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風の谷のナウシカ

「風の谷のナウシカ」は徳間書店のアニメ情報誌である「アニメージュ」に掲載された宮崎駿の漫画作品ですが,一般の方々には1984年に劇場公開された宮崎駿監督のアニメ映画作品の方がずっと知名度が高いと思います。

両者は作品世界や多くの登場人物は同じですが,ストーリーはほとんど別物といってよいほど異なっています。漫画作品は全7巻であり,映画作品はその序盤の2巻くらいをベースに製作されています。

実際,アニメージュに連載が始まったのは1982年であり,映画が劇場公開されたのは1984年ですから,ほとんど物語のさわりの部分だけで映画化が進められたことが分かります。

映画は善と悪の対決ではなく,「戦争の愚かさ」を描くとともに「自然との共生」を主題にまとめられています。「戦争の愚かさ」と「自然との共生」は20世紀における人類の普遍的なテーマであり,それを自然な形で物語の中に描き出されていることが多くの人々の支持と共感につながりました。

宮崎の初期アニメ作品には原作はほとんどありません。どうして「風の谷のナウシカ」にだけ原作ともいうべき漫画版が存在しているかについてはwikipedia に次のように記されています。

宮崎の才能に惚れ込んだ鈴木敏夫(アニメージュ誌副編集長)は「風の谷のナウシカ」の映画化を目論み,徳間書店の企画会議に諮った。が,「原作のないものは無理」という理由で却下された。

「コナン」の時より宮崎に注目していた徳間書店の「アニメージュ」誌編集長・尾形英夫は,オリジナル企画実現のため「原作付き」のハクをつけることを考案,「アニメージュ」1982年2月号より「風の谷のナウシカ」の連載が始まり,やがて多くの読者の支持を集めるようになる。

さらに自社イベントのための特別短編アニメーション企画を彼に持ち掛ける。企画は短編の筈だったが次第に拡大,尾形の尽力により,当時映画事業に意欲的だった徳間書店の徳間康快社長(当時)が劇場アニメーション化を決断し,宮崎の弟が勤務する博報堂がこれに乗る形でプロジェクトが結成され,1984年にアニメーション映画として製作・公開された。


宮崎は職業として漫画家とアニメーションの選択に悩んだ末にアニメーションの道に進みました。彼の携わったアニメの中で「アルプスの少女ハイジ」(テレビ)は高視聴率を獲得しましたが,「未来少年コナン」(NHK)は低視聴率に終わり,「ルパン3世・カリストロの城」(劇場映画)の興業成績は芳しくありませんでした。

このままでは才能はあるが客を呼べないアニメ制作者となってしまいます。「風の谷のナウシカ」の企画が徳間書店の企画会議で却下されたのはそのようなリスクを懸念してのことでしょう。

そのため宮崎は1982年から雑誌「アニメージュ」に「風の谷のナウシカ」の連載を開始します。その当時の心境を彼は「映画やアニメーションをやってたらできないようなことをやらなければわざわざコミックを描いている意味がないと思ったから,自分がこういうものはアニメーションになるまいって考えた世界をやってたんです」と述壊しています。

アニメ映画にはならなくても自分の今をこの作品に込めたいという思いだったのでしょう。漫画の「風の谷のナウシカ」は読者の支持を集め,連載後1年ほどで徳間書店も映画化を決断します。

漫画の「風の谷のナウシカ」は映画化の時点では第2巻の途中の状態でした。映画化が決定してその制作期間中は漫画連載は中断していますが,映画完成後も漫画版は映画とはまったく異なる方向で展開していきます。

劇場アニメ映画として「風の谷のナウシカ」は一定の興行成績を収め,アニメ監督宮崎の名前は広く知られることになります。その後,宮崎はおよそ2年おきに天空の城ラピュタ(1986年),となりのトトロ(1988年),魔女の宅急便(1989年),紅の豚(1992年)を制作していきます。

アニメ制作期間は中断したものの漫画版「風の谷のナウシカ」は描き継がれ,1994年に壮大な叙事詩ともいうべき物語が完成し,第23回日本漫画家協会賞の大賞を受賞しています。その中には映画版には描かれていなかった宮崎の自然観,生命観,戦争観,宗教観などが含まれています。

漫画作品は映画よりずっと長編であり,戦争を巡る人間の醜さや愚かさ,救いを求める人々の姿を丹念に描いています。その中で最終兵器と思われていた巨神兵が実は旧世界では調停者あるいは裁定者の役割をもっていたことが語られています。

さらに腐海の生態系は旧世界の科学者が「世界浄化」のプログラムの一部として造り出したこと,人類を救済するために用意した遠大な再生計画について語られています。この中には人類そのものの改造計画も含まれています。

この再生計画を司っている「シュワの墓所の主」とナウシカとの対決が漫画作品の最大の山場となっています。人類の再生計画とは平和的で自然と調和できる人類への移行計画ですから,ナウシカが拒否する理由はないと考えられますが,それを拒絶して墓所の主を破壊したナウシカの生命に対する倫理観を読み解く必要があります。

物語の世界

単行本の第1巻の表紙裏には次のような一文が記されています。物語の舞台は現在の産業文明からおよそ2000年後の世界ということになります。現在を起点にすると,1000年後には巨大産業文明は「火の七日間」と呼ばれる最終戦争により崩壊し,世界は有毒物質で汚染されます。

それと同時に「腐海」という広大で攻撃的な生態系が生まれ,人類は残されたわずかな土地で細々と生き延びてきました。ナウシカの物語が始まるのは「火の七日間」からおよそ1000年後の世界ということになります。

ユーラシア大陸の西のはずれに発生した産業文明は
数百年のうちに全世界に広まり 巨大産業社会を形成するに至った
大地の富をうばいとり 大気をけがし
生命体をも意のままに造り変える巨大産業文明は
1000年後に絶頂期に達し
やがて急激な衰退期をむかえることになった
「火の7日間」と呼ばれる戦争によって
都市群は有毒物質をまき散らして崩壊し
複雑高度化した技術体系は失われ
地表のほとんどは不毛の地と化したのである
その後産業文明は再建されることなく
永いたそがれの時代を人類は生きることになった


第3巻に物語に関連する地図が掲載されていますので引用しました。長さの単位は「リーグ」となっており,1リーグ=1ノット・時間=1.825kmとされています。地図の色分けが良くなく分かりづらいのですが,薄茶色になっている海を青色に,灰色になっている腐海を緑色にイメージしていただけると分かりやすいです。地図で示されている領域はおよそ4000km四方ということになります。

大陸の中央部は「腐海」に飲み込まれており,人類はその周辺に小さな王国を作って暮らしています。腐海は少しずつ広がっており,人が住める土地は減少しています。海は汚染物質が最後にたどり着くところであり,生物が生息できる環境ではなくなっています。

このような大惨事を引き起こした「火の七日間」とはいったい何んであったかはほとんど述べられていません。参事を引き起こした「巨神兵」は漫画版では神に等しい調停者・裁定者とされており,裁定の結果が「火の七日間」であったかもしれません。あるいは複数の裁定者の判断が異なったために起きた神々の戦争であったのかもしれません。

いずれにしてもその結果は文明の崩壊を招き,旧世界(高度産業文明社会)の技術は失われ,残された人々は旧世界の遺物であるセラミックやエンジンを発掘して暮らしています。作品中に描かれている人々の生活は19世紀あたりのものになっています。



エフタルはかって巨大な王国でしたが300年前の大海嘯によりその大半を腐海に飲み込まれてしまいました。エフタル砂漠の周辺に点在する小王国はかってのエフタル王国の末裔が暮らしており,漫画版ではトルメキアを盟主として同盟を結んでいます。

腐海からは「瘴気」と呼ばれる有毒な大気が発生し,人類の生存を脅かしています。出生率は下がり,生まれてきた子どもも幼くして死亡することが多く,ナウシカにしても10人の兄・姉たちは腐海の毒が原因で亡くなっています。

