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火山と噴火

噴火(火山活動)とは地球内部の熱物質が地表へ放出される現象と定義するすることができます。もう少し簡単にいうと地殻やマントルで生成されたマグマが地表(陸上もしくは海底)に噴出するものです。

広義には噴火が起きたところが火山ということになりますが,世界中の火山研究者の間では,「160万年より新しい第四紀という時代に噴火した火山にだけ,固有の名前をつけることができる」という約束があります。つまり,第四紀以前の噴火による火山特有の地形が残されていてもそれは●●火山という名称を付けることはできません。


火山活動は3種類の型があります

火山活動を引き起こすマグマは地球上のあらゆる場所に存在するわけではなく,特定の場所に限定されます。そのため,地球上の火山の位置を地図上にプロットすると,特定の場所に集中していることが分かります。そのような地域は地震の震源域とも重なっています。

そのため,地震も噴火も地表を動かすメカニズムにより発生すると考えられており,そのような地質現象を説明する理論はプレートテクトニクスとプルームテクトニクスです。地球の垂直構造と熱的な対流が地球の表層にどのような影響を与えるかについては「地球のダイナミズム」を参照してください。

火山活動とはマグマが地表(海底を含みます)に噴出する現象であり,そのメカニズムにより下記の3種類に分類されます。
(1) 発散型のプレート境界(プレートが離れていくところ)
(2) 収束型のプレート境界(プレートが衝突しているところ)
(3) ホットスポット

現在の地球でもっとも大規模な火山活動が起きているのは発散型のプレート境界です。大部分の発散型境界は線上に連なる海底の中央海嶺にあり,そこは地球内部の高温物質が湧き上がっているところと考えられます。湧き上がってきた物質は水平方向に移動しており,そのため両側に引っ張る力が働いてリフトバレー(海嶺の中央部が陥没している地形)が形成されます。

それを埋めるように大量のマグマが噴出します。深海では巨大な圧力がかかっているので,マグマの揮発成分は急激には膨張できませんので爆発することなく静かに谷を満たしていきます。

この静かな噴火により,新しい海洋地殻が次々と形成され,毎年2cmほど水平方向に移動しても海洋地殻が途切れることはありません。発散型のプレート境界で産生されるマグマは毎年20km3程度であり,この量は地球上で産生されるマグマの80-90%を占めるています。

収束型のプレート境界でも線上に連なる火山が形成されます。太平洋を取り巻くように連なる環太平洋火山帯はもっとも分かりやすい例です。巨大噴火を引き起こす火山の多くははこのタイプに含まれており,私たち一般的に火山というときは(発散型プレート境界の噴火は含まれませんので)ほとんどが収束型プレート境界で形成されるものを意味します。

例外はハワイ島のように孤立した火山です。このタイプの火山はホット・スポット型と呼ばれており,マントル深部から巨大なプルーム(プリューム)が湧き上がって来ており,その一部が地表に現れたホット・スポットによるものです。

ハワイ島のホット・スポットは数千万年もの間,ほぼ同じ位置で噴火を繰り返します。しかし,海洋プレートが移動しているため,ハワイ諸島のように点々と一列に連なる火山島が形成されます。

ホットスポットはタヒチ島やその周辺,アイスランド,アフリカ大地溝帯,イエローストーン,ガラパゴス諸島,カナリア諸島,イースター島,レユニオン島など世界の各地にあります。その多くは独立した火山となっていますが,アイスランドのように大西洋中央海嶺状にあるものや,数十万年の間隔で超巨大噴火を引き起こすイエローストーンのようなユニークなものも含まれています。


地球の固体表層(リソスフェア)は10数個のプレートに分かれており,マントルの対流により相互に動いています。大陸はプレートに乗っていますので,プレートと一緒に移動します。プレートの境界では地震,火山,巨大山脈の形成などの地質学的変動が起こります。


海底の中央海嶺,画像はwikipediaから引用しました。現在の地球でもっとも大規模な火山活動が起きているのは発散型のプレート境界です。大部分の発散型境界は線上に連なる海底の中央海嶺にあり,そこは地球内部の高温物質が湧き上がっているところと考えられます。





北太平洋の海底地形,画像はwikipediaより引用しました。ハワイ諸島及び天皇海山群の並ぶ様子がよく分かります。ホットスポットは現在のハワイ島にあり,噴火により島の面積は拡大しつつあります。ホットスポットはほとんど動きませんが,海洋プレートの移動により島は西北方向に移動し,やがて海中に没し,一列に連なる海山となります。もっとも西にある海山は8500万年前に形成されたものです。


収束型の境界は巨大山脈・海溝・火山列を生み出します

陸上の火山の大半は収束型のプレート境界で生み出されます。収束型のプレート境界はいわばプレート同士が衝突しているところであり,次の3つのパターンに分けられます。
(1) 大陸/海洋型
(2) 海洋/海洋型
(3) 大陸/大陸型

大陸/大陸型の場合は大陸地殻は軽いためマントルに沈み込むことができないので,衝突型となり,互いに圧縮しあい境界部は折り曲げられ,巨大な山脈が形成されます。この事例はアルプス山脈やヒマラヤ山脈に見ることができ,火山活動は顕著ではありません。

大陸/海洋型の場合は海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込んでいきます。海洋/海洋型の場合は比重の大きい片方のプレートがもう片方の下に沈み込んでいきます。つまり海洋プレートがからむ収束帯ではプレートの沈み込みが発生し,それが火山活動を引き起こします。地球の表層にはおよそ700の火山があり,そのうち550はプレートの収束帯にあります。

左の2つの図は一般的な模式図ですが,上のものは南米大陸とナスカプレートの衝突の様子だと考えると分かりやすいと思います。ナスカプレートは南米大陸の下に沈み込んでいき,その前縁には最深部が8000mのチリ・ペルー海溝が延々5900kmにわたって連なっています。海洋プレートが沈み込んでいるところでは大陸プレートにも下向きの力が加わるため,深い溝のような海溝ができます。

ナスカ・プレートは40-45度の角度でマントルに沈み込んでいきます。この海洋プレートの岩石には大量の水が含まれています。マントルの構造は深くなるほど熱くなりますので,海洋プレートはある深さ(およそ100km)まで沈み込むと周囲の岩石により暖められ組成が変化して水分を放出します。この水分が沈み込みプレートに接するプレートの岩石に供給され,マグマの発生に重要な役割を果たします。

一般的に岩石が溶融する条件は岩石の組成,温度,圧力により変化します。地下深部では高い圧力のため高温状態でも溶融しない岩石も水分が加わると溶融しやすくなります。そのため,周囲の岩石と同じ温度でも水分のある環境下では岩石は水分を取り込んで溶融し,マグマ(ケイ酸塩溶融体)が発生します。

このようにマグマの発生には温度が支配要因となりますので,マグマが発生するのは一定の深さであり,海溝から水平方向に一定の距離が離れたところとなります。海洋プレートの沈み込み角度が45度とすれば,海溝からの水平距離とマグマの発生する深さはほぼ等しく(およそ90-130km)なります。実際には沈み込み角度は30-60度ほどの幅がありますので,それにより水平距離は変化します。

ナスカ・プレートと南米プレートの衝突は長期間続いているため次々とマグマが生み出され,周辺の地殻は厚くなり,アイソスタシーの原理により地殻が持ち上げられます。その結果,海溝と平行にアンデス山脈が形成されています。

日本列島の東側もプレート収束帯になっており,同様のメカニズムによりマグマが発生します。左の図はは関東以北のものです。北米プレートと衝突した太平洋プレートは40-45度の角度でマントルに沈み込んで行きます。

太平洋プレートは深さ100kmほどのところで水分を放出し,水分を供給された太平洋プレートに接するマントル物質の溶融温度は下がり,周辺のマントル物質と同程度の温度であるにもかかわらず溶融しマグマとなります。水分を含んだマグマは粘性が下がり,周辺のマントル物質より軽くなるため浮力により上昇します。

南米大陸とナスカプレートの場合と異なり,このマグマの上昇地点は大陸の近くの海域ということになり,火山島が形成されます。北米プレートと太平洋プレートの衝突は長期間続いているため次々とマグマが生み出され,周辺の地殻は厚くなり,アイソスタシーの原理により地殻が持ち上げられます。その結果,島弧が形成されます。日本列島の場合はさらに,プレート移動により運ばれてきた伊豆諸島の火山島の一部が付加されています。

太平洋プレートがマントルに沈み込むとき固体同士がこすれることになり,D点では周囲の岩盤と大きな摩擦が生じます。そのため双方のプレートの岩盤に大きな歪が生じます。一定体積の岩盤が耐えられる歪量は決まっており,それを越えると岩盤が崩壊し,そのときプレート同士が少し動きます。これが「海溝型地震」のメカニズムです。

陸側のプレートと海側のプレートの接合面の摩擦力は場所により大きく異なります。摩擦力が強く簡単には動かない領域を固着域(アスペリティ)とする学説がNHKの「巨大地震シリーズ」で大きく取り上げられています。

日本列島の場合はプレート移動とともに運ばれてきた火山島の一部はそのまま沈み込みますので高さ1000mを超える大きな凸部が陸側のプレートとの間に巨大なつっかえ棒のような役割を果たし,そのようなところでは海側のプレートは簡単に沈み込むことはできません。

そのようなところは強固な固着域となり震源の空白域となりますが,実際には大きな歪のエネルギーが蓄積されており,なんらかのきっかけで動くことになると巨大地震となり,それが引き金となって周辺の固着域にも影響を与え地域連動型の超巨大地震に結びつく可能性があります。

