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岡崎つぐお

wikipedia で調べてみると岡崎つぐおさんの個人情報はまったく載っていません。デビューが1980年ということですので誕生年は1960年頃と推定します。1980年から1985年にかけて少年サンデーで「ただいま授業中!」,「ジャスティ」,「春美120%」,「ラグナロック・ガイ」を連載していました。決してメジャーではありませんでしたがユニークな作品を出しています。

「ただいま授業中!」は岡崎さんの作品の中で唯一手元に残っているものです。我が家の書棚がいっぱいになっときに1000冊ほどを古本屋にもっていってもらいましたが,その中には「ジャスティ」,「ラグナロック・ガイ」が含まれていました。

家の中に書籍を溢れさせておくわけにはいきませんので,やむを得ない措置だったのですが,やはり親しんできたものが自分の回りから無くなるとちょっとさびしい気になります。最近は電子書籍が普及していますのでときどき立ち読みでなつかしさを解消しています。

「ただいま授業中!」は菜美野中学校に新卒で配属された新人教師の一文字愛の3年間を描いたものです。学園ものですので1年ごとに区切ることができ,2年生の担任時代(1-3巻),3年生の担任時代(4-8巻),1年生の担任時代(9-12巻)という構成になっています。

「ただいま授業中!」とほぼ同時期に少年チャンピオンで連載されていた「スクラップブック」は主人公たちが中学2年生になったときから物語が始まり,卒業までの2年間をほぼリアルタイムで描いています。物語の構成としてはこちらの方がずっと素直です。

「ただいま授業中!」では主要登場人物が卒業してから新1年生で物語をリセット・スタートさせていますが,それにより卒業時の感動までもがリセットされた気になります。

物語の主要要素は愛先生と生徒たちの交流および愛先生と倉田先生の恋愛ということになっているにもかかわらず,中間の1年間は倉田先生が転任という設定になっており,これも物語性を落としています。やはり,沖田や堀江と一緒に物語を進行させて,卒業,愛先生の結婚という大団円にもっていくストーリーの方が素直であり,盛り上がると思うのですが…。

ともあれ,この作品は1980-1983年にかけて少年サンデーに掲載されました。当時のサンデーには「タッチ」,「六三四の剣」,「うる星やつら」などの看板作品がならんでおり,「ただいま授業中」のように地味な作品の人気は低かったと記憶しています。

新人教師として2年生を担当(第1-3巻)

菜美野中学に新卒で配属となった一文字愛先生は始業式の朝も寝坊してしまい,あわてて家から飛び出します。そのうしろを「生徒さんたちに迷惑をかけるんじゃないわョ」という母親の声が響きます。

新任挨拶では朝礼台から転げ落ちる失態を演じ,全校生徒に「愛先生」を印象付けます。同じ2年生の担任には教師歴3年目のハンサムで女生徒に人気のある倉田先生がおり,愛先生はどうやら一目ぼれのようです。

愛先生の担当する2年7組には学年一の秀才で学級委員の曽我部,男子のリーダー的存在の沖田,女子のリーダー的存在の堀江などのメンバーがそろっており,にぎやかな学園生活が始まります。

愛先生のキャラクターは「ドジでおっちょこちょい」という設定のようですが,作品中の出来事は余りにもひどすぎます。愛先生の行動をもう少し節度あるものにすると,物語のリアリティが向上することでしょう。まあ,しかしこれが80年代初期のスタイルであったのかもしれません。

愛先生と倉田先生の関係は職場の同僚という範疇に収まっているものですが,やはり恋愛感情は「色に出てしまう」もののようです。倉田先生と話してる愛先生は楽しそうであり,カンの良い生徒からそれを指摘され,各クラスでは生徒たちにからかわれることになります。

他の先生たちからはうるさい授業について注意を受け,倉田先生は女子生徒から愛先生との関係について問い詰められます。倉田先生は「生徒たちと同じように好き」と話し,その場を鎮めます。その言葉が倉田先生の本心かどうかは分かりませんが愛先生にとっては「自分は特別の存在ではなかった」と考えるようになります。

やはり,職場恋愛はどこでも大変なことのようです。この騒動の後,自宅でいつものように筆をふるい「生涯一教師」を書き上げます。会心のできとなった作品を見ながら,涙が止まりません。愛先生の片思いは果たしてどうなるのでしょうか。

そんなとき,倉田先生が東北の方の学校に転校することになります。菜美野中学は東京もしくは関東圏の政令指定都市にあるという設定ですので,普通は東北に赴任することはありません。教員は都道府県の単位で採用されるものであり,本人の事情があっても他県にそのまま転任ということはできません。