運よく大人になることができても毒の影響でしだいに手足は石のようになっていき,やがて死んでいきます。これが腐海のほとりで生きる者の定めなのです。そのような危機的状況でもなにかをきっかけに戦争が起こります。

物語のテーマ

2020年5月の朝日新聞に2回に渡り,「風の谷のナウシカを読み解く」という記事が掲載されました。その記事タイトルは「権力なき社会のヒントに」,「自然との共生,突き抜けた境地」となっていました。

風の谷のナウシカのテーマは多岐に渡っています。
(1)巨大産業文明は必然的に衰退の道を歩むのか。
(2)環境の悪化や資源の枯渇は必然的に紛争を引き起こすのか。
(3)人類は地球における神として振る舞って良いのか。
(4)人類が生命に介入することは許されるのか。

現在,先進国,中進国が享受している「大量消費社会」は多くの問題を抱えています。すでに,1972年には「ローマクラブ」が,現在のままで人口増加や環境破壊が続けば,資源の枯渇や環境の悪化によって100年以内に人類の成長は限界に達すると警鐘を鳴らしています。

簡単にいうと,人類が地球を食いつぶす前に従来の経済のあり方を見直し,持続可能な社会を目指す必要があるということです。有限の地球で人類が人口や経済活動を無限に増殖させることはできないのは自明の理ですが,「経済成長」を放棄することは,当時の先進国も開発途上国もありえない選択でした。

ローマクラブの第1回報告書が出されてから約半世紀,世界中の国々はひたすらGDPを指標とする経済成長を目指しており,「地球の限界」などは次の世代か次の次の世代が考えることとして政治の世界でも個人の頭の中でも先送りされてきました。石油,天然ガスにおける非在来型資源開発により,エネルギー資源の枯渇が先送りされたことも大きな要因です。

2020年に(なぜか突然)「地球温暖化」が現実の脅威と強く認識されるようになり,2020年から2021年にかけて世界の主要二酸化炭素排出国は2030年に50%削減という目標を掲げ,日本も46%を目標としています。

しかし,1990年代から「地球温暖化」は現実的な危機でした。にもかかわらず,二酸化炭素排出量の大きな先進国は「経済成長」の足かせとなる削減には消極的でした。発展途上国は先進国より切実に「経済成長」を希求していました。

その結果,「地球温暖化」が世界の共通認識になっても,人類活動起源の二酸化炭素排出量は増え続けました。2020年時点の人類の二酸化炭素排出量は,地球上のすべての火山活動により排出される二酸化炭素量の100倍にもなっています。これが,地球環境に影響しないわけがありません。

それが,待ったなしの状態になるまで世界は経済成長を目指し,10年間で50%削減という非常事態宣言下でも,「グリーンエコノミー」と称して,二酸化炭素排出量削減と経済成長は両立すると世界の指導者は考えているようです。「経済成長」は現代社会の必須要件であり,「成長の限界」はあってはならないもののようです。

でも,よく考えてみて下さい。地球という閉鎖環境で人類の繁栄(人口と経済の成長)が永続することなどありえません。現在の人類は地球からあらゆる自然資源を略奪することにより繁栄しており,それは必然的に人類以外の大多数の生物が暮らしている自然環境を破壊し,汚染しています。

地球の生態系を一つの生命体とすれば,現在の人類はがん細胞のような存在になっています。がん細胞には意思はありませんが,ひたすら増殖を続け,宿主を死に至らしめることにより,自分も死ぬことになります。

人類もこのまま増殖と経済成長を続けると地球環境や生態系をひどく損ね,その影響は人類の生存そのものを脅かすことになります。20世紀末には人類の活動は地球の環境容量を超えており,人類は自然資本を食いつぶしながら見かけ上の繁栄を続けています。

これほどの犠牲の元に繁栄している人類ですが,世界銀行の報告では,世界の「絶対的貧困」率は,2017年の9.2%から2020年には,新型コロナウイルス・パンデミックや紛争,気候変動の影響で,9.1%から9.4%ほどの間の水準に悪化していました。

世界銀行の定義する「絶対的貧困」とは,1日の生活費が1.9米ドル(約200円)未満の状態にある人です。世界人口(78億人,2020年)のうち7億人は絶対的貧困の状態なのです。この人たちは1人当りに換算すると二酸化炭素排出量は豊かな人たちの1/100以下ですが,気候変動や自然環境劣化の影響を最も受けやすい人たちです。

この30年間のグローバリゼーションによる経済成長がもたらしたものは「格差」です。豊かな国と貧しい国,同じ国の中でも豊かな人と貧しい人が存在し,その格差はどんどん広がっています。日本には「絶対的貧困」は定義されていませんが,「相対的貧困」という概念はあり,平成末期には929万人が該当します。

平成の30年間を通して日本の労働分配率は下がり続け,企業利益と株価は上がり続けています。政府は「戦後最大の景気拡大」といっても,富は豊かな人たちに吸収され,非正規社員の収入は「相対的貧困」ラインを下回ることになります。

日本でも新型コロナ下では「相対的貧困」率は確実に上昇しています。「貧しい人」は経済的弱者であり,新型コロナの影響をもっとも受けることになります。また,社会にとって本当に必要なのは相対的に低賃金のエッセンシャル・ワーカーであることが分かりました。

このような国家間の格差,同じ国の中での格差がなければ機能しない経済・社会の仕組みはどこかおかしいのです。富を分かち合い,格差を縮小することにより,経済成長に頼らない安定な社会を目指すべきです。

地球温暖化には2種類の「閾値」があります。一つは「人間社会」へのリスク,もう一つは「地球の気候システム」が変化するリスクです。人間社会への影響は食料,洪水,水不足,マラリアから分析すると,1.5-2.0℃の気温上昇を境にリスク人口が急激に増加するとされています。これが,2030年までに二酸化炭素排出量を半減しなければならない根拠となっています。

「地球の気候システム」が変化する閾値の気温上昇は,現時点では明らかになっていませんが,この閾値を超えると地球温暖化は暴走し,氷床や永久凍土が融解し,南米のアマゾン熱帯雨林がサバンナになるといった不可逆的な変化が生じます。

地球上の生物や人類がこれからも普通に暮らしていくためには,2030年までの50%削減の失敗は許されませんが,果たして私たちには豊かで快適な暮らしを捨てて,地球を守る覚悟があるのでしょうか。現実の世界には「腐海」もなければ「墓所の主」も「ナウシカ」もいません。私たちは自らの選択と知恵で地球を守らなければなりません。

旧約聖書の創世記の第六日目の記述には,「神は地に家畜,這うもの,地の獣をそれぞれに創造された。神は御自分にかたどって人間の男と女を創造された。神は彼らを祝福して言われた。産めよ,増えよ,地に満ちて地を従わせよ。海の魚,空の鳥,地の上を這う生き物をすべて支配せよ」という記述があります。

創造神は人間を特別な存在としてすべての生物を支配することを認めています。この支配するということはどのような意味をもっているのでしょうか。文字通りすべての生物の生殺与奪の権限をもっていると解釈するのが正しいのでしょうか。創造神はあらゆる生物を人間に奉仕するために作られたのでしょうか。

そうではないと信じたいものです。創造の意図にせよ,進化の結果にせよ,他の生物に比して抜きんでた知能をもつようになった人類は特別の存在であるのは事実です。しかし,地球の支配者となった人類は多くの生物種を踏みつけにしながら破滅の道をひた走っているように見受けられます。

人類に与えられた特別の力は地球という生物の楽園を破壊せず,自然と共存するために使われるべきだと考えます。支配という言葉の意味するところは管理という意味に解釈するべきでしょう。特別な力を手に入れた人類は地球の生態系を維持・管理する責任があるということです。

支配と共生は西洋と東洋の思想を端的に言い表しています。自然を征服するのが西洋の文明なら,自然とともに生きるのが東洋の基本思想です。現実の世界は西洋文明が世界を席巻しています。