「海溝型地震」はD点だけではなく@までの任意の点で発生します。@点より深いところではマントル物質の一部が溶融するため摩擦力は小さくなります。

太平洋プレートは沈みこむときに大きな摩擦力により地殻の一部を引きずり込み,同時に大陸プレートを押す力が働きます。そのため海溝型地震が発生すると地殻の先端部は跳ね上がり,この跳ね上がりが上部の海水を押し上げ津波が発生します。同時に太平洋プレートの押す力は弱まり,海岸付近では上方向に湾曲していた地殻が元に戻るため沈降します。

水分を含んだマグマは周辺の岩石より軽いため,発生した場所から浮力により真上に上昇し,地殻とマントルの境界あたりで周囲の岩石と同じ比重になるため浮力を失いマグマ溜まりを形成します。マグマ溜まりの大きさは数km程度と考えられており,新しいマグマの供給,マグマの組成の変化などが引き金となり噴火が引き起こされます。

このメカニズムにより海溝から一定距離のところに海溝に平行な火山列が生まれます。これを火山フロントあるいは火山前線といいます。日本列島,千島列島,フィリピン,インドネシア,ニュージーランド,アンデス山脈の火山はこのようにして生まれました。

このうち火山フロントが大陸にできたものがアンデス山脈ということになります。それに対して大陸と海溝の距離がある場合は,日本列島やニュージーランドのような弧状列島ができます。

海洋プレートの沈み込みによる海溝と火山フロントの形成は海洋/海洋型のプレート境界でも発生します。日本列島の南では太平洋プレートがフィリピン・プレートの下に沈み込んでおり,伊豆諸島,小笠原からマリアナ諸島にかけての海溝と火山列島を形成しています。


大陸/海洋型のプレート収束帯,画像はwikipediaより引用しました。海洋プレートは比重が大きいので大陸プレートの下に沈み込んでき,海溝,火山フロント,陸弧を形成します。太平洋の東側にあたる南米のアンデス山脈はこのメカニズムにより形成されました。また,大陸プレートの端が海面下にある場合は島弧や火山島が形成されます。太平洋の西側にあたるアリューシャン列島,千島列島,日本列島,琉球列島,インドネシア諸島の相当部分,ニュージーランドはこのメカニズムにより形成されました。



海洋/海洋型のプレート収束帯,画像はwikipediaより引用しました。このケースでも海洋プレートの片方はマントルに沈み込み,海溝と火山フロントが形成されます。伊豆諸島・小笠原諸島からマリアナ諸島にかけての火山列島はこのメカニズムにより形成されました。





日本周辺のプレート,海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込んでいるため,アリューシャン列島,千島列島,日本列島,琉球列島のような島弧が形成されます。太平洋プレートとフィリピンプレートの収束境界では伊豆諸島,小笠原からマリアナ諸島にかけての海溝と火山列島を形成されています。




プレート収束帯におけるマグマ生成のメカニズム。この図は関東以北の事例です。北米プレートと衝突した太平洋プレートは40-45度の角度でマントルに沈み込んで行きます。太平洋プレートは深さ100kmほどのところで周辺のマントル物質に暖められ組成が変化し,水を放出します。水を供給された太平洋プレートに接するマントル物質の溶融温度は下がり,周辺のマントル物質と同程度の温度であるにもかかわらず溶融しマグマとなります。水分を含んだマグマは周辺のマントル物質より軽くなるため浮力により上昇します。地殻はマントルに比べて軽い岩石でできているためマグマはマントルと地殻の境界付近で浮力を失い滞留します。これがマグマ溜まりです。


爆発的噴火と非爆発的噴火

マグマ溜まりを形成しているマグマの温度は900-1150℃であり,深さに応じた大きな圧力を受けています。マグマ溜まりという言葉の印象から地下にマグマの満たされた空間があるような感じを受けますが,マグマ溜まりができる以前は地殻に空隙があったわけではありません。

地下深部で発生したマグマが周囲の岩石より軽いことにより浮力を受け,上昇していきます。このとき周辺の岩盤を押しのけてプールのようにマグマを主体としたマグマ溜まりを形成するのか,マグマの圧力で砕かれた岩盤のすき間を埋めるようにマグマが溜まる構造なのか現在の研究では分かっていません。なんといっても地下数kmから数十kmのところに存在するものなので,その構造はほとんど分かっていないというのが実情です。

マグマ溜まりは地殻が断熱材となるため簡単には冷えず,次々と蓄積されます。同時にマグマはマグマ溜まりの中では結晶分化あるいは周辺の物質を取り込むことにより,組成を変えていきます。そして,比重のちがいにより重い玄武岩質は下に,軽い安山岩質や流紋岩質は上にと分化が生じます。そのため,一つのマグマ溜まりの中には性質の異なるものが共存することになります。

マグマ溜まりの中で組成の変化と分化が進行することは1回の噴火活動においても噴出物が時間的に変化することにより推論されています。1707年の富士山の宝永噴火では火山灰→軽石と火山灰→玄武岩質のスコリアと噴出物が変化しています。また,1783年の浅間山の噴火では軽石と火山灰→火砕流→玄武岩質溶岩と変化しています。

マグマの蓄積量の増加によりマグマ溜まりの圧力が上昇したり,一部の揮発成分の分離(発泡)により密度が小さくなるとマグマは新たな浮力を得て,地殻の岩石を破砕しながら地表に向かいます。このマグマの通り道を火道といいます。地表付近では火道は筒状になることが多いのですが,地下深部では板状になっていると考えられています。

噴火は爆発的噴火と非爆発的噴火に大きく分類されます。爆発的噴火とは爆発的に火山灰や噴石を遠くまで吹き飛ばし,ときには成層圏にまで達する噴煙柱を作ります。また,火山内部の圧力が急激に上昇するため,山体の一部を吹き飛ばすこともあります。

非爆発的噴火とは爆発を伴わずにマグマを噴水のように噴出したり,火口からマグマが溢れて溶岩流となるような噴火となります。また,ときには火口の上に溶岩ドームを形成することもあります。この場合もマグマは噴出していますので非爆発的噴火ということができます。

爆発的噴火と非爆発的噴火を分ける最大の要因はマグマから離溶したガス成分です。中でももっとも大きな影響を与えるものはマグマに溶け込んでいる水分です。地下深部では水分は容易にマグマに溶け込むことができます。これは圧力をかけることにより二酸化炭素が水に溶解して炭酸水となることに類似しています。

炭酸水のビンのふたを開けると周囲の圧力が下がり,二酸化炭素は水に溶けきれなくて発泡します。マグマと水の関係においても同じような現象が起きます。マグマが溶かすことのできる水分量は主として周囲の圧力により決まり,ある条件下でマグマが溶かすことのできる最大の水の量を,その条件におけるマグマの飽和含水量と呼びます。

マグマの飽和含水量は周囲の圧力が低下すると急激に低下します。火道を上昇してきたマグマは周囲の圧力が低下するためどこかで飽和含水量に達し,さらに圧力が低下すると離溶された水分がマグマの中で気泡を作ります。

実際には圧力が飽和含水量より低くなってもしばらくは水分は抽出されません。この状態を過飽和といいます。過飽和状態のマグマは不安定であり,物理・化学条件が少し変化するだけで急激に水分を離溶し,発泡します。

マグマの中には二酸化炭素や二酸化硫黄などの揮発成分が含まれており,それらの物質も同じようにある条件下になると気泡を形成します。気泡を含むマグマの密度は小さくなるためさらに上昇しやすくなります。

マグマが発泡するメカニズムは粘性の低い玄武岩質マグマでも粘性の高い安山岩・流紋岩質マグマでも差はありません。しかし,粘性の低い玄武岩質マグマでは内部の気泡が容易に上昇し,火口付近から外部に放出されます。このようにマグマから離溶した火山ガスが放出されることを「脱ガス」といいます。

水は液体から気体に相転移すると体積が急増します。高校の化学の教科書には下記のボイル・シャルルの法則(気体の関係式)が載っています。
PV = nRT (P:圧力,V:体積,n:モル数,R:気体定数,T:絶対温度)

これを計算すると1モル(18g)の水は0℃,1気圧では22.4リットルとなります。マグマに含まれる水の量と発泡するときの温度と圧力が分かると気泡の体積が計算できます。温度の変化がそれほど大きくない場合は,周囲圧力と気泡の体積は反比例します。

液体の水で満たされている深海の圧力は簡単に計算され,10kmの深さで1000気圧になります。しかし,地殻は個体でできているため地下深部の圧力は簡単には分かりません。大陸地殻に多い安山岩の場合は比重が2.6(玄武岩は2.8-2.9)ですので,地下10kmの圧力は大ざっぱに2600気圧程度になります。

温度の変化がないと仮定すると,地下10kmで形成された気泡は大気中では2600倍にも体積が増加することになります。水分以外の火山性ガスについても同様です。マグマが地表に近づくと火山性ガスの急激な体積膨張が起こり,脱ガスがスムーズにいかないと内部圧力は上昇し爆発的に噴出します。これが爆発的噴火のメカニズムです。

爆発的噴火をもたらすものは火山ガスの圧力ですので,脱ガスがどのくらいスムーズに進行するかが噴火の性格を決めることになります。粘性の低い玄武岩質マグマの場合は(一般的に)脱ガスが容易ですので,非爆発的噴火となります。粘性の高い安山岩質あるいは流紋岩質マグマでは脱ガスがスムーズにいかない場合が多いので爆発的噴火となります。

爆発的噴火をもたらすもう一つのメカニズムは「水蒸気爆発」です。このケースは火道と地下水が近接あるいは接触するときに発生します。マグマに接触した地下水は沸騰し体積を急激に膨張させます。それはマグマが上昇し周囲環境の圧力が低下すると,マグマ中の気泡が急速に膨張する現象と類似しています。

地下水の沸騰においても火道内の圧力は急激に高まり,爆発的噴火となります。しかも,水蒸気が火山から脱ガスする時間がほとんどありませんので,山体を吹き飛ばすような大爆発にもつながります。

