Home徒然なるままに

宗教と自然科学の関係

人類が地球や宇宙について科学的な知識を積み上げ理解する以前,人々の世界観や宇宙観の多くは宗教や神話に基づいていました。特に世界宗教と呼ばれるキリスト教,イスラム教,仏教,それにインド固有のヒンドゥー教は旧世界の人々の世界観を規定していました。

その中でキリスト教はヨーロッパ社会において絶大なる影響力をもち,科学的な知見と鋭く対立してきた歴史があります。キリスト教以前のヘレニズム世界のギリシャ,エジプトでは自然科学が発展し,地球と太陽,月との関係もかなり正確に把握していたようです。

彼らは地球は球体であり,地上のすべてのものは地球の中心に向かって引き寄せられるという考え方をもっていました。それは,地球は宇宙の中心であるという当時の世界観と一致するものでした。

この時代に活躍したエラトステネス(BC275年-BC194年)は地球の大きさ算出しています。結果的は誤差が2%でした。この結果はおそらく偶然でしょうが,科学的な方法を使用し,それなりの正確さをもった世界で初めての算定であったと考えられています。

エラトステネス以外にも数学者アルキメデス,幾何学のエウクレイデス,天動説の大家プトレマイオスなどヘレニズム世界を代表する学者がアレキサンドリアの図書館とムーセイオン(学術院)で学問の自由を謳歌していました。

当時のアレクサンドリアは時代に先駆けた「学問のコスモポリス」でした。この自由な学究の都に暗い影を落としたのはキリスト教の普及でした。1世紀に始まったキリスト教はローマ帝国内に広まり,為政者の厳しい弾圧を受けました。しかし,多くの殉教者を出しながらもキリスト教の広がりは止まらず313年に公認され,380年には帝国の国教となりました。

しかし,その時代のキリスト教徒は異教と異端(アリウス派)に対しては容赦の無い迫害を行うようになりました。テオドシウス1世(在位379-395年)の時代に,エジプトでも非キリスト教の宗教施設,神殿を破壊する許可を与えられ,キリスト教の暴徒はアレキサンドリア図書館や記念碑,神殿を破壊しました。

415年にアレキサンドリアで虐殺された著名な女性哲学者ヒュパティアは「考えるあなたの権利を保有してください。まったく考えないことよりは誤ったことでも考える方が良いのです」,「真実として迷信を教えることはとても恐ろしいことです」という言葉を残しています。

時代に先駆けた「学問のコスモポリス」は破壊され,その後のヨーロッパはキリスト教により抑圧された時代を迎えます。自由あるいは科学的に思考することが神への冒涜とされる時代が始まったのです。

キリスト教では神が6日間でこの世界を造ったと記されています。そこには宇宙という概念はなく,地球は世界の中心に位置しており,太陽,月,星々をちりばめた天空は天蓋のように地球に付属しているものと考えられていました。また,世界は創造時のままであり,生物の進化や大陸の移動など自然が変化することなどはありえないことでした。

そのため,地動説(地球が太陽の周りを回っている,1543年)は聖書の記述と異なるものとして異端の烙印が押されることになります。また,進化論(生物は少しずつ変化していき環境に適応したものが生きのびていく,1859年)は神が人を特別なものとして(神に似せて)創造したという聖書の記述に反するという批判を受けます。

米国では20世紀に入ってからも進化論に対する攻撃が続いています。米国の保守的なプロテスタントは聖書の記述を絶対対的なものとしてしており(キリスト教原理主義),進化論は神の創造に対する挑戦であるととらえています。

彼らは公立学校の授業で進化論が入ってきて,自分の子どもたちに進化論が教えられるのは不当であるとして,公立学校教育の場で進化論を教えることを禁止する法律を複数の州で成立させました。実際,そのような州の公立学校において進化論を取り上げた教師が裁判にかけられるという笑い話のような事件(スコープス裁判,1925年)も発生しています。

進化論教育を禁止した州法が廃止されるのは1967年であり,1968年には『聖書に一致しないという理由で進化論を教授することを禁止することは,特定の理論を抹消しようとする試みであり,合衆国憲法修正第1条(表現の自由や信教の自由などをあつかっている)に違反するとする』という連邦最高裁判所の判断が示されました。

それでも,2004年の調査では55%の米国人は神が人を創造したと考えているという結果がでており,教育委員会や一部の親からの抗議などが無言の圧力になっているため,生物の授業で進化論に言及したがらない教師が存在するとされています(wikipedia)。

進化論に関してはイスラム教の方がキリスト教より深刻です。イスラム教はキリスト教と兄弟の関係にあり,旧約聖書は啓典の一つです。イスラム教徒にとってはクルアーン(コーラン)に記されている内容は創造主であり全知全能のアラーの言葉であり,すべて正しいこととされています。

そのため,イスラム世界では進化論はアラーの言葉に反するものとして扱われます。もちろん,公立学校で進化論が教えられることはないようです。ヨーロッパのようにムスリムがキリスト教国に居住している場合は,20世紀前半の米国のように大きな社会問題になっています。

彼らの子弟に進化論を教育することはできませんし,他にも多くの宗教的な制約がありますので,ムスリム児童はイスラム系学校で独自教育を受けているようです。異なる宗教,異なる民族が共存していくのは言葉で表すよりずっと大変なことのようです。

ヒンドゥー教の元となったヴェーダ神話はインド・アーリア人が持ち込んだものであり,ヨーロッパの古い自然崇拝が基本になっています。ヴェーダ神話には一貫した世界観をもたず,創造神話もごく一部にしか見られません。そのため,ヒンドゥー教においても,自然科学と対立する要素は少ないようです。

ブッダが始めた初期の仏教にはそもそも神や霊,あの世などの概念はありませんでした。それは,考えつかなかったというわけではありません。そのような超常的な力に頼らず,正しい修行をすることにより,苦しみや悲しみ,煩悩から救われることができるというものでした。この時期の仏教は哲学に近いものであり,科学と対立する要素はまったくありませんでした。

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エラトステネスが地球の周囲長を測定したときの原理図,エラトステネスは地球の周囲の長さを求めるためにシエネとアレキサンドリアの2点を選びました。彼は(シエネは北回帰線上にあるため)夏至の正午になるとシエネの深い井戸の底まで光が差し込むので太陽が真上にあることを理解していました。

同じ夏至の日の正午にアレクサンドリアで垂直に立てた棒の影により太陽光との角度を測定しました。太陽光は非常に遠くにあるため地上では平行な光線とされました。測定結果は7.2度でした。エラトステネスはシエネからアレクサンドリアまでの距離を測定し5000スタディオンであることが分かりました。あとは簡単ですね。結果として彼は39,250kmという値を算定しています。誤差はわずかに2%でした。