人類の単独繁栄により他の生物は乱獲されたり,生存場所を狭められて急速に数を減らしています。同時に78億人にも達する人類における貧富の格差は道徳的に許容できない水準にまで拡大しています。

人類が自分たちの責務に目覚めなければ20世紀と21世紀は「人類の引き起こした大絶滅の世紀」,「地球温暖化が閾値を超え環境が激変した世紀」と呼ばれることになるでしょう。残念ながら哲学も宗教も知能が極大化した人類を知性的な生物に導くことはできないようです。

第1巻|トルメキア戦役勃発

主人公のナウシカは風の谷の族長ジルの一人娘です。腐海の縁に存在する風の谷は海からの風によってかろうじて腐海の毒から守られていますが,それでも影響はまぬがれず人口は500人の小王国です。

メーヴェで腐海の縁に降りたナウシカは腐海に分け入り,王蟲の完全な抜け殻を発見します。透明な半球状の眼の殻を取り出し,その下でムシゴヤシが午後の胞子を雪のように飛ばすのを見ていたとき,頭の中に「コロセ」という声が聞こえてきます。

メーヴェで飛んだナウシカは森から出てきた王蟲を光弾で停止させ森に帰します。王蟲に追われていたのはジルの友人でナウシカの師であるユパでした。ナウシカは久しぶりの再会にユパに抱きつきます。

風の谷の城ではユパのための宴会が催され,ユパのおみやげが配られます。この谷では平和が保たれていますが,その頃,トルメキア軍は友邦のペジテ市を滅亡させています。ペジテ市からの避難民を乗せた船が腐海の縁で墜落し,救助に向かったナウシカは瀕死のラステルから兄に渡してと秘石を預かります。

トルメキア軍の一小隊は秘石を探しに風の谷までやって来て,立ちふさがったナウシカと親衛隊兵士の果し合いになります。怒りにかられたナウシカは彼の急所を刺し,ユパは両者を分けます。分が悪いと見たクシャナは兵を引きます。

村人は総出でコルベットの着陸したあたりを焼いて胞子の侵入を防ごうとします。しかし,残された胞子が長老の木に入り込み,発芽したため村人は泣く泣く焼きます。

トルメキア戦役が勃発しトルメキア主力軍は土鬼領内に進出します。クシャナは別働隊とされ辺境の同盟勢力を率いて腐海を南進するよう命令されます。軍参謀として平民出身のクロトワが派遣されます。

ナウシカはジルの代わりに参戦することになり,準備が進められます。子どもたちはナウシカにチコの実を届けてくれます。ナウシカに従う者は城おじと呼ばれる年長者ばかりです。

その夜,ユパは城の地下室でナウシカが腐海の植物を育てているのを見て驚愕します。ナウシカはきれいな土と水では腐海の植物は小さくなり,瘴気を出さないことをユパに説明します。

ナウシカはパージを引いたガンシップで集合地に向かい,ユパは腐海の謎を解くため風の谷を出発します。

集合地に向かうクシャナの編隊にアスベルの操縦するペジテ市のガンシップが攻撃してきます。1番艦が墜落し,風の谷のガンシップはそれを回避しようとしてパージのワイヤが切れます。2番艦も落され,ナウシカは念話でアスベルに呼びかけます。一瞬ひるんだところを撃たれ,アスベルのガンシップは腐海に落ちていきます。

風の谷のガンシップはワイヤの切れたパージとともにが腐海の水域に着水します。王蟲が浮かんできて触手でナウシカの意識を探ります。同時にナウシカは王蟲の心を覗くことになります。そのとき,王蟲は急いで移動を開始します。

腐海に墜落したアスベルは蟲と戦い殺します。あわやというところで,メーヴェに救出され,二人は腐海の最深部に不時着します。そこにいた王蟲は蟲たちに攻撃を停止させます。王蟲はアスベルに念話で「小サキモノガ殺スナトネガッテイルカラダ」と話します。マスクを失ったナウシカは生きており,アスベルは腐海の最深部が清浄であることを知ります。

ナウシカはアスベルに秘石を渡します。この腐海の最深部でナウシカは石化した木が砂になって落ちてくるのを見ます。それが何を意味するのか,どうして腐海の最深部が清浄なのかまだナウシカには分かりません。


第2巻|酸の海で王蟲を停める

ナウシカは重いものを捨て,アスベルと二人で腐海の最深部から上空に飛び上がります。しかし,そこでマニ族(土鬼の一部族)の浮砲台に遭遇し捕虜となります。しかし,マニ僧正はナウシカのこころを読み,客人として遇します。

ナウシカはエフタルの言葉を話すケチャに案内され,船室でおばあさんから娘のための服をいただきます。マニ族の土地はすでにトルメキア軍に蹂躙され,この浮砲台も避難船のようになっています。

ナウシカは土鬼の編隊がクシャナの宿営地に向かっていることを知ります。マニ僧正は開戦前からクシャナ軍の南下を知っていると念話でナウシカに伝えます。さらに僧正は話しませんが,神聖皇弟はクシャナ軍を壊滅させ辺境の土地を奪う命令を出していることを理解します。

そこへナウシカを捜索にきた風の谷のガンシップが編隊に遭遇し,編隊は砲撃を始めます。無用な戦闘を回避するためナウシカはマニ僧正を人質にとり,休戦旗を上げさせ,メーヴェで脱出します。

ガンシップは宿営地に向かう王蟲の大群を見つけます。ナウシカは土鬼の飛行ガメが王蟲の子どもをおとりにして群れをおびき寄せていることを知り,メーヴェで後を追います。

その頃,宿営地では戦端が開かれますがクシャナは軍の動きを見て異変を感じ取ります。敵の意図を知るためクシャナは自ら騎馬で出撃します。そこへ風の谷のガンシップが飛来し警告射撃を行い,クシャナは兵を引き上げさせます。宿営地に強行着陸し,ミトは王蟲の襲来を知らせます。

ナウシカは飛行ガメを追い,王蟲の子どもを吊るしているロープを銃で射抜き,酸の湖の中州に不時着させます。ナウシカは機銃で王蟲の子どもを一思いに楽にさせようとしますがどうしてもできません。

クシャナ軍の宿営地は大混乱となり,辺境の船は一斉に飛び立ちます。トルメキア軍は簡単には出発できず,クロトワはかろうじてコルベットを発進させ,クシャナを拾い上げて難を逃れます。残りのコルベットは王蟲に破壊されます。クシャナは王蟲の群れを追うように命じます。

王蟲の群れは酸の湖の岸に終結し,中洲の子どもを迎えに何体かが湖に入り溶けてしまいます。ナウシカは念話で王蟲を停止させ,メーヴェでコルベットの後部に飛び込みます。ナウシカはクシャナと秘石について取引し,コルベットを中州に着陸させ王蟲の子どもを救出します。

王蟲の成体たちは触手を伸ばし,ナウシカを持ち上げ,あるものは彼女の足の傷を癒します。この様子を浮砲台からマニの僧正とケチャがそれを眺めており,ケチャが様子を説明します。マニ僧正は王蟲がこころを開いていることを感じ取り,青き衣の者の伝承を口にします。

王蟲の群れは南の森が助けを求めていると移動を開始します。ナウシカはクシャナとともに腐海を南進して行きます。ナウシカは大海嘯の可能性をミトに伝え,谷に戻るよう指示します。ミトはジルにそのことを報告し,大ばばは首をかしげる谷の人々に大海嘯について話します。

かって腐海ははるか大陸の奥地にあり,エフタルでは旧世界の技術が守られており,強国として大いに繁栄していました。しかし,300年前に腐海に入り王蟲を捕えるようになると,腐海の怒りに触れ,王蟲の群れが腐海からあふれ出て暴走し,多くの街が破壊されてしまいました。

王蟲は飢餓で命が果てるまで2000リーグも突出し,その躯からは腐海の胞子が芽を出し,広大な土地が腐海に飲み込まれました。こうしてエフタルは亡び,わずかに辺境の小王国を残すことになりました。