粘性の高いマグマにおいても,条件によっては火山ガスの膨張により粉砕された火道周辺のマグマのすき間を通って脱ガスが行われる場合もあります。このようなときには粘性の高いマグマは火口から溢れることなく,溶岩ドームを形成します。

発散型のプレート境界(中央海嶺)は地球上でもっとも噴火活動がさかんなところですが,爆発的噴火は生じません。それは深海の高い圧力により離溶した火山ガスがほとんど膨張することができないからです。



薩摩硫黄島と鬼界カルデラの関係,画像は「産業技術研究所|火山DB|薩摩硫黄島の紹介」より引用しました。九州の南東ではフィリピンプレートとアジアプレートが衝突しており,北から阿蘇,姶良,阿多,鬼界という過去の大噴火により生じた巨大なカルデラが並んでいます。鬼界カルデラは大隅半島と屋久島の間にあり,薩摩硫黄島,竹島はカルデラの北縁に位置しています。カルデラは北西-南東約25km,北東-南西約15kmの楕円形であり,複数のカルデラが複合したものと考えられています。60万年前から大きな噴火を繰り返したきた痕跡が見られ,新しいものでは7300年前にVIE=7の巨大噴火がありました。




火道の構造と脱ガスの仕組み,画像は「産業技術研究所|火山DB|脱ガス過程」より引用しました。この説明図は薩摩硫黄島の事例です。火道内で脱ガスにより重くなったマグマが沈み込み,新たにガスを含んだマグマが上昇するという火道内マグマ対流プロセスを説明しています。このプロセスにより,大量の火山性ガスが継続的に放出されていると考えられます。


SiO2(ケイ酸)の割合がマグマの粘性に影響します

マグマの流動性に影響する粘性は組成中のSiO2(二酸化ケイ素,ケイ酸,結晶は水晶,板ガラスやビンに使用される通常のガラスの主成分)の割合であり,二酸化ケイ素成分の低いほど流動性に富むマグマということになります。左図では玄武岩質,安山岩質,流紋岩質マグマの粘性が示されており,粘性に大きな幅があることが分かります。

項目 玄武岩質 安山岩質 流紋岩質
SiO2含有量少ない多い
マグマ粘性低い高い
マグマ温度(℃)1000-1200800-1000600-900
噴火の様子非爆発的爆発的
火山の形状楯状火山成層火山溶岩ドーム
冷えた溶岩の色黒っぽい白っぽい
代表的な火山

ハワイ火山
ストロンボリ火山
アイスランド
三原山

浅間山
桜島

昭和新山


マグマに含まれるSiO2と粘性の関係。マグマはSiO2の含有割合により粘性が4-5桁も異なります。また,粘性は含有水分量により大きく変化します。


非爆発的噴火の事例|ハワイ島

一般的に玄武岩質のマグマは粘性が低く脱ガスが容易なので噴煙を数千mまで噴き上げるような噴火にはなりません。代表的なものはハワイ島のキラウエア火山です。ハワイ島の周辺海域は6000mほどの深さがあります。ホットスポットから絶え間なく供給されるマグマは海水で冷やされ巨大な山体を形成し,ついには海上に姿を現し,火山島となります。

ハワイ島には5つの楯状火山があり,その中にはマウナ・ケア(海抜4205m)とマウナ・ロア(海抜4169 m)という富士山より高いもののあります。マウナ・ケアの場合は海洋底基部からの高さは10,203mとなり,地球上でもっとも高い山ということになります。

この巨大な火山島はすべてマグマの噴出で形成されたものです。海洋底からそびえるハワイ島の体積を調べてみましたがどこにも見当たりません。その代りハワイ島の面積(約1万km2)の半分を占めるマウナ・ロアの体積が75,000km3であることが分かりましたので(乱暴な計算ですが)それを2倍してハワイ島の海洋底からの全体積は15万km3と見積もりました。

富士山の体積は(おそらく海面標高より上の部分と思われます)1400km3ですので,その100倍にもなります。ハワイ島の形成開始時期は約43万年前とされていますので,平均して毎年0.35km3のマグマが噴出したことになります。

現在,活発に活動しているマウナ・ロア,キラウエアのマグマは非常に粘性の低いマントル由来の玄武岩質溶岩です。マグマは火口から溢れるように流れ出し,固化する前に広い範囲に流れ下って行きますのでなだらかな楯状火山を形成します。溶岩流はときには海岸に達し,島の面積を広げることになります。

ハワイ島周辺の太平洋プレートの移動速度は2万年間で1km(5cm/年)程度であり,ハワイ島もプレートとともに北西に移動しており,ホットスポットからはずれつつあります。ハワイ島の南東29kmのところにはロイヒと呼ばれる海底火山があります。

ロイヒの山頂はまだ海面下975mとところにありますが,活発な噴火を続けており,数万年後には海上に姿を現すことになります。数万年後ではハワイ島はまだそれほど移動していませんので,ロイヒ火山島はハワイ島とつながると考えられています。

ハワイ島の噴火は極めて穏やかであり,川のように流れる溶岩流のすぐ近くまで近づいても危険はないとされています。しかし,ハワイの火山がいつも非爆発的とは限りません。一つの火山でも噴火の型がいつも同じというわけではないのです。

キラウエアの場合も火口から数km離れたところまでテフラ層が広がっていることが確認されました。テフラの一部は20kmほど離れた海岸でも見つかっています。テフラとは爆発的噴火により放出された火山灰や軽石の混合体であり,ハワイの火山もときには爆発的に噴火することがあるようです。1924年には水蒸気爆発により山体の一部が吹き飛んでいます。

ハワイ島にマグマを供給するホットスポットについても最近,興味深い論文が出ています。ホットスポットの元になるマントル下部から上昇してくるプルームは常識的にはハワイ島の真下にあり,そこからプルームの一部が地表に達していると考えられたいました。

ところが,地震波の伝搬速度の研究(地震波トモグラフィー)から,ハワイ島の西600-1600km,地下606kmのところに直径1300kmほどの周辺より高温の岩体が存在していることが分かりました。地球のふるまいは私たちが考えているより複雑なものなのかもしれません。



ハワイ諸島周辺の立体地図,画像は 「Marine Geoscience Data System」より引用しました。ハワイ島から北西方向(オアフ島方向)を見た地図になっています。周辺の海洋底の深さは6000mであり,そこから10,000mの高さをもつハワイ島の巨大な山体がそびえています。海面下の山体の大きさに驚かされます。





ハワイ島キラウエア火山の噴火の様子,画像は 「ハワイロード」より引用しました。画像は2011年3月のもので,灼熱のマグマが火口を乗り越えて,溶岩流となって流れています。非常に粘性の低いマントル由来の玄武岩質溶岩ですので固化する前に流れ下って行きます。このような噴火活動がハワイ島を大きくしていきます。1983年の噴火では溶岩流は海岸に達し,ハワイ島には220haの面積が付加されました。ハワイ島中央部にはマウナ・ケア(4205m)とマウナ・ロア(4169m)という巨大な火山もあり,周辺の海洋底からの高さは10,203mにもなります。


非爆発的噴火の事例|ストロンボリ

ストロンボリはシシリア島北の沖合にある面積12.6kmの火山島です。ストロンボリ火山の標高は926mですが,海底からの高さは2000mにもなります。この火山はマグマを火口周辺に噴水のように噴き上げることで知られています。マグマの性質は玄武岩質ですが,ハワイよりは粘性が高いのでこのような噴火となり,ストロンボリ式噴火と呼ばれています。


噴火するストロンボリ火山,画像は「wikipedia」より引用しました。マグマは玄武岩質ですがハワイより粘性が高いので,マグマを噴水のように噴き上げます。


非爆発的噴火の事例|アイスランド

アイスランドは大西洋中央海嶺上にあるホットスポットにより形成された火山島です。大西洋中央海嶺は発散型のプレート境界であり,そこにホットスポットが重なったため世界でも特異的な火山島となっています。火山島は海底下のマグマが噴出し,ついには海上に姿を現したものなのですが,アイスランドの場合は発散型のプレート境界上に位置しているためつねに東西方向に引き裂く力が加わっています。

島の中央部には北東から南西にかけてギャオと呼ばれる谷が走っています。ギャオは連続した谷ではなく複数のものが不連続かつ複数の谷が平行に連なっています。ここは大地が引き裂かれている現場であり,ときには地下深部のマグマが噴出してくるところでもあります。

アイスランドでもっとも著名な噴火は1783年のラキ火山の噴火(ラカギガル割れ目噴火)です。6月8日にアイスランド東火山帯の東縁付近にあるラキ山の南西側に大規模な割れ目が口を開き,噴火が始まりました。6月29日になると噴火割れ目はラキ山の北東側にも伸び,その全長は25kmに達しました。

割れ目からはカーテン状に玄武岩質マグマが高さ800-1400mも噴き上がり,溶岩流が流れ出しました。このような噴火は50日間ほど続き,噴火が完全に終息したのは6か月後でした。噴火の終息後には130個の火口列が25kmに渡って連なる特異な地形となっています。

このときの噴火による噴出したマグマは14km3,テフラは0.75km3とされています。噴火地域は人の居住地から離れていましたので,直接的な被害は軽微でしたが,大量の有毒な火山ガス(1億トンの亜硫酸ガス,800万トンのフッ化水素)が放出され,アイスランドの家畜の50%,人口の20%が失われました。また成層圏にまで上昇した火山ガス起源の微粒子(硫酸ミストなど)が北半球を覆ったことにより,地上に到達する日射量が減少して世界的に気温が低下しました。