旧約聖書 創世記 第1章 より抜粋

初めに,神は天地を創造された。地は混沌であって,闇が深淵の面にあり,神の霊が水の面を動いていた。神は光と闇を分け,光を昼と呼び,闇を夜と呼ばれた。第一の日である。

神は大空を造り,大空の下と大空の上に水を分けさせられた。神は大空を天と呼ばれた。第二の日である。

神は海と陸を分けさせられた。神は種を持つ草と,それぞれの種を持つ実をつける果樹を,地に芽生えさせた。第三の日である。

神は二つの大きな光る物と星を造り,大きな方に昼を治めさせ,小さな方に夜を治めさせられた。第四の日である。

神は水の中に群がる生物と天の大空と飛ぶ生物を創造された。神はそれらのものを祝福して言われた。「産めよ,増えよ,海の水に満ちよ。鳥は地の上に増えよ」。第五の日である。

神は地に家畜,這うもの,地の獣をそれぞれに創造された。神は御自分にかたどって人間の男と女を創造された。神は彼らを祝福して言われた。「産めよ,増えよ,地に満ちて地を従わせよ。海の魚,空の鳥,地の上を這う生き物をすべて支配せよ」。第六の日である。




雌牛(Al-Baqarah)の章より

28. あなたがたはどうしてアッラーを拒否出来ようか。かれこそは生命のないあなたがたに,生命を授けられた御方。それからあなたがたを死なせ,更に甦らせ,更にまたかれの御許に帰らせられる御方。

29. かれこそは,あなたがたのために,地上の凡てのものを創られた方であり,更に天の創造に向かい, 7つの天を完成された御方。またかれは凡てのことを熟知される。


地球は休み無く変化しています

地球は半径6400km,表面積5億km2の巨大な球体です。表面の3分の2は海洋で覆われており,7つの大陸が島のように浮かんでいます。この風景は地球が神の手で形成されてからまったく変わっていないと長い間信じられてきました。

実際には地球の表情は誕生から46億年の歴史を通してダイナミックに変化してきました。しかし,それは人間の尺度で考えると極めてゆっくりした動きなのです。

誕生当時に解放された重力エネルギー,微惑星の衝突によるぼう大な熱に加え,地殻やマントル中の放射性同位元素の発生する熱が地球の内部に蓄えられ,その熱が垂直方向の(地球深部と表層間の)巨大な対流(物質の移動)を生み出しているのです。

対流には核とマントル間の物質の移動によるものと,マントル内の対流によるものがあります。この対流により地球の表面も大きく変化してきました。誕生当時のマグマ・オーシャンのような状態から,時間とともに地球の内部も冷えてくるので対流の様子も大きく変化してきました。地球の歴史は内部の熱を放出する歴史でもあったわけです。

大陸が移動するという考え方が初めて出されたとき(大陸と海洋の起源,ウェゲナー著作,1915年),人々は宗教の呪縛からは解き放たれていたにもかかわらず,荒唐無稽な考え方としてまったく受け入れられませんでした。そこには,大地は不動なものであるという根強い先入観が働いていました。



現在の地球の表情,地球は半径6400km,表面積5億km2の巨大な球体です。表面の3分の2は海洋で覆われており,7つの大陸が島のように浮かんでいます。この風景は地球が神の手で形成されてからまったく変わっていないと長い間信じられてきました。


地球の垂直構造

現在の地球の垂直構造をおさらいしておきましょう。地球の周りには厚さ12kmの大気圏がとりまき,その上層は厚さ40kmの成層圏となります。高さ20kmほどのところにオゾン層があり,ここで生物にとって有害な波長の短い紫外線が吸収されます。

地球表層にある大陸は平均して厚さ30kmの大陸地殻からできています。海洋部は厚さ10kmの海洋地殻からできており,その上に平均深さ3.7kmの海があります。どちらも地球の半径6400kmに比べるとほんとうに薄皮のようなものです。

地殻の下には岩石からできたマントルと主として鉄でできたという構造を持っています。マントルはその組成から上部マントルと下部マントルに分かれます。核はおよそ6000度の高温で液体の外核と固体の内核に分かれます。

低温の海洋プレートが高温のマントルに沈み込んでいくことにより,地球内部の熱い物質が表面近くに上がってきます。この対流が地球表面の景観や地学的変動にも大きな影響を与えます。そのような仕組みを説明するための理論がプレート・テクトニクスおよびプルーム・テクトニクスと呼ばれています。

地球が誕生してから46億年という時間が経過していますので,誕生時にいかに大きな熱量をため込んでも,時間の経過とともに冷めてしまうのはと考えられます。ところが地球の大きさが熱伝導による熱流量を非常に小さくしています。

熱伝導により地球の表面に伝達される熱量はおよそ0.07w/m2です。この値は大陸地殻表面でも海洋地殻表面でもそれほど差はないとされています。もちろん,例えば中央海嶺のような特異点では熱流量は大きくなります。最新の観測では熱流量の約半分は地球が約46億年前に誕生した当時の熱であることが分かりました。

また,地球内部と表層間の物質循環と一緒に排出される熱量もありますが,こちらはデータ化されていないようです。さきほどの0.07w/m2の値を使用して,地球内部から表面に伝達される(最終的には宇宙空間に放出される)熱量は350億kwということになります。

それに対して地球軌道における太陽の輻射量は単位面積当たり1370 w/m2もあります。この数値に地球の断面積をかけると180兆kwになります。この熱量が地球の受け取る太陽輻射ということになります。

大きな原子力発電の設備1基あたりの発電量は100万kwですので,地球の受け取る熱量は原子力発電設備の1.8億基分ということになります。実際には地球の表面で光の一部は反射されますので,実効的に地球が受け取る熱量は180兆kwの70%くらいです。


地殻の下には岩石からできたマントルと主として鉄でできた核という構造を持っています。マントルはその組成から上部マントルと下部マントルに分かれます。核はおよそ6000度の高温で液体の外核と固体の内核に分かれます。

項目 記号・算定式 数値
極半径 r 6357 km
断面積 πr2 1.28億 km2
表面積 4πr2 5.1億 km2
地球位置の太陽輻射量 Wsun 1370 w/m2
地球の受ける太陽輻射量 Wsun*断面積 180兆 kw
表面積あたり太陽輻射量 Wsun/4 343 w/m2
地球のアルベド A 0.3
地球からの放射熱量 Wsun*(1-A)/4 250 w/m2
地殻熱流量 Wearth 0.07w/m2
地球の理論的表面温度 Tt -18℃
実際の地球平均表面温度 Ta +15℃

