私的漫画世界
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ふくやま けいこ

「ふくやまけいこ」はネットで検索してもほとんどエピソードが出てこない作家です。単行本のカバーに次のように自己紹介が記載されています。

東京生まれ,おいてけ堀で産湯をつかいし後,めでたくデパート店員になるが,遅刻・イネムリの多さに転職を希望,流れ流れてマンガ家に。エンピツにうさぎを彫るのがとくいだ。

1981年に自主出版の個人誌「ふくやまジックヴック」を刊行し,これが注目されて1982年に商業誌デビューを果たします。「ふくやまジックヴック」は「福山慶子」の名前で出されており,5版まで版を重ねたようであり,ふくやまけいこの原点としてマニア垂涎のお宝ブックとなっています。

ふくやまさんのデビューは二説あり,一つは「地下鉄のフォール(wikipedia)」,もう一つは「エリス&アメリア(hayakawa online)」となっています。

デビュー作はどちらにしても,20歳くらいの頃にはもう漫画家かアニメーターになる意志は固まっていたようですから,「流れ流れてマンガ家に」という自己紹介は多分に照れ隠しの表現なのでしょう。ともあれ,1982年にデビューしてから現在に至るまでファンタジー,SFの分野で創作活動を続けています。

私は持っていませんが初期作品の「エリス&アメリア ゼリービーンズ」の表紙画像を見る限りでは絵柄の変化はほとんどないようです。ふくやまさんの作品で最初に入手したのは「アップフェルランド物語」でした。田中芳樹の原作ですのでストーリーはしっかりしているし,フリーダとアリアーナの造形はかわいいし,もう少し彼女の作品を集めてみようかという気にさせられました。

田中芳樹は現代日本を代表するストリーテラーであり,彼の代表作を含め多くの作品が漫画家されているという珍しい作家です。作画を担当する漫画家も一流どころがそろっており,確かに彼の作品は漫画との相性が良いようです。

作品名 作画担当の漫画家
銀河英雄伝説道原かつみ,鴨下幸久
アルスラーン戦記中村地里
創竜伝CLAMP(未完)
夏の魔術シリーズふくやまけいこ
薬師寺涼子の怪奇事件簿垣野内成美
アップフェルランド物語ふくやまけいこ


最初の出会いが別のふくやま作品であったなら,私の書棚に彼女の作品は並ばなかったかもしれません。その意味では幸運な出会いでした。

徳間書店から出された「アップフェルランド物語(B6版)」には作者自身のあとがきはありませんが,A5版サイズのものにはすべてあとがきが付いており,その最後に下記のような感謝のことばが添えてあります。

● アップフェルランド物語
連載時,担当して下さった編集・デザイナーのみなさま,今回担当して下さった編集・デザイナーのみなさま,手伝ってくれたアシスタントのみなさま,そしてなによりこの本を読んで下さったあなたにこころからの感謝を! 2007 ふくやまけいこ

● 髪切虫・桜
そしていつものように,あらゆる人たちにたすけてもらい,めいわくをかけつつ,おかげさまでこの本になりました。よんでくれてありがとう! これからもがんばるっす! ふくやまけいこでした

● レイニー通りの虹
担当して下さった榎本さん,中沢さん 本当にありがとうございます。手伝って下さったいまいさん,いちかわさん,ぐんじさん,ちばさん,うちのお姉さん どうもありがとう。そんなこんなで一冊ぶん いろんな話を描かせていただいて 楽しかったです。ここまで読んでくださって本当にうれしいです!! どうもありがとうございました。また よかったら読んでみて下さいね。これからもがんばります。 それでは…


読者だけではなく編集担当者,デザイナー,アシスタントにも感謝の気持ちを綴る姿勢は好感がもてます。彼女を作品を集めるようになったのはそんなところにも理由があるのかもしれません。

高橋留美子とふくやまけいこ

ネット上ではふくやまが一時期,高橋留美子のアシスタントをしていたという情報があります。私は未確認ですが,「うる星やつら」の最終巻にアシスタントへのスペシャル・サンクスがあり,そこにふくやまの名前が記載されているそうです。アシスタントというよりは短期間の応援のようなものだったと推測します。