ホットスポットによりマグマが供給されるアイスランドの火山は玄武岩質ですが,いつも比較的穏やかな噴火であるとは限りません。2010年のエイヤフィヤトラヨークトルの噴火では別の姿となっています。噴火は二段階に分かれており,第一段階(3月20日-22日)は比較的小規模なマグマを噴出する噴火でした。

しかし,第二段階(4月14日-24日)では厚さ200mの氷河の下でより規模の大きな噴火が発生しました。氷河の融雪水の影響で噴出したマグマが急速に冷却され,火口にふたをするような形になったため内部圧力が上昇し爆発的な噴火になりました。

噴煙中の高さは8000mにも達し,超高層大気に火山ガラスを含む火山灰を噴出させました。放出されたテフラの量は0.25km3であり,火山爆発指数はVIE=4とされています。「スミソニアン博物館の噴火カタログ」によると,2001-2010年の間にVIE=4以上の噴火は11回発生しています。

火山から噴出されたもののうち直径2mm以下の大きさのものを火山灰といいます。火山灰は決して物が燃焼した残余物質ではなく,火山ガラス,鉱物結晶,古い岩石の破片などが含まれます。火山灰の雲の近くを飛行することは航空機にとって大変危険です。

ジェットエンジンに吸い込まれた微細な火山灰はエンジン内部の熱によって融解し,タービンブレードなどに付着し推力の低下やエンジン停止をもたらします。実際,1982年にジャワ島のガルングン山の近くを飛行中のボーイング747が火山灰の雲に入り,(一時的ではありますが)4基のエンジンのすべてが停止するトラブルが発生しています。そのため,4月15日から20日にかけてヨーロッパの主要空港は閉鎖され,ヨーロッパの航空路線は大混乱に陥りました。



2010年4月17日にみられたエイヤフィヤトラヨークトルの噴煙柱,画像はwikipediaから引用しました。噴火が氷河の下で起きたため,爆発的な噴火となり,ヨーロッパの主要空港は閉鎖に追い込まれました。





国際宇宙ステーションから見たアラスカ・クリーブランド火山の噴煙柱,画像はwikipediaから引用しました。火山灰や火山ガスからなる噴煙柱は成層圏にまで達する場合もあり,火山灰の量が多いと(噴火の規模が大きいと)地球規模の気候変動の原因となります。


洪水玄武岩の噴出(地質学的な噴火イベント)

地球の表層(大陸および海洋底)には火山活動で生成された玄武岩質溶岩の広大な台地が存在しています。台地の面積は10-200万km2にもおよび,地質時代を通して何回かの巨大な噴火イベントがあったことが確認されています。

このような台地は「洪水玄武岩」あるいは「台地玄武岩」と呼ばれています。大陸地殻を形成している岩石は主としてケイ酸含有量が多く軽い花崗岩質です。このような大量の玄武岩質マグマは大陸地殻で発生したとは考えられず,マントル由来のものと考えられています。 通常,大量のマントル物質が大陸地殻や海洋地殻を突き破って地球表層に達することはありませんので,洪水玄武岩の発生は例えば大陸分裂のように地球規模の変動が起きていたことを示唆しています。

現代のプレート・テクトニクスおよびプルーム・テクトニクスにおいては,このような巨大なイベント引き起こせるものはマントル下層から湧き上がってきたスーパープルームだけです。スーパープルームは超大陸を分裂させる原動力であり,大陸分裂時の割れ目からプルームの一部が噴出したものが洪水玄武岩を形成したと考えられています。

名称 地域 発生時期 面積
シベリア・トラップ中央シベリア 二畳紀200万km2
カルー玄武岩南アフリカ 三畳紀14万km2
バナラ玄武岩ブラジル 白亜紀120万km2
デカン・トラップインド 白亜紀〜暁新世50万km2
コロンビア川台地米国 中新世20万km2
オントンジャワ海台ソロモン諸島北 白亜紀200万km2

スーパーホット・プルームも下部マントルと上部マントル境界付近ででいったん滞留します。ところが,ときにはそのまま上昇して地殻を破って噴出することがあります。これは地球上でもっとも激しい噴火活動になります。

2.5億年前,古生代から中生代に移行するベルム紀末には地球史上最大規模とも言われる生物の大量絶滅が起こりました(ベルム紀の大絶滅)。この有力な原因と考えられているのがシベリア洪水玄武岩(シベリア・トラップ)の噴出です。

この巨大な高温物質は2.5億年前にロシア東北部・中央シベリア高原を中心に噴出し,その結果,現在わかっている範囲でも200万km2の範囲に洪水玄武岩層が形成されました。隠されている部分を含めると400万km2あるいは700万km2にもなるとされています。噴火は100万年以上にわたり継続したと考えられており,噴出したマグマの総量は400万km3と推定されています。

噴火は1000km以上離れた複数の独立した中心地における割れ目噴火であり,マグマをカーテンのように2000-3000m以上噴き上げるものであったと考えられており,非常に流動性の高い溶岩が流れることにより広い範囲を覆うことになりました。1783年にアイスランドで発生したラキ火山の大噴火(ラカギガル割れ目噴火)における噴出マグマ量は14km3ですからその30万倍であり,想像を絶する大噴火でした。

火山灰を吹き上げる爆発的な噴火ではありませんが,この火山活動により大量の火山ガスが放出され,地球の気候は激変します。また,海底のメタンハイドレードの相当部分が崩壊して大気中に大量のメタンが放出され,それが酸素と結びつくことにより,大気中の酸素は半減しています。この激しい噴火活動とその後の環境の激変が生物種の大絶滅を招いたと考えられています。

2.5億年前といえば超大陸パンゲアが分裂を開始した時期にあたります。そのため,シベリア洪水玄武岩を引き起こしたスーパーホット・プルームが大陸分裂に関連しているとも考えられています。



インドの中央部に広場るデカン高原は東ガーツ山脈と西ガーツ山脈に挟まれた大きな逆三角形をしており,総面積は190万km2,ほぼ平坦で標高は300-600mの台地となっています。このような独特の地形は粘性の低い玄武岩質マグマが大量に流れ出ることにより形成され,洪水玄武岩と呼ばれています。デカン高原は浸食により縮小しましだが形成時は富士山(体積1400km3)1000個分以上の体積に相当する玄武岩に覆われていたと推定されます。





三畳紀の大陸配置,画像は 「PALEOMAP Project」より引用しました。超大陸パンゲアはC字型をしており,赤道付近にはチチス海が広がっています。この時期からパンゲアは分裂し,2.5億年で現在の大陸の配置になっています。





シベリア洪水玄武岩(シベリア・トラップ),画像はwikipedia より引用しました。この広大な地域にマグマがあふれました。


爆発的噴火の噴出物

安山岩質,流紋岩質マグマの場合はしばしば爆発的な噴火を引き起こします。爆発的噴火はときには成層圏に達するような巨大な噴煙柱を形成し,周辺に大量のテフラを放出します。テフラとは火山から噴出される破砕された岩石の総称であり火山灰(2mm以下),火山礫(2-64mm),火山岩塊(64mm以上)に分類されます。火山灰とはガラス質を含んだ細かい岩石の破片なのです。

爆発的噴火がテフラを降下させるのはマグマが火道を上昇するときに急速に膨張する気泡により粉砕され,小さな破片(粒子)となるからです。これが冷えたものがテフラです。テフラとはギリシャ語で「灰」と意味します。そのため日本語でも噴出物の小さなものを火山灰というようです。

爆発的噴火を引き起こすのはマグマの熱エネルギーではなく火山性ガスの膨張エネルギーです。このエネルギーによりテフラが噴出される高さは2000-3000mであり,重力により速やかに減速してしまいます。しかし,大気中に噴出した高温のガスとテフラは周囲の大気を急激に暖めるため強い上昇気流が生じ,噴煙柱はさらに上昇します。

噴煙柱の最上部は傘のように広がり,横風がある場合はその方向に流されます。こうして広い範囲にテフラを降下させます。爆発的噴火の大きさは噴出したテフラの体積で数値化されています。



姶良カルデラ噴火において姶良Tn火山灰と入戸火砕流が同時に発生したことを示す模式図,画像は 「新しい箱根火山の生い立ちを探る」より引用しました。爆発的噴火は縦方向の噴煙柱以外に,火山の斜面を流れ下る気体と固体粒子からなる空気よりもやや重い高温の密度流を生じることがあります。これを火砕流あるいは火山砕屑流といいます。大規模な火砕流の場合は噴煙柱による噴出物よりずっと大きな場合もあります。火砕流の到達範囲は降灰に比べるとずっと狭い範囲に留まりますので,シラス台地のように厚い噴出物の層を形成します。


噴火のエネルギー

噴火の大きさ(エネルギー)は噴出したマグマの質量と温度から算定することができます。非爆発的噴火の場合は噴出した溶岩の体積=噴出したマグマの体積と考えて差し支えがありません。玄武岩質マグマの比重は2.9程度,温度は1000-1200℃であり,変動幅はそれほど大きくはありません。そのため,噴出した溶岩の体積で噴火の大きさ(エネルギー)を見積もることができます。

爆発的噴火においても噴出物の体積は爆発規模を推計する有力な手がかりとなります。ところが,爆発的噴火で降下したテフラ(火山灰や軽石)は内部にたくさんの空隙がありますので比重は0.5-1.0であり,元のマグマの比重(2.6程度)に比べて大きく変化しています。

そのため,噴出物の体積を基準にしても非爆発的噴火と爆発的噴火では意味の異なる異なるスケールとなります。この関係は気象における降雪量と降水量の関係に類似しています。

強い上昇気流で数千mの上空まで持ち上げられたテフラはやがて降下します。当然ですが重いものは火山の近くに,軽いものは滞空時間が長いためより遠くまで飛散します。テフラの降下する範囲は爆発の規模により決まり,数十kmから数百kmに及びます。その結果,火山を中心に等高線と類似のテフラの等層厚線を描くことができます。