地球の熱収支に占める地殻熱流量の割合を計算してみました。地球の軌道における太陽からの輻射量は「Wsun X 地球の断面積」で算定できます。地球のアルベド(反射能)は0.3ですので70%の光が地球を暖めることになります。これと同じ熱量が波長の長い赤外線の形で宇宙に放出されます。地球の表面積は断面積の4倍ですので単位面積当たりの放射量は「Wsun X (1-A)÷4」ということになり,250w/m2となります。この値は地殻熱流量(0.07w/m2)の3600倍もあり,地殻熱流量は地球の熱収支にはほとんど影響していません。


大陸は移動する(ウェゲナーの仮説)

1910年のある日,世界地図を眺めていたドイツの科学者ウエゲナー(1880-1930年)は大西洋をはさんだ両大陸の海岸線がジグソーパズルのようにピタリと符合するのに気づきました。そのときに大陸が移動するのではないかという着想が生まれました。

彼は生物の化石等の証拠を集め,1915年に「大陸と海洋の起源」という著書を出版し,その中で地質時代にすべての大陸は一つにまとまっており(超大陸パンゲア),それが分裂して現在の大陸と海洋の配置ができたという学説を発表しました。

彼が移動の根拠としたものとしては,ある種の生物あるいは化石が大洋を隔てて広範囲に分布している,大洋を隔てた大陸の古代の地層や地質的特徴が類似している,極点から遠く離れた地域に氷河の痕跡が残っている,高緯度地域でも石炭の産出されるところがあることなどをあげています。

この考え方は当時の人たちの賛成を得られませんでした。大陸が移動するなどということは当時の人々にとっては荒唐無稽のことでしたし,何が大陸を動かすほどの巨大な力を生み出すのか説明できなかったことも影響しました。彼が亡くなるとこの先駆的な考え方は忘れ去られてしまいました。

彼が亡くなって30年ほどが経過してからようやく大陸移動の原動力はマントル対流であるという仮説が出され,さらに岩石に残された過去の地磁気の調査によって「大陸が移動した」ことが明らかになりました。移動の理論と直接的な証拠が出そろったことにより,大陸移動説は再評価されることになりました。

しかし,日本の高校の教科書に大陸移動やプレート・テクトニクスが記述されるようになったのは1970年代のことです。私は1960年代に高校教育を受けましたが,地学が扱うのは岩石の分類といった古典的なものばかりで,造山運動,アイソスタシーが顔を出したくらいのものでした。この時期にプレート・テクトニクスが出ていれば,地学に退屈することはなかったのではと思っています。





過去2.5億年の地球の表情,画像は「The dynamic earth,USGS」より引用しました。2.5億年前に巨大大陸パンゲアの分裂が始まりました。現在はアジア大陸の下にスーパー・コールド・プルームがあり,すべての大陸はアジア大陸に向かって引き寄せられています。


海洋底拡大説と古地磁気学の成果

1950/60年代になると,海洋底の調査および岩石に残されている古地磁気の研究などにより,海洋底の拡大と大陸移動が確認されました。きっかけは大西洋を横断する海底ケーブルの敷設でした。敷設時およびその後の断線事故防止のために海底の起伏が調査されました。

その結果,(調査はごく部分的なものでしたが)海底地形はそれまで考えられていたような平坦なものではなく,中央部に海嶺構造をもつことが分かりました。ケーブルの断線事故はよくこの地域で起きていました。

その後,調査が進むと中央海嶺は大西洋を南北に縦断して伸びている巨大海底山脈であることも分かってきました。また,大西洋の両側には存在しませんが,太平洋の両側には(一部北米大陸に潜り込んでいるところもありますが)海溝という特異的に深い場所があることが分かってきました。

このような海洋底の構造から,1962年にHessは「海洋底拡大説」を発表し,海洋底は中央海嶺,海洋底,海溝の3つに区分され,それぞれ異なる地殻運動が行われていることを明らかにしました。

中央海嶺の特徴は隆起地形,地殻熱流量が大きいこと,浅発地震の発生です。このことからから中央海嶺では地球内部の高温物質が湧き上がっているところと考えられます。湧き上がてきた物質は水平方向に移動しており,そのため両側に引っ張る力が働いてリフトバレー(海嶺の中央部が陥没している地形)が形成されました。

海洋底では海洋地殻が冷却されながらマントル対流により水平に移動していると考えられています。したがって,中央海嶺から離れるにつれて海底は古くなり,海底堆積物は厚くなっていきます。

海溝付近は幅の狭い深海,周縁隆起帯という特異な地形をもっており,さらに巨大地震が頻発するところです。このことから,海溝では海洋地殻が大陸地殻に衝突し,その下に沈み込んでいくところと考えられます。海溝の特異な地形は海洋地殻の沈み込みより形成されました。

Hessが発表した「海洋底拡大説」は50年前の「大陸移動説」に比べるとはるかにすんなりと受け入れられました。Hessは論文の中で海洋底の移動速度が1cm/年程度であることや,海洋底は3-4億年で更新されることなど洞察力に満ちた見解を述べています。

海洋底は中央海嶺で生まれ,水平方向に移動していくという「海洋底拡大説」は2つの観測事実から証明されました。一つは古地磁気学によるものであり,もう一つは海洋地殻の岩石を採取して生成年代を測定するものです。

すでに,1960年以前に古地磁気の研究は進んでいました。鉄やニッケルなどの金属は磁場に置かれると,磁場と同じ方向に,磁場の強さに比例した強さで磁化されるという性質(残留磁気)をもっています。

残留磁気は磁性体がある温度(キュリー温度,鉄の場合は1043℃,酸化鉄のマグネタイトでは575℃)以上になると失われ,キュリー温度より少し低い温度では強く磁化される(熱残留磁化)という性質をもっています。

マグマの中には強磁性体物質が含まれており,固化するときにはキュリー温度を通過しますので,そのときの地磁気の状態を記憶することになります。古い時代の火成岩の生成時期と残留磁気を調べることにより,その時期の地球磁極の位置と強さを知ることができます。これを研究するのが古地磁気学です。

古地磁気の研究から,地球の磁極は時間とともに場所を移動したり,強さが変化したり,反転したりすることが分かりました。現在は北極付近にS極がありますが,過去にはその近くにN極があったこともあるということです。

この磁極の反転は100万年あたり1.5回程度の頻度で発生しています。反転のプロセスは地磁気が急速に弱くなり,消滅した後に反対方向の地磁気が強くなるとされています。もっとも新しい地磁気の反転は約70万年前に発生しています。現在は地磁気が急速に弱くなってきていますので,反転の時期に入っているのかもしれません。

中央海嶺では新しい海洋地殻が生まれますが,マグマが固化するときにはキュリー温度を通過します。そのため海洋地殻にはそのときの地磁気の方向と強さを記憶する熱残留磁気が残ります。