この話の終わりにジルはクシャナとともに行動するナウシカを案じ,ミトにナウシカにはユパの助けがいると言い残し息を引き取ります。

その頃,ユパは塩の海に面したセラミック鉱山町に立ち寄り,腐海に向かう船を探してました。ユパが船をもっている土鬼の蟲使いに食料を届け,乗船を申し入れますが断られたので,密かに乗り込み腐海に向かいます。

土鬼の村に到着した船から降りたユパはマニ僧正と僧会の使者との会話を聞きます。マニ僧正は王蟲を戦いの道具に使用するのはまちがいだと説きます。蟲使いたちはそのような議論より取引を優先させようとします。取引されるものとは培養槽に入った王蟲の幼生です。

ユパは発見され騒動になりますが,アスベルは一人でユパと戦うふりをして培養槽を破壊し,船内に逃げ込みます。しかし,そこに僧会の戦艦が現れ,中から神聖皇弟が出てきます。

皇弟とマニ僧正は神聖語で激論を交わします。その中でマニ僧正は青き衣の者の話を一族に伝え,希望を捨てずに生きよと呼びかけます。マニ僧正は超常の力でユパたちを船で脱出させ,自らは殺害されます。マニ僧正の叫びは遠く離れたナウシカにも届き,やってきたナウシカの意識は黒い闇につかまりそうになりますが,マニ僧正は消え去りながら闇を弾き飛ばします。


第3巻|サパの都城攻防戦

古い船でユパ,アスベル,ケチャは脱出します。船内でアスベルはユパがナウシカの師であることが分かり急に打ち解けます。二人はもっている情報を交換します。ユパは土鬼の聖都シュワに旧世界の奇跡の技が残されているらしいことを話します。

アスベルは巨神兵の骨格がペジテ市の坑道から発見され,それにつながった黒い箱の中にある秘石を隣りに移し替えると,巨神兵が成長を始め,秘石を外すと成長は停止したことを話します。しかし,雲の切れ間に出た船は土鬼の砲台艦の攻撃で墜落します。

南に向かうコルベットの中でクシャナはクロトワに軍参謀の任務を与えた人物がヴ王であることを聞きだします。そのとき,ナウシカが何かものの焼ける匂いを感じ取ります。

ナウシカは偵察のためメーヴェで降ります。この村は腐海から100リーグも離れているのに瘴気に襲われたようです。クシャナ機も着陸し異様な様子に偵察隊を出し,井戸で牛アブに遭遇します。

牛アブはナウシカを食べようと口に入れますが,王蟲の子どもの体液で青く染まった服は蟲を鎮める効果があり,吐き出されます。船に戻ったナウシカは瀕死の兵士の毒の血を吸って救命し,乗組員の信頼を得ます。

クシャナ機は土鬼の浮砲台の大編隊を見つけ,距離をおいて追従します。そのときナウシカは地上の異変に気が付き,瘴気が来るのでマスクを着用するよう呼びかけます。腐海から150リーグのところに濃い瘴気が広がっており,猛毒のヒソクサリだけの森が突然現れます。余りにも濃い瘴気のため腐海と共生する蟲も死んでいます。

瘴気を避けるためコルベットは上昇し浮砲台に発見されます。瘴気の切れ間に下降すると土鬼の地上部隊が集結しています。クシャナの育てた第3軍の第2連隊が砦の防衛任務にあたっており,全滅間近の状態です。

彼らの死を見届けたクシャナは復讐を誓います。第3軍の残存兵士は敗走していましたが,クシャナの元に終結します。彼らの話では土鬼軍が瘴気を兵器として使用したため大混乱に陥り,前線は崩壊しました。第3軍は後退する全軍の支援を命じられ,このような事態になったのです。

腐海に墜落したユパたちの機体を土鬼兵士と蟲使いが確認にきました。蟲使いは死体の確認のため下に降りいき,三人が管蟲の巣の上に転落しているのを見つけます。そのとき蟲使いたちが恐れ敬う「森の人」が現れ,彼らは早々に退散します。

「森の人」は三人をテントの中に運び込みます。三人が気が付いたときセルムが入ってきて,森があなたたちを助けたのだから安心しなさいと告げます。彼は蟲の卵を差し出します。「森の人」は蟲にお願いして卵を少し分けてもらい常食しています。

セルムは腐海の中が騒がしくなり,蟲たちは南に向かっていると話します。大海嘯の兆しかどうかは「森の人」でも分かりません。

サパタの都城は第3軍が守っており,周囲では土鬼の戦いの踊りが続いています。この踊りが終わったときに攻撃が始まります。クシャナとナウシカの乗ったコルベットは低空飛行で土鬼軍の上を飛び,都城の敷地に着陸します。

クシャナは原隊に復帰し指揮権を奪取します。クシャナの復帰で第3軍は本来の力を取り戻します。ナウシカは都城の中で多数の女・子どもからなる戦争捕虜がいるのを見つけ「正義のかけらすらない戦争」と憤ります。

クシャナは将校を集め,攻城砲台を破壊する作戦を指示します。ナウシカはクシャナに捕虜の釈放を要求します。クシャナにとっては第3軍2000人のことだけが問題であり,戦友の忠告ならばと釈放に応じます。

トルメキア軍の先制攻撃が開始され,砲弾の弾幕とともに破壊した壁の穴から装甲兵からなる騎馬隊が突撃します。騎馬隊は弾幕にまぎれ砲台に近づき次々と破壊していきます。土鬼軍の司令官チャルカはトルメキアの白い魔女と青き衣の者に翻弄されます。

しかし,多勢に無勢,前線の歩兵が戻り,皇弟の親衛隊も駆けつけます。トルメキア騎馬軍は密集して突破を図りますが,そのときナウシカは鏑弾により毛長牛を驚かして時間を稼ぎます。

騎馬のカイを撃たれて土鬼軍に取り囲まれたナウシカを見て,チヤルカは誇り高い高貴な娘であることを理解します。あわやトルメキア兵に射殺されようとしたとき,瀕死のカイが立ち上がりナウシカを乗せて走り出します。ナウシカは歓喜の中で迎えられますが,カイはそこで息絶えます。その戦闘のあとで虜囚が解放されたという知らせが入り,チヤルカは驚きます。


第4巻|種苗の突然変異

チヤルカはこの意外な動向を確認に行き,サパタの長老の話からエフタルの言葉を語る娘が解放してくれたこと,その娘が「青き衣の者」であることを知ります。サパタの兵士たちがやってきて同じ氏族の虜囚の開放を喜びます。

そこに二人の子どもを抱えた女性が連れてこられます。彼女は戦で乳飲み子を亡くしており,都城内で麦1袋でこの子たちを引き取らないかといわれ,引き取ったと話します。彼女は青い服の娘からもらったものとしてタリア川の石の耳飾りを出します。

チヤルカは耳飾りの代わりに金貨を差出し,子どもたちの通行名札を書き,東の(風上の)地に行くよう命じます。チヤカルは単騎でトルメキア軍の都城に向かい捕虜釈放の礼を告げます。

クシャナの第3軍は移動の準備を進め,ナウシカは単身でメーヴェで南へ出発します。チヤルカは南の人工の森に向かう途中でナウシカの耳飾りを眺めじっと考えを巡らしています。土鬼の伝承では「青き衣の者」は土着の民の救世主なのです。

南の森に到着すると人工の腐海は枯れ始めています。それは計算通りですが,森が土中の毒を活性化させてしまうので影響は何年も残ります。僧会の博士たちは大型で増殖力の大きな突然変異株を紹介します。

国土の荒廃を心配するチヤルカは皇弟に直訴しますが,皇弟は自分と僧会に対する畏怖と崇拝の心が人々から薄れていることだけが重大事であり,国土の荒廃や人々の苦しみは二の次なのです。