等層厚線(テフラの厚さT)に囲まれた面積(A)とテフラの噴出量の間には下記の関係式が成立します。
V = 12.2TA (Hayakawa, 1985)

したがって,等層厚線図を描くことによってそのテフラの噴出量を求めることができます。原理的にはテフラの層厚がある値の等層厚線図が一つあれば噴出量は計算できるのですが,実際には複数の等層厚線図を作成して適切な噴出量を計算します。

爆発的噴火の大きさを数値化するための指標としてテフラの体積をもとに算定する「火山爆発指数(Volcanic Explosivity Index, VEI)」が使用されます。この指数は地震のマグニチュードと同様に爆発的噴火の規模を同じ尺度で数値化できるという利点はありますが,非爆発的噴火には(マグマ噴出量に比してテフラが極端に小さいので)適用できません。

その欠点を補うため「噴火マグニチュード」という噴火規模指数も提案されています。「噴火マグニチュード」は噴火のエネルギーを数値化しようとしたものであり,噴出したマグマの質量を対数化し,VEI数値との整合性を計るため下記のような算定式となっています。
M = log m - 7 (M:噴火マグニチュード,m:噴出物質量kg)

確かに噴火マグニチュードを使用すると非爆発的噴火も爆発的噴火も同じ噴火エネルギー尺度で論じることができますし,VEIのように最大値を8に固定する必要もありません。また,地震のマグニチュードと異なり,数値が1大きくなると規模は10倍ということになり,分かりやすい指数と言えます。しかし,(算出が難しいこともあり)現在はVEIスケールが主流となっています。VEIスケールの定義は次の通りです。

VEI 噴出物量
(km3)
爆発の規模 噴煙の高さ
(km)
発生頻度
(過去1万年)
  0>0.00001非爆発的 <0.1多数
  1>0.0001小規模 0.1-1多数
  2>0.001中規模 1-53477
  3>0.01やや大規模 3-15868
  4>0.1大規模 10-25278
  5>1非常に大規模 >2584
  6>10colossal >2539
  7>100super-colossal >255
  8>1000mega-colossal >250


注)「過去10000年の発生数」は1994年にスミソニアン博物館がthe Global Volcanism Programの一環として調べた数値です。上表の出典はwikipediaです。

火山爆発指数(VEI)のうち6以上のものには噴火の規模を表す日本語は定義されていません。便宜上ここでは6と7を巨大噴火,8を超巨大噴火と呼ぶことにします。

火山の噴火エネルギーの主要部はマグマが地下深部から持ち出す熱エネルギーであり,おおざっぱに下記のように単純化できます。
マグマの熱エネルギー = マグマ質量 X 比熱 X マグマ温度

正確にはマグマの持ち出す熱エネルギーはマグマ温度と大気温度の差分になりますが,マグマの温度は大気温度より十分に大きいので無視してあります。溶岩の潜熱(液体から固体と状態を変化させるとき放出される熱)は1000℃のマグマの熱量に比べて1/5程度なので無視しています。

マグマの温度を1000℃,比熱を1300J/kg/℃とすると1kgのマグマのもつ熱エネルギーは1.3X106Jとなります。1km3の玄武岩(比重2.9)のマグマのもつ熱エネルギーは3.8X1018Jとなります。

この値はM9の巨大地震の2倍程度のエネルギーに相当します。ただし,火山噴火の場合は熱エネルギーの放出が主体であるのに対して,地震は力学的エネルギーが主役ですので,エネルギーの大きさだけでは災害の大きさは論じられません。



富士山・箱根火山から噴出した火山灰の等厚線図(町田洋,1977より引用)です。火山を中心に降灰の厚さを等高線図のように描くことができます。この等厚線図を使用して1回の噴火による噴出物の体積を算定することができます。この図では西から東に吹く風の影響が顕著に見られます。


火山名 地域・国名 発生年 VEI

イエロー・ストーン
ロングバレー
タウボ
阿蘇山
トバ
KURILE LAKE
CRATER LAKE
鬼界カルデラ
SANTORINI
タウポ
タンボラ

米国
米国・中西部
ニュージーランド
九州
インドネシア
カムチャッカ
米国・オレゴン
南西諸島
ギリシャ
ニュージーランド
インドネシア

60万年前
データ無し
データ無し
9万年前
7.4万年前
BC6440 頃
BC5677 頃
BC4350 頃
BC1610 頃
AD180 頃
AD1815

8
8
8
7
8
7
7
7
7
7
7


スミソニアン博物館噴火カタログにある巨大噴火リスト,爆発的噴火の規模は噴出物の量をもとにした「火山爆発指数(Volcanic Explosivity Index, VEI)」が使用されます。このページではVEI=6と7を巨大噴火,VEI=8のものを超巨大噴火と呼んでいます。


火山名 地域・国名 発生年 VEI

富士山
三宅島
浅間山
有珠山
クレカタウ
磐梯山
諏訪之瀬
桜島
駒ケ岳
口之永良部
アグン
タール
セントヘレンズ
ピナツボ

本州
伊豆諸島
本州
北海道
インドネシア
本州
南西諸島
九州
北海道
南西諸島
インドネシア
フィリピン
米国
フィリピン

1707
1763
1783
1853
1883
1888
1889
1914
1929
1933
1963
1965
1980
1991

5
4
4
4
6
4
4
4
4
4
5
4
5
6


過去300年間に日本列島で発生した大規模な噴火および最近の著名な噴火リスト,データソースはスミソニアン博物館噴火カタログです。VEI=6のピナツボ山の噴火は20世紀で最大のものです。阿蘇山,姶良,阿多,鬼界の噴火はピナツボの10倍から30倍ほどの規模をもっています。


エネルギー(J) 現象
4.2 X 106TNT火薬1kgの爆発
1.5 X 109雷の平均のエネルギー
2.0 X 1012地震(M5)
3.6 X 1012100万キロワット時 (kWh)
6.3 X 1013地震(M6)
8.4 X 1013広島型原子爆弾(TNT火薬20kton)
9.0 X 10131gの物質の総質量エネルギー
2.0 X 1015地震(M7)
6.3 X 1016地震(M8)
9.0 X 10161 kgの物質の総質量エネルギー
1.5 X 1017クラカトア噴火(1883年,推計)
2.5 X 1017隕石衝突(直径100m,20km/s)
8.0 X 1017浅間山噴火(1728年)
1.2 X 1018富士山宝永噴火(1707年,噴出物12億トン)
2.0 X 1018地震(M9)
3.8 X 1018火山噴火(玄武岩質マグマ1km3噴出)
4.0 X 1018日本の総発電量(2002年)
4.2 X 10181億 石油換算トン
6.1 X 1018桜島噴火(1914年,溶岩1.6km3)
1.0 X 1019ピナツボ噴火(1991年)
5.7 X 1019アイスランドラキ噴火(1783年)
1.0 X 1020姶良噴火(約22,000年前)
1.8 X 10201976年台風17号(800億トンの降水潜熱)
4.3 X 1020世界の消費エネルギー(2001年)
3.7 X 1021イエローストーン噴火(64万年前)
1.5 X 1022地球上に届く太陽放射(24時間)
2.5 X 1023隕石衝突(直径10km,20km/s)
1.2 X 10331年間に太陽から放出されるエネルギー
1.0 X 1044超新星から放出されるエネルギー

火山噴火,地震,隕石衝突などのエネルギーの大きさ比較。エネルギー的には火山噴火は地震よりずっと大きいことが分かります。ただし,噴火の場合は熱エネルギーが主体であるのに対して,地震は力学的エネルギーが主役ですので,エネルギーの大きさだけでは災害の大きさは論じられません。


爆発的噴火|火山の寿命

すべての火山は永久に火山活動を続けることはできません。地下深部のマグマの供給が止まると火山活動は停止し,マグマ溜まりのマグマもゆっくりと冷えて火成岩となります。火山のメカニズムは下記の3週類があり,それにより寿命は大きく異なります。
(1) 発散型のプレート境界(プレートが離れていところ)
(2) 収束型のプレート境界(プレートが衝突しているところ)
(3) ホットスポット

発散型のプレート境界における噴火活動は1億年を超える寿命をもっています。もっとも古い海洋プレートは西太平洋のもので約2億年とされています。その間,東太平洋中央海嶺は休みなくマグマを噴出してきたことになります。西太平洋では長期間にわたり海洋プレートが他のプレートの下に潜り込んでおり,その期間を含めると,東太平洋中央海嶺の寿命は2億年をはるかに超えることになります。

ホット・スポットはプルームからマグマの供給が続く限り火山活動は継続します。ハワイ諸島の例でみると,もっとも古い火山の痕跡はカムチャッカ半島付近の海溝にまで連なっており,少なくとも7000万年は活動が継続していることが分かります。

それに対して,プレートが衝突して海洋プレートがマントルに沈み込んでいる収束型のプレート境界にある火山の寿命はずっと短かく,寿命が長いとされている成層火山(複式火山)の場合でも数十万年とされています。しかし,火山の寿命を決定づけているメカニズムについてはよく分かっていません。

国内ではかって火山を「活火山」,「休火山」,「死火山」と分類していました。その定義は常に噴気活動があったり頻繁に噴火する火山を活火山,噴火記録はあるが現在は活動していない火山を休火山,有史以降の噴火記録のない火山を死火山としていました。

しかし,人間のタイムスパンである2000年ほどを基準に火山の分類を定義するのは,火山の寿命から考えるとずいぶん外れています。数千年の休止期間をおいて活動を再開する火山もありますので,死火山を定義することは無意味であることが一般的に認識されるようになり,活火山の定義も1991年に変更されました。

