私的漫画世界
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大島家はマンガ家一家

大島家のメンバーは父は大島やすいち,母は川島れいこ,長女は大島永遠(1977年生),そして二女は三島弥生(1981年生)となっており全員が漫画家だそうです。でも私の書棚には大島やすいち氏の作品以外はありません。大島永遠(とわ)さんの作品は絵柄は魅力的なのですが,ストーリーに難があり買い求めたことはありません。川島れいこさんや三島弥生さんの作品は読んだことがありません。

「おやこ刑事」が始まった1977年に長女が生まれています。この時期に大島一家がマンガ一家になることなどは大島氏も想像だにできなかったことでしょう。ともあれ1977年に「おやこ刑事」は始まりました。

「おやこ刑事」の時代

この時期の日本はオイルショック(1974年)により高度成長は終焉を迎え安定成長時代に移行する過渡期となっています。wikipedia で1970年代のトレンドを調べてみると次のような記述があります。

・都市部で路面電車が次々と廃止され大都市では地下鉄の整備が進む。
・全国にスーパーマーケットが普及する。
・海外炭の普及により九州・北海道の炭鉱の多くが閉山する。
・都市部で高層建築物が建造され,マンションが増加する。
・山陽新幹線が博多駅まで開業し,在来線特急列車は減少する。
・自動車が普及する一方で国鉄の運賃値上げが続き鉄道離れが起こる。

1977年は私の記憶の中でも遠い昔のことであり,有珠山の噴火前日に山麓の宿に滞在していたことがもっともよく覚えています。また,ダッカで日航機ハイジャック事件が発生し,政府の超法規的措置が話題となりました。歌の世界ではピンクレディとキャンディーズが大変な人気でした。

本当に遠い昔のことであり,この年に生まれた子どもはすでに34歳になっています。そういえば,このあたりから第二次ベビーブームが始まり,出生者数は190-200万人となっています。最近の出生者数はおよそ100万人ですから隔世の感があります。

「おやこ刑事」はそのくらい古い時代の作品ですのでパソコンや携帯電話はまったく作品には登場してきません。刑事の仕事はとにかく足でかせぐことが求められており,そのような捜査の場面は作品中でもよく出てきます。

ストーリー

物語の舞台は東京の下ノ町警察署捜査一課です。主人公の柴田文吾はここに席を置いています。上司の川上課長を筆頭に個性豊かな課員がそろっています。文吾の父親の柴田勘太郎もここにおり,それが「おやこ刑事」のタイトルとなっています。

父親の柴田勘太郎は無類の女好きという設定になっており,課員の紅一点である大西操はしょっちゅうお尻を触られています。そのような勘太郎も聖美と結婚した頃はとても純情だったようです。聖美が亡くなってからは女好きに転向したようですがその理由は語られていません。

対照的に息子の文吾は重度の女性アレルギーがあり,若い女性の側にいるだけでジンマシンが出るという変わった体質の持ち主です。ただし,いつも側にいるためか大西操だけはジンマシンの対象にはなりません。

この親子を中心に管内で発生した事件を解決していきます。文吾や勘太郎の活躍の場は多いのは当然ですが,他のレギュラーメンバーが主役になるいくつかのエピソードも語られています。

基本的に1話完結のスタイルとなっています。最初の頃は単純に事件を解決するだけの話が多いのですが,しだいに人情をからませた話に力点が移っています。この方向転換により作品の奥行きが出てきたように感じます。

第4巻にひったくり犯の村田が取り調べ中に文吾の頭をなぐり,財布を盗んで逃亡します。村田はその昔に生き別れた娘の結婚式に出て,文吾の金でご祝儀を出し,お祝いの言葉を述べます。文吾と勘太郎は土手で涙にくれている村田を逮捕します。「きれいな花嫁さんだったじゃないか」,「へえ…ありがとうございます」という会話でこの話は終わります。このような人情話を織り交ぜることにより,ともすれば殺伐となる刑事ものの世界を人間の物語にしていきます。