ミトたちの一行はジルの遺言によりユパを探して塩の海沿いにある鉱山町にやって来ました。ユパが立ち寄った酒屋で彼らはクイを見つけます。クイはなぜか卵を産んでいます。

同じ頃,森の人と暮らしているユパは蟲たちの大量の産卵を見つけます。セルムは「大移動を始めるとき蟲たちは卵をたくさん産み残す」という言い伝えがあると話します。

彼らのいる森は古エフタル王国が300年前の大海嘯で滅亡した時のものであり,その底部の空洞は砂になりつつありますが,まだ瘴気は残されています。

腐海の植物のうち森を形成する種は大地の毒を取り込み無害な物質に変化させますが,その過程でわずかに瘴気を放出することになります。森は大地の毒を安定した物質に変えると石化し,やがて砂になっていきます。森は底部の空洞を広げながら上に伸び,大地の毒をすべて石化すると消滅し,清浄な地に変わるはずですが,「森の人」はそれを語ることは禁じられています。


腐海の底の川からボートでユパたちは人間の世界に戻ります。ユパは別れ際にセルムにナウシカに会わせたいと語ります。

ミトたちのガンシップはユパが腐海に入ったことを知り,南を目指します。その途中で巨神兵を運んでいる土鬼の戦艦に出合います。ガンシップは巨神兵を撃ちますがダメージにはならないようです。反対に砲撃を受け被弾します。

ガンシップがかろうじて着陸するとユパたちが駆け寄ってきます。ケチャはミトたちに暖かく迎えられ世界は敵・味方の関係だけでないことを知ります。アスベルはガンシップを町まで飛べる程度に応急修理をします。巨神兵の話を聞いてユパとアスベルは世界の危機が迫っていることを知ります。

蟲たちは南に移動していきます。クシャナの船も蟲の大群に遭遇します。サパタの地に取り残された第3軍を救出するため船が必要であり,クシャナはトルメキア軍主力船団の基地を襲い,船を奪う計画です。蟲の大移動は天佑となるかもしれません。

混乱に乗じて基地に強行着陸し,船を確保しますが王家の重コルベットに体当たりで阻まれます。クシャナは第三皇子と再会しますがお互いにあるのは侮蔑と憎しみの感情だけです。

第三皇子は離陸時にクシャナを抹殺しようとしますが,クロトワの機転で難を逃れます。逆に離陸した重コルベットは蟲たちに攻撃され墜落します。蟲の襲来にクシャナはクロトワを背負って壕に避難します。

壕の中でクシャナは彼女の身代わりに毒の酒を飲み,こころを狂わせた母親のことを思い出します。出立の前にクシャナは母親に「あなたとあなたの娘を苦しめた毒蛇どもの牙をこれから砕きに参ります。どうか心安らかな日々を」と挨拶します。

南に向かうナウシカは小さなオアシスを見つけます。そこには古いお堂があり,異教の神が祀られています。その姿はマニの僧正に似ています。チククの案内で大きな墓に入ると異教の神を信じる僧たちが並んでいます。

しかし,すでに亡くなっており,唯一の生存者は「神聖皇帝により自分たちの仕える神は邪教とされ,この地を隠れた聖地としてきた」と語ります。この僧はさらに「すべての苦しみは世界が生まれ変わるための試練なのです」とも語ります。

この考え方は物語の最後にナウシカが対決した「墓所の主」の言い分と類似していますが,「墓所の主」のプログラムには現在の生物の救いは含まれていません。自分と同じ時代を生きている生物は(腐海の生物を含め)かけがえのないものと考えているナウシカは「人間の救いのために他の多くの生物までもが苦しまなければならないのはどうしてか」と反論します。

そのとき巨大なヘビケラがオアシスに墜落してきます。ナウシカはチククとともにメーヴェで上空に出ると,蟲たちの悲鳴が聞こえてきます。ナウシカのマスクでは防げないほどの濃い瘴気が充満しています。

風上に出ると瘴気をまき散らしている土鬼の戦艦が蟲に襲われています。これが王蟲の言っていた南の森であるとナウシカは直感します。船内では突然変異体が粘菌となって大混乱となっています。

この船には皇弟が乗艦しており,ナウシカの接近を察知します。甲板に降りたナウシカを黒い闇が近づいてきます。ナウシカは心を恐怖を静めじっとしていると,闇はナウシカを見ることはできませんが,ナウシカは闇の中の素顔が見えます。ナウシカは心の中で「なんとみじめであわれな生物」とつぶやきます。

闇から実体化した皇弟にチククが吹き矢を射ると皇弟の霊は体に戻ります。チヤルカは皇弟を避難させ,自分は粘菌を焼くために残ります。ナウシカとチヤルカは自爆装置を作動させますが,粘菌は完全には死滅せず,生き残った部分は傘のようになって地上に降ります。

チヤルカたちは戦艦に救助され,ナウシカは医師の手当てを受けます。延々と続く蟲の死骸を食べて粘菌は成長し,濃い瘴気を出しながら移動していきます。チヤルカは艦隊を集結させ粘菌を焼きつくそうとしますが,各地で同じように種苗が粘菌に変異し土鬼軍は壊滅状態となります。


第5巻|王蟲と一緒に森になろうとする

聖都シュワでは神聖皇弟の治療が続けられていますが,劣化が激しく少なくとも1月は治療浴槽から出られない状態となっています。この機会を待っていたのは神聖皇帝ナムリスです。

皇帝とは名ばかりで超常の力がないため弟に実権を握られていたナムリスは旧世界の技術で巨神兵を育て,初代神聖皇帝の封印した旧世界のヒドラを復活させます。さらに,弟の浴槽に薬を入れて眠らせ,ヒドラを従えて出陣します。

トルメキア軍は撤退を開始しますが,人間,家畜,穀物をすべて持ち去ろうとしています。アスベルとミトはその不道徳な行いを眺めています。ユパとともに情報収集のため町に向かったケチャは土鬼の幼い子どもがムチで打たれているのを見て憤慨し,一人を殺害します。

二人はガンシップまで戻り空に逃げます。ユパは蟲が南に移動し,戦場は大混乱となりナウシカだけではなくクシャナの行方も分からないことを報告します。上空から見たサパタの穀倉地帯は壊滅状態であり,蟲の骸からは胞子が発芽して腐海が出来つつあります。

蟲たちに破壊されたかってのトルメキア軍船団基地ではクシャナが残骸の中で待機しています。爆音が聞こえたので信号弾を打ち上げると風の谷のガンシップを追いかけるように王族の重コルベットが現れます。ガンシップは重コルベットに一撃を与え退散させます。

ユパはクシャナと交渉しているときにアスベルがガンシップから降りてクシャナに突進します。アスベルにとってクシャナはペジテ市の全住民を虐殺した仇敵です。しかし,ユパはアスベルを制止し,クシャナが部下の命と引き換えに降伏すると申し出たことを伝えます。

さらにユパは「いま,世界の半分が失われようとしている」と続け,争いをしている場合ではないことを諭します。クシャナは長剣をアスベルに差出します。アスベルは「憎しみも怒りも消すことはできない。だが今は決闘の権利を保留する」と言い,クシャナは「そなたの望むようにしよう」と応じます。

瘴気を避けて飛び立った船内でクシャナたちは久しぶりにマスクなしで呼吸することができるようになりました。船内ではユパとクシャナが300年前の大海嘯でエフタルが滅んだ後の話をします。

腐海文書や年代記によると残された土地を巡って大海嘯そのものよりも多くの人命が失われたとあります。眼下の惨状は,これから起こると予測される大惨事の序曲に過ぎないのかもしれません。

ナウシカはすべてを食い尽くして巨大化した粘菌を観察しています。チヤルカの率いる艦隊は粘菌に焼夷弾を投下しますがさほどの効果はありません。ナウシカのメーヴェは再びチヤルカの艦に戻り,4つの粘菌が集結しようとしていること,その移動の過程で大量の瘴気がまき散らされていること,高い土地に避難している人々がいることを報告します。