さらに,国際的には1万年以内に噴火した火山を活火山とするのことが主流となってきました。そのため,火山噴火予知連絡会は2003年に「概ね過去1万年以内に噴火した火山及び現在活発な噴気活動のある火山」を活火山と再定義しています。とはいうものの,火山学的に意味のある定義と,社会的影響度を考慮した活火山の定義は異なりますので「噴火警戒レベル」は別に設定されています。


爆発的噴火の構造

爆発的噴火は巨大な噴煙柱を形成し広い範囲にテフラを降下させます。しかし,いつもこのような噴火とは限らず,時には溶岩流を噴出する場合もありますし,火砕流のように噴出物が水平方向に広がる場合もあります。また,噴火爆発により火山の山体を崩壊させることもあります。

● 噴煙柱とテフラの降下

爆発的噴火は火山ガスの圧力により破砕されたマグマの破片を噴き上げます。噴き上げられた岩石片は重力の影響を受けますのでいかに初速が大きくても最大噴出高さは3000-4000m程度に留まります。しかし,火山ガスと噴出物の混合物は周囲の大気を巻き込みながら急速に暖め,強い上昇気流を生み出します。この上昇気流が噴出物の軽い成分を10km-40kmにまで持ち上げます。

地表から12-50kmのところを成層圏といいます。大規模な噴火による噴出物や火山ガスは成層圏にまで達しますので,地球全体の気候に大きな影響を与えることもあります。

噴煙柱の最上部は傘のように開き,風の影響を受けて広がり,テフラと呼ばれる火山性噴出物が降下していきます。テフラは火山れき,軽石,火山灰などの混合物であり,重い順に降下していき,火山灰のように軽い成分ははるか遠くまで運ばれてから降下します。テフラの降下範囲はおおよそ噴火の規模に比例します。

● 火砕流

爆発的噴火は縦方向の噴煙柱以外に,火山の斜面を流れ下る気体と固体粒子からなる空気よりもやや重い高温の密度流を生じることがあります。これを火砕流あるいは火山砕屑流といいます。

1991年の雲仙普賢岳噴火では火砕流とそれに伴う熱風(火災サージ)が発生し,安全と考えられる場所に集まっていた報道関係者や消防団の方々44名が亡くなる大参事となりました。

火砕流は高温の火山砕屑物と火山ガスが周辺の空気を巻き込んで流動化したものであり,一種の流体のようにふるまい,流れ下るスピードは時速100kmを超えることもあります。火砕流は高温の密度流であり,広い範囲を一気に覆うため,爆発的噴火ではもっとも人的被害を与える現象です。

西暦79年のヴェスヴィオ火山噴火によるテフラと火砕流は10kmほど離れたポンペイ市を6mの厚さで覆い,逃げ遅れた2000人の市民が犠牲となりました。18世紀に発掘が開始されると火山噴出物の層の下から,まるでタイムカプセルのように往時の町が姿を現し,現在は世界遺産に登録されています。

また,ガス成分が多い火砕流は比重が小さいため海面上を流走することもあります。7300年前の鬼界カルデラ噴火のとき発生した幸屋火砕流は海面を走り,50kmほど離れた九州の南部にまで達しており,南九州の縄文集落を壊滅させています。

● 山体崩壊

火山は噴火活動により形成されます。噴火による噴出物は火口の周辺に溶岩とテフラの混合層を形成し,円錐型に火山が成長していきます。複数回の噴火により複数の混合層が重なってできたものが富士山に代表される成層火山です。

しかし,同じような形状の山岳地形でも火山は(比較的軽い火山噴出物からできているため)非常に不安定です。外部からの風化作用,内部からの熱水作用が火山をさらに不安定にしていきます。

そのため,強い地震動や噴火が引き金となって火山体の一部が大規模に崩壊することがあります。これが「山体崩壊」です。崩壊した山体はふもとに向かって一気に雪崩のように落下していき,このような現象を「岩屑なだれ」といいます。

米国の北西隅にあるワシントン州はカスケード山脈により東西に分断されています。この山脈は火山列から構成されており,その中のセント・ヘレンズ山は1980年に大噴火(VEI=5)を起こしました。

噴火の予兆は観測されていたため近郊には避難命令が出されており,2000もの家屋が消失したにもかかわらず,人的被害は57人に留まりました。噴火により山体の一部は破壊され,大規模な山体崩壊が発生しました。セント・ヘレンズ山の標高は2950mから2550mになり,直径1.5kmもの蹄鉄型の火口が出現しました。

● 深層崩壊

山体崩壊ほど大規模ではありませんが火山性噴出物が堆積している地形では,厚さ100mもの地層が一気に滑り落ちる大規模な地滑り(深層崩壊)が発生することもあります。写真の事例はフィリピンのレイテ島最南端にあるセントバーナードの近くで発生した深層崩壊の現場です。

現場は急斜面の山が迫っており,地滑りは標高約800mの尾根付近を頂部として発生し,崩壊土砂は標高20mの集落まで約3.5kmの距離を滑り落ちました。崩落した土砂の総量は1500-2000万m3と見積もられており,1.2km四方の地域に少なくも10mの厚さで堆積しました。

崩壊した斜面は100-200mにおよぶV字形の深く切れ込んだ滑落崖が見らます。一帯の山は溶岩の岩盤の上に火砕流堆積物と火山灰が100mほど堆積していました。水が沁み込みづらい岩盤の上にもろい地層があると,その境界面付近に水が流れ易くなります。

このような構造の急勾配の斜面はちょっとしたきっかけがあると,地滑りが発生します。今回の場合は,10日ほど前から激しい雨が断続的に降り続き,斜面は不安定な状態にありました。それに加えて,地滑りの直前に20kmほど離れたところでM3.7の地震が発生していまする。

規模は小さいものの,この地震により不安定な地層は液状化し,秒速40m(時速144km)という土石流に近い速度で斜面は滑り落ち,一つの村を完全に埋めてしまいました。死者は139人,行方不明者は990人という大災害となりました。被害者のうち467人は子どもたちで,その多くは土砂に埋まった小学校で授業を受けていました。

● 火山泥流(ラハール)

火山泥流は大量の水を含んだ火山噴出物が山の斜面を一気に流れ下る現象です。火山泥流は一種の土石流であり,ときには時速100kmにも達しますので,しばしば大きな人的被害をもたらします。火山泥流には噴火で斜面を降下する砕屑物が周辺の水系・氷河・積雪を巻き込んで発生するものと,噴火によって噴出された砕屑物が一度堆積したあと降水のために流動する二次的なものとがあります。

噴火時に発生した火山泥流の例としては1926年(大正15年)の十勝岳噴火があります。爆発的噴火により火口丘の北半分が破壊され,岩屑なだれが発生しました。崩壊物質は斜面を滑り落ち,途中から大量の水が加わって火山泥流となり,美瑛川,富良野川を高速で流下しました。この火山泥流のため上富良野を中心に144人が犠牲となり,農地などにも大きな被害が出ました。

この火山泥流を題材にした小説に三浦綾子さんの「泥流地帯」,「続泥流地帯」があります。小説の舞台は上富良野の市街からさらに一里以上も奥に入った日進部落です。泥流により家も家族も押し流されながらも,農地の再生のため懸命に努力し,誠実に生きていく拓一・耕作兄弟の姿が描かれています。

噴火後に発生する火山泥流の事例としては1991年に大噴火したピナトゥボ山(ピナツボ山)があります。このときの噴火規模はVEI=6であり,20世紀最大の噴火でした。噴火は6月14日までに4回あり,大規模な火砕流や火砕サージが発生して山の斜面を数km流れ下っていました。この時期に台風が接近し,大量の雨をもたらしていました。

6月15日には最大規模の噴火が発生し噴煙柱は34kmにも達しました。大規模な火砕流が16kmの地点まで押し寄せ,同時に雨水を吸い込んだ火山灰により大規模な火山泥流(ラハール)が発生しました。噴出物の総量は約10km3であり,1980年のセント・ヘレンズ山の約10倍にあたります。

噴火による死者は300名以上となっていますが,その多くは水を吸ったテフラの重さにより屋根が崩壊したことによるものです。もし,適切な避難指示がなければ数万人の命が危険にさらされることになったので,噴火予知の大きな成功事例とされています。山麓を覆っている大量の火山灰は台風による豪雨の度に東西に流れ出し,二次的な火山泥流を引き起こし,多数の集落が埋まる被害も出ています。



爆発的噴火の模式図,画像は 「地球の科学 第7章 火山」から引用し,一部変更しました。爆発的噴火の特徴的な要素は噴煙柱,テフラの降下,火砕流,溶岩噴出などです。ときには山体の一部を吹き飛ばすことや,岩石なだれを引き起こすこともあります。




フィリピン,ルソン島南部にあるレガスピ市の港から見るマヨン山,美しい成層火山ですが活発な火山活動(この400年間に50回噴火)により人的被害をもたらしています。マヨン山から6km以内は「永久危険区域」となっており,本来なら居住は認められないことになっていますが,土地のない農民はそのようなところで村落を形成し耕作を行っています。




フィリピン・マヨン山,1984年噴火時の火砕流,画像はwikipediaより引用しました。1984年の噴火では人々が避難していたので人的被害はありませんでした。しかし,1814年の噴火では溶岩流が10kmほど離れたカグサワを襲い,1200人が亡くなっています。




西暦79年のヴェスヴィオ火山噴火を表す絵画,画像はwikipediaから引用しました。巨大な噴煙柱の後に火砕流が発生し,10kmほど離れたポンペイ市は厚さ5mの堆積物に埋まりました。




1982年のセント・ヘレンズ火山,画像はwikipediaから引用しました。1980年の噴火により山体の一部が崩壊した跡が分かります。




レイテ島セントバーナード近くの深層崩壊現場,V字形の谷に堆積していた100mもの火山性噴出物が長雨と小規模の地震動により一気に滑り落ち,麓の村を10mもの土砂で埋めてしまいました。