海洋地殻岩石の磁気を調べてみると,中央海嶺の両側に対称的な縞模様が見つかりました。これにより中央海嶺で誕生した海洋地殻が水平方向に移動していることが明らかになりました。

古地磁気の研究から分かったことがもう一つあります。ある地点で複数の時期に形成された岩石中の古地磁気を測定することにより,地球磁極の移動曲線を描くことができます。この曲線は磁極の移動だけではなく,測定地点が磁極に対して移動しても同じ曲線となりうることに注意する必要があります。

研究が進むと問題が発生しました。大陸内(正確には同じプレート上)のいくつかの地点の測定結果同士はよく一致するのですが,欧州と北米で測定された結果は一致しませんでした。

そこで,大西洋が閉じるように両大陸を移動させると欧州と北米で測定された磁極移動曲線はほぼ一致することが分かりました。このように,古地磁気の研究から海洋底拡大や大陸移動を支持する証拠が得られました。

海洋底拡大説を確認するもう一つの方法は実際に海洋地殻をボーリングして岩石のサンプルを入手して,その年代を測定することです。この結果も中央海嶺から離れるほど海洋地殻は古いことが明らかになりました。2つの観測事実により,海洋底拡大説は広く受け入れられるようになりました。

実際の地球の表面では大陸が移動したり,巨大な山脈が誕生したり,特定の地域に地震や火山が集中していたりします。このような地球表層で発生するもろもろの変動を説明するための仮説としてプレート・テクトニクスが登場します。もちろん,海洋底拡大説もプレート・テクトニスの中に取り込まれています。



海洋底拡大説,中央海嶺の下では地球内部から熱い物質が湧き上がってきて新しい海洋地殻が生まれます。海洋地殻はマントル対流により水平方向に移動し,収束帯(海溝)でマントルに沈み込んでいきます。海洋底の移動速度は年に2cmほどであり,2億年ほどで収束帯に到達します。したがって,いくつかの例外はありますが,もっとも古い海洋地殻はおよそ2億年前のものということになります。





過去,200年間の地磁気の減少,画像は「気象庁・地磁気観測所」のものを引用しました。地磁気の減少はこの100年で加速しており,ここままではあと1000年くらいで地磁気が消滅するほどの変化です。




中央海嶺を挟み対称形に記録された地磁気の縞模様,画像はUSGSから引用しました。中央海嶺で新たに生まれる海洋地殻はキュリー温度を通過した時の地磁気の方向に磁化されます。海洋地殻は中央海嶺の左右に移動していくため,左右に対称的な地磁気の縞模様ができます。図中の茶色の濃淡は熱残留磁気の強さに対応しています。




欧州と北米で測定された磁極移動曲線,画像は 「Continental Drift」より引用しました。二つの観測地点の測定結果は時間ととも大西洋を閉じいくとよく一致することが分かりました。この観測事実は大陸が移動したことを支持しています。


プレート・テクトニクスの登場

マントルを構成する岩石は地震波を伝搬しますので個体と考えられています。しかし,長い時間単位で見れば流動性を有しています。その流動性は深さによって大きく変化し,外部マントルの最上部(深さ約100kmまで)は固くてほとんど流動せず,100-400kmまでの間は比較的流動性があります。

地殻と外部マントル上端の固い部分を合わせてリソスフェア(岩石圏)と呼び,その下の流動性のある部分をアセノスフェア(岩流圏)と呼んでいます。固いリソスフェアはいくつかのブロックに分かれており,その一つ一つをプレートといいます。この構造を簡単にいうと,流動性のあるアセノスフェアの上にブロックに分かれた固いプレートが浮いているといえます。

アセノスフェアは内部の熱的な変化に合わせてゆっくりと対流しますので,その上に浮いているプレートはその動きに合わせて水平方向に移動します。これがプレート・テクトニクスの基本的な考え方です。

7つの大陸はそれぞれ別のプレートに乗っているため,相互の位置関係は時間とともに変化します。ときにはすべての大陸が合体して超大陸を形成し,その後,分裂していきます。このような大きな動きには上部マントルの対流ではなく外核や下部マントルを含めた地球深部の物質の動きが支配しています。それを扱うのがプルームテクトニクスです。

上部マントルにおけるプレート・テクトニクスと下部マントルにおけるプルーム・テクトニクスが関連しあいながら地球のダイナミズムを担っています。プルーム・テクトニクスについては後述することにします。

プレートはマントル上部対流によりそれぞれ異なった方向に動いているので,その境界ではプレートが離れたり,衝突したり,すれちがったりしています。また,新しい境界が生まれ,プレートが分裂しつつあるところもあります。そのため,地質学上の大きな変動はプレートの境界で発生します。

プレートの境界は3種類に区分されます。
(1)発散型
(2)収束型
(3)すれちがい型


プレート図,wikipedia より引用しました。


地球の固体表層(リソスフェア)は10数個のプレートに分かれており,マントルの対流により相互に動いています。大陸はプレートに乗っていますので,プレートと一緒に移動します。プレートの境界では地震,火山,巨大山脈の形成などの変動が起こります。




海洋底の年齢,画像は「早稲田 海洋資源科学」から引用しました。色に対応する数値の単位は100万年です。中央海嶺で海洋地殻が生まれ,水平方向に移動していく様子がよく分かります。


発散型の境界は中央海嶺とリフト帯を生み出します

発散型の境界は2つのプレートが離れていくところです。海洋底にある発散型の境界は中央海嶺と呼ばれ,陸上の場合はリフト帯と呼ばれています。リフト帯は時間とともに広がっていき,最終的には2つの陸地を隔てる海が誕生します。そのとき,リフト帯は中央海嶺となります。

紅海はおそらくもっとも新しく開かれた海でしょう。中央海嶺は大洋にだけ存在するものではなく,プレートが離れる境界に存在します。このように,2つのプレートが水平方向の張力を受けて離れていくところでは巨大な陥没地形が形成され,それを埋めるようにマグマが噴出します。

中央海嶺では陥没の隙間を埋めるようにマントル物質が上昇してきます。マントル物質が深さ50kmくらいまで上昇すると,圧力の低下により(水の影響もあります)容易に溶融してマグマとなります。

中央海嶺は地球上でもっとも火山活動と地震活動のさかんなところです。なんといっても2つのプレートが離れていくのですから,その隙間を埋めるため大量のマグマの噴出が必要になります。中央海嶺の山頂部は大きく落ち込んでおり,リフト・バレーを形成しています。深海では巨大な圧力がかかっているので,マグマは爆発することなく静かに谷を満たしていきます。

