私的漫画世界
パトリシアとの哀しい再会シーンは泣かせますね
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谷口ジロー

谷口ジロー(1947年生)は鳥取県出身であり,高校卒業後に京都で会社勤めをしていましたが漫画家を目指して1969年に上京します。動物漫画で有名な石川球太(1930年生)のアシスタントとなり漫画の技術を学びます。

石川球太は人喰鉄道(戸川幸夫原作),魔犬ムサシ(梶原一騎原作),牙王(戸川幸夫原作)など数々の動物を主人公とする作品を発表しています。特に「牙王」はヨーロッパオオカミと日本の野犬との間に生まれた混血犬と幼少時の飼い主早苗とのこころ暖まる交流と早苗を襲った悲劇について描かれており,ブランカに少なからぬ影響を与えたものと推測されます。

谷口ジローも多くの原作物も手がけており,ハードボイルド,動物もの,冒険,格闘,文芸,SFと多彩な分野の作品を発表しています。絵はジャン・ジローやフランソワ・シュイッテンなどの影響を受けており,インタビューでは「日本で一番影響を受けているんじゃないか」と語っています。

「ブランカ」や「神の犬」ではスーパー戦闘犬を主人公にしていますが,「犬を飼う」では犬と暮らす日常生活を淡々と描いており,この作者は犬や動物が好きなんだなあと思わされます。

好きな動物をしっかり観察してることにより,疾走するときの躍動感,戦闘時の獰猛な顔つき,パトリシアのもとに走り寄るときのせつない表情など作者の犬の描画はリアリティに溢れており,犬を主人公とした漫画では出色の作品です。

ストーリー

アラスカ・ブルックス山脈でビッグ・トロフィーのため密漁をしているシバとディックは数匹のオオカミの群れが巨大なヘラジカ(最大級は800kg)を倒し食べている現場を目撃します。シバは群れに白い犬が混ざっていることに奇異な感じを受けます。ディックはオオカミを追い払おうと銃を向けます。しかし,白い犬は目にもとまらぬ素早さでディックに襲いかかり,彼の首を噛み落とします。

白い犬は銃を向けないないシバを尻目に去っていきます。シバはほうほうの体で密漁者の小屋にたどりつきます。同じころ,R共和国の諜報員は「ブランカ」と呼ばれる白い犬に関する情報をアラスカで収集しており,土地の猟師からホッキョクグマ(最大級は800kg)を倒した犬の話を聞き出します。白い犬はオオカミの群れを率いて東に向かいます。

R共和国諜報員のフィゲロウアは密猟者仲間の小屋にやってきて白い犬を射殺する報奨金に10万ドルを提示します。その話を聞いた一人がシバが遭遇した犬のことを口にします。

この情報によりフィゲロウアはブランカが東に向かってカナダに出ようとしていることを理解します。仲間からブランカの写真を見せられたシバはこの犬が途方もない戦闘力をもっていることを説明し思い留まらせようとします。

オオカミの群れは巨大なアラスカヒグマ(最大級は500kg)を倒したところを密猟者のグループに発見されます。ヘリコプターとスノーモービルで「永遠の淵」に追い詰められたブランカは切り立った断崖から飛び降ります。

その夜,密猟者のキャンプはブランカに襲われ,銃で反撃しようとしたものは皆殺しにされます。翌日,キャンプに到着したシバは友人のヤックからあの犬はトルナイト(悪霊)だと告げられます。

ヤックは病院に収容され悪夢に苛まれます。イヌイットの彼は部族に伝わるトルナイトの伝説をシバに話します。それは祈祷師の力により悪霊を精霊に変えるか,トルナイトを殺すかしなければ部族は全滅するというものです。ヤックはシバにトルナイトの殺害を依頼します。

R共和国軍事特別対策本部では2名の最優秀の狙撃手が呼ばれ,特殊戦闘犬訓練士ワーレン中尉(女性)からブランカの驚異的な身体能力について説明を受けます。シバはフィゲロウアの電話番号を聞きだし接触を図ります。

フィゲロウアの始末屋を逆に殺害したシバは事務所を訪ねフィゲロウアに直接会い,白い犬の殺害を請け負うことを伝え,彼に関するデータを要求します。同じころ,R共和国軍事特別対策本部ではレクチャーを受けた2名の狙撃手と訓練士に出動命令が下ります。