1926年(大正15年)の十勝岳噴火により引き起こされた火山泥流,画像は 「消防防災博物館」より引用しました。火山泥流は美瑛川,富良野川を高速で流下し,上富良野を中心に144人が犠牲となり,農地などにも大きな被害が出ました。


爆発的噴火|日本に残るカルデラ群

日本は火山列島であり,世界の火山の10%が集中しています。多くの場合,巨大噴火は巨大な火砕流を伴い,広い火砕流台地と大きなカルデラをつくります。そのような地形は北海道と九州に多く見られます。

噴火名称 発生時期 噴出物体積
(km3)
火砕流到達
(km)
カルデラ直径
(km)
屈斜路湖11万年前100+α 35楕円 20X26
支笏湖4万年前100 3513
洞爺湖10万年前150 5011
十和田湖1万年前50 5011
阿蘇9万年前600 14020
姶良2.5万年前400 9020
阿多11万年前320 楕円 24X14
鬼界7300年前170 100楕円 25X15


阿蘇噴火(W),姶良カルデラ噴火,鬼界カルデラ噴火などの巨大噴火では西風により日本列島全域に火山灰を降らせています。7300年前の鬼界カルデラ噴火で噴出されたテフラは170km3であり,VEI=7に相当します。九州の面積は4.2万km2ですので,仮にテフラが九州に一様に降下したとすれば,平均的なテフラ厚さは0.004km(4m)にもなります。

鬼界カルデラ噴火は世界的にみても過去1万年では最大級の巨大噴火ですが,ひとたびこのような噴火が起こると九州は壊滅的被害を受けると考えられます。左の表には日本列島で発生した巨大噴火が網羅されており,阿蘇(W)と姶良が最大級であることが分かります。

VEI=7あるいはVEI=6クラスの巨大噴火は世界的にも過去1万年間で(スミソニアンカタログに掲載されている範囲では)44回しか発生していません。日本列島における発生頻度は1万年に1回程度と考えられています。

しかし,日本の周辺でM9クラスの地震は起きないとされていたにもかかわらず東日本大震災は発生しました。巨大噴火も起きるときには起きると考えるべきでしょう。現在の日本の巨大都市は火山災害に対して非常に脆弱にできています。東京に10cmほどの降灰があれば都市機能は相当期間マヒすることでしょう。

東京23区の面積は約600km2ですので,平均して10cmの降灰とすれば火山灰の総量は6000万m3となります。火山灰は乾燥していると風や車により巻き上げられ粉じんとなり,健康に悪影響を与えます。水を吸うと塊りになり非常に扱いずらい物質となります。雨により流された火山灰は雨水管を詰まらせる可能性もありますし,処理施設の大きな負担となります。

家屋の中に侵入すると電子機器に修復不可能なダメージを与えることもありますし,ほこりのように雑巾などでぬぐうと,(鉱物の固い結晶ですので)家具などに擦り傷をつけます。屋内で掃除機を使用する場合も粉じんを巻き上げないように細心の注意が必要です。10cmほどの降灰でも都市機能を完全にマヒさせることができますので,巨大噴火が発生すれば想像を絶する被害となることは確かです。

私はまだ読んでいませんが,小説「死都日本(石黒耀)」はそのような巨大噴火(小説では破局噴火となっています)が九州で起きた場合,どのような現象が起き,社会がどう対応するかを精密にシミュレートした近未来小説です。小説とはいえ噴火に関しては最新の火山学的知識に基づいて詳細に記述されているそうです。

ネット上には『「死都日本」シンポジウム−破局噴火のリスクと日本社会−』と題したシンポジウムが開催され,作者を始め多くの火山学者が講演をしています。日本ではそれぞれの自治体が自然災害に対するハザード・マップを作成しており,それに基づいて防災計画を立案しています。

しかし,日本人はあまりにも巨大な災害に対しては思考を停止させる傾向があります。そのような事象は起こらないのだから,その先は考えなくてもよいということです。福島第一原子力発電所の事故で計らずしも露呈したように,日本の場合は国家レベルでも危機管理の仕組みが機能的に整備されているとはとても言えない状況です。

シンポジウムの中では「確かに巨大噴火はきわめて稀な出来事である。しかし,稀だからといって無視しておいてよいというものでもない。こうした破局的噴火災害による被害の見積もりやそれに対する対応策は,国家的レベルで考えておく必要があるし,またそうすることが火山国日本の行政や政治の責務でもあるだろう」という発言も掲載されています。


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ピナツボ山周辺の地形図,中央にカルデラ湖が見えます。山麓を覆っている大量の火山灰は台風による豪雨の度に東西に流れ出し,二次的な火山泥流を引き起こし,多数の集落が埋まる被害を出しました。




日本における巨大噴火の痕跡,画像は 「竜ヶ崎市役所|防災情報」より引用しました。図中の黄色のエリアは噴火による火砕流の到達範囲を表しています。また,等層厚線の一部が記載されており,7万年前の阿蘇噴火(W)により北海道でも15cmの降灰がありました。


爆発的噴火|火山の恩恵

火山噴火はときには大災害を引き起こしますが下記のように大きな恩恵も与えてくれます。
(1) 肥沃な火山性土壌
(2) 金属鉱床
(3) 独特の風景
(4) 温泉
(5) 地熱エネルギー

世界的にみると農耕地に必要な土壌は岩石が風化した物質と植物の残差による有機物が混合したものです。岩石が風化する過程において植物に必要なリンやミネラルは少しずつ失われていきます。それを補給してくれるのが火山性噴出物です。

都合のよいこことにテフラはすでに破砕された岩石であり,水はけもよいののですぐに肥沃な土壌となります。デカン高原に見られるように玄武岩質の溶岩も風化により肥沃な黒色綿花土(レグール)となります。

インドネシアには大きな島があるにもかかわらず,ジャワ島やバリ島に人口が集中しています。これは,それらの島が火山島であり,肥沃な火山性土壌に恵まれているため,農業の生産性がとても高かったことに起因しています。噴火は植物にとっては必須ですが地球表面には不足しがちな元素を地球内部から運び届けてくれているのです。

火山活動と金属鉱床も密接に結びついています。地殻にはある割合で金属元素が含まれていますが,平均的な組成では含有割合が低すぎるので資源としては利用できません。ところが高温のマグマがゆっくり冷えるとき,凝固温度や比重の異なる各種鉱物がマグマ中で順次晶出・分離するため,鉱物の濃集が行われます。このような仕組みでできたものが火成鉱床です。

高温のマグマから離溶した高温の水,あるいは高温のマグマにより熱せられた地下水がマグマや周囲の岩石の成分を溶かし込み,特定のところで晶出させることにより鉱物の濃集が行われます。このような仕組みでできたものが熱水鉱床です。

海洋底の中央海嶺における熱水活動(ブラックスモーク)も効率よく鉱物を濃集します。鉄やアルミニウムのように地殻あるいは海水中に(相対的に)たくさん含まれている金属以外の鉱床の多くはマグマの熱エネルギーや結晶化作用により生み出されたものです。

最近,姶良カルデラのレアメタル鉱床が話題になっています。現在は鹿児島湾となっている姶良カルデラの水深200mの海底には「アンチモン」の大鉱床があることが分かりました。その埋蔵量は国内の年間使用量の180年分と推定されています。

ただし,アンチモンはヒ素と同様に強い毒性をもっており,採掘の際に海洋汚染が生じる恐れがあるため実際に採掘するには新たな技術の開発が必要です。鉱床は厚さ5m,直径1.5kmの範囲に広がっています。そこは2.5万年前の火口にあたるところです。

このアンチモンは熱水に含まれていたもので,酸性の環境下では結晶化する性質をもっています。海水の動きが少ないため周辺海底は世界でも珍しい酸性の海となっており,それが鉱床を生み出しました。

火山はそれぞれ独特の景観をもちますので地域のシンボル的存在となります。太古の昔から日本人は山を信仰の対象としてきました。それは,火山独特の景観と時おり見せる激しい噴火活動によるものでしょう。九州に阿蘇山や高千穂峡がなかったら,駿河湾から見る富士山がなかったら地域の景観はまったく異なったものになることでしょう。

温泉は日本人にとってはかけがえのないものです。温泉ホテルの大浴場でも,鄙びた温泉宿の浴場でも日本人は温泉をこころから楽しむことができます。日本人にとって温泉とは心身ともにリラックスできるところなのです。多くの人は温泉に浸かるとき「日本人に生まれて良かった」と思うことでしょう。この温泉も火山活動の贈り物なのです。

火山は地中深くに巨大な熱エネルギーを蓄積しています。このエネルギーを取り出すことができれば二酸化炭素排出量の少ない自然エネルギーとなります。火山の周辺にはマグマにより熱せられた地下水が大量に存在します。そのようなところを探し当ててボーリング(1-3km程度)することにより,高圧の水蒸気あるいは熱水を取り出すことができます。

熱水の場合は減圧することにより沸騰させる方法もあります。このような地中から取り出された水蒸気によりタービンを回し発電する仕組みが「地熱発電」です。地熱発電は火山活動による一定のリスクはあるものの,風力発電や太陽光発電に比べて安定的な発電が可能であり,かつ単位面積当たりの発電量も大きいという特徴をもっています。



冠雪した富士山は日本のシンボル的存在です。火山活動なしにはこのような景観は生まれなかったのです。画像は 「シャッターサロン」より引用しました。自分で撮った富士山の画像が無いことに気が付き,ちょっとショックでした。




鹿児島湾の水深200mで見つかった熱水噴出孔。約200℃の熱水が噴き出し,そのまわりにアンチモンを含む鉱物が結晶化しています。画像は「海洋研究開発機構|岡山大学」から提供されています。熱水噴出孔の周辺に金属鉱床が形成されるのはよく知られていますが,鹿児島湾の場合は酸性の海という特異な条件がアンチモン鉱床を産み出しました。