疲れ果てて眠ったナウシカは上人の夢を見ます。虚無が姿を変えた上人は「すべてが予定通りに進んでいるのです。大海嘯も粘菌もずっと前から決まっていました。私たち呪われた種族は焼き尽くされ新しい世界が生まれます」と語ります。

作品中にしばしば出てくる虚無とは「お前たちは呪われた生物なので絶滅は定めでり,そこから新しい世界が始まる」という教えであり,「自分たちは呪われた生物なので絶滅させられても仕方がない」という諦念のように感じられます。

夢の中で虚無から逃れたナウシカが出会ったものは王蟲のこころでした。しかし,次の瞬間,ナウシカは大海嘯の本体として王蟲が森を出る予感に飛び起きます。

チヤルカの艦隊は高地の避難民の救出に向かいます。しかし,人々は神聖皇帝が邪教とした教えを口々に唱えています。これはナウシカがチククの念話を介して人々に「マスクも効かぬ瘴気が迫っている。しかし,恐れるな,高き丘に登りそこにとどまれ。必ず助けを連れてくる」と知らせたためです。チヤルカはナウシカが再び飛び去った方角をじっと眺めています。

ナウシカは何体もの王蟲の骸を発見します。かろうじて生きているものに「お願い,みんなに森に帰るように伝えて!! あなたたちでもあの粘菌を鎮めることはできないわ」と呼びかけます。

しかし,王蟲は「ワレ等ハココデ森ニナル・・・北ヘオカエリ」と答えます。ナウシカは王蟲も蟲たちもみんな死んでいくのを目撃します。王蟲の骸から胞子の発芽する音が聞こえてきます。腐海の植物はこの瘴気に耐えて成長することができるのです。

蟲たちは王蟲の周りに苗床を作るように死んでいきます。ナウシカには何かが分かりかけてきました。王蟲のいう助けを求めている南の森とは突然変異の粘菌のことだったのです。蟲や腐海にとっては突然変異の粘菌ですら食べたり食べられたりする仲間なのです。

蟲たちは粘菌の苦しみを食べようとしましたが叶わないので,苗床になって森に粘菌を迎え入れようとしているのです。ナウシカはここが粘菌の合流点であることを知り,待つことにします。

ユパとクシャナはサパタの都城に戻りますが,兵士たちは全滅しています。そこで彼らは旧世界の技が造り出したヒドラに襲われます。ヒドラは神聖皇帝が土鬼の地を征服した時に引き連れていた人造の兵士です。

中枢を破壊されない限り不死身の怪物であり,生身の人間では太刀打ちできません。ガンシップも襲われあわやというときに王蟲が現れ,難を逃れます。ヒドラにさらわれたクシャナを追ってユパはナムリスの船にたどりつきます。ナムリスはユパを客人として迎え,大海嘯を見ながら「300年に1度の眺めだ」とつぶやきます。

粘菌の到来を待つナウシカは疲労から寝込んでしまいます。そこに「森の人」が現れ,セライネは蟲の膜のテントを張り,ナウシカのマスクを直します。

神聖皇帝の戦艦の上からユパとナムリスは王蟲の行進を眺めます。変異体の瘴気の中に入っても王蟲の行進は止まりません。気が付いたクシャナは衛兵を殺害し艦橋に出てきます。

ナムリスはクシャナに地上をよく見るようにいいます。サパの都城を脱出した本隊が集まっており,そこに粘菌が迫っています。ナムリスの条件は「土鬼・トルメキア二重帝国」です。ユパは兵士の話から巨神兵がナムリスの手の中にあることを知ります。

ナウシカはセライネと別れ最後のフライトに出ます。数えきれないほどの王蟲が進んでいきます。ナウシカは「あの変異体は人間がつくり出したものよ。人間のせいよ・・・なのにどうしてあなた達が死ななきゃならないの。粘菌はきっとあなたたちを全部食べてしまうわ」と語りかけます。

王蟲たちはずっと前からこうなると分かっていましたが,それでも命をかけてやってきたのです。ナウシカは王蟲と一緒に森になる道を選びます。王蟲につかまったまま一緒に進むナウシカは,死んだ王蟲から島のような森ができているのを見ます。

ナウシカの乗った王蟲の目の色が消え,菌糸がその身体を喰い破る音の中でナウシカはいっしょに行くねとつぶやきます。そのつぶやきが聞こえたのか,王蟲の触手がナウシカを口の中に入れ,「漿液」にくるみます。


第6巻|新しい森の誕生

ナウシカの意識が消えてしまいチククは気が気ではありません。チヤルカとチククは飛行ガメで粘菌の合流地点に向かいます。彼らは斥候の王蟲から育った森と,後からやってきた大群から森が育ちつつあるのを見ます。

粘菌が移動した跡には表土が失くなっています。不思議なことに粘菌の出す濃い瘴気がほとんど検出されません。粘菌が喰い残した村で二人は大勢の蟲使いを見つけます。彼らは粘菌も森も恐れておらず,チヤルカに「お前たちは森を怒らせて国をなくしたのだ。ここはもはや人界の法は届かぬぞ」と告げます。

さらに,「お前たちの帝国は滅んだ。お前たちもすぐに死ぬぞ。この日が来るのを300年待っていた。去れ,くそ坊主,われらが受けたさげすみを負って去れ」となじられます。腐海が生まれるということは蟲使いにとっては自分たちの領土が増えることなので,今日はいわいの日なのです。

そこで二人は「森の人」に出会い,一緒にナウシカを探します。新しい森では粘菌もその一部となって穏やかな種になろうとしています。この状況をセルムは次のように説明します。

いまは まるで森が消えたように見えます
木々は全力で地下に根をのばしているからです
粘菌は自分の食べた木々の苗床となって食べ尽くされます

食べるも食べられるもこの世界では同じこと
森全体が一つの生命体だから・・・・・・

人間が世界の調和を崩すと
森は大きな犠牲を払ってそれをとりもどします
そのためこの1000年森はいよいよ広く深くなっています


チヤルカは王蟲を神聖視する古い土鬼の教えの通りだったことを知ります。地上では「森の人」の呼びかけですべての蟲使いの氏族が集っています。「森の人」は「森の子等よ再び大いなる浄化が訪れた。間もなく最初の陽が苗床を照らすだろう。はじまりの朝に立ち会う喜びをわかちあおう」と呼びかけます。

ナウシカは骨格となった王蟲の骸の中に何かに包まれていました。チククがナイフを突き立てても通りません。セムルはそっと「漿液」の中に入り込みます。陽がさすと森は急激に成長を開始し,飛行ガメはかろうじて「漿液」ごとナウシカを吊り上げ,新しい森の成長を祝う蟲使いのところに降ろされます。

王蟲はナウシカを連れて行くまいとして「漿液」にくるみましたが,ナウシカの意識は那辺をさまよっているようです。蟲使いたちはナウシカを女神にしようとしますが,「森の人」は彼らからナウシカを引き離します。ナウシカは王蟲の心の深淵をまでをのぞき,王蟲の去った岸辺に一人たたずんでおり,もどってくるか否かは自分のこころで決めることになります。

ナムリスの旗艦では捕虜となったユパがヒドラ使いの様子をじっと眺めて,その操り方が人間の耳に聞こえない高周波音であることを突き止めます。手錠を外しヒドラ使いを倒すと,歯に細工がしてありました。これではユパがヒドラを操ることはできません。ユパは興奮したヒドラを使い,飼育穴から脱出します。

チヤルカの飛行ガメが旗艦に近づくと,黒い闇がやってきてナウシカの空っぽのこころに入り込もうとします。セルムはナウシカを静かに眠らせるため,飛行ガメを山に降ろさせます。ナウシカは眠りにつきます。

