに秋美が訪ねてきます。勇介はこの半年のことを一気に話してしまいます。秋美は責任はどちらも半々であり,勇介は自分にすなおに生きるよう助言します。

新学期が始まりクラス編成を決めるテストがあり,勇介は最下位の8組となります。なぜか,学年一の秀才の秋美も同じクラスです。秋美の「勇介君と同じクラスになりたかったからよ」の発言に勇介は思わずずっこけてしまいます。

秋美のそれは冗談であり,自分の生き方についての疑問が白紙答案となったようです。2年生になって圭の周りには新たな人間関係が生まれ,勇介は同じクラスとなった秋美に精神的な依存を深めていきます。

今川が絵里の生理の遅れについて勇介に相談しに来ます。絵里は今川と会わないようにしているようです。今川は絵里の家を訪ね,日ごろから疑問に思っていたことを問い詰めます。その内容は作品中にはありませんが,今川は絵里と勇介との関係について知ることになり,今川は勇介に友人関係は終わりだと告げられます。

勇介が頼れるのは秋美しかおらず,彼女に絵里が病院に行くように説得を依頼します。夕食のあとにお茶を飲んでいるとき秋美が勇介に寄りかかってきます。勇介は秋美の表情を読み取りキスを交わし,そのまま押し倒します。

絵里の妊娠疑惑について相談にきた勇介が自制心を失って秋美との性交渉に至った心理は作品中には示されていません。この作品には話の進め方にいくつかの疑問符がつきますが,この時の勇介の行動もその一つです。

幸い絵里は妊娠しておらず,秋美はしばらくそっとしておくのがいいと助言します。勇介はそのまま秋美との半同棲生活となります。秋美は自分の気持ちに忠実に生きるという人生哲学をもっているものの,そのような行動が相手に与える影響の大きさには気付いていないようです。

秋美は精神的に大人であり,容易に自分を見失うことはありませんが,勇介のように精神的に未熟な少年にとっては人生を台無しにする危険性をはらんだ半同棲生活です。

勇介はボクシングジムの町井に相談してみます。勇介の話を町井がまとめると「心の中で一番好きなのは圭ちゃんで,それなのに杉村さんとそういう生活していることは二人を裏切っていると自分を責めている状態」ということになります。

夕食に誘った町井は「おまえにいちばん合っているのは杉村さんて人さ。男と女ってないちばんだいじなものは相性があうかどうかだとおれは思う。いくらすきどうしでも相性のあわない者どうしは絶対にうまくいかんよ。お互いに傷つけあっていくだけさ」と話します。この町井の言葉は勇介の理性には響きますが,感情はそれに反発しているようです。

コミュニケーションが苦手の二人

ともあれ,勇介は家に戻り生活を立て直そうとします。そんなとき圭が訪ねてきます。圭は絵里との関係についてたずねますが勇介は単に別れたいうだけです。この二人には徹底してコミュニケーションが不足してます。

不足というよりは会話が成立しないといったほうが正しいかもしれません。圭が意を決して気持ちを伝えようとして来ても,勇介との会話がすぐ途切れてしまいます。圭は自分の本当の気持ちを伝えるのが本当に下手ですね。

来訪の目的を先に言い,それから勇介の現在の状況や考えていることを質問するのが順序なのですが,それを逆にするのですから勇介が素直に答えられないのは当然です。そのため,帰り際に「どうして勇介くんみたいなひどい人を・・・」とつぶやくことになります。

学期末テストが終わり,その結果によりクラスが再編成されるので勇介と秋美は別のクラスになりそうです。そんなとき,マンションのおせっかいなおばさんが秋美の実家に電話をしたため,父親が突然やって来ます。秋美は父親と一緒に帰省することに素直に同意します。

夏休みが明けると秋美はおばさんの家から通学させられていることが分かりました。しかも,秋美は期末テストでは回答とは別のこと書いたため再び勇介と同じ8組になります。

勇介が陸上部に入部する

勇介は体を動かさないことに違和感を感じ,河島に話を聞き,陸上部に入ります。キャプテンの島田(3年・女子)はやさしそうで勇介はほっとします。河島のランニングコースを完走した勇介は久しぶりに爽快感を感じます。