「ブランカ」はカナダに入り,カリブーを一撃で倒します。このシーンはヘレンとデイビッドに目撃されます。カナダ入りした狙撃チームは現地の案内人ニックを雇い,セスナ機で追跡を開始します。

ニックの一行はブランカの足跡を発見し,それが東に真っ直ぐ進んでいることを確認します。シバはフィゲロウアの連絡場所の酒場に30分遅刻し,その目の前で店は爆破されます。

ニックの一行はブランカの足跡をトレースしひたすら東に向かっていることを知り,二手に分かれて片方はセイント・ヒルで待ち伏せすることにします。

R共和国軍事開発特殊科学研究局ではリャプコワ教授が大臣の訪問を受けます。教授はブランカの生みの親であり,彼を逃がしたことが明らかにされます。セント・ヒルでは先回りしたワーレン中尉が犬笛を吹きます。この集合を意味する超音波ははるか遠くからブランカを引き寄せることになります。

待ち合わせ場所の酒場を爆破されたことによりシバはフィゲロウアの本気を知り,愛人のメグを連れて逃げようとしますが彼の目の前で殺害されます。ワーレン中尉の犬笛に引き寄せられたブランカはレーザー照準のライフルより前脚の付け根部分を撃ち抜かれます。

その瞬間に「ブランカ」跳躍し,狙撃手を倒します。ワーレン中尉も銃を構えますが引き金を引くことはできず,結果的には彼女は命拾いします。

メグを殺害されたシバはその怒りをブランカに向けることになります。手負いのブランカはヘレンに見つけ出され,彼女に信頼を寄せます。ヘレンは獣医の資格をもっていますので廃屋で緊急手術します。シバは病院を抜け出した友人のヤックの村を訪ねますシバは自分が白い犬を殺す決意を固めたことを伝えます。

セイント・ヒルに遅れて到着した二人は惨状を知ります。しかし,ブランカが手負いとなっていることを知り,容易に仕留められると確信します。ブランカは2発の弾丸を受け,1発は体内に留まっています。ヘレンはブランカの体力から麻酔は無理と判断し,そのまま弾丸の摘出手術を行い,手術は成功します。

トレーサーのニックはブランカが人の手で連れ去られたことを知ります。ブランカの手術に成功したヘレンは体組織の一部を標本にしておきます。フィゲロウアはワーレン中尉と会い,シバの情報を伝えます。

白い犬の情報を探すシバはフィゲロウアの情報網にかかり,山道を走行中に大型トラックに追突され崖から転落しそうになります。ヘレンは廃屋でブランカの回復を待ちます。連れのデイビッドは狩で少ないながらも獲物をとってきます。しかし,廃屋はニックたちにより発見されます。

デイビッドは射殺され,狙撃手はブランカにより殺害されます。ニックは銃を捨てて命拾いし,ブランカは荒野に走り去ります。体力が回復したブランカは体内の羅針盤の指示により進路を島南東に向けます。

ブランカは再びオオカミの群れに入り,そのリーダーとなります。ブランカの体標本を大学の研究室に持ち込んだヘレンは細胞中のミトコンドリアが通常の10倍もあり,リボゾームもゴルジ体も通常とはかなり異なっていること教えられます。研究者は遺伝子工学を使用した動物実験の可能性も口にします。

酒場でシバたちはニックに話しかけます。ブランカの居場所をたずねられニックは殴りかかり,大混乱となります。その中でシバとニックは協力体制をとることにします。R国では陸軍特殊戦略部隊一個中隊と戦闘犬チームが投入されることになりました。

リャプコワ教授はロシアから米国に亡命し息子や孫のパトリシアとともに暮らしており,一年前にブランカとともに拉致されました。ブランカはパトリシアの愛犬であり,彼女はブランカが祖父とともに戻ってくることを切望します。

春になりブランカに率いられたオオカミの群れは南の森林地帯に南下を開始します。このとき群れのメスオオカミは「ブランカ」の子を宿しています。4月になるとブランカは群れから離れ,ニューヨークに向けて走り出します。ブランカを追跡するシバとニックたちの乗るセスナ機はヘリにより銃撃され荒野に不時着します。