「漿液」が切れセルムの呼びかけに反応したナウシカの意識に黒い闇が再び迫ります。テトの動きがナウシカに伝わりこころが戻ってきます。ナウシカ(の意識)は黒い闇を弾き飛ばします。そこには神聖皇弟であったあのみじめな生き物がころがっています。ナウシカは彼の手を引いて歩き出します。

腐海の縁からセムルが呼びかけ,ナウシカは腐海に入ります。腐海の中には平和な世界が広がっています。ここではみじめな生き物も笑うようになります。セルムは森の秘密をナウシカと分かち合い,その結果によりナウシカに自分の道を決めてもらいため腐海の尽きるところへ案内します。

そこには清浄な地が広がっており,虫も鳥もいます。樹木も生え始めています。ナウシカは世界がよみがえろうとしていることを理解します。しかし,このひ弱な自然を人が汚さないようにそっと立ち去ります。ナウシカの意識は元の世界に戻ります。

セルムは「森で一緒に生きてください」と求愛しますが,ナウシカはこちら側の人間を愛しすぎているのでと断ります。いつの間にか蟲使いの人々が二人を遠巻きにじっと見ています。ナウシカは蟲使いとともにミトやクロトワに再会します。

トルメキア王国では兵力三分の二を失い再び立ち上がれない状況です。ヴ王は二皇子を王都より辺境に追放します。

風の谷では夜間に土鬼の難民船が不時着し,谷では善後策が協議されています。ナウシカなら疾うに助けに行っているという一言で対応は決まりました。城おじがパンと剣を吊るした槍をもち,土鬼の人々に尋ねます。これはエフタルに伝わる古い作法で,パンと剣のどちらを選ぶかを問うものです。土鬼の長老はパンを選択し,この出会いは幸運なものとなりました。

同じ日にヴ王の軍勢がシュワ攻略のため出撃します。一方,ナスリムは僧会から権力を奪取し,僧会のメンバーを人民に石で打ち殺させようとします。ナウシカは旧知の人々との再会もそこそこに土鬼の地に向かいます。ナウシカを女神と尊崇する蟲使いの代表も後を追います。

ナウシカは殺戮の現場に乗り込み,チククを介して「石を投げるな これ以上殺してはいけない」と人々に呼びかけます。人々は白い鳥の帰還に喜び,沸き立ちます。巨神兵が運ばれてきたのを機にナウシカはチククを介して人々に言葉とともに世界を破壊する巨神兵イメージを伝えます。ナウシカは呼びかけます。

まだ殺し足りないというのですか!?
もっと大地を毒で汚したいというの!?
神聖皇帝は巨神兵とともにみなさんを率きつれて
トルメキアに移住しようとしています。
それしかみなさんの生き残る道はないと・・・
でも間違っています
その道の先には憎悪と復讐の繰り返ししかありません
憎悪と復讐はなにも生み出さない
憎しみが世界をこんな風にしてしまったんです
土鬼の地がすべて失われてしまったわけではありません
腐海のほとりに移り,そこで生きましょう
腐海は私たちの業苦です でも,敵ではありません
苦しみを分かち合って生きる方法を私の一族は知っています
みなさんに教えられます
憎しみより友愛を 王蟲の心を・・・・・・


ナムリスはナウシカの言葉を遮るように発泡し,ヒドラにナウシカを捕えるよう命じます。ナウシカはヒドラをすり抜けメーヴェで飛びあがり,ミトのガンシップに巨神兵の吊り船を破壊するよう命じます。吊り船は爆発します。

マニ族の人々はナウシカを支持し,ヒドラと戦います。アスベルは隠し持っていた秘石をナウシカに投げ渡します。ナウシカは単身でナスリムの旗艦に乗り込みます。ヒドラに襲われ,あわやという時にユパと巨神兵に救われます。

巨神兵は秘石をもったナウシカを攻撃しするヒドラをビームで破壊し,そっと両手で抱え上げます。ナウシカは巨神兵に撃ってはだめと告げると静かになります。ナウシカが秘石を取り出すとそれは砕け散り,巨神兵は「ママ・・・ダ」と幼児のようにつぶやきます。

その間に旗艦はクシャナの兵士により制圧されます。ナムリスは「俺はもう生き飽きた 何をやっても墓所の主の言うとおりにしかならん あとはあの小娘がしょっていけばいい」と自嘲します。


第7巻|シュワの墓所の主との対決

生まれたての巨神兵はまるで赤子のようです。母親のために闘うことだけが本能のようであり,教育を間違えると再び世界を破壊しかねません。クシャナはこの化け物を世に放してはならないので,他の方法がないなら船ごと爆破すると告げますが,ユパは巨神兵には火は効かないと彼女を制止します。

ナウシカは巨神兵とともにシュワの墓所を封印すると告げます。ナウシカの案内で巨神兵は西に向かって飛びます。クシャナはその意味を理解しナウシカにマントを投げ渡します。西に飛ぶ巨神兵の手の中でナウシカは異変を感じ取り山脈に降ろしてもらいます。巨神兵は地面に倒れます。

この辺境の地にトルメキアの二皇子の軍がおり,巨神兵の偵察にやってきます。武器をもった兵士を巨神兵は楽しむように殺害します。ナウシカは「やめろ!! うつな!!」という強いに思念を発すると巨神兵は鎮まり,母親に叱られた子どものようになります。

ナウシカは「わたしのいいつけを守って立派な人になりますか?」と問いかけます。巨神兵が「リパッパナ ヒト ナル」と答えたのでナウシカは「オーマ」という名前をつけます。

巨神兵は「わが名はオーマ,風の谷のナウシカの子 オーマ!! オーマは光輪を帯びし調停者にして戦士なり」と叫びます。名前がつくことにより急激に知恵のレベルが進んだようです。

巨神兵はトルメキア二皇子の船を着陸させ,ナウシカは神聖皇帝は死んだのだから軍を引いて本国に戻るよう告げます。ナウシカはオーマの毒の光を浴びて倒れます。二皇子は船で彼女を運ぶことにすると,オーマは見張るように一緒に飛びます。船の中のナウシカにオーマは念話で話しかけます。その中でオーマは自分は裁定者であると言います。

ミトとアスベルはシュワに向かう準備をしていると蟲使いの人々が船に乗せてくれと集まってきます。しかし,蟲使いは全財産を持ち歩いていますので荷物が多すぎます。すると,蟲使いは蟲を殺し,荷物を捨て「ナウシカ守るため荷物を捨てた,だから乗せてくれ」と懇願します。ミトは「すまん,返す言葉がないわい」と謝り,「一緒に行ってくれ」と頼みます。

大海嘯の結果,土鬼の地の三分の二は腐海に没し,植物と蟲たちの複雑な生態系ができつつあります。大気の下層は瘴気に覆われ,山地のみが腐海の瘴気から頭を出しています。

土鬼の人々はそのような土地に避難しています。ユパとクシャナは神聖皇帝の亡骸を見せると,人々は喜び初代神聖皇帝が邪教と禁じた古い経典を唱えます。しかし,ナウシカの言い残した言葉をもってしてもトルメキアと土鬼の確執が解消したわけではありません。

クシャナと第3軍の残存兵200名は移動のための船を借りようとしますが土鬼の長老たちの意見はまとまらないようです。多くの人々を殺害されたマニ族の人々の憎悪は深く,トルメキア兵を皆殺しにしようとしています。

この空気を感じ取りクシャナは「しょせん・・・血塗られた道か・・・」とつぶなきます。ユパがマニ族の女性たちを説得しているときにトルメキア兵が制圧にかかり,女性の一人が爆薬を投げます。ユパはそれを受けとめ,左腕を犠牲にして人々の被害を防ぎます。

マニ族の女性はユパのこころが分かったようです。彼女たちはマニ族の戦士とトルメキア兵の間に座り込みます。しかし,マニ族の戦士は抜刀してクシャナに突進します。ユパは両手を拡げてその前に立ち,彼らの刀を体で受けます。