「うる星やつら」の執筆時期は1978年-1987年であり,ふくやまの漫画家デビューは1982年ですから,時期的には整合します。高橋留美子の作品は「うる星やつら」と並行して「メゾン一刻」,その後は「らんま1/2」と続きます。

私はかねがね「うる星やつら」のラムちゃんの造形と「らんま1/2」の天道あかねの造形に至る変化について不思議に思っていました。ラムちゃんの切れ長の目のきつい表情からあかねの時々見せる可愛らしい表情(例えば第3巻リップ・バトルの扉絵)とは相当の落差があります。

こんなことを書くと全国の留美子ファンから殴られそうですが,あかねの可愛い表情とふくやまの初期造形は目元の表現という点で類似しています。そう考えると,高橋留美子が一緒に仕事をしたふくやまの絵柄の影響を受けたと推測できます。それがラムとあかねの造形の違いとなって表れたということです。

「うる星やつら」と「らんま1/2」の登場人物の造形を比較すると,後者の方がずっと洗練されています。ふくやまとの出会いは天才・高橋留美子にとっても幸運な出来事だったのでないでしょうか。(以上は私の個人的な推理です)

ふくやまの少女の絵柄は1970年代の少女誌で活躍する女流漫画家のものとは異なり,シンプルな表現でありながら,可愛らしさと生身の暖かさがちゃんと伝わってきます。そのような表現力は「東京物語」ではフミちゃんの清楚な姿となっており,昭和初期を舞台とする物語にぴったり合っています。

東京物語の舞台

ふくやまさんの作品の中で(原作ものを除き)ちょっと異色の探偵物語です。主人公は出版社に勤める新入社員の桧前平介と橋の下の小屋住まいながらご町内の揉め事を片付ける有名人の牧野草二郎です。

物語の舞台は昭和初期の東京市(現在の東京23区に相当)です。昭和初期,東京府(現在の東京都)は東京市といくつかの群から構成されています。行政府は現在の大阪のように東京府と東京市にそれぞれに首長を置き,東京市役所は東京府庁内に置かれるという二重行政となっています。

実は1898年(明治31年)以前は,東京市,大阪市は名目上の特別市であり,東京府知事が東京市長を兼務し,東京市の行政は東京府が行っていました。この時期にも15区はそれぞれ区議会をもち,東京市の下位の自治体とされています。

東京府は1943年(昭和18年)に東京都制が施行され,東京府は東京都となり,東京市は廃止され東京市役所の機能は東京都庁に移されました。旧東京市35区は従来どおり議会(区会)をもつ自治体と認められましたが,区長には官吏が任命されるようになりました。

このときの措置により東京都の二重行政(東京府と東京市)は解消され,それから70年後に橋下氏は二重行政の見直しを求め大阪府知事→大阪市長となります。

15区で構成された東京市の人口は1906年(明治39年)に初めて200万人を突破しましたが,その後は増加していません。それに反して,周辺部の人口は急増し,周辺地区を包含した大東京という表現が生まれます。

この大東京が現在の23区に相当します。1923年(大正12年)東京市は関東大震災にみまわれ大きな被害を受け,人口は周辺に流出し,大阪市に抜かれます。そのため,1932年(昭和7年)に周辺の5郡82町村を編入して新たに東京35区となりました。「東京物語」の舞台はこの頃に当たります。

昭和10年頃の物価水準はおよそ下表の通りです。作品中では昭和初期の1円はおよそ現在の6000円に相当するという注釈がありますが,個人的には物価は3000倍くらいの感覚があたっていると考えていいます。また,当時の感覚としては月収100円が豊かな暮らしの基準でした。