島田に好意を寄せている河島は都大会で成績を残そうと激しい練習に明け暮れます。一方,島田キャプテンはときおり暗い表情を見せるようになります。勇介の周りの人間関係は小康状態を保っています。

この辺りの展開を見ていると作者はなにげない日常の中から話を紡ぎだすのが得意ではないようです。確かにそのような日常は描かれているのですが,単純に場面が描かれているだけで,描かれている人の心理はあまり伝わってきませんし,話のひねりもありません。そのため,事件がないと物語が回っていかないようになっています。

都大会の直前に島田キャプテン自殺のニュースが流れます。顧問の先生は出場辞退についてたずねますが河島と勇介は出場することにします。都大会の日に秋美や今川が応援に来てくれます。河島は顧問の須藤先生について含みのある発言をします。

5000mに出場した勇介は32位でゴールインします。マラソンに出場した河島は1位となり,須藤に殴りかかります。杉村は冷静に島田キャプテンと河島と須藤先生の間に自殺の原因があったのではと推理します。

島田キャプテン自殺の真相

今川は警察の情報として島田キャプテンが妊娠していたことを勇介に話します。勇介は河島の家に行き,須藤先生が辞職したことを告げ,何か知らないかとたずねますが河島は知らないで押し通します。

勇介が妊娠の話を切り出すと河島は島田キャプテンの相手は須藤だと言明し,しかも須藤には出産のため実家に戻っている奥さんがいると話します。河島は島田キャプテンに片思いであり,彼女に認めてもらいたい一心で走り続けていたのです。

陸上部の部室に休部のニュースがもたらされるとともに島田キャプテンの相手が八坂であることが判明します。島田は一方的に須藤に恋をし,受け入れられなかったため,やけになって八坂と付き合ったというのです。

しかし,島田の妊娠と身勝手な自殺の間にどのような結びつきがあるかについては作品中にはなにも語られてはいません。何も語ることなく辞職して妻に実家に戻る須藤の心理描写もありませんので,話がかなり即物的になっています。

秋美が叔母の家を出て自活する

秋美はおばさんの家から出る決心をします。その理由は「自分に正直に生きようと決めていたのに,いつのまにか他人のオリの中に生活していたから」と語ります。

秋美の考え方はどうみても無謀にみえまが,「やっぱり目標と自分なりの信念をしっかりもって,そしてそのときそのとき最良と判断した生活を選んでいくのが一番いい生き方かなって」と言葉でフォローされており,善悪は別にしてうなずけるものがあります。

圭と本郷の関係も微妙な時期となります。本郷は圭がまだ勇介が好きなことを圭の態度から知ります。この二人の関係については圭が責められるべきですね。他の男性たちには自分には好きな人がいるといってあきらめてもらったにもかかわらず,本郷に関しては中学時代からの友人関係を壊したくないことからなんとなくの付き合いを続けてきましたが,いつかは破たんします。

思春期の男女に友情が成立するかどうかは別にして,本郷にはちゃんと自分のことを説明しておくべきでした。それで友人関係が壊れるなら仕方のないことです。相手を傷つけたくないとするあまり,より深刻なダメージを相手に与えることがあることを圭は認識すべきです。

もっとも,この作品から勇介の前半の優柔不断と圭の恋愛音痴と潔癖感を無くしてしまうと話がすぐに終わってしまいます。この二つが「翔んだカップル」を支える屋台骨なのです。本郷は圭と訣別することを宣言します。

家出して勇介のところに泊まっている秋美はおばさんと連絡をとりますが,秋美の父親の怒りは大きく交渉は決裂します。秋美は自立を認めてくれないなら,学校もやめて一人で生きていく」と勇介に告げます。

秋美は父親と話し合いますが話は平行線をたどり,秋美はアパートを借りて自活の道を選びます。勇介と河島は短期間の共同生活をするようになります。このとき,河島が圭に惹かれていることなど勇介にわかるはずもありません。秋美の自活を機に勇介と秋美の精神的な距離も少しずつ開いていきます。

