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松本零士と生涯を共にするキャラクター

松本零士は福岡県出身で1938年1月25日生まれです。これは奇しくも石ノ森章太郎と同じです。どちらも高校時代に手塚治虫と親交をもつようになり,高校時代に漫画家としてデビューしています。石ノ森が高校卒業後は上京して順調な漫画家人生を始めたのに対して,松本は上京して少女漫画で不定期に描くもののじきにスランプとなります。

デビュー時は本名の「松本あきら」を使用していましたが,1965年頃から「松本零士」を使うようになりました。私は松本零士より10歳若い世代ですが,「松本あきら」時代の作品はまったく記憶にありますん。

少女誌から少年誌,青年誌にまで活動の場を広げた松本の出世作が少年マガジンに連載された「男おいどん」です。すでにこの時,松本は30代に入っています。この作品で初めて松本零士の名前を知りましたが,まさかSFが得意な作家とは夢にも思いませんでした。

この「男おいどん」の主人公である九州出身の「大山昇太」はチビで蟹股・ド近眼・醜男というメガネの怪人であり,松本零士と生涯を共にするキャラクターの一人です。

「男おいどん」とほぼ同時期に発表された「ガンフロンティア」ではメガネの怪人の「トチロー」と彼の親友「ハーロック」が登場します。「戦場まんがシリーズ」に収録されている「わが青春のアルカディア」の中には「ファントム・F・ハーロックU」と「台羽元」が出てきます。

「キャプテン・ハーロック」でもこの二人のキャラクターは出てきますが,作品世界を共有しているわけではありません。それに対して「クイーン・エメラルダス」(QUEEN EMERALDAS),「銀河鉄道999」は「キャプテン・ハーロック」と作品世界を共有しています。

「クイーン・エメラルダス」では「エメラルダス」,「ハーロック」,「トチロー」が登場しており,この3人が松本零士と生涯を共にするキャラクターです。これに付け加えるとすれば「銀河鉄道999」の「メーテル」と「キャプテン・ハーロック」の「トリさん」ということになるでしょう。

実際のところ松本零士の漫画作品ではこの4人と1羽のキャラクターがよく登場しており,さらにアニメにおける設定もありますので,正確に記述するのは困難です。

また,「キャプテン・ハーロック」に登場する副長の「ヤッタラン」,医者の「ドクター・ゼロ」,ドクターの飼い猫の「ミーくん」,コック長の「ますさん」も松本作品ではおなじみのキャラクターです。

松本零士の名前をメジャーに押し上げたのはアニメの「宇宙戦艦ヤマト」です。この作品で松本は監督と設定デザイン担当とクレジットされていますが,実際は製作総指揮をとっていた西崎義展が実質的な監督であり,松本は「総設定・美術・デザイン」の担当であることが和解書の形で確認されています。

ともあれ,この作品の大ヒットにより松本零士の世界は大きく広がることになります。映画版に先立ちテレビ版が放送されたのは1974年ですから松本零士が36歳のときです。

「宇宙戦艦ヤマト」さらには「銀河鉄道999」の大ヒットにより,松本零士は日本のSF界の寵児となり,その縁で大学教授をはじめ多くの公職に就いています。

宇宙海賊キャプテンハーロックの世界

物語の冒頭には次のような一文が掲載されています。

地球の海が死滅した時 人々は言った
『人類の終わりの時が来た』と・・・
頭上に広がる無限の海に なぜか目をつぶって
人類の行く末をひたすら嘆いた
新しい人類の輝かしい未来を信じて
新しい無限の海『宇宙』へ
歯をくいしばって乗り出して行った
わずかばかりの男たちの事を
この人々は指さし あざ笑った
『はかない夢を追う無法者』と・・・
これはそういう時代の物語である
・・・…時に西暦二九七七年……


作者の設定は作品発表時から1000年後の世界であり,人類は気力を失い滅亡を待つだけとなった時代と説明されています。この場合の「気力」とは太陽系の外宇宙に乗り出して行くことを行くことを意味しているようです。

地球が属している太陽系の中心には直径約140万kmの太陽があり,その外側を8つの惑星が公転しています。太陽は太陽系の質量の99・86%を占めており,その巨大な重力により太陽系を支配しています。