この静かな噴火により,新しい海洋地殻が次々と形成され,毎年2cmほど水平方向に移動しても海洋地殻が途切れることはありません。中央海嶺では水平方向の張力が働きますので,海嶺がつながった線上にあるとは限りません。海嶺をつなぐ線は多くのトランスフォーム断層(水平にずれる断層)により,区切られています。

中央海嶺山頂部のリフト・バレーには熱水が噴き出す場所(熱水噴出孔)があります。海水が岩盤の割れ目を通って内部に入り込み,マグマに熱せられて噴き出してきているものと考えられています。これを熱水活動といいます。熱水の温度は350-400℃もありますが,深海の圧力により沸騰することはありません。

マグマに接することにより熱水には有毒な硫化水素や金属の硫化物が含まれています。この熱水は冷たい海水に冷やされ,金属類を析出しているので黒い煙のように見えることからブラック・スモーカー,析出された物質が熱水の上部に作る煙突状の構造体はチムニーとも呼ばれています。

金属の析出はときには鉄,銅,亜鉛などの硫化物からなる金属鉱床(海底熱水鉱床)を形成することがあります。これらの金属は熱水が溶かし込み,噴出孔の周辺で析出することにより,数百倍に濃縮され鉱床としての価値をもつようになります。

とはいうものの,深海のことですから鉱床があったからといってすぐに採掘できるわけではありませんが,海洋底のマンガン・ノジュール(マンガン団塊)とならんで,深海の金属資源として期待されています。

この熱水噴出口の周辺には深海の暗闇に特異な生態系が広がっています。多くの新種の動物が濃密な生態系を構成しており,さながら深海のオアシスとなっています。

彼らの食料となる一次生産物は熱水の熱と含まれる硫化水素のような化学物質を酸化することによりエネルギーを得て,二酸化炭素から有機物を同化代謝する特殊な細菌です。熱水周辺の生物はこの微生物と共生したり,餌にして生息しています。

この化学合成エネルギーを利用している特殊な細菌(化学合成細菌)は地球上で最初の生命に近いと考えられます。多孔質のチムニーは生命の構成物質を集積するにはたいへん都合の良い構造であり,熱水活動のあるところこそ生命誕生の場所であるする学説は多くの支持を集めています。

また,光のまったくない深海の環境で光合成生物への準備が行われているという報告もあります。その細菌は熱水噴出口からの赤外線を感知して移動することにより,熱水噴出口の周辺に集まることができると考えられています。

赤外線では光合成を行うには不十分ですが,光を検出する仕組みが光合成細菌への進化につながったのではという考え方です。実際に太平洋の熱水噴出口から光合成細菌と思われる細菌が単離されたという報告もあります。

ちなみに,熱水噴出口に群がるある種のエビは赤外線を感知する器官を備えています。このエビは赤外線を感じて餌となる細菌叢に近づき,かつ熱水で死なない程度の距離を保っていると考えられています。

このように生命科学の面からも興味深い熱水活動ですが,一つ一つのサイトは数百年の寿命しかありません。熱水の噴出が停止すると深海のオアシスはそこで終焉します。また,ときにはマグマの噴出により,広い地域のオアシスが破壊されることもあります。

発散型のプレート境界が陸上にある場所がアフリカにあります。アフリカ東部を南北に走るアフリカ大地溝帯です。大地に巨大な谷が形成され,その両側は階段状の地形となっています。谷の幅は35-100kmもあり,この谷がある時間をかけて段階的に陥没していったことを示しています。

このような地形の一つは東リフト・バレーと呼ばれ,エチオピア高原地帯からタンザニアへとつながっており,谷の底には多くの小さな湖が点在しています。また,ウガンダ,ルワンダ,ブルンジからタンガニーカ湖へ至る西リフト・バレーがあります。西リフト・バレーからマラウイ湖,モザンビークへと抜ける地溝帯を区別してニアサ・リフト・バレーと呼ぶこともあります。

東リフト・バレーはエチオピアから北に続き,紅海からヨルダン渓谷を通り,世界でもっとも標高の低い死海(水面標高-394m)へと連なっています。地図を見ると紅海の両側にあるアラビア半島とアフリカの海岸の地形が似ていることに気が付きます。

ここはもともと陸続きでしたが地溝帯が広がりそこに海水が浸入してきて紅海が形成されました。地溝帯が開くときには大量のマグマが噴出することがあり,地溝帯の周辺は周囲に比べてとても高い地形になっていることも分かります。

アフリカにおいても大地溝帯の周囲は1000mほどの高原となっています。北部のエチオピア高原の平均標高は1500m-2000mにもなります。このアフリカでは特異な高原地形は大地溝帯が開き始めた時に噴出したマグマによるものです。現在でも大地溝帯の周辺には多くの火山が点在しています。

現在のアフリカ大陸の下にはスーパー・ホットプルームがあり,超大陸パンゲアの分裂を引き起こしたエネルギーの名残りが,ここで大陸を東西に引き裂いていると考えられています。地球の深部から湧き上がってきた巨大なプルームはアフリカ大陸の下で東西に分かれる対流を形成しており,この対流により大地溝帯を境界にして東西方向に動かす大きな力が働いています。

地溝帯が広がる速度は年に数cmほどです。アフリカ大陸を乗せたプレートは一つですが,ここはプレートが分割されている現場ということもできます。プレートが分割され東西に動かされた隙間が大地溝帯となるわけです。

現在の大地溝帯の幅は35-100kmもあり,切り立った階段状の地形が谷底まで続いています。谷の底にはマラウィ湖,タンガニーカ湖,キブ湖,エドワード湖,アルバート湖などの巨大な湖が列をなしています。

中でもタンガニーカ湖は東西40-50Km,南北650Kmという世界最長の淡水湖となっています。タンガニーカ湖の水面標高は773m,最大水深は1470mです。つまり,水がなければ大地溝帯の谷の底は標高-697mということになります。

湖沼群の中にはタンザニアにあるナトロン湖のように特異なものもあります。ナトロン湖は面積1039km2,水深は3mほどの浅い湖です。塩分の多い地域の水を集めているため塩分(NaCl)濃度は8%を超えています。また,高濃度の炭酸ナトリウム(Na2CO3)を含んでおり,強アルカリ性となっています。

ナトロン湖の周辺は乾燥地帯であり,水面からの蒸発量は大きいため,乾季には水の蒸発により湖水の塩分濃度が上昇し,好塩性微生物のラン藻類が大繁殖します。そのため,水面は赤く染まり,結晶化した白い炭酸ソーダに縁どられた幻想的ば景観となります。

ナトロン湖はフラミンゴの大生息地としても知られています。フラミンゴは他の動物が利用できないナトロン湖のラン藻類を濾しとって食料にしています。フラミンゴの淡いピンク色は体内に取り込まれたラン藻類の色素によるものです。