勇介の決断

テスト休みが終わるころ勇介は圭の部屋を訪ねます。話は進路のことになり,勇介は自分の進路は白紙状態であり,目標が定まっていないと話します。春休みに勇介は田舎と反対方向の列車に乗り,一人で夜の海みを眺めます。

一晩を海岸で過ごした勇介は自分の心と対話して秋美と圭の選択を決断したようです。もっとも勇介の場合はまず進路について思考するのが先なのですが,彼の思考回路は恋愛最優先のようです。

勇介は東京に戻り,圭の部屋を訪ねます。徹夜にカゼが加わり,勇介は横になります。圭は布団をかけて,勇介と秋美のことを回想し,暗い気持ちになります。圭は勇介を起こし,もうここにはこないでと告げますが,勇介は「お,おれ,圭ちゃんのこと」と言いかけますが,圭の心のガードは固かったようです。勇介は秋美に夜の海と圭との一件を話します。秋美は特に感情を表には出しません。

新学期になり勇介は少し上位のクラスとなります。杉村は圭をたずね勇介が夜の海で自分の気持ちを再確認したこと,自分が勇介にふられたこととを話します。しかし,圭の心はまったくかたくなな状態のままでした。

勇介は交際から解放されてようやく進路について考えるようになります。勇介は父親に進学しない旨の手紙を出し,父親はあわてて上京します。勇介は一流大学→一流企業の先にある競争社会を嫌悪するようになっています。

しかし,だからといって自分の進路が見えているわけではありません。町井に相談しても自分の進路は自分で探すしかないというごく当たり前の回答です。

酔った勇介が圭にキスをする

勇介は酔った状態で圭のところに行き,階段から転げ落ちて圭を押し倒してしまいます。勇介はそのまま唇を重ねます。圭は部屋に逃げ込み顔を何回も洗います。

勇介はそのまま塀にもたれて寝込んでしまいます。気が付くと圭の部屋で寝ています。しかも,あのこと(圭にとってはファーストキス)は全く覚えていないません。圭は唖然としますが自分からはあのことについて言い出すことはできません。

勇介は雨の中を家に戻ります。進路についてうじうじ考えた末に勇介はとりあえず進学することに決めます。ランニングの途中に圭に会った勇介はあの自分があのとき何をしたのか聞きます。圭は言う気になりますが,頭に血が上りあとで電話で教えると言い残します。

電話がなかったので翌日,学校で同じ質問をしてついにキスの一件を知ります。自分のいいかげんさに勇介は悩み,夜中に圭の部屋の前で佇みます。意を決してドアをたたきます。

しかし,この二人にはいつものように会話がありません。圭は話題を変え,進路についてたずねます。勇介は進学するといいます。サラリーマンになるのと聞かれると勇介は返事に困ります。

圭は一流大学→一流企業を目指す人のつまらなさについて語りますが,勇介は男は妻子を養うために生活に必要な金を稼がなければならないからと擁護します。重ねて進路について聞かれ勇介はぼんやりと考えていた体育系に進む夢を語ります。

カサを借りて夜の道を歩いて帰った勇介は数日後にカサを返しに行きます。圭の部屋ではちょうをとなりの女子大生友崎と夕食の最中であり,勇介は夕食を一緒にいただくことになります。

友崎は勇介がキスのことを覚えていないことについて罪な人ねえとからかいます。さらに。今度は忘れないようにしっかりとやったらなどとけしかけます。

修学旅行

衣替えが済むと修学旅行が近づきます。行き先は北海道です。圭はなんとなく気が重く秋美の部屋を訪ねます。秋美は圭と勇介の相性はとても良いと評価したうえで,私や絵里さんとのことをさらりと忘れて付き合えると質問します。しばらく考えた圭は「だめみたい」とつぶやきます。

それでも圭の足は自然と勇介の家に向かいます。家に入り内部がずいぶん汚れていることに驚き,手分けして掃除をします。夕食は勇介の希望で圭がカレーを作ります。圭が調理をしているとき勇介はなんともいえない安らぎを感じます。圭が帰る時,勇介はもう一度この家に戻ってくれないかと頼みます。圭は無理よと答えたものの心は乱れます。