ちなみち,岩波文庫は20銭,作品中にでてくる「小説愉快」は30銭のようです。また,桧前平介の下宿料(2食付)は25円となっています。

費目 価格 費目 価格
アンパン5銭豆腐1丁5銭
そば(もり)12銭タバコ(バット)16銭
お汁粉15銭うな重(並)60銭
日本酒1升(上等)1円89銭 日本酒1升(下等)1円
カレーライス20銭まんじゅう5銭
とんかつ25銭握りずし(並)25銭
ビール(大瓶)33銭ラーメン10銭
米1俵(60kg)8円20銭岩波文庫20銭
映画館入場料50銭銀座の地価1坪1万円
山手線初乗り料金5銭芥川賞500円
日雇い労働者賃金1円30銭 新聞購読料1ヶ月90銭
下宿(2食付)16円50銭 国鉄三等(東京−大阪)6円
小学校正教員月収(男子)73円 大学授業料年額(帝大)100円
工場労働者月給40円 住込奉公人(食住つき)3-10円


第1話から第4話

第1話「宝石の行方」で出版社の動天社に勤務する桧前平介は桑田編集長と一緒に上野の旅館に日比野先生に依頼した原稿を取りに行き,そこで発生した密室の宝石盗難事件に巻き込まれます。

この事件をきっかけに平介は牧野草二郎と知り合います。この珍しい名前は「メゾン一刻の惣一郎」からもらってきたものでしょう。草二郎の推理と活躍により盗難事件はあっさり解決します。

このように体裁は探偵ものなのですが,少年誌の探偵もののように緻密なトリックがあるわけではなく,どちらかというと町内の事件に二人が巻き込まれていくストーリーとなっています。

ふくやまは少年誌のような派手なストーリーは作りません。中には帝都(東京市)を騒がせるような事件もありますが,人が死ぬようなこともなく,あっさり収束します。このようなストリーを物足りないと思う読者もけっこういるようです。

しかし,それが作者の持ち味だと思えば特に気になりません。控えめ,抑えめの物語は「借り暮らしのアリエッティ」や「コクリコ坂から」のように宮崎駿の最近のアニメ世界にも通じるところがあります。

第2話「暗号文の秘密」もたわいのないストーリーです。私はストーリーを追うのではなく,背景に丹念に描きこまれている昭和初期の暮らしや風物を楽しんでいます。ふくやまの作品はどちらかというと人物を主に描かれているものが多いのですが,「東京物語」は緻密な背景描写があり,作者としても昭和初期を描きたかったのでは思ったりします。

また,この細かい書き込みは同じ時期にアニメージュで連載されていた「風の谷のナウシカ(1982年-1994年)」の影響なのかなとも思ったりしています。それではふくやま版ガイドブックをなぞって昭和初期の東京見物に出かけることにしましょう。

第3話「昭和稜雲閣」では明治時代に建造された高さ52mの稜雲閣が紹介されています。江戸時代に遡っても東京にこれだけ高い建物はありませんでした。江戸城の寛永天守閣は44.8m,石垣でできた台座を含めると59mであり,これが歴代最高の建築物でした。

それに匹敵する高さの建造物が浅草公園に建てられ,日本初の電動エレベータまでが取り付けられていました。庶民でも展望台に上がることができましたので,東京タワーのような名所となっていました。もっとも,運営会社の経営はかなり苦しかったようです。

第4話「草ちゃんと総ちゃん」では草二郎にそっくりな白崎子爵の跡取りの総之介とダンスホールのダンサー百合絵が登場します。昭和初期のダンスホールは女性ダンサーを雇い,ホールを訪れた客はチケットを購入し,好みのダンサーを指名して一緒に踊るという米国に由来するシステムだったようです。もちろん,楽団による生演奏付きです。


第5話,第6話

第5話「闇の道化師」では謎の多い草二郎の秘密が少し明かされます。冒頭に出てくるフミちゃんの浴衣姿がハイライトです。そのフミちゃんが道化師に誘拐され,草二郎が救出します。この話は草二郎になにか特別な力があることを示唆するものです。