そのときユパの顔がマニ僧正のものになり,人々はマニ僧正の最後の場面を思い出し,ひれふします。ユパは「すすめ・・・いとしい風よ」と言い残し,ナウシカはユパが行ってしまったことを感じ取ります。ユパはマニの人々に「マニの民よ 僧正様よりあずかりし生命 たしかにお返し申す」と語りかけます。

ナウシカはテトを埋葬するためオーマを呼び地上に降ろすよう頼みます。オーマは廃墟の町に降り立ち,テトを木の根元に埋めます。ここでナウシカは「庭の主」に出合います。オーマは苦しそうですので「庭の主」はオーマに断り,休息のためナウシカを運んでいきます。

この庭は天国のようなところであり,ナウシカを驚かせます。薬湯につかり,新しい服に着替えて,食事をしながらナウシカは考えます。この庭の中にはとうに滅んだ種がたくさんあり,安らかな世界が広がっています。ここにいるとナウシカは自分が何をすべきなのかを忘れてしまいそうです。

「テト」を手掛かりにナウシカは自分の使命を思い出します。屋根に上ったナウシカは周辺でヒドラが働いている光景を見ます。ナウシカは庭の主と会い,彼(彼女)が人の心を読み,平安の中で飼いならしてしまう存在であることを知ります。

しかし,庭の主の心理操作は巧みでありナウシカの心が折れそうになったとき,セルムの意識が現れナウシカを守ろうとします。庭の主の話から今の人間は腐海の毒にある程度耐えられるように人工的に変えられてしまい,清浄な環境では生きていけないことを知ります。同時に腐海そのものも人間が造り出したものだと結論付けます。

ナウシカが庭の外に出るとミトたちがナウシカを探しています。ナウシカの守り人と自称する蟲使いの人たちとも再会します。しかし,オーマの姿はなく足跡がシュワに向かっています。ナウシカは守り人と一緒にシュワを目指します。

ガンシップで一足早くシュワに到着したミトはヴ王の軍勢が黒い建物を攻撃するのを見ます。そして,ボロボロになったオーマもシュワに到着します。オーマは戦闘の停止を命じますが,トルメキア軍に砲撃されシュワの聖都ごとビームで破壊します。

ヴ王が進み出るとオーマは墓の主に退去を命じ,封印すると宣言します。これはナウシカの下した裁定なのです。墓からはオーマと同質のビームが発射されオーマの身体を貫きます。これに対抗したオーマのビームは墓に甚大な被害をあたえます。力尽きたオーマは墓の周囲にある空堀に転落します。

墓の中から人間が現れヴ王を中に案内します。彼らは墓の中に住みついている教団に属しており,神聖皇帝に博士を提供した存在です。ヴ王に続いてアスベルも墓の中に入ります。ミトは墓が生き物のように自分の傷を治しているのを感じ取り,裂け目に砲弾を差し込みます。遅れて到着したナウシカも守り人と一緒に墓の中に入ります。

墓の最下層でナウシカはヴ王と会います。そこには球形の人工生命体である墓所の主がおり,その表面に旧世界の古文字が浮かび出ています。教団はこの文字を読み解き,外の世界に伝えていました。神聖皇帝の悪魔の技はそこから出たものです。ヴ王の言葉により墓所の主が目覚めます。

墓所の主は旧世界の科学者が人類の滅亡を防ぐために造り出した生体コンピューター(のようなもの)であり,そこには旧世界の膨大な知識と技術が蓄積されています。この墓所は旧世界の墓標であるともに,大地の浄化と動植物や新しい人類の創造がプログラムされています。

作品中には「火の七日間」の結果,世界の滅亡を防ぐために墓所が構築されたのか,あるいは「火の七日間」そのものが浄化プログラムの始まりであったのかは記されていません。

腐海の毒にある程度耐えられる人類を創出したり,墓所を建造するためには相当の時間が必要ですので,個人的には後者の可能性が高いと考えます。人類が溢れかえり,環境が極端に劣化した地球をいったんリセットするのが大浄化プログラムということになります。

ナウシカたちはこのプログラムによりすでに遺伝子レベルで改造されており,来たるべき浄化された環境では生きられないようになっています。新しい人類は平和的で自然と調和できる性質を備えており,「火の七日間」以前の人類,「火の七日間」以降の人類(物語中の人類)とはまったく別物ということになります。

浄化プログラムの重要ポイントは旧世界の血を引く(凶暴な性質をもつ)人類は,浄化された世界では生きられないようにすることです。そのため遺伝子改造は中途半端な耐毒性にとどめ,繁殖力を抑えるとともに寿命を制限し,毒の無い世界では生きられないようにしています。

それは大地の毒物を吸収し,無害な物質に変えたのちに石化していく腐海の植物と同じ発想です。腐海という生態系は大地の浄化を目的に創造されたものであり,(毒物なしには十分に生きられないようにしているため)浄化の朝には滅亡する定めとなっています。

墓所の主はすべては大地を甦らせるためのプログラムの一環なので協力するように依頼しますが,ナウシカは激しく拒絶します。二人のやりとりはこの物語の最重要場面ですので左に列記しておきます。

ナウシカの生命観は「この星では生命そのものが奇跡であり,生命はそれ自体の力で生きるもの」であり,人間が自分の都合でそれをプログラムすることは生命に対する最大の侮蔑であると考えています。

それに対して「墓所の主」は「火の七日間」を起点に世界を作り変えます。造物主として汚染された世界,腐海という新しい生態系および遺伝子操作を受けた現在の人々を浄化プログラムの一部として創造し,そこから先は(選択の余地はなく)自分のプログラム通りにしないと人類は滅亡すると説きます。これは説得ではなく人類という種の存続を抵当にした脅迫です。

現在の人間や腐海の生物は1000年前の人間が生命に介入して(生命の尊厳を損ねて)造られたものであっても,生命は自分たちのものなのです。造物主が使い捨ての道具として造った王蟲は種全体で共有する高度な知性や思いやり,慈しみといったこころを持っており,腐海の動植物は全体で一つの生命体のようになっています。

この素晴らしい世界を構成する動植物の多くを1000年前の造物主の命令通りに滅亡させてよい理由はどこにもありません。ナウシカにとっては自分と同じ時代を生きているすべての生物は腐海の生物を含めかけがえのないものです。

現世界の生物の大半は浄化の時代を生きられないかもしれませんが,それはこの星が決めることであり,ナウシカにとっては1000年前の人間が考え出したプログラムに従ってそれを絶滅させる計画に手を貸すことなどは考えられません。

もう一つのキーワードは「変化」でしょう。人間は不完全でおろかで自然と調和することのできない種かもしれません。しかし,人間は自ら変わることができます。多くの失敗の中から学び,地球の平和な住人となる可能性をもっています。その可能性を1000年前の絶望の中で生み出されたプログラムが抹殺しようとしているのです。

ナウシカは墓所の主を拒否し,オーマの光で破壊します。管理プログラムが消滅したあとにも浄化は進み,新しい時代は確実にやってくることでしょう。そのような大変化(生物の大絶滅)は地球上では何回も起きており,生命はその都度,自分の力で新しい環境に適応していきました。それが生命本来の姿ということです。

墓所の主を破壊するというナウシカの行動に対して,ネット上で多くの批判の声も寄せられていますが,私はナウシカの生命倫理観を支持します。「生命の尊厳」を犠牲にして墓所の主のプログラムを進めても,(不完全な人間の作ったプログラムなのですから)墓所の主が示す先にあるものが自然と調和し,人間が人間らしく生きられる人類社会であるという保証はなにもありません。

シュワの墓所に到着する前にナウシカが立ち寄った「庭の主(ヒドラ)に管理された庭園」は天国のようなところであり,そこでトルメキアの皇子たちは(墓所の主がナウシカに語ったように)音楽と詩に没頭します。作者がシュワの墓所の前にこの「庭園」を読者に紹介した意図を考えると,私にはこの「管理された庭園」こそが墓所の主のプログラムの方向性を示しているように思えるのです。