生き残ったシバとニックは追跡者がブランカを撃とうとして殺害されるのを目撃します。二人はブランカの戦闘能力が飛躍的に高まっていることを知り,同時にブランカに救われた形になり,「やつには借りができたな」とつぶやきます。

R共和国軍事特別対策本部では新しい極秘作戦のための一個中隊の訓練が進行します。さらに,訓練が終了した戦闘犬の中から10頭が選抜されます。カナダではフィゲロウアとワーレン中尉が極秘プロジェクト”G”が開始され,第206特殊戦闘部隊がその任務にあたるという情報を確認します。二人の会話の中から「ブランカ」は「R共和国」のロシアに対する対抗意識により生み出されたことが指摘されています。

パトリシアは多くの戦闘犬と戦うブランカを夢の中で見ます。彼女にははっきりとブランカが戻ってくることが理解できました。ニューヨークでヘレンはジャーナリストのマディガンと会いリャプコワ教授が拉致されたことを知ります。ブランカの写真を見せられたマディガンはそれが教授と一緒に行方不明になった犬であることを思い出します。

リャプコワ教授はブランカを施設から逃がすときに「おまえは何があってもパトリシアのところに帰りなさい」と繰り返し告げています。

カナダのウールダイアではR共和国から軍事物資がパラシュートで投下され作戦が動き出します。ブランカの写真を見せられたパトリシアは写真の犬がブランカであることを確信し,彼を迎えに行くことを口にします。パトリシアの思いは4800kmのかなたのブランカにも届きます。

戦闘犬と武器などの回収が終了し,責任者のストックマン大尉はワーレン中尉からブランカの底知れぬ戦闘能力について話を聞きます。大尉はマッケイの森林地帯でブランカと対決する作戦を指示します。

戦闘犬のトレーナーからブランカの並外れた能力について質問されたワーレン中尉は「すべての能力はブランカが潜在的にもっていたものであり,わたしの仕事はその能力を増幅して戦闘性をもたせただけ」と答えます。

ブランカはパトリシアの想いを受け止め一路ニューヨークに向かいます。シバとニックはフィゲロウアを見つけ出すためホワイトホースに向かいます。パトリシアは父親やヘレンたちにブランカを迎えに行くことを懇願します。

父親は反対しますがヘレンはブランカのたどってきた長い帰路を説明し彼に力を与えるためにパトリシアと同行することを提案します。カナダではブランカに近づいた分隊が戦闘犬を解き放ちます。ブランカは自分に迫る危険を察知し,進路を南南東に変えます。

ホワイトホースではシバたちが監視を続け,ついにフィゲロウアを見つけ出します。戦闘部隊の司令部隊はブランカが進路を変えたことに気付きます。その行き先には第2分隊が待ち構えています。電子機器は時速90kmで接近するブランカを補足し,分隊には射殺命令が下されます。

分隊の銃口が火を噴き,ブランカは跳躍で逃れ分隊の中に飛び込み,大半を殺害します。特殊部隊と言えどもブランカの速さには太刀打ちできません。そのとき戦闘犬が追い付いてきます。

十分な訓練を受けた10頭の戦闘犬はブランカにとっても大敵であり,ブランカは高速で移動し群れを分散させます。そして,機会をうかがって反撃します。ブランカは戦闘犬に捕捉されそうになったとき湖面の氷が割れ九死に一生を得ます。司令部隊はほぼ全滅した第2分隊を見つけ愕然とします。水中から脱出したブランカは戦闘に有利な地形を探します。

シバとニックはフィゲロウアの隠れ家を見つけ押し入ります。ブランカは切り立った断崖をもつ渓谷に入ります。複雑な地形は戦闘犬の群れを分散させ,1頭ずつ致命傷を与えていきます。

司令部隊では第2分隊の生存者からブランカのとてつもない俊敏さについて知らされます。ブランカに向けて引き金を引いても着弾地点にはいないという事実は現在の銃器では彼を倒せないことを意味します。大尉は「脳波誘導装置装着レーザー・ライフル」の名を口にします。

渓谷での戦闘によりブランカは確実に戦闘犬にダメージを与えていきます。ブランカは湖面の戦いで戦闘犬が水中訓練をほとんど受けていないことを知り,川の中での戦いを選択します。シバとニックはフィゲロウアを殺害せず,装置を破壊し資料を持ち去ります。意識を取り戻したフィゲロウアは責任追及を恐れ自殺します。

