亜細亜の街角
カナート(カレーズ)
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降水量が少ない乾燥地域では水がもっとも貴重な自然資源となります。近くに川があればそこから水を引けばよいのですが,多くの地域では山間部に降った雪や雨は地下水になってしまいます。この地下水を利用するための施設がカナートです。カナートはイランをはじめアフガニスタン,パキスタン,ウズベキスタン,中国,北アフリカなどで使われており,新疆ではカレーズ,北アフリカではフォガラと呼ばれています。

山間部に降った雪や雨が地下水になるわけですから,地下水脈は山麓にあることが多いことになります。この地下水を人間の居住地や農地までどのように運んでくるかが問題になるわけです。山麓に井戸を掘り,地下水を汲み上げて水路に流せばあとは居住地まで流れ下っていくわけですが,大量の水を汲み上げるのは容易ではありません。また,水路を使って長い距離を移動させると乾燥地では蒸発による損失も相当なものになります。さらに暑い地域では飲むにせよ,水浴びに使うにせよ冷たい水のほうがずっと喜ばれます。

そこで考え出されたのが勾配をもった地下水路です。まず山麓に井戸を掘り,地下水を掘り当てます。その地点から少し傾斜をもった横穴を掘り進みます。掘った穴から出た土砂は地表に運ばなければならないので,30mとか50mおきに縦穴を掘ります。この作業を繰り返して横穴を耕地や集落の近くで地表に出るようにします。そこがオアシスとなるわけです。

地下水路は長いもので数十kmに達します。地下水路は人がかがんで歩けるくらいの大きさです。また,縦穴の深さは数10m,深いものでは300mにも達するものがあります。空中から見ると地表に井戸のような竪穴が一列に並んでいるということになります。

カナートの起源はアルメニアと言われています。イランではアケメネス朝(BC550年-BC330年)の時代にはすでにひろく用いられていたようです。イラン高原で急速に普及した後,カナートは西アジア,アラビア半島に伝わり,イスラム世界の拡大とともにリビア,アルジェリア,チュニジアなどの北アフリカに伝播していきました。

このようにカナートは乾燥地帯におけるもっとも重要な技術だったわけですが,造営するには多大の労力を必要とします。また,傷んだところは修理しなければならないので,それなりの管理コストも必要になります。機械力により大規模な土木工事が可能になった現在ではこの伝統的なカナートの使用は曲がり角にきているようです。