下ノ町警察署のレギュラーメンバーはほとんど変化がありません。単行本の第9巻では交通課に野口麻美と秋江(名字は出てきません)が配属されます。麻美は文吾に一目ぼれして操との間で恋のさやあてが始まります。

第14巻の「海一夜」では3年前の現金輸送車襲撃事件で奪われた4000万円の山分けの現場をつかもうと3人組の動きを見張っていた文吾と操がエンジンの壊れたボートで一夜を明かすことになります。これを機に二人の親密度は上がります。

17巻では文吾は唐突に「特別武装警察」に転属となります。この部署は凶悪犯罪を武力で鎮圧するところであり,必要により犯人を殺害する任務をもっています。アクション物としては楽しめますが,「おやこ刑事」の雰囲気からはまったく逸脱しています。幸いこの特別事件簿は5話で終了しています。

第25巻の最終話は文吾の操の結婚式ということになりますが,やはり重大事件が発生し,操はウエディング・ドレス姿で犯人を追うことになります。このネタは大島氏の「こちら大阪社会部」という作品にも,事件記者の結婚式の席上で事件発生という話に使われています。

報道協定

第22巻では2カ月という期限付きで山里の駐在所に勤務することになります。これは一種の懲罰措置であり,その前の少年営利誘拐事件で報道協定を破って記事にしてしまった記者を殴りつけてしまいます。ほとぼりの冷めるまで僻地勤務ということになりました。

報道協定とは誘拐事件など,報道することによって被害者の生命に危険が及ぶおそれがある事件については必要期間,報道を控える日本の独自の自主協定です。1960年の「雅樹ちゃん事件」をきっかけに日本新聞協会が定め,その後何回か改正されています。

報道協定に法的な拘束力はありませんが,協定を破るような事態となれば記者クラブ除名などの厳しいペナルティおよび倫理上の非難が想定されるため各報道機関は協定を遵守します。報道協定については大島氏の「こちら大阪社会部」の中で報道する側の立場から描かれています。

ということで,文吾が記者をなぐらなくても,記者は社会的に抹殺され,当該新聞社は記者クラブから除名されることになります。また,社会的な非難を浴びることになり,当該新聞の不買運動にもつながることになります。


こちら大阪社会部

1991年から1996年にかけてミスターマガジンで連載された作品です。大手新聞社・日政新聞の若手記者である谷一平が大阪本社社会部の記者として様々な事件に遭遇しながら新聞記者として鍛えられ成長していく様を描いた作品です。

原作者の大谷昭宏は読売新聞・大阪本社社会部に在籍していたことがあり,谷記者は自分をモデルにしているとされています。最初に配属されたのは南大阪の愛隣地区(通称釜ヶ崎)であり,さまざまな事件を扱うことになります。

敏腕の松野記者が亡くなったことによりカメラマンの猪原伝助とともに大阪社会部の華ともいえる府警本部の捜査一課担当となり,他社の記者たちと抜いた,抜かれたのスプーク合戦を繰り広げます。物語の中には西成暴動,三菱銀行人質事件,砂利船汚職事件など実在の事件を題材にしたものも含まれます。

バツ&テリー

1982年から1987年まで少年マガジンで連載された破天荒の野球マンガであり,1984年に講談社漫画賞を受賞しています。主人公は海峰高校野球部に所属する抜刀軍(投手),一文字輝(捕手)であり,二人合わせてバツ&テリー(バッテリー)ということになります。

高校野球といえば努力,さわやか,全力などのイメージが一般的ですが,この二人に関してはそのような常識はまったく通用しません。「相手が汚い手で仕掛けてきたら,よりど汚い手でお返しする」とうそぶくとんでもない人たちなのです。少女をめぐり暴走族同士の抗争にも巻き込まれます。

とんでもない二人の物語ですが読後感は悪くありません。常識には当てはまらなくても,犯罪や反社会的行動には至ってないからです。難をいうとこの魅力的な素材を手放したくなかったのか,連載が長くなり過ぎましたね。単行本は24巻であり,2/3くらいで十分です。