ブランカは戦闘犬と一緒に滝壺に落下し水中の戦いで確実に仕留めていきます。司令部隊は彼らの足跡をたどり戦闘犬が不利な状況に追い込まれて行くことを知ります。R共和国軍事特別対策本部では極秘兵器の搬送要請を受けて衝撃が走ります。リャプコワ教授はブランカを止めるためカナダに行くことを強要されます。

戦闘犬との戦いの現場に到着した司令部隊のワーレン中尉の吹く犬笛に反応してブランカは攻撃を停止しますが,部隊が発砲したことにより司令部隊の数人が犠牲になります。自分を見るブランカの視線からワーレン中尉はブランカとの信頼関係が完全に切れたことを感じます。

ヘレンとパトリシアはブランカの進路について推測し,ニックに接触しようとします。シバとニックはイエローナイフに行き情報を収集しようとします。

R共和国軍事特別対策本部ではカナダ行きを強要されたリャプコワ教授が服毒自殺を図ります。このことは精神感応によりパトリシアとブランカに伝わります。リャプコワ教授を失いR共和国軍事特別対策本部は極秘兵器の使用を許可します。

「脳波誘導装置装着レーザー・ライフル(暗号名はゲルヒン・カシュテン)」とは脳波誘導装置を組み込んだヘルメットを装着することにより脳波増幅器が狙撃手の脳波を電気信号に変換し,あらかじめインプットしておいた標的データによりコンピューターが標的への攻撃機能を制御するものです。

狙撃手が標的を撃つという意志があるとライフルの照準が自動的に合わされ,高エネルギーレーザー発射されるシステムになっています。

イエローナイフではシバは狩猟者から大鹿より速く走る白い犬の話を聞きます。ブランカは速度を上げており,シバたちはゴールが近いのだろうと推測します。シバとニックは借りを返すためブランカのゴールを見届けたいと追跡します。

第206特殊戦闘部隊司令部には2セットの「ゲルヒン・カシュテン」が到着します。レインディアの第1分隊がブランカをの姿を捕捉し,「地の果てる峡谷」が最後の舞台となります。第1分隊は通常兵器で両側から攻撃を仕掛け全滅します。シバとニックはセスナから高速で移動するブランカを発見します。

パトリシアたちがマニトバ州の森林警備隊管理局に出向いたとき,外国人9名の遺体を発見したという情報が入ります。ブランカは自分の身体の新陳代謝が異常をきたしていることを筋肉の激痛から察知します。もう彼にはそれほど時間は残されていません。「地の果てる峡谷(ディープ・ブラインド・バレー)」の向こう側で第206特殊戦闘部隊は「ブランカ」を待ち構えます。

第1分隊の全滅現場に到着したパトリシアたちは足跡がブランカのものであることを知ります。パトリシアは荒野に向かってブランカの反応を探そうとします。ゲルヒン・カシュテンの照準に入ったブランカはパトリシアの声にわずかに反応します。標的の予期せぬ反応にレーザーは急所を外します。

傷ついたブランカはレーザーの刺激に強く反応し170mにもおよぶ地の果ての断崖を飛び越えます。ブランカの筋力は最大限の力をふり絞り,第206特殊戦闘部隊を全滅させます。この光景をシバとニックは背筋が凍る思いでセスナから見ています。

組織が破壊されよろめきながら進むブランカの前にパトリシアの幻影が現れます。その幻影はしだいにはっきりした形となります。死の直前にブランカはパトリシアの懐かしい温もりを感じることができました。5月のグレートベアレイク周辺のオオカミの巣穴の中ではブランカの血を受け継いだ子どもたちが育っています。

まるで映画のような作品です

この作品は登場人物が多岐に渡りそれぞれの地域で物語が同時進行し,最後の場面に収斂していきます。このような手法は海外の小説でしばしば採用されています。「ブランカ」の場合も一回の物語の中でいくつかの話が交錯しており,登場人物も記憶に残しづらい横文字の人なので単行本でなければストーリーをちゃんと追うのは困難です。

実際に単行本を読み進めると谷口氏の緻密な背景描画のためまるで映画のような感じを強く受けます。傷ついて息も絶え絶えのブランカがパトリシアの幻影を見て,それがしだい現実の姿にな最後の場面などは思わず涙を誘われます。