地熱発電の仕組み,画像は 「JOGMEC 地熱資源」より引用しました。地熱発電は地下に掘削した抗井から噴出する蒸気を使用してタービンを回し発電する仕組みです。通常の火力発電と異なるところは,地下から水蒸気を取り出す井戸および蒸気と分離した熱水を地下に戻すための井戸をもつことです。使用済みの蒸気は復水器で水(温水)に戻されますので,これは温泉の源泉として利用できるのではなどと考えてしまいます。


超巨大噴火

このページではVEI=8のものを「超巨大噴火」と定義しています。噴火による噴出物が1000km3を超えるものがVEI=8であり,このような巨大な噴火が発生したと確認されているのは下記の4地域だけです。
(1) イエローストーン(米国)
(2) ロングバレー(米国)
(3) トバ湖(インドネシア・スマトラ島)
(4) タウボ(ニュージーランド北島)

イエローストーンは60万年前,トバ湖は7.4万年前に超巨大噴火を引き起こしたことは確認されていますが,ロングアイランドとタウボの場合は時期が確定していません。イエローストーンは数十万年間隔で繰り返し巨大噴火を引き起こしていることはある程度確かなことのようです。超巨大噴火については人類はさほどの知識は持ち合わせていないということなのです。

超巨大噴火の起きる確率は数十万年に1回程度と見積もられており,人類はこの先,そのような破局的な噴火に遭遇することは無いかもしれません。VEI=8の超巨大噴火ともなればその影響は一つの大陸にととまらず,地球規模の大災害と気候変動を引き起こします。

人類が遭遇した唯一の超巨大噴火は7.4万年前のトバ湖噴火です。噴出物量は2800km3,これは9万年前の阿蘇巨大噴火の約4.5倍に相当します。この噴火によるカルデラは世界最大であり,楕円形の大きさは100kmX30kmにもなります。トバ湖は面積1103km2の世界最大のカルデラ湖ですが,それでもカルデラの半分程度に過ぎません。

仮にこのクラスの巨大噴火が起きるとすると周辺地域は巨大な火砕流と降灰により壊滅します。成層圏まで噴き上げられた粒子状物質や火山ガスの影響で世界の気候は激変し,人類文明は危機にさらされることになるでしょう。実際,トバ湖の噴火により地球の平均気温は5度低下したという研究報告もあります。

NHKで放送された「スーパーボルケーノ・超巨大噴火」では,イエローストーンで超巨大噴火が起きたらどうなるかというテーマを扱ったドラマとなっています。番組でははっきり述べられていませんでしたが,おそらく巨大な火砕流と降灰により米国は壊滅することでしょう。このレベルになると人類の危機管理はまったく役に立ちません。

イギリスの科学者によるシミュレーションでは3-4日後にはヨーロッパ大陸でも大量の降灰が見られ,米国の75%の土地の環境が変わり,火山から半径1,000km以内に住む90%の人が火山灰で窒息死し,地球の年平均気温は6-10年にわたり10℃ほど低下するとされています。超巨大噴火はまさしく「火山の冬」を引き起こすのです。

また,成層圏にまで噴き上げられた火山ガスの成分がオゾン層を破壊することも懸念されます。1991年に起きたピナツボ山噴火は20世紀最大級のものであり,それによってオゾン層が3-8%減少したという報告もあります。超巨大噴火はピナツボ噴火の100倍の規模なのです。

マグマとテフラの比重から,1200km3のテフラ噴出物をマグマに換算するとおよそ400km3と推計できます。これほど大量のマグマが短時間で噴出するメカニズムはまだよく分かっていません。

「スーパーボルケーノ・超巨大噴火」ではイエローストーンの地下には巨大なマグマ溜まりがあり,あるサイズの噴火が引き金となり,円周上に配列された複数の火口が開いていくというメカニズムが紹介されています。

つまり,地下の巨大なマグマ溜まりから地表に向かって環状の割目ができ,そこからマグマが大量に噴出するというメカニズムです。ある程度,マグマが噴出するとマグマ溜まりに空洞が生じるため,火口列内側の岩盤の重さに耐えられなくなり,岩盤が沈み込みます。

この岩盤の崩落がマグマ溜まりのマグマを押し出すことになり超巨大,時速400kmという火砕流につながります。このような超巨大噴火のシナリオは研究途上のものであり,一つの可能性ということになります。

最新の研究ではこの超巨大噴火のメカニズムは9万年前の阿蘇山や6350年前の鬼界カルデラが該当するVEI=7の「巨大噴火」,およびVEI=6の「巨大噴火」にも当てはまるようです。

巨大噴火,超巨大噴火はカルデラと呼ばれる独特の地形を形成しますので「カルデラ噴火」とも呼ばれています。一つの火口から大きな噴火が続き,地下の主要なマグマだまりの1割程度のマグマが噴出すると,上部の岩盤を支え切れなくなり岩盤全体が崩落します。

この岩盤の圧力により,地下のマグマだまりのマグマが押し出され,岩盤の周辺の割れ目から噴出します。陥没した岩盤の周囲に複数の火口が一斉に開き,そこからマグマが噴出しますので「カルデラ噴火(破局的噴火)」と呼ばれます。

つまり,一つの火口からではなく複数の火口から同時にマグマが噴出するため,規模が単独火口の噴火に比べて桁違いの大きさになります。

このようなカルデラ噴火においては噴出するマグマの量があまりにも多いため,大半の噴出物は巨大な火砕流となって周辺に流れ下ります。マグマ噴火の火砕流は厚さ数十mにもなる火山噴出物からなる台地を形成します。九州南部に見られるシラス台地は複数のカルデラ噴火により形成されたもので,鹿児島県本土の52%,宮崎県の16%の面積を占めています。

阿蘇山でVEI=7クラスのカルデラ噴火が発生した場合,800度ほどの噴出物(火山灰や軽石)からなる火砕流の先端は山口県にまで達し,(火砕流の方向にもよりますが)阿蘇山から半径数十kmの範囲は焼き尽くされることになります。さらに広範囲の地域にも大量の火山性降下物(火山灰)が降り積もり,都市機能はマヒします。

すべての原子力発電所が停止した状態から2015年に川内原発(鹿児島県東部)が新しい安全基準に適合して再稼働する前後に,破局的噴火への対応が話題となりましたが,実際に破局的噴火が発生した場合は地域全体が火砕流の被害に遭い,火山噴出物や火山性降下物に埋もれますので原発施設の維持・管理そのものが不可能になります。

人類はカルデラ噴火にはまったく無力ですので発生しないことを祈るしかありません。それでも地質時代の統計から推定すると日本では60000年に1回程度の確率でVEI=6/7クラスのカルデラ噴火が発生します。

イエローストーンの場合,一帯は総面積8980km2(鹿児島県より少し小さい)のイエローストーン国立公園となっています。この公園全域がカルデラに相当します。

ここは世界最古の国立公園であり,様々な間欠泉,温泉など地熱が造り出す特異な景観が広がっており,さらに森林と草原には灰色熊,オオカミ,コヨーテ,アメリカバイソン,ワピチ,地リスなど多様で豊かな生態系があり,地球上でも数少ない貴重な自然が残されています。

このような景観と自然を守るため,1872年に世界で最初の国立公園として指定され,1978年には世界遺産に登録されています。生態系をまるごと保全するために国立公園化するという考え方は,その後の世界の国立公園制定に大きな影響を与えました。

国立公園制定の最大の目的は生物多様性の保全でしょう。生物多様性の分野では世界的な生物多様性重要地域を「ホットスポット」と呼ぶことがあります。開発によりそのようなホットスポットが破壊されるとそこでしか生息していない生物種(固有種)は絶滅の危機に瀕することになります。

コンサベーション・インターナショナルは世界中で34のホットスポットを選定し,保全活動を重点的に実施しています。この34地域は地球上の陸地面積のわずか2.3%に過ぎませんが,そこには世界の50%の維管束植物種と42%の陸上脊椎動物種が生存しています。

このような地域が国立公園化されて,生態系が保全されることを願ってやみません。地球は人類のためだけに存在しているわけではありません。急速に狭められている彼らの生存空間を守るのは人類の責務です。

さて,イエローストーンは面積8980km2の広大な国立公園ですが,その地下には公園面積に匹敵する超巨大なマグマ溜まりが存在することが確認されています。ここでは,220万年前,130万年前,64万年前に超巨大噴火が起きています。

この記事を書いた時点の推定ではマグマ溜まりに蓄積されているマグマは9000km3と見積もられていましたが,現在では地震波トモグラフィーによる観測データが積み上がり,地下5-15kmのところに約1万km3,さらに地下20-45kmのところに4.6万km3にもなる巨大なマグマ溜まりがあると算定されています。

テフラ噴出量1200km3の超巨大噴火でも,マグマに換算した噴出量は400km3に過ぎません。すでに前回の超巨大噴火から64万年が経過しており,公園内ではいくつかの危険な兆候が観察されています。


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イエローストーン周辺の地形図,画像の1辺は約150kmです。古いカルデラですのでその輪郭ははっきりとは分かりません。イエローストーンはホットスポット型の火山であり,数十万年ごとに巨大噴火を繰り返しています。



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トバ湖周辺の地形図,7.4万年前の超巨大噴火でできたカルデラの一部が湖になっています。画像の1辺はおよそ100kmです。約74,000年前のトバ噴火は噴出量が2800km3,これは9万年前の阿蘇巨大噴火の約4.5倍に相当するします。この噴火によるカルデラは世界最大であり,楕円形の大きさは100kmX30kmにもなります。面積1103km2のトバ湖はカルデラの半分程度に過ぎません。

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