地球は太陽から1.5億km離れたところにあり,光の速さでも8.3分かかる距離です。数字が大きすぎるため太陽系内の尺度としてはAU(1AU=約1.5億km=太陽・地球距離)が使用されます。

一番外側の海王星までの距離は30AU(45億km)であり,一般的にはここまでを太陽系とすることが多いのですが,その外側にはエッジワース・カイパーベルト(50AU),さらにその外側には散乱円盤(数百AU),その存在が仮定されているオールトの雲は10,000Auもしくは100,000AU(1.58光年)にまで広がっていると考えられています。

2013年にNASAはボイジャー1号(1977年打ち上げ)が太陽系圏から脱出したことを確認しています。太陽系圏とはちょっと聞きなれない用語であり,太陽系の磁気圏が及ぶ範囲と定義されます。そこは太陽から125AUほどのところであり,厳密にいうと太陽系を離脱するまでにはあと3万年ほどかかる計算です。

太陽系はこのように広大な空間ですが,太陽系の属している「天の川銀河」の直径は約10万光年であり,そこには太陽と同じような恒星が2000億個もひしめいています。世紀の天体イベントともいうべき超新星爆発が100年から200年に1度くらいの頻度で発生します。

実際には「ひしめいている」という表現は正しくはありません。太陽から太陽にもっとも近い恒星までの距離は4.2光年もあります。銀河の中心部はもう少し恒星の密度が高いので恒星間距離を1光年(約10兆km)として計算すると,これは太陽直径(140万km=0.014億km)の700万倍に相当します。

銀河中心部の恒星を野球のボールよりちょっと大きい直径10cmの球だとすれば,最も近い恒星は700kmのかなたということになります。恒星が密集している銀河の中心でもこのくらいスカスカの状態なのです。

それに対して「天の川銀河」と「アンドロメダ銀河」の距離は約254万光年であり銀河の直径10万光年の25倍程度となっています。もっとも「天の川銀河」の円盤直径は10万光年ですが,銀河の周囲には球形のハローという領域が広がっており,その直径は円盤直系の10倍,100万光年とされています。

この領域には古い恒星や古い恒星からなる球状星団が比較的不規則に回転しています。さらに,「天の川銀河」に取り込まれた複数の矮小銀河が同じように不規則に回転しています。

ハローの天体は「天の川銀河」が衝突・合体により成長していく過程で取り込まれた天体であると考えられ,正確な「天の川銀河」の領域はハローを含むことになります。そうすると,「天の川銀河」の大きさは100万年光年程度となり,「アンドロメダ大星雲」領域とは非常に近いということになります。

「キャプテン・ハーロック」の活動の舞台は太陽系の外に広がる外宇宙であり,作品中ではそこは力が支配する無法の海と表現されています。

残念ながら恒星間航行は距離の壁があり,光速の10分の1(秒速3万km=時速1億km)で飛行できる宇宙船でも1光年先の恒星までは10年かかることになります。ボイジャーの速度は時速6万kmですので太陽系離脱までに3万年ということになります。

多くのSF作品がそうであるように海賊戦艦アルカディア号にもワープ装置がなければ物語は進展しません。アルカディア号と40人の乗り組員はかってハーロックがトチローと一緒に渡り歩いた太陽系の外宇宙に向かって旅立ちます。

アルカディア号の乗り組員が40人なのは「アリババと40人の盗賊」のパロディでしょう。実際にはアルカディア号は全長全長400mの巨大戦艦であり艦載機も搭載していますので40人で動かし,戦闘するのは困難です。直接的な比較にはなりませんが,原子力空母の乗組員数は5000人を超えています。

松本零士の作品は総じて距離の概念が希薄です。マゾーンのペナントの軌跡をたどるときも「太陽系からも銀河系からも出ていくぞ・・・両舷全速 無法の海が俺の墓場だ 諸君 共に行こうではないか」といった具合です。実際には銀河間航行は100万光年単位の移動になるのですからこの距離感の小ささはかなり違和感があります。


ペナントが地球に打ち込まれます

物語の発端は地球に打ち込まれた光をまったく反射しない黒い球体でした。材質は不明,直径は2kmで表面にはマヤ文字のようなもの記されています。

う〜ん,光を全く反射しない(光をすべて吸収する)球体があったとしたら人間の眼にはどのように見えるのでしょうか。おそらく,明るい環境では背景の前にある円形の黒い空洞のように見えることでしょう。立体感はないと思われます。