アラスカからカナダの極北地域は圧倒的に自然が支配する世界であり,その世界を見事に描くことによりこの作品はリアリティ溢れるものになっています。もちろん躍動するブランカ姿も筋肉の動きが分かるほどの細密さで描かれているのですが,背景をまったく手を抜かないことが見事な視覚効果を演出しています。

この作品は祥伝社の「マガジン・ノン」に1984年から1986年にかけて連載された作品ですが,単行本発行にあたり大幅に加筆されています。やはり,作品に対する思い入れだけで描いている連載時とその後,通読してみると作品のマイナーな欠点が見えてくるものなのかもしれません。

谷口氏の多くの作品の完成度は高いのは描き下ろしのように全体の中で部分を眺める視点がもてるためなのかもしれません。残念ながら,谷口氏の作品はけっしてメジャーの評価を受けてはいませんが海外でも高く評価されており,1992年に小学館漫画賞審査員特別賞(犬を飼う)と1993年に日本漫画家協会賞優秀賞(坊っちゃんの時代)を受賞しています。google 検索で「谷口ジロー」は34万件のヒットであり,これは「浦沢直樹」の36万件と肩を並べます。


神の犬

「神の犬」は1995年から1996年に「ビッグコミック」で連載されたものです。物語はブランカの子どもであるタイガとナギを中心に展開します。生後1年に満たない段階でタイガはR共和国軍事特別対策本部により捕獲されます。ここのトップであるシュミット大佐は懲りずに同じ轍を踏むことになります。もっとも,彼は戦闘犬によりロシア大統領の暗殺を図り失敗したため背に腹は代えられないという事情があります。

黒毛のタイガは戦闘犬として訓練され,銀毛のナギは灰色熊との戦いにより傷つき,鉄人マッシャーと呼ばれたワーヤキンに助けられます。彼の荒療治に耐えたナギは元気を回復し,彼の家に留まることになります。

遺伝子操作を受けたブランカとオオカミの混血は予期しないほどの超オオカミを生み出すことになり,タイガの身体能力はブランカを凌ぐものとなります。反面,神経伝達物質の過剰分泌により自己制御は難しいものとなります。シュミット大佐はクーデター未遂により逮捕され,屋外で訓練を受けていたタイガは追っ手を殺害しそのまま東に向かいます。一方,ナギもR共和国の追っ手を殺害し精神感応に引かれるように西に向かいます。

サムライ・ノングラータ

猟犬探偵

この作品は「セント・メリーのリボン」「サイド・キック」の2巻からなっています。猟犬探偵という不思議な職業を生業をしている「竜門卓」が依頼された犬を探し出す物語です。犬と人間のかかわりが見事な人情話に仕上がっており,「稲見一良」の原作と谷口ジローの画力が一体となりこころ温まる話を紡いでいます。

第1話において盲導犬は目の不自由な人にとって『友であり,伴侶であり,半身でもあり,おおげさにいうと人生の光ですらある』という一文がキーになっています。その大切な盲導犬を盗まれた少女の哀しみ,自分の全盲の娘のために盲導犬を盗み出す男の心情,一緒に過ごした犬と引き離されなければならない少女の涙がていねいに描かれています。

盲導犬の捜索を依頼してきた金圭花(組関係者)と竜門の会話も洗練されたものであり,盲導犬について竜門に教えたリチャードは自分の生き方を頑固なまでに守り続けながらも,竜門の生き方を肯定してくれて協力を惜しみません。このような魅力的な脇役も物語の背景のように描かれており,そのような感性をもっている人にとっては傑作といえる作品です。

孤独のグルメ

名前の通りの『グルメ』漫画ではありません。登場するのは市井の大衆食堂のようなところばかりであり,出てくる料理も特別のものではありません。主人公の井之頭五郎がそのような場所で,そのような料理を食べるシーンを淡々と描いています。wikipedia には「あたかもドキュメンタリーのように」と記されており,まさにそのような印象を受けます。

主人公はひたすら食べ,料理のうまい・まずいを語るだけの存在であり,料理の薀蓄などはまったく出てきません。おいしい・まずいについてもどうしてかの部分がほとんど語られていません。言ってみれば瑣末な味の違いに対して究極の増幅装置を働かしている『美味しんぼ』の対極にあるグルメ漫画ということができます。