第6話「珊瑚(サンゴ)と海松(ミル)」ではサーカスで空中ブランコを演じる一条兄妹が出てきます。ミルは美形ですね。平介がフミちゃんの10倍くらい可愛いと言うと,草二郎はフミちゃんより可愛い人なんていませんとやんわり抗議します。

話しのきっかけは酔った桑田編集長の見た隅田川の人魚です。大正時代までの隅田川は人々が水泳や屋形船を楽しみ,シラウオやシジミを味わうことのできた生きた川でした。しかし,昭和に入ると周辺人口の増加による生活雑排水の流入,上流部の化学工場排水などにより次第に汚染が進みます。昭和初期の隅田川はまだ屋形船も出ていましたので,まだ泳ぐことはできたことでしょう。

珊瑚とミルは草二郎と古くからの知り合いのようです。珊瑚は超常の力を操り,離れたところから相手にダメージを与えることができます。ミルは超常の力が体に出てしまい,平介と逃げる途中で人魚に変身してしまいます。

珊瑚が口にした「お前が崑崙のやつらを引き寄せたんだ」,草二郎が話した「ぼくは見たんだ,あの治療室で何があったのか」という二つの謎が明らかにされ,物語は核心に向かっていくかと思いきや再び探偵物語になってしまいます。


第7話から第11話

第7話には「レビュー」が登場します。おそらく「少女歌劇団」のことでしょう。宝塚歌劇団,OSK日本歌劇団(旧大阪松竹歌劇団),松竹歌劇団(旧東京松竹楽劇)の3団体が三大少女歌劇として特に有名でした。

作品中の公演はどこのものかは分かりませんが,劇場の看板に魅惑のラインダンスと記されており,ラインダンスは少女歌劇の定番演目でした。もう一つの看板には「闇の女神 メアリー・フィルビン主演」とあります。この映画は1924年(大正13年)の米国映画です。

第8話には「活動写真」が出てきます。一般的に映写機の発明は1893年のエジソンとされていますが,彼のものは箱の中を覗き込むものであり,映像をスクリーン上に映写する現在の仕組みを発明したのは1895年のフランスのリュミエール兄弟です。

初期の映画は無声映画であり,出演者の声や背景音楽はありませんでした。米国では録音機(これもエジソンの発明ですね)に音を入れて流す方式もありました。日本に入って来たときmotion picture は活動写真と訳され,この呼称は昭和初期まで使用されていました。戦前の映画関係者の中では「しゃしん」という用語も使用されています。

初期の活動写真は無声映画でしたので日本では活動弁士という独特の仕組みが生まれました。もともと日本では話芸文化が定着していましたので,活動弁士が映像の内容をドラマ風に説明する仕組みはすぐに受け入れられました。それは一昔前の紙芝居のような雰囲気でした。

第9話ではアイコノスコープが登場します。テレビジョン(映像を電送する仕組み)には撮像・電送・受像という三つの要素が必要です。1873年にイギリスで対象物の明暗を電気信号に変換して遠方に伝えるテレビジョンの開発が始まっています。とはいうもののこの時期には無線通信の技術すらなく,ヘルツが火花送信機を用い電波の発生に成功したのは1888年のことです。

テレビビジョン要素技術で特に難しかったのは撮像素子であり,アイコノスコープとは1933年にツヴォルキンが発明した電子撮像管です。受像機は1897年にブラウンが一般的にはブラウン管と呼ばれる陰極線管を発明しています。これらの要素技術を組み合わせ,1929年に英国放送協会(BBC)がテレビ実験放送を開始しています。

日本では1939年初めてのテレビ電波が世田谷のNHK技術研究所高さ100mの鉄塔から発射され,13km離れた放送会館で受信されました。

第10話「銀幕出演談」ではフミちゃんが映画に出演することになり,草二郎は気もそぞろです。この話で草二郎とフミちゃんの出会いが描かれています。このときの草二郎は洋装なのですが,その後はずっと和服です。フミちゃんの映画はトーキー(有声映画)のようです。