アフリカ大地溝帯は古い人類の化石が発見されるところとしても知られています。これはこの地域が火山活動による堆積物に覆われているため,化石が残りやすかったためと考えられています。このため,人類は大地溝帯の形成により乾燥化した東アフリカで生き延びるために二足歩行を始めたという仮説が広く支持されていました。

しかし,2001年に大地溝帯からはるかに離れた中央アフリカのチャド北部で二足歩行の特徴を備えたサヘラントロプス・チャデンシス(トゥーマイ猿人,600-700万年前)が発見されたことにより,この仮説は見直しを迫られています。

トゥーマイ猿人が発見された場所は,現在よりもずっと広かったチャド湖の周辺でした。森林と水系あるいは草原の境界に暮らしていたチンパンジーとヒトの共通の祖先が,地上を歩いて食料を探すことを始めたと考えるのが自然のようです。

ミトコンドリアDNAをもちいた分子進化速度の算定では,およそ500-600万年前にヒトとヒトに最も近縁な類人猿であるチンパンジーの仲間が分かれたと推定されています。トゥーマイ猿人はその時期より100万年ほど古いものなので,年代判定には異論も出ています。

アフリカ大地溝帯は現在でも広がっており,やがて,谷に海水が入り込むようになります。数百万年後には東アフリカはアフリカ大陸から切り離され,間にはアフリカ海ができる考えられています。



大西洋中央海嶺のトランスフォーム断層,画像はwikipediaから引用しました,マントル対流により水平方向の力が働くため,中央海嶺の至る所で横ずれの断層が生じています。




中央海嶺リフト・バレーのブラックスモーカー,画像は「amnh.org」から引用しました。チムニーと呼ばれる熱水析出物からできた塔の上部から黒い煙のような熱水が噴き出しています。




深海のオアシス,画像はwikipediaより引用しました。この熱水噴出孔の周辺には多数のチューブ・ワーム群生しています。チューブワームは体内のイオウ酸化微生物と共生しており,栄養補給はすべてこのバクテリアに頼っています。



アフリカ大地溝帯,南北に走る地溝帯がアフリカ東部を本体から切り離そうとしています。数百万年後にはこの地溝帯は紅海のような海になります。




ラン藻類の繁殖により赤く染まったナトロン湖,画像はナショナル・ジオグラフィックスのフォトギャラリーから引用しました。地球上でも特異な陸上における発散型のプレート境界となっているアフリカ対地溝帯には,このような不思議な景観もあります。


収束型の境界は巨大山脈と海溝を生み出します

収束型のプレート境界はいわばプレート同士が衝突しているところであり,沈み込み型と衝突型に区分されます。プレートの衝突はどのようなプレートが衝突しているかにより大陸/海洋型,海洋/海洋型,大陸/大陸型の3つのパターに分けられます。

大陸/海洋型,海洋/海洋型の場合は比重の大きい片方のプレートがもう片方の下に沈み込んでいきます(沈み込み型)。ところが,大陸/大陸型の場合は大陸地殻は軽いためマントルに沈み込むことができないので,衝突型となり,互いに圧縮しあい境界部は折り曲げられ,巨大な山脈が形成されます。

大陸/海洋型のプレート収束境界では必ず海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込んでいきます。これは,海洋プレートの比重が大陸プレートよりも大きいためです。このタイプの収束帯は太平洋の周辺,インド・オーストラリアプレートとアジアプレートの境界などが分かりやすい事例です。

左の図は一般的な模式図ですが,南米大陸とナスカプレートの衝突の様子だと考えると分かりやすいと思います。ナスカプレートは南米大陸の下に沈み込んでいき,その前縁には最深部が8000mのチリ・ペルー海溝が延々5900kmにわたって連なっています。海洋プレートが沈み込んでいるところでは大陸プレートにも下向きの力が加わるため,深い溝のような海溝ができます。

ナスカ・プレートは40-45度の角度でマントルに沈み込んでいきます。この海洋プレートの岩石には大量の水が含まれています。水分を含んだ岩石の溶融温度は低くなりますので,ある深さになると周囲の岩石に暖められ,周囲の岩石より低い温度で溶融し,マグマが発生します。

このときの溶融条件は岩石の水分含有量,温度,圧力で決まりますので,マグマが発生するのは一定の深さであり,海溝から水平方向に一定の距離が離れたところとなります。

マグマは周辺の岩石より軽いため,発生した場所から浮力により真上に上昇し,地殻とマントルの境界あたりで周囲の岩石と同じ比重になるため浮力を失いマグマ溜まりを形成します。マグマ溜まりの大きさは数km程度と考えられており,新しいマグマの供給,マグマの組成の変化などが引き金となり噴火が引き起こされます。

このメカニズムにより海溝から一定距離のところに海溝に平行な火山列が生まれます。これを火山フロントあるいは火山前線といいます。日本列島,千島列島,フィリピン,インドネシア,アンデスの火山はこのようにして生まれました。

海洋プレートの沈み込みによる海溝と火山フロントの形成は海洋/海洋型のプレート境界でも発生します。日本列島の南では太平洋プレートがフィリピン・プレートの下に沈み込んでおり,伊豆諸島,小笠原からマリアナ諸島にかけての海溝と火山列島を形成しています。

日本列島のように火山フロントを含む島弧が形成されることもあります。これは,海洋プレートの沈み込みが長期間続き,次々とマグマが発生し上昇する場合に起きます。地殻・マントル境界付近にあるマグマ溜まりには次々とマグマが付加されていくので地殻は厚くなり,アイソスタシーの原理により地殻が持ち上げられます。

日本列島の場合はさらに,沈み込んでいく海洋プレートに乗って運ばれてきた堆積物の一部が大陸プレートとの摩擦により陸側に付着することがあります。これを付加体といいます。日本列島の相当部分は付加体により形成されているという考え方は広く支持されています。

海溝周辺ではしばしば巨大な地震が発生します。これはプレート同士の衝突エネルギーの一部が地震のエネルギーに転化されるために起こります。海溝周辺の地震は発生場所により3つに区分されます。
(1)海洋プレート内地震
(2)プレート境界型地震(海溝地震)
(3)大陸プレート内地震(内陸地震)

海洋プレート内地震は海洋プレートが沈み込む直前,および沈み込んでから力が加わって破砕されることによって発生します。一般的に震源が深いことから深発地震とも呼ばれます。

プレート境界型地震は海溝の近くで起きるので海溝地震とも呼ばれています。とはいうものの震源域がかなり内陸部になることもあります。海溝では海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込んでいきますが,摩擦により陸側のプレートは少しずつ引き込み方向の力を受け歪が蓄積されます。