修学旅行の屈斜路湖で勇介は再び圭に戻ってくれないかと繰り返します。圭の心はさらに大きく動揺します。勇介は部屋に1人で残り「そうだよな,いまさら過去を白紙に戻してやりなおすなんて虫のよすぎるはなしさ」と自嘲します。

知床の夕日を見ながら圭は素直な気持ちで自分のこころを観ることができたようです。勇介と一緒の夜の散歩で圭はぽつんと「あたし,勇介くんちへ戻る」とつぶやきます。彼女のつぶやきは物理的に引っ越すことではなく,精神的に入学した時の状態に戻ることを意味しているようです。

修学旅行も終わり,圭は勇介の家を訪ねます。圭は一緒に暮らすのは近所のこともあるし無理なので,「いいともだちになろーね」と話します。圭は勇介の希望のカレーを作って夕食を食べてから帰ります。その足で圭は秋美を訪ね,「やっとあたし勇介くんといいともだちになれそう」と話します。

圭のアパートの隣りで火事が起きる

そんなとき圭のアパートの隣りで火事があり,放水で部屋は水浸しになってしまいます。圭からの電話に勇介はタクシーで駆けつけます。アパートが元通りになるまで圭と友崎が勇介の家に同居することになります。

翌日は後片付けのため圭は学校を休むことになりますが,勇介は「おれも休んで手伝うよ,ぜったいてつだうから」と宣言します。圭はすなおに「ありがとう」と言えるようになります。翌朝,部屋を見に行くと状態はひどい状態です。原状復帰には少なくとも半月はかかりそうです。

友崎と圭は新しいアパートを見つけ隣り合った部屋に引っ越すことになります。引っ越しの前日に夕食は三人でスキヤキとなります。勇介は洗面所で圭を抱きしめキスをします。この抑えのきかない勇介の感情は圭に警戒感を抱かせるようになり,勇介に新住所を教えるのにためらいが生じます。それに対して河島は運動,学業,久保井との交際と充実した学園生活を送っていると勇介に話します。

叔父が帰って来る前に

勇介のところに叔父一家が来月帰って来るという手紙が届きます。勇介はなんとなく力が抜けたような気分です。なんとはなしに圭からもらった葉書の住所の方に足が向き,途中で夕食の買い物帰りの圭たちに出合います。勇介は叔父さんが戻ってくることを話すと,圭にも入学当時の想い出が脳裏をよぎります。

秋美は週2日の家庭教師を2件,自給600円のバイトを月に40時間ほどして月収10万円強の生活で自立しています。これに受験勉強があるのですから信じられないような生活です。

圭は「叔父さんが帰って来る前にもういちど同居生活を」という勇介の言葉に悩みます。友崎は圭の悩みに対して「自分の気持ちで動けば,結果がわるくてもあきらめがつくもの。そのぎゃくで頭で考えて動いて結果がわるいとあきらめがつかなくなるから」と助言します。理性より感情の声に耳を傾けた方が結果に対して納得ができるようになるということでしょう。

塾の帰りに圭はどうしてあんなことを言ったのとたずねます。勇介の返事は1年の時のことがなんだか心残りだったからというものでした。圭は意を決して勇介の家に短期間お世話になることにします。2回目の同居生活は順調のようです。部活の後で家に戻ると圭がおかえりと迎えてくれます。ままごとのような同居生活です。

しかし,勇介は圭との精神的な距離が広がっているような気がします。それを察知した圭は「なにが不満なのよ」と勇介を問い詰めます。勇介には答えようがありません。

二人は学校をさぼって江の島に行きます。海を見ながら勇介は朝の不機嫌について,「圭ちゃんが同居してくれているけど,いっしょに住んでいるという感じがしない」と説明します。

勇介のこのじれったいような,もどかしいような気持ちは分からないでもありませんが,そのような欲望は自分で制御できるようにならなければなりません。秋美や絵里とのことで学習できたかと思っていたのですが,そうではなかったようです。

海岸で勇介は圭を抱きしめてしまいます。圭はそれ以上の関係になることを望んでいませんので,アパートに帰ることにします。叔父さんが戻ってきて勇介は勉強に専念できるようになります。勇介はそのような生活に味気なさを感じます。勇介の精神的な未熟さはまったく改善されておらず,欲望の奴隷のように描かれており,まったく気の毒な状況です。