人類が作りだすことのできるもっとも暗い物質はカーボン・ナノチューブで造られた特殊な構造体であり,全反射率は0.045%でした。この構造体は薄い円筒形であり,背景の上に置くと黒い穴のように見えます。球体はどの角度から見ても円になりますので,同様に黒い穴のように見えるはずです。

当然,表面の文字などは見えないはずですがそこは触れないでおきましょう。この球体の軌跡を解析しようとした台羽博士は「紙のように燃える女たち」に殺害されます。

この球体の文字はクスコ教授により「ここは全能なる われらマゾーンの 第二のふるさとなり」と解読されました。さらに黒い球体は次元波という無限大の到達距離をもつ信号波を絶えず出し続けており,遠い彼方にいる何者かを誘導し続けているということもクスコ教授は指摘しています。

次元波はSF的創作であり,普通の電磁波あるいは重力波でも到達距離は無限大です。ただし,距離の2乗に反比例して小さくなります。現在の高性能な望遠鏡は130億年前に発せられた光や電磁波をとらえることができます。

ペナントを打ち込んだマゾーンの目的は地球を自分たちの星にすることのようです。このような危機が迫っていても地球政府はまったく思考を停止した状態です。クスコ教授も殺害されたことにより,台羽博士の息子の正はハーロックとその仲間たちと行動をともにすることを決意します。

台羽を迎えにきたハーロックの歓迎の言葉と台羽の決意はとてもいいですね。ちょっと長くなりますが引用してみましょう。

台羽君!! さあ,艦に乗れ!! われわれは君を歓迎するぞ
君はこのアルカディア号に乗り 君の信ずるもののために戦え
誰も君に強制はしない
君の胸の中にあるもののために戦え!!
もし 君の考えと 俺の考えが違う時
もし 違っていると分かった時は
その時はだまってたもとをわかとう
だまって 艦を降りろ
俺は何もいわない
他の者も 誰も文句はいわない
しかし 君の信ずるものと われわれの……
この俺の信ずるものが同じだった時は
この艦で共に戦い 共に暮らし
いつの日にか満足して 共に死のうではないか
永遠の眠りにつく日まで
力の限り この艦で戦おうではないか
台羽君 それをこの旗に誓うか?

誓うとも
ぼくはこの旗の下で ぼくの信じるもののために戦う
ぼくは神など信じないが……
天地宇宙万物の真理に誓っていう
決して途中で投げ出したりはしない!!
力の限りに戦って この艦上で死ぬことになっても 後悔はしない
これは ぼくが自分で選んだ道だ
だから その結果がどうあれ 誰もうらんだりしない
あとで泣き言をいうぐらいなら はじめからここには来ない
覚悟はしてきました

分かった 台羽君
たった今から君を このアルカディア号の血盟の同志として遇しよう
来い!!


私がこの作品に惹かれるのはこのような大時代のセリフや独白が随所に散りばめられており,それを読んでいくとふむふむという気にさせられるからです。「戦場まんがシリーズ 」でも類似のテイストを味わうことはできますが,個人的には戦争を美化しているように感じられるので「宇宙海賊 キャプテンハーロック」を代表作としています。

もちろん,この作品にも戦闘場面もありますが,地球を守るという大義名分がありますし,ハーロックの生き方(男の美学)が前面に出ていますので抵抗感は少ないのです。


ミーメは滅びた種族の最後の一人です

アルカディア号の乗組員は地球人ですが,ただ一人「ミーメ」はアンタレスの近くの小さな惑星の出身です。その頃のハーロックは一人で星から星へと渡り歩いていました。その小さな惑星の巨大化した植物の中でハーロックがブランデーのふたを開けるとミーメが現れました。

彼女はアルコールを常食(常飲)している種族であり,そのほとんどが巨大化した植物に飲み込まれてしまいました。この巨大化した植物の森と地球に送り込まれた実験室の植物には共通点があり,マゾーンの戦略が暗示されています。

ハーロックに助け出されたミーメはその後,彼と行動をともにしており,ハーロックとトチローの友情やトチローとエメラルダスの愛を記憶に留めています。眠ることのないミーメはハーロックが艦橋で一人でいるときなどはしんみりと昔話をします。