第11話「北から来た青年」には宮沢賢治と思われる人物が平介を訪ねてきます。宮沢賢治(1896年-1933年)は岩手県の生んだ詩人・童話作家です。昭和初期には30代半ばということになります。生涯に多くの作品を発表しており,さらに多くの作品が死後に未定稿のまま残されたこともあり,彼の作品世界を体系的に整理するのは大変でした。

賢治の童話は絵と組み合わせることによりそのイメージをより理解することができます。私の手元には朝日ソノラマ版のますむらひろしの「銀河鉄道の夜」と「風の叉三郎」があり,賢治の作品世界を手軽に楽しむことができます。


第12話から第16話

第12話「機械(からくり)男爵の挑戦」では黒須男爵,津山美也子(都),笠井博士などの新メンバーが登場します。いままでののんびりした物語が冒険活劇に変わります。

黒須男爵は出資金を募り,飛行船を飛ばそうと計画しています。飛行船(airship)とは空気より比重の小さい気体をつめた気嚢(きのう)によって機体を浮揚させ,これに推進用の動力をつけて操縦可能にした航空機です。20世紀前半には大西洋横断航路などに就航していました。

「ツェッペリン」に代表される硬式飛行船はアルミなどの軽金属や木材などで頑丈な枠組みを作ってそれに外皮を貼り,複数の気嚢をその内部に収納していました。船体重量は増加しますが,船体強度は高くなり,長距離,高速飛行が可能になります。船体の下部には乗務員や旅客を乗せるゴンドラやエンジンおよびプロペラなどの推進装置が取り付けられています。

1928年(昭和3年)に建造された最大級のツェッペリンLZ127は全長236.6m,最大径30.5m,巡航速度117km/h,航続距離15,000km,上昇限度2500m,本体重量80-90トン,積載荷重60トンとなっています。現在のジェット旅客機の10分の1程度の速度ですので大西洋横断には 60時間ほどかかる計算です。

問題は浮力を得るための気体に水素を使用していたことです。水素は空気と混ざり合うと爆発的に燃焼します。1937年に大西洋横断航路に就航していたドイツのヒンデンブルク号がニュージャージー州の空港に着陸する際に原因不明の出火事故を起こし爆発炎上しています。この事故により飛行船の信頼性は失墜し,航空機の発達もあり,航空輸送の担い手としての役割を終えました。

第13話「木霊のない森」は音を吸収する不思議な森とその森を守る村人の話です。森の主要な樹木が成長細胞層に音の震動を記憶し,熱が加わると記憶していた音を放出するという不思議な性質をもっていると説明されていますが,なんのことやら理解できません。

第14話「蔵書票騒動」では蔵書票という聞きなれないものが出てきます。蔵書印に代わり本の所有者を明らかにするものという日本語の意味はすぐに分かりますが,どのようなものかは想像できません。

google で「蔵書票」を検索すると多数の画像が出てきます。半分くらいは持ち主の人格が疑われるような画像ですのでちょっと驚きました。蔵書票はヨーロッパの文化であり,国際的にはエクスリブリス(Exlibris)と呼ばれています。

これは「だれそれの蔵書から」という意味のラテン語であり,その後に持ち主の名前が記されていました。蔵書票ができた当時は本は貴重品であり貸し借りが普通であり,そのため,この本は●●さんの蔵書なので最後は●●さんに返すことという意味があったようです。

日本でも江戸時代の国学者・本居宣長は本の貸し借りのため自分の蔵書に蔵書印を使用し,養子の大平は「読み終わったら速やかに持ち主に返しなさい」という意味の和歌を記した蔵書票を使用しています。

蔵書票は1900年(明治33年)に文芸誌「明星」に紹介されて知られるようになり,画家・版画家によって版画仕立ての蔵書票が作られるようになりました。竹久夢二も蔵書票を手がけており,彼の作品なら自分の蔵書票を作ってもいいななどと考えます。

第15話「不忍池の怪」にはシベリアオオカミが出てきます。日本にかってオオカミはエゾオオカミとニホンオオカミが生息していました。アイヌの人たちはエゾオオカミを神として共存していました。また,東北地方ではオオカミは畑を荒らすシカ,カモシカ,イノシシなどの数を減らしてくれる益獣とする思想がありました。