この歪が岩盤の限界を超えると岩盤の一部が砕け,全体はバネのように跳ね返りもとに戻ろうとします。実際には2つのプレートの面がずれる断層運動が地震を引き起こします。ある大きさの領域の岩盤が耐えうる最大歪量はほぼ一定ですので,地震の大きさはどのくらいの領域のプレートが動くかによって決まります。

海溝内でいくつかの領域に分かれて地震が発生する場合は,M7-8の地震となり,複数の領域が一度に動くとM9ほどの大地震になります。海溝型地震は数十年,あるいは数百年の周期で発生します。この周期は岩盤中に歪が蓄積される時間ということになります。

大陸プレートでは海溝から数百kmも離れたところまで海洋プレートが押す力の影響を受けます。また,マグマの蓄積などにより力を受けることもあります。そのため,大陸プレートの内部でも岩盤中に亀裂が入ります。これが断層です。断層は日本列島には多数存在しており,まだ見つかっていないものも相当あるようです。

すべての断層が動くわけではありませんが,多くの断層が動く周期は数百年から数十万年にもなり,どれがもう動かない断層なのか,動く可能性がある活断層なのかを識別するのは容易ではありません。

活断層が動くと内陸型地震を引き起こします。内陸型地震の大きさはM6-7,ときにはM8にもなります。プレート境界型地震に比べて規模は小さいのですが,人口密集地の直下で発生する可能性があり,大きな被害をもたらします。

2004年のスマトラ沖大地震もオーストラリア・プレートとユーラシア・プレートの境界で発生したプレート境界型の地震です。このとき放出されたエネルギーはマグニチュード9.3とされており,1900年以降では2番目の大きさです。

マグニチュードが1増えると地震のエネルギーはおよそ32倍になります。1995年の兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)はM7.2,東海地震や南海地震といった海溝型地震はM8前後ですのでスマトラ沖大地震はいかに巨大なものであったかが分かります。それでも,兵庫県南部地震は人口密集地で発生したため,日本ではこの50年で最大の被害を出しました。

大陸/大陸型のプレート収束境界では片方のプレートがもう片方の下に沈み込もうとします。しかし,軽い大陸地殻はマントルに沈み込むことができず取り残されます。2つの大陸地殻は衝突し,境界部分は圧縮され巨大な褶曲山脈が形成されます。

およそ6500万年前に始まったアフリカ大陸,アラビア楯状地とユーラシア大陸の衝突はヨーロッパアルプス,アナトリア高地,カフカス山脈,エルブルズ山脈,ザグロス山脈を形成し,1500万年前のインド亜大陸とユーラシア大陸の衝突によりヒンドゥークシ山脈,カラコルム山脈,ヒマラヤ山脈,コンロン山脈,チベット高原,横断山脈が形成されました。

現在もアフリカ大陸とアラビア楯状地はユーラシア大陸に引き寄せられており,5000万年後にはアフリカ大陸,アラビア楯状地とユーラシア大陸は完全に合体し巨大大陸が形成されると考えられています。

大陸同士という大規模衝突ではありませんが,日本列島にも類似した小さな事件が起きたことがあります。太平洋プレートとフィリピンプレートの衝突による火山フロントにより形成された島がフィリピンプレートにより運ばれ,日本列島に衝突しました。

丹沢は250万年前に衝突して山塊となり,70万年前には伊豆が衝突して伊豆半島が形成されました。このとき,丹沢と南アルプスが隆起したと考えられています。

大陸/大陸型のプレート境界では巨大な褶曲山脈が形成されますが,その間の海底を巻き込むことが知られており,ヒマラヤやアルプスの山中からは海の生物の化石が見つかります。

スイス南部にあるサン・ジョルジョ山(標高1097m)からはおよそ2.4億年前の三畳紀中期の貴重な化石が豊富に産出します。古生物学的・地質学的観点でとくに重要な山として世界自然遺産に登録されました。

また,ヒマラヤの山中からも海洋生物の化石が豊富に見つかっています。これらは,衝突の直前に2つの大陸の間にあったテチス海が圧縮され,8000mもの高さまで持ち上げられたものです。エベレスト山の山頂直下にあるイエローバンドと呼ばれる地層も海底で堆積したものです。

ヒマラヤ山脈などを形成したインド亜大陸は2.5億年前に当時の南半球にあったアフリカ大陸から分かれて北上してきました。インド亜大陸は赤道を越えて,1500万年前にアジア大陸と衝突しました。インドは現在でも年に10cmずつアジア大陸に接近しており,ヒマラヤ山脈はすこしずつ高くなっています。

ヒマラヤの語源となった「ヒマーラヤ」はサンスクリット語で「雪の住みか」を意味しています。ヨーロッパの「アルプス」の語源も「ケルト語の山=alp」,あるいは「ラテン語の白=alb」 だと言われており,おもしろい一致がみられます。


大陸/海洋型のプレート収束帯,画像はwikipediaより引用しました。海洋プレートは比重が大きいので大陸プレートの下に沈み込んでいきます。



海洋/海洋型のプレート収束帯,画像はwikipediaより引用しました。このケースでも海洋プレートの片方はマントルに沈み込み,海溝と火山フロントが形成されます。




日本周辺のプレート,海洋プレートがアジア大陸の下に沈み込んでいるため,日本列島のような島弧が形成されます。太平洋プレートとフィリピンプレートの収束境界では伊豆諸島,小笠原からマリアナ諸島にかけての海溝と火山列島を形成されています。



海溝周辺地震の発生場所,wikipediaの画像を加工して作成しました。@が海洋プレート内地震,Aがプレート境界型地震(海溝地震),Bが大陸プレート内地震(内陸地震)です。



地震名称 発生年 地震規模(M)
チリ地震 1960年 M9.5
スマトラ沖地震 2004年 M9.1-9.4
関東地震 1923年 M7.9
東南海地震 1944年 M7.9
南海地震 1946年 M8.0
福井地震 1948年 M7.1
日本海中部地震 1983年 M7.7
兵庫県南部地震 1995年 M7.3






世界の地震マップ,画像は 「地震情報サイトJIS」から引用しました。図中の赤点はM5以上,100kmより浅い地震の震源を表しています。黒いプレートの境界線との関係がよく分かります。この図の中で中央海嶺起源のものを除くとほぼプレート収束帯の地震となります。



大陸/大陸型のプレート収束帯,画像はwikipediaより引用しました。大陸/大陸型のプレート収束境界では片方のプレートがもう片方の下に沈み込もうとします。しかし,軽い大陸地殻はマントルに沈み込むことができず取り残されます。2つの大陸地殻は衝突し,境界部分は圧縮され巨大な褶曲山脈が形成されます。