このあたりも作者の持ち味であり,その話の中にどうしてハーロックが地球を見限って海賊になったのか,極貧の中でも艦をもたない海洋民族は滅びるだけだという信念をもったトチローがアルカディア号の建造にどのように関わったかなどが断片的に語られます。ミーメは飄々とした語り部なのです。


信号灯台となっている墓標

地球の映像の乱れを調査していたアルカディア号はその原因が「バミューダ・トライアングル」にあることを突き止めます。アルカディア号は水中にもぐり,ズレの中心部でピラミッドを発見します。

私が子どもの頃,「バミューダ・トライアングル」は航空機や船舶,もしくはその乗務員だけが消えてしまう魔の海域として恐れられていた。また,この海域の「サルガッソ海」は海藻が繁茂して,船舶が閉じ込められてしまうことから船の墓場とする伝説もありました。

現在ではどちらも特異的な海域ではないことが明らかになっていますが,50年前にはまだ伝説が残されており,多くの怪奇物語やマンガの題材になっていました。

アルカディア号が爆雷により海底の泥を取り除くとピラミッドが現れ,側面には黒い球体のペナントと同じような文字が刻まれています。どうして宇宙戦艦が爆雷しかも火薬を使用した爆雷を搭載しているんだなどという突っ込みを入れてはいけません。

ピラミッドは数万年前のものと見積もられます。泥から顔を出したピラミッドは強烈な信号が発せられます。このシーンは「2001年宇宙の旅(1968年米国映画)」においてヒトの祖先がモノリス(石碑状の黒い直方体)に触れると知能を進化させ,月面に埋められていたモノリスに人類が触れたとき強い指向性のビームが木星に向けて発せられたシーンと重なってきます。

アルカディア号はピラミッドに引きつけられ船首がめり込んでしまいます。内部は大脳の神経組織のような構造になっており,その中心には熱を発しないで白く輝く球体に包まれたカプセルがあります。

カプセルはマゾーンの棺であり,その中には生前と同様に美しい姿のままの女性が永遠の眠りについていました。このピラミッドは特別な身分の女性の墓地灯台であり,その信号に導かれてペナントは地球に到達しました。

カプセルを持ち帰り,遺体を調査すればマゾーンについての情報は得られますが,ハーロックは次のように語り,遺体をそのままにしておくよう指示します。

これだけ丁重に葬られている女だ
特別の理由があるにちがいない
俺は墓をあばくようなことはしない
たとえ許しがたい敵だとしても
使命のために倒れた者には最大限の敬意を表する
俺も信念のおもむくままに死にたい
あの女は異郷で永遠の眠りについたまま
同胞を導いているのだ
偉大な存在ではないか……


ハーロックの騎士道精神が凝縮された一文です。自分の信ずるもののために生きることがハーロックの信念であり,目的は違ってもあるいは例えそれが敵であっても,使命のために亡くなった者はハーロックにとっては敬意をもって接すべき対象なのです。このハーロックの美学にも深くうなずくことができます。

ピラミッドとペナントは指向性のある信号を宇宙空間に向かって発しており,それをたどることによりマゾーンの艦隊を遭遇する可能性が高いことが分かり,アルカディア号はその方向に針路をとります。

ハーロックはすでに台羽博士のデータ解析からペナントが超新星爆発で飛散した恒星系から飛来してきたことを知っています。しかし,この一文はちょっと修正しなければなりません。

超新星爆発を起こすような恒星系には高等生物はおろか微生物も生まれない可能性が高いのです。問題は時間です。地球に生命が誕生したのは40億年前とされており,太陽系が誕生してから6億年が経過しています。

生命の誕生から人間という知的生物が進化するまでにはさらに40億年という時間が必要でした。ところが,超新星爆発を起こす恒星は太陽の8倍以上の質量をもったものであり,強い重力,高温のため核融合が太陽よりずっと早く進行し,数十万年から数百万年で最後を迎えてしまいます。

生命が誕生し高等生物に進化するためには太陽ほどの寿命が必要です。太陽の場合は超新星爆発を起こさず,50億年後には赤色巨星として巨大化し,ガスの大半を周囲の空間に(比較的ゆっくりと)まき散らし「らせん星雲(惑星状星雲)」となり,中心には太陽の残骸である白色矮星が輝くことになります。ということでペナントの軌跡の先にあったものはらせん星雲だったことにしましょう。