しかし,明治になると狂犬病やジステンパーなどの伝染病と人為的な駆除,開発による動物の減少や生息地の分断などの複合的な要因でニホンオオカミは絶滅しています。北海道では家畜の害獣として大規模な駆除が行われ,やはり明治年間に絶滅しています。

生態系の頂点に位置していたオオカミが絶滅したため彼らの食料となっていた動物が増えて,新たな社会問題が起きています。米国のイエローストーン国立公園では生態系を回復させるため,一時期絶滅したオオカミをカナダから移入しました。このプロジェクトは今のところうまく機能しています。日本でも再移入を標榜する団体はありますが,人間の世界と動物の世界があまりにも近い日本では難しいことです。

第16話「湖畔亭幻想譚」は幻想の中の経験により平介が探し物の問題を解決します。ゲストは「ひわ子」ですので,落ちとしてはメジロではなくヒワがよかったですね。


第17話から最終話

第17話「草二郎の秘密」では草二郎の子ども時代が明らかにされます。中国の奥地(甘粛省)の研究施設で他の大勢の子どもたちと一緒に育てられたようです。甘粛省は南のチベットと北のモンゴルに挟まれた東西に細長い地域であり,西安→蘭州→張掖→酒泉→敦煌と続くかってのシルクロードが通っていたところです。現在でも中国における東西を結ぶ物流の大動脈となっています。

甘粛省の南には祁連山脈,その南には崑崙山脈があります。崑崙山脈周辺はもうチベット文化圏であり,古くからチベット仏教の僧侶により薬草を主体としたチベット医学が根付いています。

毎日,薬草のせんじ薬を飲むことにより子どもたちにはさまざまな変化が現れます。中には超常の力を持つようになる(陰証)こともあれば,体が目に見える形で変化する(陽証)こともあります。彼らが何のためにそのような研究をしていたかはこの時点では明らかにされていません。

既出の珊瑚,海松,公邦はそのときの子どもたちの中に含まれていました。美也子の二重人格(解離性同一性障害)もその一環であることが明らかにされています。まあ,さすがに美也子の件はとってつけたような説明であり,説得性はあまりありません。

第18話「港町電影活劇騒動」は元の探偵物語に戻ります。ここでは横浜の著名な建造物と大正活映が紹介されています。この撮影所は1920年-1922年までの短い期間,無声映画の制作と配給をしていました。設立時の名称は大正活動写真であり,活動写真から映画への呼称変更の時期にあたることが分かります。

第19話「自動人形”梓”」では自動人形が登場します。自動人形というよりは「からくり人形」の方が分かりやすいでしょう。作中ですでに出てきている機械(からくり)男爵のように「からくり」は元々は機械全般をあらわす言葉でしたが,江戸時代のからくり人形が非常に優れたものであったため,からくり=からくり人形となっています。

時計などを動かす歯車などの技術を組み合わせて,人形がさまざまな動作を見せるからくり人形は大名や豪商向けの高級玩具でした。現在でも茶運び人形や弓曳き童子,文字書き人形などは日本人の器用さを表しており,英語にも「karakuri」として使用されています。

第20話「中華街奇譚」と第21話「草二郎失踪」には特にコメントすることはありません。

第22話「平介の事情」には「少女界」と「蕗谷虹児」の絵が出てきます。少女界は日本最初の少女雑誌であり,1902年(明治35年)に創刊されています。当時は少女の読み物はまったくありませんので,現在の人たちの考えるよりはるかに愛読されたそうです。

ただし,1912年(大正元年)に終了してます。蕗谷紅児の絵が掲載されているということから雑誌名は「少女画報」あるいは「少女倶楽部」あたりと推定されます。蕗谷虹児は苦学しながら日本画を学び,少女画報で挿絵掲載のデビューを果たしています。これが評判となり竹下夢二,高畠華宵と並ぶ人気画家となります。