東京の女性教員が結婚して北海道に転居しても,北海道の教員採用試験に合格しないと北海道では教員を続けることはできません。倉田先生の場合も大学の先輩のケガが転任の理由になっていますが,現実には簡単にはいきません。おそらく,他県交流のような制度があり,それにより東北の学校に期間限定で転任ということになったのだと解釈しましょう。

倉田先生の壮行会のあとで二人で二次会をして,別れ際に「いかないで…すきです…」と告白してしまいます。この告白は倉田先生の胸にも相当響いたようです。愛先生のたっての頼みで一日デートが実現します。そして観覧車の中で二人の想いはつながったようです。これにより倉田先生が戻るまで,愛先生は遠距離恋愛により教師を続けることになります。

3年生を担当

教師として2年目,3年生の担任となった愛先生の周辺には登校拒否症により留年した八渡,同僚の女性教師四条先生,四条先生の弟の忍,体育の石川先生,多田野警察署の丸岡刑事など新しい人々が登場します。

逆に登場人物を増やさないと物語が続かなかったという事情も透けて見えます。八渡君はともかく,新しい登場人物を増やさずていねいな物語作りをする方がこのような作品には向いています。多少話が地味になっても読み直しに耐えるものになるでしょう。

この文章を書くに当たり一通り読み直してみると,四条先生や石川先生にまつわるエピソードはさっぱり記憶に残っていないことが分かり,その感を強くしました。やはり,愛先生と生徒たちの交流,初期に設定された周囲の人たちとの関係が物語の基軸であるべきです。その路線で中学時代の2年間をほとんど固定の登場人物で描き切った「スクラップブック」は質の高い作品と考えます。

ともあれ1年間が過ぎ,3年生には受験の季節がやってきました。沖田君も堀江さんと同じ高校に進学するためそれなりの努力をしているようです。それを聞いていた愛先生はお風呂の中で「春になればみんな菜美野中からいなくなる…,あたしは一人ぼっちか……」と寂しい気持ちになります。

受験シーズンになってからのストーリーは愛先生と生徒たちに焦点が合っており,とてもよい流れとなっています。愛先生がクラス全員分の手作りの受験用お守りを作ったエピソードもいいですね。このお守りが功を奏したのか八渡君を含めみんな志望校に合格することになります。

合格発表のあとはほとんど授業になりません。卒業を前に休日の教室を借りてお別れ会をすることになります。ここでも愛先生の作ってきたケーキは塩と砂糖をまちがえたという落ちが付いていますが,使い古されたギャグであり,こんなときくらいはまともなお味のケーキで締めくくってもらいたいものです。

「いつまでも3年3組というクラスがみんなの心に残りますように」という音頭でジュースによる乾杯となります。卒業式当日の物語もよくできていますし,卒業式の翌日に近くの公園で行われた「最初のクラス会」のエピソードもいいですね。

この雰囲気はエンディングにぴったりなのですが,物語はさらに倉田先生が戻ってきて,愛先生は1年生を担当する1年間が付加されています。しかし,これは本当に付け足しのようになっており,受験,卒業という感動的なシーンもリセットされる展開となっており,物語の構成としては決してほめられたものではありません。

第12巻は倉田先生との結婚にまつわる話一色になっています。結婚後も教師を続けることになった愛先生ですが倉田先生より早く起きたり,家事をちゃんとできるようになったかについては何も語られていません。


ラグナロック・ガイ

少年サンデーで1984-1985年にかけて連載されたSFアクションを主題とした作品です。この時期の岡崎さんは「ジャスティ」,「ただいま授業中」,「ラグナロック・ガイ」,「春美120%」とSFものと学園ものを交互に発表しています。

「ラグナロック・ガイ」は西暦2365年(物語中ではAT暦288年)頃の地球植民惑星を舞台に展開されます。この時期,地球は永世中立でしたが植民地惑星はメルダー連邦とベガルダー連邦に分かれ250年にわたる戦争を続けているという設定になっています。

主人公のガイ・グレイバードには「ラグナロック・ガイ」の異名があります。ラグナロックとは神々を滅ぼすもの(北欧神話ではラグナレク=神々の黄昏)という意味が当てられており,この物語のもう一つのテーマは北欧神話をモチーフにしていることが分かります。時の三人の女神であるウルト(過去),ヴェルダンディ(現在),スクルト(未来)は主人公を導く道標となっています。