ハーロックはマゾーンのペナントが地球を第二のマゾーンの星にしようとしている意図も理解しています。地球人から見るとマゾーンは侵略者ですが,そのような敵に対しても礼を失しないのがハーロックの生き方なのです。太陽系から外宇宙に向かうアルカディア号の背景には次のように記されています。

銀河系内を内海とすれば
星雲宇宙島間の空間は外洋である
そこは力が正義を支配する 無法の海である
冷酷な「万物の真理」が運命を司る 無法の海である


この作品の随所にちりばめられているこのような詩的な表現が,この作品の価値を高めています。アルカディア号とマゾーンの戦闘艦との戦闘シーンなどは撃った,当たった程度の表現に止められており,ハーロックの生き方と,一族の運命を背負った女王ラフレシアの信念が激突する展開になるはずですが,残念ながら物語は5巻で中断された形で終了しています。


マゾーンは植物人間なのでしょうか

地球から発せられた信号の方向に針路をとるアルカディア号はマゾーンの戦闘艦と遭遇し撃破します。この艦には乗組員はおらず,中枢部にはバミューダ・トライアングルで見た白く輝く球体があり,生きたマゾーンが中枢として使用されていました。体形と顔立ちは地球人の女性と同じですが,内部構造は植物そのものでした。マゾーンは植物人間なのでしょうか。作品中にはその結論は出てきません。

アルカディア号がラフレシアの艦隊に近づくと「紙のように燃える女」の代わりに実体のあるマゾーンが出てくるようになり,彼女たちは燃えることはありません。しかも,彼女たちは一様に人類の尺度からすると理想的な美女なのです。

ミーメは「木の中に木が混じれば分からない,人の中に人が混じれば分からない」と「紙のように燃える女」は人類に対する擬態であることを示唆しますが,作品中に出てくるトカーガ人は人類とはかなり異なった容姿をしており,単純な擬態ではないようです。

ともあれ,マゾーンが地球人の中に紛れ込んでいる可能性が高いのでハーロックはいったん地球に引き返すことにします。ハーロックは「紙のように燃える女」が別の形ではるか昔から地球にいたとにらんでいます。

女王ラフレシアは水晶球に映し出されたアルカディア号が地球に引き返すのを見て,その真意を計りかねています。


マゾーン狩り

アルカディア号の乗り組合たちは地球に戻り,探知機を使いマゾーン狩りを行います。この話は「魔女狩り」あるいは「同族狩り」のように見えるのであまり気持ちのよいものでありません。

台羽も命乞いをする彼女たちを殺害することを躊躇しますが,背を向けた台羽に対して彼女たちは銃を構えます。ミーメは「異質の生命の出会いはどちらかが死滅することで終わる」と語りますが,さすがにこれは暴論でしょう。特別な利害が絡む場合ならいざしらず,異質の(高等)生命体の同志の出会いがジェノサイドに結び付く論理はありません。

マゾーンと同じ組織をもつ植物群を調査したアルカディア号はそれらが南米のナスカ遺跡やインカ帝国の周辺,中米のマヤ遺跡の周辺に多いことを発見します。マゾーンは人類の歴史の始まりから,あるいはそれ以前に地球に来訪していたようです。

ハーロックと台羽は反応のもっとも強いマヤの天文台の近くの密林で多数のマゾーンが樹木から分離することを目撃します。マゾーンは地球上の植物そのものであり,マゾーンを除去することは人類の滅亡につながります。マゾーンは敵ですが,マゾーン無しには地球人類は立ちいかないという自己矛盾に陥ります。

金星のマゾーンの基地でハーロックはラフレシアの幻影と対面します。彼女はやはり地球人の美女の姿をしています。ラフレシアはハーロックに取引を持ちかけますが,ハーロックは影と取引するつもりはないと言下に拒否します。幻影が消える間際にラフレシアは「蒔いた種に挑戦されるとは・・・・・・哀しいことね」とつぶやきます。


トカーガの戦士ゾル

アルカディア号に小型艇が突っ込み装甲を破り艦内にシャドウソルジャーと本物の戦闘員を送り込みます。戦闘員を片付けた台羽が乗り込むと小型艇は勝手にハッチを閉めて動き出します。この小型艇はカブトガニの姿をしています。