第23話「フミちゃんの災巳(さいき)」では浅草寺のほおづき市が出てきます。浅草寺は東京都内最古の寺院であり,伝承によると創建の由来は628年(推古天皇の時代)に遡ります。現在の隅田川で漁をしていた檜前浜成・竹成兄弟の網に仏像がかかりました。これが浅草寺本尊の聖観音とされています。

観音さまのご縁日は「毎月18日」ですが,これとは別に室町時代以降に「功徳日」と呼ばれる縁日が新たに加えられました。月に一日設けられたこの日に参拝すると,百日分,千日分の参拝に相当するご利益(功徳)が得られると信仰されてきました。

中でも7月10日の功徳は千日分と最も多く,「千日詣」と呼ばれていました。江戸時代になるとこの日は四万六千日分のご利益があるとされ,「四万六千日」と呼ばれるようになり,前日の9日から「ほおずき市」が「四万六千日」のご縁日にちなんで開かれます。残念ながら私は人ごみが嫌いなので,「ほおずき市」にも「三社祭」にも行ったことがありません。

第24話「草二郎の想い」では草二郎が研究所から逃れて牧野博士と暮らしていたころのことが描かれています。研究所に集められた子どもたちは西王子瞳子と同じ体質をもった日本人の子どもということになっています。牧野は草二郎に研究所でのことは忘れなさいと言いますが,草二郎は研究所での生活はみんな本当のぼくであり,なかったことにはできないと牧野博士と別れて日本にやってきました。

最終話「西王寺家の陰謀」では西王子瞳子の秘密が明かされ,彼女の体質を元に戻すことおよび難病の子どもたちのを治療することがが方士の研究の目的であることが明かされます。

方士の父親が病気の瞳子に薬草を投与したことにより,彼女は年をとらなくなりました。彼女は「織物ですら瞳子と一緒にいてはくれぬのだ」と哀しみを口にします。

西王子家の地下には行方不明であった津山美也子の父親がおり,親子の対面を果たします。誤解が解けて彼女の別の人格はもう現れることはないでしょう。方士,草二郎,瞳子,公邦は甘粛省に向かい,瞳子の体質を元に戻す薬草の研究を続けます。

残されたフミちゃんのフォローはありません。ここだけは気がかりですね。平介は松島響と親しくなり,草二郎との冒険談を小説にまとめようとしています。その仮題は「東京物語」です。


アップフェルランド物語

田中芳樹の同名の小説を漫画化したものです。ヨーロッパのほぼ中央部にある小国アップフェルランドの物語です。


レイニー通りの虹

ふくやまさんのファンタジー系の作品は内容以前に絵を見ているだけで癒されるような気になります。私は漫画を買う時の基準は絵柄+ストリーであり,どちらかというとストーリー重視派であると自認しています。ところが,「レイニー通りの虹」は絵柄だけで買ってしまいました。

売れない画家のバジーはガールフレンドのリリアンの肖像を描いてプレゼントしりことを思い付きます。できあがった絵「レイニー通りの虹」は画商が勝手に持ち出し,売ってしまいます。この絵は何人かの人の手に渡り,持ち主を幸せにしていきます。そして,最後にはバジーのところに戻ってくるというストーリーです。


髪切虫

パソコン雑誌の編集者の東洞泉太郎と妹で女子大生のアサミは古本屋街で蝙蝠堂という古めかしい漢方薬の店を見つけます。二人が中に入ると不思議な人物が応対してくれます。二度目に泉太郎が訪れたとき彼は「君は本当に外の人なのか」とたずね,自分の名は甲森で父の代わりにこの店を守っていると話してくれます。その頃,アサミは女性の長い髪を切る不思議な女性に襲われます。


おとうさんのクリスマス

表題作の他に下記の作品が収録されています。
・ ハニー&クリーム
・ ウィニー・メイの夢
・ 夏休みの新記録
・ チクタク・とくん
・ ランプ
・ チカチカ☆ミミちゃん
・ 子リスのポッキー

絵柄からしてふくやまさんの初期の作品ように思われます。