そんな中で秋美が病気で休んでいるというニュースがもたらされます。勇介と圭がお見舞いに行くと秋美はだいぶ良くなったという状況でした。果物をむいている圭は勇介と秋美の楽しそうな会話を聞きながらかっての二人の関係を思い出さずにはいられません。

翌日,秋美の部屋を再訪した圭は進路についてたずねます。秋美は法科に進み,法律の世界でなにか女性のために働いてみたいと語ります。彼女にはかなわないという圭の思いは勇介との関係の嫉妬につながります。映画の帰りに勇介は圭にキスしますが,圭もあたりまえのようにふるまいます。

卒業

季節は冬から春に移り,卒業式がやってきます。秋美はパーマをかけてきますが,個人的にはがっかかりする造形となっています。やはり今までのロングが清楚でいいですね。

リアルタイムでこの作品を読んでいた時にはそのようには感じなかったと思いますが,年をとると高校生=清楚願望が強くなってきたようにも感じます。もっとも,最近の女子高校生を見ていると「清楚」などは死語に近くなったなあとつくづく感じます。

勇介は早稲田と日体大の二つを受験します。勇介は受験が終わるまでは合わないでおこうという圭との約束を破り,早朝のジョギングのついてに立ち寄ります。圭を抱きしめて拒否されると「きみは子どもだね」と揶揄しますが,ひどいセリフですね。私が助言者ならそんな男はすぐ別れたほうがいいと言いますね。約束は破る,こらえ性は無いではどうにもなりません。

受験が終わり勇介は公園のベンチで考えます。でもねえ,勇介くん,君が本当に考えなければいけないのは自分の言動や行動のどこが圭を苛立たせているいるかということでしょう。そこのところが分からなければ二人の関係は破局が来るでしょう。

勇介は再度,早朝ジョギングで圭の部屋を訪ねます。圭はあきれ返り,「好きにしたら」と告げます。勇介はそのまま帰りますが,途中で体を冷やし,しばらく寝込んでしまいます。

結局,約束の2月19日を過ぎても二人は会うことはなく,3月に入って合格発表の時期となります。勇介は本命の早稲田教育学部に合格し,実家に報告に戻ります。秋美は東大法科に合格します。久しぶりに勇介は圭のアパートを訪ねると,笑顔の圭に迎えられます。これが最終場面となり,何を暗示しているかは読者が推測するしかありません。

このような物語の終わらせ方は読者の推測にその先を任せるものであり,ストーリー漫画としては決してほめられたものではありません。圭の笑顔がもう大学生になったのだから勇介の欲望に大人として対応できるというものでしたらずいぶん寂しい結末です。

圭は女性を男性の付属物のように位置づけてきた古い価値観を乗り越え,秋美のように自立した女性を目指すべきです。とてもかなわないと諦めるのではなく,その方向に向かって歩き出すべきでしょう。恋愛をすることが人生のように考えている勇介は恋愛は人生のほんの一部に過ぎないことをやはり秋美から学ぶべきです。

現実の世界では秋美のようなスーパーウーマンは存在しませんが,彼女を物語の主要キャラクターとして登場させたのは精神的に未熟な高校生に人生をどう生きるべきかを示すための一つのモデルだと理解しています。また,勇介と圭の懊悩と葛藤は作者自身がストーリー漫画家として脱皮していくための生みの苦しみの軌跡であったと考えます。


すくらんぶるエッグ

実家のとなりのアパートで一人暮らしをすることになった中学2年生のあゆむがアパートの住民やクラスメート,不良とドタバタを繰り返すコメディです。単行本は全12巻であり,よくもまあこのようなドタバタで12巻分もストーリーが作れたなと感心します。

電気ショック第一号

1979年頃の短編集であり,全篇が恋愛一色の構成となっており,その瑞々しい感性は現在,読み直してもうなずけるものがあります。

・電気ショック第一号
・時のいたずら パートU
・交差点
・よくある話
・めざめ未満