アルカディア号は小型艇を収容しようとした母艦に遭遇します。それは恒星間航行用の巨大船であり,直径10km,厚さ3kmという巨大なものです。この戦闘にはほとんどリアリティがありません。敵のエネルギーブレットはアルカディア号の装甲を貫けませんが,アルカディア号の主砲は一斉射でやすやすと敵艦を破壊します。

収容した小型艇にはトカーガの戦士ゾルが乗っていました。ゾルの話では『トカーガの生殺与奪はマゾーンの手に握られており,そのため誇り高いトカーガの戦士はたちはマゾーンの手先として戦わなければならなかった』と語ります。

ゾルはさらに『マゾーンの艦隊は星の流れるほどのもので,どれほど続いているのか分からないほどだ』とマゾーンの強大さをハーロックに伝えてから,マゾーンの手先となった自分を恥じて自殺します。ハーロックは真の友としてゾルを宇宙葬にします。

プレアデス星団の彼方

火星に地球と同じペナントが打ち込まれ,地球のペナントと共鳴して強い指向性の信号を発しました。これはマゾーンが地球の位置を正確に測定し直したものと考えられます。火星のペナントをタイムレーダーで分析するとプレアデス星団の彼方の星の少ない空間にから飛来していることが分かります。

プレアデス星団は「すばる」とも呼ばれ地球から400光年の距離にあり,肉眼でも5-7個の星の集まりを見ることができます。実際には数千万個の青白く輝く,若くて高温の星の集団です。プレアデス星団の彼方という表現からペナントの軌跡は「天の川銀河」内からのものであり,天の川銀河の大きさに比べるとずっと地球から近い場所と推定できます。

センサー

ペナントの軌跡に針路を合わせたアルカディア号は正体の分からないガス雲のようなものに遭遇します。艦の大コンピューターは反応せず,沈黙しています。ガス雲の中に入ると空電のようなものがアルカディア号を取り巻き,乗組員は頭の中を何かが通り過ぎたように感じます。

これはマゾーンの精神センサーであり,ラフレシアの元には42人分の意識が届けられます。乗組員はハーロックを含め41人ですので数が合いません。その中の一人は信じられないくらい深い眠りについていると分析されました。

この42人目の乗組員は大コンピュータに接続されている「トチロー」の脳もしくは意識であることが最後の方で明らかにされます。アルカディア号の建造に心血を注ぎ,完成直後に死亡した「トチロー」の脳は大コンピュータの中に生きているのです。

大コンピュータがときどき人間のように感情的にふるまうのはそのためです。ハーロックの生涯の友である「トチロー」は肉体は死んでもその心はアルカディア号とともにあるのです。

どうして地球じゃなければいけないの

42人目の乗組員を探りに来た突撃偵察隊長の「ジョジベル」はアルカディア号の捕虜となりますが,そのまま釈放されます。ラフレシアの電話に出たジョジベルはアルカディア号の仲間について報告します。

それに対してラフレシアは「我われが宇宙をおし渡って行くのは何のためだと思う!? 心を取り戻すのは目的を果たしてからだ」と叱ります。この目的とはマゾーンの居住できる第二の惑星を手に入れることです。

しかし,それがどうして地球でなければならないのでしょうか。最新の宇宙観察では惑星をもつ恒星がいくつも見つかっています。太陽はありふれた主系列の恒星であるように太陽系もごくありふれたものなのかもしれません。

全能のマゾーンは宇宙の隅々に種を蒔いており,地球だけが特別にマゾーンにとって住みよいところとは思えません。天の川銀河には2000億からの恒星があり,そのうち相当確率で惑星をもち,その中でも液体の水の存在できる範囲に位置する惑星もいくらでもあるはずです。

地球のように環境汚染の進んだ惑星ではなく,マゾーンがたやすく手に入り,より環境のよい惑星がいくらでもあるはずです。

岡崎二郎の「アフター0」の中に次のようなブラックジョークがあります。地球人を食料にしている宇宙人が久々に地球にやってきたところ,地球人は有害な化学物質にまみれており,とても食料にはならないと諦めて帰るというものです。地球の環境汚染がもう少しひどかったらマゾーンも諦めてくれたかもしれません。


トカーガの叛乱

トカーガはマゾーンの植民地星となっており,彼らの攻撃を受けて台羽のスペース・ウルフは捕獲されます。後を追ったアルカディア号はトカーガの海に着水します。水深は1万mもあり,海底には多数のピラミッドが整然と並んでいます。