インドとアジア大陸の衝突の現場,インドは1500万年前にアジア大陸と衝突し,ヒマラヤなどの巨大山脈とその背後のチベット高原を造りました。現在でもインドは毎年10cmほどアジア大陸に接近しており,ヒマラヤ山脈は現在も成長しています。




インド亜大陸はアジア大陸の下に沈み込んでいますが,大陸プレートは軽いためマントルに沈み込めません。双方の大陸地殻は圧縮されて世界でもっとも高い山脈となりました。ヒマラヤやカラコルムが8000mを超えて成長したのは,アイソスタシーだけではなく,現在でも圧縮力が働いているためです。


プルーム・テクトニク

中央海嶺で生まれた海洋プレートはどこかで再びマントルに沈み込みます。日本の東側には日本海溝,マリアナ海溝があり,ここで太平洋プレートが北米プレートやフィリピン海プレートの下に沈みこんでいます。一方,大西洋の両側には海溝が存在しません。これは,大西洋が広がりつつあることを意味しています。

沈み込んだ低温の海洋プレートはマントル内部に入り込み,上部マントルと下部マントルの境界付近に溜まります。この境界の上と下では安定して存在できる鉱物の種類が異なるため,海洋プレートの残渣(スラブ)はこの境界層を簡単には突き抜けられないからです。

しかし,スラブは次々と積もって巨大な塊を作ります。そして約1億年ほどかかって形成された巨大なスラブ(メガリス)が一気に下部マントルに落ち込み,その深部に集積します。すると代わりに下部マントルの高温の物体が地球表層に湧き上がってきます。これが地球が約1億年周期で引き起こす不連続で大規模な変動の要因になります。

プルームテクトニクスの検証には地震波トモグラフィーという技術が用いられます。トモグラフィーの技術は医療機器のCT(X線断層撮影装置)などとして身近で利用されています。しかし,地球の内部はX線で透視できませんので,地震波の伝播速度を利用します。そのため,地震波トモグラフィーと呼ばれています。

マントル内部の地震波速度は温度に依存し,温度が高いと地震波速度は遅く,温度が低ければ速くなる性質をもっています。そこでマントル全体の地震波伝播速度を測定し,速度の差からマントル内の温度分布を算出しました。

その結果,南極大陸やアジア大陸の下は広範囲に温度の低い部分が存在し,低温部分は深さ2,900kmのマントル底まで達していました。また,南太平洋やアフリカ大陸の真下には高温の巨大な上昇流(スーパーホットプルーム)が確認されました。

この下部マントルを舞台にした巨大な物質循環はプルームと呼ばれており,この現象を扱うのがプルーム・テクトニクスです。プルーム・テクトニクスでは下降流(メガリス)はコールド・プルーム,上昇流はホット・プルームと呼ばれています。

現在ではアジア大陸の下にスーパー・コールドプルームがあり,南太平洋とアフリカの下にスーパー・ホットプルームがあります。このように上部マントルにおけるプレート・テクトニクスと下部マントルにおけるプルーム・テクトニクスが関連しあいながら地球のダイナミズムを担っています。



マントルに沈み込んだ海洋地殻は下部マントルとの境界あたりで滞留します。ここで相転移を受けながら巨大化してメガリスとなり,1億年ほどで一気に下部マントルに落下します。これがコールド・プルーム(下降流)となります。コールド・プルームと入れ替わるように下部マントルの高温物質が湧き上がってきます。これがホット・プルーム(上昇流)です。




スーパーコールド・プルーム(単一下降流)ができると,すべての大陸プレートはそれに引き寄せられ超大陸となります。しかし,じきに超大陸の下にスーパーホット・プルーム(単一上昇流)ができて,超大陸は分裂します。


超大陸の形成と分裂

地球誕生時のようにマントルが高温のときにはマントル内の対流は乱流的でしたが,マントルが冷えてくるとプルームの数は減少し大型化していきます。そして19億年前には地球規模の単一下降流スーパー・コールドプルームが誕生します。

スーパー・コールドプルームができると巨大な下降流に引きずられるように表層のプレートが集まってきます。時間の経過と共に大陸は衝突・融合し,最後にすべての大陸がまとまった「超大陸」が誕生します。

この時期以降,大陸は分裂と集合を繰り返し,10億年前にはロディニア,5.5億年前にはゴンドナワ,そして3億年前にはパンゲアが形成されました。

スーパー・コールド・プルームが下部マントルに落ち込むとそれと同期して超大陸の下部にスーパー・ホットプルームが生まれ,超大陸はじきに分裂し,いくつかの大陸プレートとなって分散します。

古い時代の大陸と海洋の配置地図は「PALEOMAP Project」のホームページに左記(2.5億年前の地球図)のようなすばらしい画像で掲載されています。

現在,アジア大陸の下にはスーパー・コールドプルームがあり,南極を除くプレートはアジア大陸に引き寄せられています。あと,2.5億年もすれば次の超大陸が形成されることでしょう。

大陸分裂の原動力となるスーパーホット・プルームも下部マントルと上部マントル境界付近ででいったん滞留します。ところが,ときにはそのまま上昇して地殻を破って噴出することがあります。これは地球上でもっとも激しい火山活動になります。

2.5億年前,古生代から中生代に移行するベルム紀末には地球史上最大規模とも言われる大量絶滅が起こりました(ベルム紀の大絶滅)。この原因と考えられているのがシベリア洪水玄武岩(シベリア・トラップ)の噴出です。

この巨大な高温物質は2.5億年前にロシア東北部・中央シベリア高原を中心に噴出し,その結果,現在わかっている範囲でも200万km2の範囲に洪水玄武岩層が形成されました。隠されている部分を含めると400万km2にもなるとされています。噴火は100万年にわたり何回か発生し,その総量は富士山が過去1万年間で噴出した溶岩量の10万倍程度と見積もられています。

火山灰を吹き上げる爆発的な噴火ではありませんが,この火山活動により大量の火山ガスが放出され,地球の気候は激変します。また,海底のメタンハイドレードの相当部分が崩壊して大気中に大量のメタンが放出され,それが酸素と結びつくことにより,大気中の酸素は半減しています。この激しい火山活動とその後の気候の激変が生物種の大絶滅を招いたと考えられています。

2.5億年前といえば超大陸パンゲアが分裂を開始した時期にあたります。そのため,シベリア洪水玄武岩を引き起こしたスーパーホット・プルームが大陸分裂に関連しているとも考えられています。



古い時代の大陸と海洋の配置地図,画像は「PALEOMAP Project」より引用しました。このサイトではそれぞれの時代の地球の表情をすばらしい画像で見ることができます。



現在から2.5億年後の地球の姿、画像は2012年にエール大学が予測したものです。現在のアジア大陸が他のすべての大陸を引き寄せ、超大陸を形成します。



参照サイト