アルカディア号は口を開けていた最大のピラミッドの中に入ります。アルカディア号は全長400mの巨大戦艦であり,艦載機も搭載しています。そのアルカディア号が進入できるのですからピラミッドの大きさは見当がつかないほどのものです。

ピラミッドの中は暖かい海水に浸された無限の空間になっています。アルカディア号の水中レーダーは何もとらえることができません。そこには無数の果物の種のようなものが浮遊しています。この空間は外部とは隔絶されたマゾーンの胎内のようです。

ここで台羽が発見されアルカディア号に収容されます。トカーガの戦士はアルカディア号をここに誘導し,マゾーンの胎内を見せようとしていたようです。マゾーンは植物型ですので母なる海あるいは畑と形容した方が適切かもしれません。

ハーロックはこのような施設は地球や金星にもあったと推論します。それどころかマゾーンの手の届く範囲で可能性のある惑星にはこのような畑を造った可能性が高いようです。

アルカディア号が大気圏に浮上すると海底のピラミッドが連続的に爆発していきます。トカーガの人々は自分たちの惑星が破壊されることを知りながら叛乱を起こしたのです。ラフレシアはトカーガ星の破壊を命じます。異変を感じ取ったアルカディア号は全力でトカーガ星から離脱します。

地球の植物の一部もしくは大半がマゾーンであるとすれば動物さらには人類はどのような存在となるかについてはラフレシアの意味深なつぶやきとハーロックの推論以外には語られてはいません。

惑星ヘビーメルダー

アルカディア号はユーフラテス太陽系の近くを通過します。この星系には「惑星ヘビーメルダー」があり,そこはかってハーロックとトチローが暮らしていたところであり,アルカディア号が建造されたところです。

心血を注いで建造したアルカディア号が完成したあとトチローは病に倒れます。惑星ヘビーメルダーに降り立つと男性の乗組員はなじみの酒場に直行し,女性たちは艦内で酒盛りとなります。

ハーロックはトリさんとともにトチローの墓参りに出かけます。彼の墓標は一本の棒杭であり,その上に彼の使用した帽子が置かれています。少し離れたところにはかってハーロックとトチローが星の海を渡り歩いたデス・シャドウ号が砂の中に船首をめり込ませるように埋まっています。ここはハーロックにとっては生涯の友と過ごした所であり,彼を喪った悲しみの地です。

ハーロックがなじみの酒場に向かうとそこにはラフレシアが待っていました。彼女はハーロックと話しをしにきたのですが,そのときマゾーン艦隊がアルカディア号への攻撃を開始します。この女王の意志にそむいた攻撃のため話し合いは中断します。

「宇宙海賊 キャプテン・ハーロック」はここで終了しています。「第一部完」とはなっているものの,それから30年が経過しても第二部が再開されることはありませんでした。

第二部が開始されないのは当然なのかもしれません。マゾーンの科学力は地球のそれをはるかに凌駕しています。惑星トカーガを簡単に破壊できたマゾーンがアルカディア号を破壊できない理由はまったくありません。星の流れるような大艦隊の前衛駆逐艦のほんの一部だけでもそれは十分でしょう。

もう一つの問題は地球の植物を支配しているのはマゾーンですから,地球人はマゾーンに決して打ち勝つことはできません。それは自殺行為なのです。マゾーン(植物)の恵みで食糧を確保している地球人はマゾーンと共存する以外に生き延びる道はないのです。

こう考えると,この作品は中断するしかなかったと思います。松本零士は物語全体を見通した設定をするのが苦手であり,けっこう場当たり的に話を進めて行くことがあります。短篇でしたらそれで問題ありませんが,長編ではどのように話しを決着させるのかが難しくなります。


戦場まんがシリーズ

本来の「戦場まんがシリーズ」は「週刊少年サンデー」に不定期連載された一連の短編集をですが,「ビッグコミックオリジナル」に掲載された「ザ・コクピット」シリーズや「プレイコミック」に掲載された短編も含まれます。

全9巻のうち第4巻の「わが青春のアルカディア」までが少年サンデーに掲載されたものであり,それ以降は「ザ・コクピット」シリーズの作品です。そのため,シリーズの途中から多少雰囲気が変わっています。主に第二次世界大戦の戦場を題材にしており,ドイツと日本の武器の優秀性についての記述が多いようです。